2014/09/24
巨大災害 ~MEGA DISASTER~ 地球大変動の衝撃(第4集)
NHKスペシャル『巨大災害 ~MEGA DISASTER~』、9月21日(日)21時から放送された最終の第4集は『火山大噴火 ~迫りくる大地動乱の時代~』がテーマでした。
富士山や浅間山など110もの活火山が集中する日本列島。その地下100km付近には、大量のマグマが存在し火山に向かって上昇している様子が、第3集の『巨大地震』でも取り上げられた最新の“地震波トモグラフィー”という技術によって、徐々に捉えられるようになってきています。
このところ1年間に800回以上もの爆発的な噴火が起きている鹿児島県の桜島では、マグマが溜まり続ける様子が観察され、近い将来、大規模な噴火のおそれがあることが分かってきました。
3年前の2011年1月には、その桜島のすぐ近く、鹿児島県と宮崎県の県境にある霧島連山の1つである「新燃岳」で活発な噴火活動がありました。山の南東側を中心に火山灰や風に飛ばされる小さな噴石が降り続き、火口から2km余り離れた地点では火山灰などが厚さ30cm近くに達していたほか、同年1月26日に起きた大規模な噴火の際には、火山灰が火口から60km余り離れた宮崎県日南市の沖合まで達していたんだそうです。
霧島連山の南東側と言うと、宮崎県都城市や日南市がそれに当たりますが、妻の生まれ故郷である鹿児島県の大隅半島にある志布志市もそれに当たります。妻の両親は既にどちらも他界し、志布志の実家も取り壊して随分と時間が経つので、最近は行く機会もほとんどなくなりましたが、妻はその噴火が起きた当時、親戚や友人が多く住んでいるので心配して電話をして様子を訊いていました。火山灰が空から降ってくることには慣れっこになっている筈のあのあたりの方々が、「こんなに酷いのは初めてだ」と口々に言っていたようなので、そうとう酷い降灰だったのでしょう。
志布志のあたりも西寄りの風が強まる冬の季節は毎年のように火山灰がいっぱい空から降ってきます。妻の両親が存命中は私も正月休みなどで帰省していたので、この時期、大隅半島の東側でも火山灰が降ってきやすいこと、また、火山灰が降ってくるといったいどういうことになるかはだいたい分かります。一度など視界不良で昼間でもヘッドライトを点灯しないとクルマが運転出来ないほどの降灰に遭遇したこともあります。しかしそれは同じ火山でも大隅半島の反対側、錦江湾にある桜島の噴火によるもの。降ってくるのは細かい粒の火山灰ばかりで、噴石などは含まれていません。なので、この霧島連山の新燃岳の噴火によるものはそれとはまったくの別物のようでした。
桜島の場合、常に噴火を繰り返して地下のエネルギーを放出しているので一回の噴火の規模は比較的小規模なんでしょうが、今回の霧島連山新燃岳が数時間以上に渡って噴火したのは1959年以来約50年ぶりと言うことですので、そうとうエネルギーが溜まっていた筈です。その溜まった地下エネルギーが一気に噴き出した感じです。
霧島は霧島山という一つの山のことではなく、“霧島連山”と言うように幾つかの連なった山々からなっています。ミヤマキリシマなどのツツジがいっぱい咲くことでも知られています。代表的な山は高千穂峰(とても綺麗な山であり、天孫降臨の地と言われる霊山です)、韓国岳(霧島連山で一番高い山)、そして今回噴火を起こした新燃岳。この新燃岳には妻の実家に帰省した際にドライブがてら観光に行ったことがあります。
新燃岳は山頂の標高が1,421m。御鉢ともども霧島連山の中で今も活動を続けている活火山で、過去に大小の噴火を繰り返しています。霧島連山のほぼ中央にそびえる山で、頂上にはほぼ円形の火口(直径約750m,深さ約180m)を有し、直径約150m、水深約30mの青緑色をしたとても美しい水面の火口湖もあり、ここはすごく幻想的です。山頂南側に溶岩の突出があり、遠くからラクダの背のこぶのように見えます。ミヤマキリシマの群落地もあり、ふだんは登山者も多い山です。霊山としても知られ、近くには坂本龍馬とお龍さん夫婦が新婚旅行に訪れた霧島温泉郷(硫黄谷温泉)があります。
過去の新燃岳の噴火を近年から順に紹介すると、
2008年(平成20年)8月22日 小噴火
