2014/08/28
いのちを守る気象情報(その2)
昨日から書いているブログの表題『いのちを守る気象情報』、これは、現在NHKテレビの平日夜の「首都圏ニュース845」(関東ローカル)、「NEWS WEB」(全国) に気象キャスターとして出演中の弊社ハ レックスの社員(気象予報士)・斉田季実治クンが昨年出版した本の題名です。
『いのちを守る気象情報』(NHK出版)
出来るだけ多くの人に読んで貰って、1人でも多くの命を自然災害から守りたい…という思いから、最初から安価な新書版での出版で、定価740円(+税)です。
表紙の帯にデッカク書かれている言葉は、
『災害多発時代を生きる術を予報と防災のプロが伝授!』
『NHK「お天気お兄さん」が自らの使命をかけた真に役立つ気象情報入門』
また、表紙の裏には、次のような文章が書かれています。
『暴風警報、大雨警報、津波警報……、我々は日々、様々な気象情報に触れている。それでも、同じような気象条件・場所で人の死は繰り返される。「いのちを守る」ためにある気象情報を、なぜ活かせないのか──台風、大雨、地震、火山など8つの大きな自然災害について、その基本メカニズムや予報・警報の見方、さらにはそれをどう実際の行動に結びつけるかに焦点を当て解説。NHK「お天気お兄さん」による真に役立つ気象情報入門書』
まさにその言葉通りの本に仕上がっているのではないか…と私は思い、大いに満足しています。と言うか、私が民間気象情報会社の社長として目指していることを、斉田季実治クンが見事なまでに文章にして、素晴らしい本にまとめて、世に出して(出版して)くれた…という感謝の気持ちでいっぱいです。
この本では、いかに「情報」を入手し、いかに「理解」して、いかに「行動」すべきか…について、8つの自然災害のタイプごとに過去の事例に基づいて徹底解説しています。以下に主な目次を列記します。
【第1章】 「台風」は自然災害の“総合商社”
【第2章】 「大雨」による都市型水害が急増
【第3章】 「雷」は光と音の時間差で安心してはいけない
【第4章】 「竜巻」は狭い範囲で甚大な被害をもたらす
【第5章】 「大雪」による死亡の8割は、除雪作業中
【第6章】 「熱中症」は最も死亡者が多い災害
【第7章】 「地震」は1000年に一度の活動期か
【第8章】 「火山」の噴火は予知できる
【補章】 気象情報は生もので、鮮度がいのち
これまで出版されたほとんどの気象に関する本では気象の事象や自然災害の発生メカニズム等の専門的なことに多くのページが割かれる傾向にありましたが、この斉田クンの本ではそれらは可能な限り簡単に触れる程度の解説にとどめ、反対に、自然の脅威の近付いてきた時にいかに「行動」すべきかに焦点を当てていることが大きな特徴です。“これまでありそうでなかった”画期的な気象の本だと私は思っています。
これは私が常々社内でクチにしていることですが、気象情報なんて、情報そのものにはほとんど価値などなくて、情報を受けた人が、その情報に基づいて避難をしたり、リスク回避のための対策を講じたり、救援活動を起こしたり…と、なんかの判断や行動を起こして初めて“価値”が生まれるという性格のものです。しかも、気象情報は自然の脅威の来襲(自然災害)から人々の生命や財産をお守りするための大事な情報です。すなわち人の命に直接関わるような大事な大事な情報です。他の情報以上に、この情報により情報の受けた人がどのように行動に移せるかを常に意識して提供しなければならず、それが、情報提供者である我々民間気象情報会社の責務とも言えます。
斉田クンは自らの日々の仕事を通してそれに気付いてくれて、この本を執筆してくれたのでしょう。巻頭の『はじめに』のところに、それに気付いたエピソードのようなことが書かれています。
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(前略)……民間の気象会社に再就職したのは、30歳を目前に控えた春です。災害が起きたあとに取材をする「報道記者」ではなく、災害を未然に防ぐ「気象の専門家」として生きていこうと決心しました。災害のときにはNHKの視聴率が跳ね上がります。そのNHKの気象キャスターになることを目標に行動し、念願は叶いました。しかし、それから1年も経たないうちに東日本大震災が起きてしまい、自分の無力さを改めて痛感させられました。気象キャスターとしてできることは、ほんのわずかです。それでも自分に何ができるのかを問い続けました。その答えの一つが、この本を書くことでした。
「情報」だけでは命を守ることはできません。数分のニュースや気象情報の中に詰まっている「命を守る情報」を活かすためには、見る側にもある程度の「知識」が必要であり、自分だけは死なないという「意識」から変えていく必要があります。
(中略)
この本を手にとっていただいた皆さんと皆さんの大切な人の「命を守る」ために、少しでも役立つことを願っています。
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まさにこれですね、重要なことって。情報は伝えたいことがちゃんと伝わってこその情報です。ちゃんと伝わらないことの原因を他責にせずに、自らのことと捉え、自ら何が出来るかを考えて、実際に行動に移す…、なかなか出来そうで出来ないことです。立派だと思い、こういう思いの社員がいてくれることに誇りを感じています。
斉田クンは東日本大震災の時に自分の無力さを改めて痛感したことがきっかけとなったと書いていますが、実は私もあの時に斉田クンとまったく同じ思いをしました。東日本大震災発生直後から2週間、私は寝袋を持ち込んで会社でずっと寝泊まりをしました(いつ、何が起きてもおかしくない状況でしたからね)。1人で寝袋にくるまって社長室の天井を見つめながら、斉田クンと同じように大いなる無力感を感じていました。
私が気象情報会社ハレックスの代表取締役社長に就任して今年で12年目になりますが、実は就任後しばらくして、この業界に大いなる“違和感”のようなものを感じました。この業界のやっていることって、なにかが違う…と。自然の脅威の来襲から人々の生命や財産をお守りするための大事な大事な情報を提供することが民間気象情報会社の本来の役割の筈なのですが(私も社長就任前はそう思っていました)、実態はと言うと、単なるお天気情報の提供・解説会社に過ぎず、人の命と真っ正面から向き合っていないのではないか…と。
その違和感をずっと感じたまま、何ら有効な手立ても打てないまま、会社を経営することだけに注力してあの東日本大震災の日を迎えたのです。それから2週間、私も弊社社長室の天井を見つめながら、いろいろと考えました。ホントいろいろと。そして辿り着いた結論は、「この私の中の違和感を払拭するためには、自ら行動を起こして自社のサービス内容をガラッと変え、世の中の期待に応えるしかない!」…というものでした。その思いで新たなコンセプトを打ち出して、次々に新しいサービスの開発に着手しました。
あの日から3年以上が経過し、斉田クンはこうして彼の思いを満載した本を出版し、弊社(五反田本社)も『防災さきもり』と弊社独自の局地予報モデル『HalexDream!I』、インターネットを介した緊急地震速報の安価版『なまずきんiS』、『推定震度マップ』等、これまでにない新しいサービスを次々と開発し、サービス開始にまで漕ぎ着けることが出来ました。これが一番嬉しいですね。
『いのちを守る気象情報』(斉田季実治 NHK出版)、皆さん、是非買ってお読みいただけたら…と願っています。
斉田クンもその本の中で書いていますが、「情報」だけでは命を守ることはできません。ほんの数分のニュースや気象情報の中に詰まっている「命を守る情報」を活かすためには、見る側にもある程度の「知識」が必要であり、自分だけは死なないという“なんら根拠のない安全神話”から変えていく必要があります。
この本を手にとっていただいた皆さんと皆さんの大切な人の「命を守る」ために、少しでも役立つことを、私は心の底から願っています。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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