2015/09/30
河川氾濫が多発した平成16年
平成27年9月9日朝、東海地方に上陸した台風第18号による栃木県内での記録的な豪雨により、鬼怒川が決壊し、茨城県常総市を中心に洪水となった。この豪雨による被害は栃木・茨城両県で、死者6名、負傷者58名、全壊21棟、半壊11棟、一部破損73棟、床上浸水6,688棟、床下浸水10,013棟等の大きなものであり、洪水の後遺症は今も残っている。
ところで、鬼怒川の氾濫を異常な降雨が招いた特殊な事例として片づけないで、類似の事例がなかったか、過去の氾濫事例を調べておくことが大切と思う。
今回のような大河川が決壊するような事態は、関東地方では最近なかったが、全国で見ると大河川の決壊は平成の時代になってからでもいくつもある。その中で、11年前の平成16年には、梅雨前線や台風による豪雨が多発し、各地で大河川の氾濫があったので、そのいくつかを簡単に紹介する。
●平成16年7月新潟・福島豪雨
7月12日夜から13日にかけて、日本海から東北南部に延びる梅雨前線の活動が活発化し、新潟県中越地方や福島県会津地方で非常に激しい雨を伴う豪雨となったため、信濃川水系の五十嵐川、刈谷田川、中之島川など計11か所で堤防が決壊し、新潟県三条市、見附市、中之島町を中心に大洪水となった。この時の被害は、死者16名、負傷者3名、住家全壊22棟、半壊158棟、一部損壊103棟、床上浸水12,472棟、床下浸水14,019棟などの甚大なものであった。
梅雨前線に沿って西北西~東南東走行に伸びる線状の強雨域が停滞を続けたことと、内陸で地形の影響を受けて雨雲が強化されたことにより、この地域に集中して激しい雨となったものである。今年の9月9日~10日の関東地方の豪雨の際に見られた線状の降雨帯とは走行こそ異なるが、同じ構造をしていた。この時、この降雨帯の中心に位置した新潟県栃尾市では日雨量が421㎜とその地点での過去の最大日雨量の2倍を超える記録的なものであった。
●平成16年7月福井豪雨
7月17日夜から18日昼過ぎにかけて梅雨前線が活発化し、北陸地方をゆっくり南下したのに伴って、福井県や岐阜県を中心に大雨となり、福井県では18日早朝から昼過ぎにかけて、猛烈な雨を伴う記録的な豪雨となり、九頭竜川水系の足羽川、清滝川など9か所で堤防が決壊し、福井市、美山町を中心に、福井県下で死者3名、行方不明者2名、負傷者4名、住家全壊69棟、半壊140棟、一部損壊99棟、床上浸水4,330棟、床下浸水9,842棟などの大災害となった。
梅雨前線上を小さい低気圧が通過したタイミングで福井県北部を中心に猛烈な雨となったが、この時も、降雨域は前線に沿うように西北西~東南東走向に細長く延びていることが判る。足羽川上流の美山(福井市)の降雨状況を見ると、最大1時間雨量は98㎜に達し、日雨量はこれまでの記録の1.8倍となる283㎜を観測した。また、福井市内の福井地方気象台でも最大1時間雨量75㎜(歴代第1位)、日雨量197.5㎜(1933年7月26日の201.4㎜に次ぐ2位)とやはり記録的な大雨となった。この事例でも足羽川流域と記録的な大雨域が重なったことが河川の氾濫に繋がったと見られる。
●平成16年台風第23号
この年は台風が日本列島に10個も上陸した異常な年であった。10個目の上陸となった台風第23号は、10月20日高知県に大型で強い勢力を保ったまま上陸した。接近前から日本付近に停滞していた前線の影響もあって、東日本から西日本の広い範囲で大雨となり、これまでの日雨量の記録を上回った所も多かった。この記録的な大雨により、兵庫県豊岡市や出石町を流れる円山川、出石川が氾濫、京都府福知山市から舞鶴市を流れる由良川が氾濫して浸水害が発生した。また、兵庫県西脇市を流れる加古川が氾濫し、淡路島では洲本川が氾濫した。この時の被害は京都・兵庫両県で死者36名、行方不明者2名、負傷者64名、住家全壊86棟、半壊179棟、一部損壊655棟、床上浸水12,135棟、床下浸水14,925棟などと大規模なものであった。