1991年(平成3年)12月~翌年2月 小噴火
1959年(昭和34年)2月13日に小噴火。2月17日午後2時50分に空振を伴って噴火が始まり、黒色の噴煙が上空4000mに達しました。噴出物総量は数十万トンにのぼり、周辺の農作物や山頂付近のミヤマキリシマ群落に大きな被害を与えました。
そして記録に残る最大の噴火は今から約300年前の1716~1717年(享保元年~2年)にかけて起きた大噴火です。特に享保2年8月15日には享保噴火の中で最大規模の噴火が発生しました。高温の噴石を噴出し、火山灰が広範囲に渡って降り積もりました。周囲の田畑は厚さ10~20cmの火山灰に覆われ、かなりの農業被害が出ました。周囲に数ヶ所の火口が形成され、火砕流が発生して、付近の山林に火災が広がりました。住民の間に流言飛語が広がったため当時の藩主島津吉貴は怪異説・神火説を唱えることや祈祷などを禁じる触れを出したほどです。この時の一連の噴火活動は断続的に約1年半続いたとされ、遠く離れた八丈島でも降灰が観測されたそうです。
このように霧島連山の活火山は一旦噴火するとその後数年噴火が続くこともありますし、数日だけで終わることもあります。御鉢などの霧島連山の他の山を含めて調べてみると、この一帯では大体50年~60年周期で大規模な噴火を繰り返していることが分かります。今から50年前の1959年以来、大噴火と呼ばれる噴火を起こしていないこと、また、約100km離れた桜島の活動がこのところ活発化していたことから、こりゃあ近いうちに何か大変なことが起こりそうだな…と思ってはいたのですが、やっぱり霧島が大噴火しました。
この霧島連山の新燃岳は2012年の1月以降、マグマの供給を示す大規模な地殻変動は止まっているように思えますが、火山性の地震は今も継続していて、特に2013年の12月頃からは地下のマグマ溜まりが膨張する傾向が見られていて、今年1月にかけて付近で小さな地震が発生し、新燃岳の火口直下でも2月20日頃から地震の発生が増加しているようです。
桜島についてはここで詳しく述べる必要もありません。桜島は鹿児島県の鹿児島湾(錦江湾)にある東西約12km、南北約10km、周囲約55kmの火山島です。かつては文字通り島でしたが、1914年(大正3年)の噴火により大隅半島と陸続きになりました。約2万6千年前に鹿児島湾内の海底火山として活動を開始した活火山によって形成された、地質学的には比較的新しい火山です。有史以来頻繁に繰り返してきた噴火の記録も多く、現在もなお活発な活動を続けているため、日本国内のみならず世界的にも学術的に重視されている火山です。
2006年6月4日に昭和噴火の火口跡付近において小規模な噴火が発生し、それ以降、昭和火口が中心となって爆発の回数が再び増加へと転じています。2009年以降の活動の活発化傾向は特に著しく、観測所において爆発的噴火と記録された噴火は2009年548回、2010年896回、2011年996回、2012年は885回…と、これまで観測された記録の上位4位までを占める形となっています。また、2012年1月には月初来の噴火回数で、2011年9月に記録した月間最多記録141回をわずか22日にして更新し、最終的には172回の記録を残しました。そして、その4ヶ月後の同2012年5月に1955年の観測開始以降、最速で年間記録500回を記録しています。 この、2006年から2012年の間において、従来の記録を大きく上回る爆発的噴火の影響により、昭和火口の大きさが2006年11月時点よりも約2.5倍の大きさに広がるなど、激しいものとなっているようです。
鹿児島近辺の衛星写真を見るとすぐにお分かりいただけると思いますが、そもそも、鹿児島湾(錦江湾)北部は直径約20kmにも及ぶ巨大な窪地を構成している火山噴火の跡、すなわちカルデラです。今から2万5,000年前、このあたり一帯で「姶良大噴火」と呼ばれる火山の巨大噴火が起き、現在のような湾の形が形成されたとされています。この時の噴火は想像を絶するほど凄まじいものであったようで、噴出物の総量は体積にして450立方kmにのぼり、空中に吹き上げられた火山灰は偏西風に流されて北東へ広がり、日本列島各地に降り積もりました。遠く離れた関東地方でも約10cmの厚さの降灰があったとされています。桜島はその姶良大噴火の後の約2万2千年前に鹿児島湾内の火山島として活動を始めたとされ、現在までその活動が延々と続いているわけです。
