2014/10/08
中央構造線(その2)
また、大雨による土砂災害においても、災害を引き起こす重要な因子である「地形」や「土壌」においても大きな差をもたらします。
添付の図は、独立行政法人土木研究所と国土交通省砂防部が発表している『深層崩壊推定頻度マップ』です。
土砂災害には「崖崩れ」、「地すべり」、「土石流」などがありますが、それらは“土砂災害の形態”を表す言葉で、斜面崩壊の形態を表す言葉に「深層崩壊」と「表層崩壊」があります。「深層崩壊」、「表層崩壊」、これは斜面崩壊の発生メカニズム(崩壊現象)に関する言葉です。
崩壊して滑落するすべり面の厚さが0.5~2.0メートル程度の浅い表層土が、表層土と基盤層の境界に沿って滑落する斜面崩壊のことを「表層崩壊」と言います。専門家による詳しい調査結果を見ないと分かりませんが、事故現場のテレビ映像を見る限り、8月20日に発生した広島市北部の大規模な土砂災害もこの「表層崩壊」によるものと思われます。「表層崩壊」は比較的規模の小さな崩壊が多いのですが、広島市北部では斜面のすぐ傍まで(それも川筋と呼ばれる沢に沿う箇所にまで)住宅地が建てられていたため、あれだけ甚大な被害が出たのではないか…と思われます。
いっぽう、「深層崩壊」とは、そうした斜面の表面付近にある浅い表土層だけでなく、深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象のことをいいます。最近はこの「深層崩壊」による大規模な土砂災害が多発する傾向にあり、問題になっているとともに、対策もとられています。
最近の「深層崩壊」の例をあげると…、
・2005年9月6日の宮崎県美郷町で起こった耳川天然ダム災害
・海外のことではありますが、2009年8月9日に“平成21年台風第8号”により台湾の高雄県小林村で発生した大規模な深層崩壊。この時は付近の山の深層崩壊による土石流で川沿いの集落の大部分が流され、さらに天然ダムが発生、しかも決壊して、結局集落全体が壊滅しました。死者の数は約500人にのぼり、逃げ延びることができた住民は僅か数十人にとどまりました。この時の様子は日本でもテレビで連日報道され、「深層崩壊」という言葉が一気に世の中に知られるきっかけとなりました。
・2011年9月の“平成23年台風第12号”による紀伊水害。奈良県の五條市大塔町赤谷、同じく奈良県野迫川村北股、和歌山県田辺市熊野などで大規模な深層崩壊が発生しました。深層崩壊箇所はこの時に発生した土砂崩れ3,077ヶ所中76ヶ所に過ぎませんが、面積1,000万平方メートル中の約半分、流出土砂量1億立方メートルのうちの約8割が深層崩壊によるものであったとされています。17ヶ所では土砂崩れダムを形成して、堰止め湖を作り、それが崩壊して大惨事になるのではないか…と注目されました。
・2012年9月24日、京浜急行電鉄の追浜駅~京急田浦駅間で発生した土砂崩れ・脱線事故の原因も深層崩壊であるとされています。
この「深層崩壊」が発生するきっかけは長時間に渡る降雨などとされています。「深層崩壊」に関しては、2009年8月9日に台湾の高雄県小林村で発生した大規模な深層崩壊の後、日本からも複数の専門家による調査団が派遣されて、深層崩壊の発生メカニズムの研究がなされ、対策を強化するきっかけとなりました。
既に国土交通省から全国の深層崩壊の危険箇所が発表されています。国土交通省の調査によれば、深層崩壊の発生頻度が「特に高い」とされているのは21都道県の2.6万平方キロメートル(日本の国土は約38万平方キロメートルです)。特に危険な区域には地滑りセンサーを設置する等の対策が進みつつあるようです。
この土木研究所と国土交通省から発表されている全国の深層崩壊の危険箇所の図を眺めていると、あることに気付きます。深層崩壊の危険箇所は中央構造線の南側に集中していると。この差はどこから来るのか推定してみました。
土砂災害の危険度は「地形」と「土壌」と「(都市等の)開発」で決定づけられると言われています。
まずは「地形」。前述のように特に四国近辺の中央構造線は北側の西南日本内帯側に南側の西南日本外帯側が乗り上げるような形で千数百メートルも隆起しています。これにより、外帯側は急峻な傾斜地が多くなっています。しかも、中央構造線より南側の西南日本外帯側一帯は太平洋岸気候で雨の多いところ。表面近いところにある土は、既にあらかた流されて、基盤層の土砂が表面に露出してしまっているとも考えられます。