兵庫県豊岡での降雨状況を見ると、台風接近前の19日には40㎜近い雨があり、20日昼頃からは次第に雨が強まり、0時~18時迄の間に193㎜と、この観測所の日雨量の記録を更新する激しい雨となった。雨が烈しさを増した18時過ぎには、観測所が浸水のため観測が途切れてしまった。この地を流れる円山川は伊勢湾台風の時にも氾濫したが、その時を上回るような降り方であった。日本海側の地方では、前線が停滞している時に台風が南海上を北東進する時には北寄りの風が地形の影響を受け、雨雲が発達し、大雨となることが多い。この事例もそうした大雨パターンであった。
台風第23号による西日本の総雨量分布を見ると、紀伊半島、四国、九州東部では、河川氾濫の被害があった兵庫県や京都府の地域より多くの雨が降った所がある。これらの地域は比較的大雨の頻度が高い地域であったことが、河川の決壊までには至らなかったと考えられるが、土砂災害など大雨による被害は発生している。
平成16年に起こった水害の中で特に大河川が破堤に至った3つの事例を紹介したが、そのうち、台風第23号によって氾濫した兵庫県北部を流れる円山川と出石川の破堤箇所と浸水域を示した図を参考に示す(兵庫県資料を引用)。
このように、平成16年に発生したこれら3つの事例は共にその地域では過去記録を大幅に上回る記録的な大雨が降っており、その浸水被害は今年の鬼怒川決壊の規模に匹敵するものであった。
大河川が決壊することは滅多にないことだが、一度決壊すれば、その影響は計り知れない。河川から流れ出した水は、自らの力で川に戻るわけではなく、何らかの人の手が加わって初めて河道に戻ることになる。大河川の下流部は平坦地が広がっているので、氾濫が発生すると、洪水波は低地に滞留し、長時間浸水が続くことになる。これらの事例も復旧までにかなりの時間がかかっている。
堤防の増強などによって河川の氾濫は減っているが、皆無にできる訳ではない。記録的な豪雨により、河道の容量を超える流量になれば、越水、破堤は発生し得る。氾濫を想定した対策を常に持つ必要があることを忘れないでほしい。
ところで、鬼怒川の氾濫を異常な降雨が招いた特殊な事例として片づけないで、類似の事例がなかったか、過去の氾濫事例を調べておくことが大切と思う。
今回のような大河川が決壊するような事態は、関東地方では最近なかったが、全国で見ると大河川の決壊は平成の時代になってからでもいくつもある。その中で、11年前の平成16年には、梅雨前線や台風による豪雨が多発し、各地で大河川の氾濫があったので、そのいくつかを簡単に紹介する。
●平成16年7月新潟・福島豪雨
7月12日夜から13日にかけて、日本海から東北南部に延びる梅雨前線の活動が活発化し、新潟県中越地方や福島県会津地方で非常に激しい雨を伴う豪雨となったため、信濃川水系の五十嵐川、刈谷田川、中之島川など計11か所で堤防が決壊し、新潟県三条市、見附市、中之島町を中心に大洪水となった。この時の被害は、死者16名、負傷者3名、住家全壊22棟、半壊158棟、一部損壊103棟、床上浸水12,472棟、床下浸水14,019棟などの甚大なものであった。
梅雨前線に沿って西北西~東南東走行に伸びる線状の強雨域が停滞を続けたことと、内陸で地形の影響を受けて雨雲が強化されたことにより、この地域に集中して激しい雨となったものである。今年の9月9日~10日の関東地方の豪雨の際に見られた線状の降雨帯とは走行こそ異なるが、同じ構造をしていた。この時、この降雨帯の中心に位置した新潟県栃尾市では日雨量が421㎜とその地点での過去の最大日雨量の2倍を超える記録的なものであった。
●平成16年7月福井豪雨