海外に目を転じてみると、巨大噴火を起こしそうな危険な活火山が幾つもあります。番組では、特に北米最大の火山地帯「イエローストーン」を注目して取り上げていました。イエローストーンでは、地下2,000km以上の深さから「マントルプルーム」と呼ばれる巨大で高温のマントル物質が上昇してきており、その熱によって長さ60km、幅30kmに達するマグマが生まれ、地下5km付近にまで迫っていることが確認されています。このイエローストーンでひとたび巨大噴火が起きれば、火山灰が地球全体を覆い、太陽光が遮られて世界の気温が平均で10℃以上も下がるということが最新のコンピュータによるシミュレーションにより導き出されています。
私がこの『おちゃめ日記』の中でも紹介した田家康さんが書かれた『気候で読み解く日本の歴史』、その中にも登場した地球規模の大規模な気候変動である「1300年イベント」。この「1300年イベント」もインドネシアや南半球で発生した巨大火山の噴火がそもそもの原因としたものでした。
『おちゃめ日記』気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年
『おちゃめ日記』気候で読み解く日本の歴史:続編
その火山とはインドネシアのロンボク島にあるサマラス火山。その噴火は1257年の5月から10月の間だったようです。この巨大噴火は、1883年に発生した有名なクラカタウ山(インドネシア)の噴火の8倍、1815年のタンボラ山(同じくインドネシア)の噴火の約2倍の規模だったと推定されていて、過去3700年間で最大の火山噴火と言われています。超巨大噴火による噴出物は体積にして40立方kmにのぼり、地上4万3,000メートルにまで達したのち、世界中に降下物となって舞い降りたと考えられています。 実際、この噴火により生じたと思われる硫酸塩や火山灰は、遠くグリーンランドや南極にまで達し、これらの場所にある氷床コアに閉じ込められていることが、氷のサンプル採取で判明されているそうです。
この巨大噴火は赤道付近で発生しましたが、その衝撃は世界全体におよび、世界各地で各種の記録が残されています。大量の溶岩と火山灰を噴出した大噴火によって、成層圏に大量のエアロゾルと塵埃が放出され、成層圏で酸化した二酸化硫黄が作り出す硫酸エアロゾルは、噴火から1年をかけて成層圏をゆっくりと拡散していき、その結果、地球の表面に達する太陽光の量が極端に減少しました。中世ヨーロッパの記録文書を見ると、噴火の翌年と考えられる1258年の夏について、異常に気温が低かったという記述が残っています。「夏のない年」と呼ばれたこの年は農産物が不作で、さらに絶え間ない降雨による洪水で尋常でないくらいの大きな被害がもたらされたようです。一方、噴火直後の冬は西ヨーロッパでは暖冬だったようですが、これは熱帯での火山噴火で大気中の硫黄濃度が上がったためだと考えられています。
第5代皇帝クビライに率いられてユーラシア大陸全土を征服し一大帝国を築き上げたモンゴル帝国も、クビライの死後、後継者争いから内部分裂が相次ぎ、徐々に帝国としての統制力を失っていったのですが、そのモンゴル帝国の安定にトドメを刺したのが、著しい気温低下という異常気象による大飢饉とペストの大流行をはじめとする疫病、さらには自然災害の続発でした。さすがのモンゴル帝国も異常気象の前には手も足も出ず、一気に衰退していったわけです。それが 1200年代後半のこと、まさにこのインドネシアのサマラス山の噴火とタイミングが一致します。
さらに、1300年代にはもう1つ、1315年から5年間ほどの間ニュージーランドのカハロア火山が繰り返し大噴火を起こし、そこから吹き上げられた大量の火山灰によって、1315年から1317年にかけてヨーロッパで著しい気温低下とそれに伴う大飢饉が起きたと記録に残されています。それにより世界各地でそれまで栄華を誇っていた王朝が急激に衰退して倒れる等の大きな歴史的変化が起こりました。これが「1300年イベント」と呼ばれるものです。