次に「土壌」。中央構造線に直接接している岩石は、北側の西南日本内帯側はジュラ紀(約1億9960万年前~約1億4550万年前)の付加複合体が白亜紀(約1億4500万年前~6600万年前)に高温低圧型変成を受けた「領家変成帯」、南側の西南日本外帯側は、同じく白亜紀に低温高圧型変成を受けた「三波川変成帯」と呼ばれています。“付加複合体”という耳慣れない言葉の解説をし始めるとキリがないので、省略します。まぁ~、端的に言うと、中央構造線の北側にある領家変成帯も、南側にある三波川変成帯も、もともとは同じ性質の意志だったのですが、白亜紀に異なる変成作用を受けたものだということです。まぁ~、崩れやすさという点ではどちらも変わらないのですが、前述のように、中央構造線より南側の西南日本外帯側一帯の表面に近いところにある土は、既にあらかた流されて、基盤層の土砂が表面に露出しているということだとしたら、現在の表面の土壌の質は異なると推定されます。
このようなことから、中央構造線を境にして、「地形」も「土壌」も異なることから、土砂災害の発生メカニズムも微妙に異なると思われます。
8月20日に大規模な土砂災害が発生した広島市は中央構造線の北側にある西南日本内帯(領家変成帯)に位置していて、深層崩壊の危険エリアではありませんでした。実際、テレビのニュース映像や被災地の写真を見る限りは、斜面の表面付近にある浅い表土層が崩れた「表層崩壊」のように思えます。先ほど「深層崩壊」が発生するきっかけは長時間に渡る降雨などとされていると書きましたが、「表層崩壊」は単純に長時間に渡る降雨だけではなく、極々短時間の間に表土層と基盤層の間の許容量を超える大量の降雨が降った場合にも発生します(これは都市内の内水氾濫にも言えることです)。従って、「表層崩壊」や「内水氾濫」が発生する危険度リスクを判定するロジックや対策としては、「深層崩壊」のものとは異なるもっと複雑なものを用意しないといけないな…と思っています。
“災害”とは“災い”が“害”になると書きます。“災い”を“害”にするかどうかの最大要因は都市の脆弱性。その脆弱性を決定づける最大要因は「地形」と「土壌」、特に「地形」です。防災において考慮しなければならない最大要因は“地域特性”。その“地域特性”とは“地形”と“気象”のことだと私は思います(^^)d
実際、8月1日から3日にかけて、降り始めからの累積雨量が1,000ミリを超える等、僅か3日間で8月の月降水量(平年値)の2~4倍にあたる大雨となった四国の高知県や徳島県では、犠牲になられた方は徳島県で1人だけ。それも土砂災害に巻き込まれたわけではなく、増水した川に流されて亡くなられた方でした。
河川の氾濫による床上、床下浸水が徳島県で1,152軒、高知県で727軒と大量に出たものの、土砂の崩壊による家屋の倒壊は極僅かでした。1時間降水量も80ミリを超えるほどの猛烈な雨を観測した場所が幾つもあったにも関わらず…です。
(8月20日の広島市で発生した大規模な土砂災害では、降り始めから10時間の累積雨量は多いところで280ミリ。台風11号における高知県や徳島県ほどではありませんでした。ちなみに、徳島県も高知県も中央構造線の南側の西南日本外帯(三波川変成帯)に位置します。)
このように、同じ大雨でも、その土地の「地形」や「土壌」により、引き起こされる災害の形は様々に異なるということに十分に留意しないといけません。このことは、防災は“属地性”が極めて高いものであるということを意味しているということです。なので、気象情報、気象データの読み方も、災害の出方に左右されるため、“属地性”が極めて高いものが要求されるということです。
これを『地気象』(ちきしょう)と呼ばせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか? チキショ~ゥ!(>_<)……なぁ~んちゃって(笑)
【追記】
中央構造線上には諏訪大社、伊勢神宮、石鎚山、阿蘇山など重要な聖地や霊場、パワースポットと呼ばれている場所が多く、国譲り神話に関わる神々もこの線上に祀られているとのことです。これも不思議なことです。何か特別な意味でもあるのでしょうかねぇ~?(・・;)