7月17日夜から18日昼過ぎにかけて梅雨前線が活発化し、北陸地方をゆっくり南下したのに伴って、福井県や岐阜県を中心に大雨となり、福井県では18日早朝から昼過ぎにかけて、猛烈な雨を伴う記録的な豪雨となり、九頭竜川水系の足羽川、清滝川など9か所で堤防が決壊し、福井市、美山町を中心に、福井県下で死者3名、行方不明者2名、負傷者4名、住家全壊69棟、半壊140棟、一部損壊99棟、床上浸水4,330棟、床下浸水9,842棟などの大災害となった。
梅雨前線上を小さい低気圧が通過したタイミングで福井県北部を中心に猛烈な雨となったが、この時も、降雨域は前線に沿うように西北西~東南東走向に細長く延びていることが判る。足羽川上流の美山(福井市)の降雨状況を見ると、最大1時間雨量は98㎜に達し、日雨量はこれまでの記録の1.8倍となる283㎜を観測した。また、福井市内の福井地方気象台でも最大1時間雨量75㎜(歴代第1位)、日雨量197.5㎜(1933年7月26日の201.4㎜に次ぐ2位)とやはり記録的な大雨となった。この事例でも足羽川流域と記録的な大雨域が重なったことが河川の氾濫に繋がったと見られる。
●平成16年台風第23号
この年は台風が日本列島に10個も上陸した異常な年であった。10個目の上陸となった台風第23号は、10月20日高知県に大型で強い勢力を保ったまま上陸した。接近前から日本付近に停滞していた前線の影響もあって、東日本から西日本の広い範囲で大雨となり、これまでの日雨量の記録を上回った所も多かった。この記録的な大雨により、兵庫県豊岡市や出石町を流れる円山川、出石川が氾濫、京都府福知山市から舞鶴市を流れる由良川が氾濫して浸水害が発生した。また、兵庫県西脇市を流れる加古川が氾濫し、淡路島では洲本川が氾濫した。この時の被害は京都・兵庫両県で死者36名、行方不明者2名、負傷者64名、住家全壊86棟、半壊179棟、一部損壊655棟、床上浸水12,135棟、床下浸水14,925棟などと大規模なものであった。
兵庫県豊岡での降雨状況を見ると、台風接近前の19日には40㎜近い雨があり、20日昼頃からは次第に雨が強まり、0時~18時迄の間に193㎜と、この観測所の日雨量の記録を更新する激しい雨となった。雨が烈しさを増した18時過ぎには、観測所が浸水のため観測が途切れてしまった。この地を流れる円山川は伊勢湾台風の時にも氾濫したが、その時を上回るような降り方であった。日本海側の地方では、前線が停滞している時に台風が南海上を北東進する時には北寄りの風が地形の影響を受け、雨雲が発達し、大雨となることが多い。この事例もそうした大雨パターンであった。
台風第23号による西日本の総雨量分布を見ると、紀伊半島、四国、九州東部では、河川氾濫の被害があった兵庫県や京都府の地域より多くの雨が降った所がある。これらの地域は比較的大雨の頻度が高い地域であったことが、河川の決壊までには至らなかったと考えられるが、土砂災害など大雨による被害は発生している。
平成16年に起こった水害の中で特に大河川が破堤に至った3つの事例を紹介したが、そのうち、台風第23号によって氾濫した兵庫県北部を流れる円山川と出石川の破堤箇所と浸水域を示した図を参考に示す(兵庫県資料を引用)。
このように、平成16年に発生したこれら3つの事例は共にその地域では過去記録を大幅に上回る記録的な大雨が降っており、その浸水被害は今年の鬼怒川決壊の規模に匹敵するものであった。
大河川が決壊することは滅多にないことだが、一度決壊すれば、その影響は計り知れない。河川から流れ出した水は、自らの力で川に戻るわけではなく、何らかの人の手が加わって初めて河道に戻ることになる。大河川の下流部は平坦地が広がっているので、氾濫が発生すると、洪水波は低地に滞留し、長時間浸水が続くことになる。これらの事例も復旧までにかなりの時間がかかっている。
堤防の増強などによって河川の氾濫は減っているが、皆無にできる訳ではない。記録的な豪雨により、河道の容量を超える流量になれば、越水、破堤は発生し得る。氾濫を想定した対策を常に持つ必要があることを忘れないでほしい。
執筆者
気象庁OB
市澤成介