現在は地球の温暖化ばかりが問題視されていますが、ひとたびこのような火山の巨大噴火が起こると、一転して気候は急激に寒冷化へと向かい、農産物の不作による食糧危機が世界中を襲うことになりそうです。北米のイエローストーンで巨大噴火が起きれば、火山灰が地球全体を覆い、世界の気温が平均で10℃以上も下がる…、まさにこれと同じようなことが、800年前に地球上で起きていたわけです。この警鐘、無視するわけにはいきません。世界の人口がここまで大きくなると、温暖化よりも寒冷化のほうがよっぽど大問題です。しかも、巨大火山の噴火は突然やってきます。温暖化が一転して寒冷化に向かう…、これほど恐ろしいことはありません。高度に発達した文明社会で、ひとたび火山の巨大噴火が起きるといったい何が起きるのか…。考えたくもないですね、はい。
地球の歴史上、何度となく繰り返されてきた火山大噴火。現代の私達が経験したことのない大噴火は、地球環境や人類にどれほどの影響をもたらすのか。番組では火山研究の最前線を取材し、その脅威の姿を見つめていきました。番組の最後に司会のタモリさんがポツリと、「この巨大火山の噴火が一番怖い」とおっしゃっていたようですが、私もこれには強く同感です。徐々に進行していく温暖化と比べて、寒冷化は火山の巨大噴火により一瞬にして起こってしまいます。寒冷化によりこれまで経験したことのない様々な気候変動が起きると思われますし、なによりも大飢饉による食糧不足が世界中で様々な社会不安を引き起こし、文字通り“暗黒の時代”へと一直線で突き進んでいく…そんなことも考えられます。そんなこと考えたくもないことですが、世界の学者先生の研究では、そうもいかないことのようです。
4回にわたって放送されたこのNHKスペシャル『巨大災害 ~MEGA DISASTER~ 地球大変動の衝撃』、非常に興味深い番組でした。残念ながら見逃された方は、『NHKオンデマンド(有料)』で是非ご覧ください(^^)d
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富士山や浅間山など110もの活火山が集中する日本列島。その地下100km付近には、大量のマグマが存在し火山に向かって上昇している様子が、第3集の『巨大地震』でも取り上げられた最新の“地震波トモグラフィー”という技術によって、徐々に捉えられるようになってきています。
このところ1年間に800回以上もの爆発的な噴火が起きている鹿児島県の桜島では、マグマが溜まり続ける様子が観察され、近い将来、大規模な噴火のおそれがあることが分かってきました。
3年前の2011年1月には、その桜島のすぐ近く、鹿児島県と宮崎県の県境にある霧島連山の1つである「新燃岳」で活発な噴火活動がありました。山の南東側を中心に火山灰や風に飛ばされる小さな噴石が降り続き、火口から2km余り離れた地点では火山灰などが厚さ30cm近くに達していたほか、同年1月26日に起きた大規模な噴火の際には、火山灰が火口から60km余り離れた宮崎県日南市の沖合まで達していたんだそうです。
霧島連山の南東側と言うと、宮崎県都城市や日南市がそれに当たりますが、妻の生まれ故郷である鹿児島県の大隅半島にある志布志市もそれに当たります。妻の両親は既にどちらも他界し、志布志の実家も取り壊して随分と時間が経つので、最近は行く機会もほとんどなくなりましたが、妻はその噴火が起きた当時、親戚や友人が多く住んでいるので心配して電話をして様子を訊いていました。火山灰が空から降ってくることには慣れっこになっている筈のあのあたりの方々が、「こんなに酷いのは初めてだ」と口々に言っていたようなので、そうとう酷い降灰だったのでしょう。
志布志のあたりも西寄りの風が強まる冬の季節は毎年のように火山灰がいっぱい空から降ってきます。妻の両親が存命中は私も正月休みなどで帰省していたので、この時期、大隅半島の東側でも火山灰が降ってきやすいこと、また、火山灰が降ってくるといったいどういうことになるかはだいたい分かります。一度など視界不良で昼間でもヘッドライトを点灯しないとクルマが運転出来ないほどの降灰に遭遇したこともあります。しかしそれは同じ火山でも大隅半島の反対側、錦江湾にある桜島の噴火によるもの。降ってくるのは細かい粒の火山灰ばかりで、噴石などは含まれていません。なので、この霧島連山の新燃岳の噴火によるものはそれとはまったくの別物のようでした。