添付の図は、独立行政法人土木研究所と国土交通省砂防部が発表している『深層崩壊推定頻度マップ』です。
土砂災害には「崖崩れ」、「地すべり」、「土石流」などがありますが、それらは“土砂災害の形態”を表す言葉で、斜面崩壊の形態を表す言葉に「深層崩壊」と「表層崩壊」があります。「深層崩壊」、「表層崩壊」、これは斜面崩壊の発生メカニズム(崩壊現象)に関する言葉です。
崩壊して滑落するすべり面の厚さが0.5~2.0メートル程度の浅い表層土が、表層土と基盤層の境界に沿って滑落する斜面崩壊のことを「表層崩壊」と言います。専門家による詳しい調査結果を見ないと分かりませんが、事故現場のテレビ映像を見る限り、8月20日に発生した広島市北部の大規模な土砂災害もこの「表層崩壊」によるものと思われます。「表層崩壊」は比較的規模の小さな崩壊が多いのですが、広島市北部では斜面のすぐ傍まで(それも川筋と呼ばれる沢に沿う箇所にまで)住宅地が建てられていたため、あれだけ甚大な被害が出たのではないか…と思われます。
いっぽう、「深層崩壊」とは、そうした斜面の表面付近にある浅い表土層だけでなく、深層の地盤までもが崩壊土塊となる比較的規模の大きな崩壊現象のことをいいます。最近はこの「深層崩壊」による大規模な土砂災害が多発する傾向にあり、問題になっているとともに、対策もとられています。
最近の「深層崩壊」の例をあげると…、
・2005年9月6日の宮崎県美郷町で起こった耳川天然ダム災害
・海外のことではありますが、2009年8月9日に“平成21年台風第8号”により台湾の高雄県小林村で発生した大規模な深層崩壊。この時は付近の山の深層崩壊による土石流で川沿いの集落の大部分が流され、さらに天然ダムが発生、しかも決壊して、結局集落全体が壊滅しました。死者の数は約500人にのぼり、逃げ延びることができた住民は僅か数十人にとどまりました。この時の様子は日本でもテレビで連日報道され、「深層崩壊」という言葉が一気に世の中に知られるきっかけとなりました。
・2011年9月の“平成23年台風第12号”による紀伊水害。奈良県の五條市大塔町赤谷、同じく奈良県野迫川村北股、和歌山県田辺市熊野などで大規模な深層崩壊が発生しました。深層崩壊箇所はこの時に発生した土砂崩れ3,077ヶ所中76ヶ所に過ぎませんが、面積1,000万平方メートル中の約半分、流出土砂量1億立方メートルのうちの約8割が深層崩壊によるものであったとされています。17ヶ所では土砂崩れダムを形成して、堰止め湖を作り、それが崩壊して大惨事になるのではないか…と注目されました。
・2012年9月24日、京浜急行電鉄の追浜駅~京急田浦駅間で発生した土砂崩れ・脱線事故の原因も深層崩壊であるとされています。
この「深層崩壊」が発生するきっかけは長時間に渡る降雨などとされています。「深層崩壊」に関しては、2009年8月9日に台湾の高雄県小林村で発生した大規模な深層崩壊の後、日本からも複数の専門家による調査団が派遣されて、深層崩壊の発生メカニズムの研究がなされ、対策を強化するきっかけとなりました。
既に国土交通省から全国の深層崩壊の危険箇所が発表されています。国土交通省の調査によれば、深層崩壊の発生頻度が「特に高い」とされているのは21都道県の2.6万平方キロメートル(日本の国土は約38万平方キロメートルです)。特に危険な区域には地滑りセンサーを設置する等の対策が進みつつあるようです。
この土木研究所と国土交通省から発表されている全国の深層崩壊の危険箇所の図を眺めていると、あることに気付きます。深層崩壊の危険箇所は中央構造線の南側に集中していると。この差はどこから来るのか推定してみました。
土砂災害の危険度は「地形」と「土壌」と「(都市等の)開発」で決定づけられると言われています。
まずは「地形」。前述のように特に四国近辺の中央構造線は北側の西南日本内帯側に南側の西南日本外帯側が乗り上げるような形で千数百メートルも隆起しています。これにより、外帯側は急峻な傾斜地が多くなっています。しかも、中央構造線より南側の西南日本外帯側一帯は太平洋岸気候で雨の多いところ。表面近いところにある土は、既にあらかた流されて、基盤層の土砂が表面に露出してしまっているとも考えられます。