桜島の場合、常に噴火を繰り返して地下のエネルギーを放出しているので一回の噴火の規模は比較的小規模なんでしょうが、今回の霧島連山新燃岳が数時間以上に渡って噴火したのは1959年以来約50年ぶりと言うことですので、そうとうエネルギーが溜まっていた筈です。その溜まった地下エネルギーが一気に噴き出した感じです。
霧島は霧島山という一つの山のことではなく、“霧島連山”と言うように幾つかの連なった山々からなっています。ミヤマキリシマなどのツツジがいっぱい咲くことでも知られています。代表的な山は高千穂峰(とても綺麗な山であり、天孫降臨の地と言われる霊山です)、韓国岳(霧島連山で一番高い山)、そして今回噴火を起こした新燃岳。この新燃岳には妻の実家に帰省した際にドライブがてら観光に行ったことがあります。
新燃岳は山頂の標高が1,421m。御鉢ともども霧島連山の中で今も活動を続けている活火山で、過去に大小の噴火を繰り返しています。霧島連山のほぼ中央にそびえる山で、頂上にはほぼ円形の火口(直径約750m,深さ約180m)を有し、直径約150m、水深約30mの青緑色をしたとても美しい水面の火口湖もあり、ここはすごく幻想的です。山頂南側に溶岩の突出があり、遠くからラクダの背のこぶのように見えます。ミヤマキリシマの群落地もあり、ふだんは登山者も多い山です。霊山としても知られ、近くには坂本龍馬とお龍さん夫婦が新婚旅行に訪れた霧島温泉郷(硫黄谷温泉)があります。
過去の新燃岳の噴火を近年から順に紹介すると、
2008年(平成20年)8月22日 小噴火
1991年(平成3年)12月~翌年2月 小噴火
1959年(昭和34年)2月13日に小噴火。2月17日午後2時50分に空振を伴って噴火が始まり、黒色の噴煙が上空4000mに達しました。噴出物総量は数十万トンにのぼり、周辺の農作物や山頂付近のミヤマキリシマ群落に大きな被害を与えました。
そして記録に残る最大の噴火は今から約300年前の1716~1717年(享保元年~2年)にかけて起きた大噴火です。特に享保2年8月15日には享保噴火の中で最大規模の噴火が発生しました。高温の噴石を噴出し、火山灰が広範囲に渡って降り積もりました。周囲の田畑は厚さ10~20cmの火山灰に覆われ、かなりの農業被害が出ました。周囲に数ヶ所の火口が形成され、火砕流が発生して、付近の山林に火災が広がりました。住民の間に流言飛語が広がったため当時の藩主島津吉貴は怪異説・神火説を唱えることや祈祷などを禁じる触れを出したほどです。この時の一連の噴火活動は断続的に約1年半続いたとされ、遠く離れた八丈島でも降灰が観測されたそうです。
このように霧島連山の活火山は一旦噴火するとその後数年噴火が続くこともありますし、数日だけで終わることもあります。御鉢などの霧島連山の他の山を含めて調べてみると、この一帯では大体50年~60年周期で大規模な噴火を繰り返していることが分かります。今から50年前の1959年以来、大噴火と呼ばれる噴火を起こしていないこと、また、約100km離れた桜島の活動がこのところ活発化していたことから、こりゃあ近いうちに何か大変なことが起こりそうだな…と思ってはいたのですが、やっぱり霧島が大噴火しました。
この霧島連山の新燃岳は2012年の1月以降、マグマの供給を示す大規模な地殻変動は止まっているように思えますが、火山性の地震は今も継続していて、特に2013年の12月頃からは地下のマグマ溜まりが膨張する傾向が見られていて、今年1月にかけて付近で小さな地震が発生し、新燃岳の火口直下でも2月20日頃から地震の発生が増加しているようです。
桜島についてはここで詳しく述べる必要もありません。桜島は鹿児島県の鹿児島湾(錦江湾)にある東西約12km、南北約10km、周囲約55kmの火山島です。かつては文字通り島でしたが、1914年(大正3年)の噴火により大隅半島と陸続きになりました。約2万6千年前に鹿児島湾内の海底火山として活動を開始した活火山によって形成された、地質学的には比較的新しい火山です。有史以来頻繁に繰り返してきた噴火の記録も多く、現在もなお活発な活動を続けているため、日本国内のみならず世界的にも学術的に重視されている火山です。