次に「土壌」。中央構造線に直接接している岩石は、北側の西南日本内帯側はジュラ紀(約1億9960万年前~約1億4550万年前)の付加複合体が白亜紀(約1億4500万年前~6600万年前)に高温低圧型変成を受けた「領家変成帯」、南側の西南日本外帯側は、同じく白亜紀に低温高圧型変成を受けた「三波川変成帯」と呼ばれています。“付加複合体”という耳慣れない言葉の解説をし始めるとキリがないので、省略します。まぁ~、端的に言うと、中央構造線の北側にある領家変成帯も、南側にある三波川変成帯も、もともとは同じ性質の意志だったのですが、白亜紀に異なる変成作用を受けたものだということです。まぁ~、崩れやすさという点ではどちらも変わらないのですが、前述のように、中央構造線より南側の西南日本外帯側一帯の表面に近いところにある土は、既にあらかた流されて、基盤層の土砂が表面に露出しているということだとしたら、現在の表面の土壌の質は異なると推定されます。
このようなことから、中央構造線を境にして、「地形」も「土壌」も異なることから、土砂災害の発生メカニズムも微妙に異なると思われます。
8月20日に大規模な土砂災害が発生した広島市は中央構造線の北側にある西南日本内帯(領家変成帯)に位置していて、深層崩壊の危険エリアではありませんでした。実際、テレビのニュース映像や被災地の写真を見る限りは、斜面の表面付近にある浅い表土層が崩れた「表層崩壊」のように思えます。先ほど「深層崩壊」が発生するきっかけは長時間に渡る降雨などとされていると書きましたが、「表層崩壊」は単純に長時間に渡る降雨だけではなく、極々短時間の間に表土層と基盤層の間の許容量を超える大量の降雨が降った場合にも発生します(これは都市内の内水氾濫にも言えることです)。従って、「表層崩壊」や「内水氾濫」が発生する危険度リスクを判定するロジックや対策としては、「深層崩壊」のものとは異なるもっと複雑なものを用意しないといけないな…と思っています。
“災害”とは“災い”が“害”になると書きます。“災い”を“害”にするかどうかの最大要因は都市の脆弱性。その脆弱性を決定づける最大要因は「地形」と「土壌」、特に「地形」です。防災において考慮しなければならない最大要因は“地域特性”。その“地域特性”とは“地形”と“気象”のことだと私は思います(^^)d
実際、8月1日から3日にかけて、降り始めからの累積雨量が1,000ミリを超える等、僅か3日間で8月の月降水量(平年値)の2~4倍にあたる大雨となった四国の高知県や徳島県では、犠牲になられた方は徳島県で1人だけ。それも土砂災害に巻き込まれたわけではなく、増水した川に流されて亡くなられた方でした。
河川の氾濫による床上、床下浸水が徳島県で1,152軒、高知県で727軒と大量に出たものの、土砂の崩壊による家屋の倒壊は極僅かでした。1時間降水量も80ミリを超えるほどの猛烈な雨を観測した場所が幾つもあったにも関わらず…です。
(8月20日の広島市で発生した大規模な土砂災害では、降り始めから10時間の累積雨量は多いところで280ミリ。台風11号における高知県や徳島県ほどではありませんでした。ちなみに、徳島県も高知県も中央構造線の南側の西南日本外帯(三波川変成帯)に位置します。)
このように、同じ大雨でも、その土地の「地形」や「土壌」により、引き起こされる災害の形は様々に異なるということに十分に留意しないといけません。このことは、防災は“属地性”が極めて高いものであるということを意味しているということです。なので、気象情報、気象データの読み方も、災害の出方に左右されるため、“属地性”が極めて高いものが要求されるということです。
これを『地気象』(ちきしょう)と呼ばせていただきたいと思うのですが、いかがでしょうか? チキショ~ゥ!(>_<)……なぁ~んちゃって(笑)
【追記】
中央構造線上には諏訪大社、伊勢神宮、石鎚山、阿蘇山など重要な聖地や霊場、パワースポットと呼ばれている場所が多く、国譲り神話に関わる神々もこの線上に祀られているとのことです。これも不思議なことです。何か特別な意味でもあるのでしょうかねぇ~?(・・;)
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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