2006年6月4日に昭和噴火の火口跡付近において小規模な噴火が発生し、それ以降、昭和火口が中心となって爆発の回数が再び増加へと転じています。2009年以降の活動の活発化傾向は特に著しく、観測所において爆発的噴火と記録された噴火は2009年548回、2010年896回、2011年996回、2012年は885回…と、これまで観測された記録の上位4位までを占める形となっています。また、2012年1月には月初来の噴火回数で、2011年9月に記録した月間最多記録141回をわずか22日にして更新し、最終的には172回の記録を残しました。そして、その4ヶ月後の同2012年5月に1955年の観測開始以降、最速で年間記録500回を記録しています。 この、2006年から2012年の間において、従来の記録を大きく上回る爆発的噴火の影響により、昭和火口の大きさが2006年11月時点よりも約2.5倍の大きさに広がるなど、激しいものとなっているようです。
鹿児島近辺の衛星写真を見るとすぐにお分かりいただけると思いますが、そもそも、鹿児島湾(錦江湾)北部は直径約20kmにも及ぶ巨大な窪地を構成している火山噴火の跡、すなわちカルデラです。今から2万5,000年前、このあたり一帯で「姶良大噴火」と呼ばれる火山の巨大噴火が起き、現在のような湾の形が形成されたとされています。この時の噴火は想像を絶するほど凄まじいものであったようで、噴出物の総量は体積にして450立方kmにのぼり、空中に吹き上げられた火山灰は偏西風に流されて北東へ広がり、日本列島各地に降り積もりました。遠く離れた関東地方でも約10cmの厚さの降灰があったとされています。桜島はその姶良大噴火の後の約2万2千年前に鹿児島湾内の火山島として活動を始めたとされ、現在までその活動が延々と続いているわけです。
海外に目を転じてみると、巨大噴火を起こしそうな危険な活火山が幾つもあります。番組では、特に北米最大の火山地帯「イエローストーン」を注目して取り上げていました。イエローストーンでは、地下2,000km以上の深さから「マントルプルーム」と呼ばれる巨大で高温のマントル物質が上昇してきており、その熱によって長さ60km、幅30kmに達するマグマが生まれ、地下5km付近にまで迫っていることが確認されています。このイエローストーンでひとたび巨大噴火が起きれば、火山灰が地球全体を覆い、太陽光が遮られて世界の気温が平均で10℃以上も下がるということが最新のコンピュータによるシミュレーションにより導き出されています。
私がこの『おちゃめ日記』の中でも紹介した田家康さんが書かれた『気候で読み解く日本の歴史』、その中にも登場した地球規模の大規模な気候変動である「1300年イベント」。この「1300年イベント」もインドネシアや南半球で発生した巨大火山の噴火がそもそもの原因としたものでした。
『おちゃめ日記』気候で読み解く日本の歴史―異常気象との攻防1400年
『おちゃめ日記』気候で読み解く日本の歴史:続編
その火山とはインドネシアのロンボク島にあるサマラス火山。その噴火は1257年の5月から10月の間だったようです。この巨大噴火は、1883年に発生した有名なクラカタウ山(インドネシア)の噴火の8倍、1815年のタンボラ山(同じくインドネシア)の噴火の約2倍の規模だったと推定されていて、過去3700年間で最大の火山噴火と言われています。超巨大噴火による噴出物は体積にして40立方kmにのぼり、地上4万3,000メートルにまで達したのち、世界中に降下物となって舞い降りたと考えられています。 実際、この噴火により生じたと思われる硫酸塩や火山灰は、遠くグリーンランドや南極にまで達し、これらの場所にある氷床コアに閉じ込められていることが、氷のサンプル採取で判明されているそうです。
この巨大噴火は赤道付近で発生しましたが、その衝撃は世界全体におよび、世界各地で各種の記録が残されています。大量の溶岩と火山灰を噴出した大噴火によって、成層圏に大量のエアロゾルと塵埃が放出され、成層圏で酸化した二酸化硫黄が作り出す硫酸エアロゾルは、噴火から1年をかけて成層圏をゆっくりと拡散していき、その結果、地球の表面に達する太陽光の量が極端に減少しました。中世ヨーロッパの記録文書を見ると、噴火の翌年と考えられる1258年の夏について、異常に気温が低かったという記述が残っています。「夏のない年」と呼ばれたこの年は農産物が不作で、さらに絶え間ない降雨による洪水で尋常でないくらいの大きな被害がもたらされたようです。一方、噴火直後の冬は西ヨーロッパでは暖冬だったようですが、これは熱帯での火山噴火で大気中の硫黄濃度が上がったためだと考えられています。
第5代皇帝クビライに率いられてユーラシア大陸全土を征服し一大帝国を築き上げたモンゴル帝国も、クビライの死後、後継者争いから内部分裂が相次ぎ、徐々に帝国としての統制力を失っていったのですが、そのモンゴル帝国の安定にトドメを刺したのが、著しい気温低下という異常気象による大飢饉とペストの大流行をはじめとする疫病、さらには自然災害の続発でした。さすがのモンゴル帝国も異常気象の前には手も足も出ず、一気に衰退していったわけです。それが 1200年代後半のこと、まさにこのインドネシアのサマラス山の噴火とタイミングが一致します。
さらに、1300年代にはもう1つ、1315年から5年間ほどの間ニュージーランドのカハロア火山が繰り返し大噴火を起こし、そこから吹き上げられた大量の火山灰によって、1315年から1317年にかけてヨーロッパで著しい気温低下とそれに伴う大飢饉が起きたと記録に残されています。それにより世界各地でそれまで栄華を誇っていた王朝が急激に衰退して倒れる等の大きな歴史的変化が起こりました。これが「1300年イベント」と呼ばれるものです。
現在は地球の温暖化ばかりが問題視されていますが、ひとたびこのような火山の巨大噴火が起こると、一転して気候は急激に寒冷化へと向かい、農産物の不作による食糧危機が世界中を襲うことになりそうです。北米のイエローストーンで巨大噴火が起きれば、火山灰が地球全体を覆い、世界の気温が平均で10℃以上も下がる…、まさにこれと同じようなことが、800年前に地球上で起きていたわけです。この警鐘、無視するわけにはいきません。世界の人口がここまで大きくなると、温暖化よりも寒冷化のほうがよっぽど大問題です。しかも、巨大火山の噴火は突然やってきます。温暖化が一転して寒冷化に向かう…、これほど恐ろしいことはありません。高度に発達した文明社会で、ひとたび火山の巨大噴火が起きるといったい何が起きるのか…。考えたくもないですね、はい。
地球の歴史上、何度となく繰り返されてきた火山大噴火。現代の私達が経験したことのない大噴火は、地球環境や人類にどれほどの影響をもたらすのか。番組では火山研究の最前線を取材し、その脅威の姿を見つめていきました。番組の最後に司会のタモリさんがポツリと、「この巨大火山の噴火が一番怖い」とおっしゃっていたようですが、私もこれには強く同感です。徐々に進行していく温暖化と比べて、寒冷化は火山の巨大噴火により一瞬にして起こってしまいます。寒冷化によりこれまで経験したことのない様々な気候変動が起きると思われますし、なによりも大飢饉による食糧不足が世界中で様々な社会不安を引き起こし、文字通り“暗黒の時代”へと一直線で突き進んでいく…そんなことも考えられます。そんなこと考えたくもないことですが、世界の学者先生の研究では、そうもいかないことのようです。
4回にわたって放送されたこのNHKスペシャル『巨大災害 ~MEGA DISASTER~ 地球大変動の衝撃』、非常に興味深い番組でした。残念ながら見逃された方は、『NHKオンデマンド(有料)』で是非ご覧ください(^^)d
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執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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