2014/12/19
爆弾低気圧
北海道の東の海上にある発達した低気圧と上空に流れ込んだ強い寒気の影響で、16日(火)から18日(木)にかけて太平洋側を含む広い範囲で雪が降り、日本海側や山沿いでは12月としては記録的な大雪となっています。
18日午後6時の積雪は、新潟県津南町で2m4cm、長野県野沢温泉村で1m80cm、福井県の大野市九頭竜で1m58cmなどと、各地で平年を大きく上回る大雪となっています。
積雪が一時、23cmに達した名古屋市でも雪が残り、18日午後6時の積雪は9cmとなっています。
また、17日から18日にかけて、北海道東部やオホーツク海沿岸では低気圧の影響で潮位が通常より1m前後も高くなり、各地で高潮による浸水の被害が出ました。
気象庁の観測によると、北海道のオホーツク海沿岸では18日、潮位が通常より80cmから1m余り高くなりました。このうち、北部の枝幸町では午前1時43分頃に潮位が通常より1m7cm高い1m13cmに達したほか、紋別港では午前9時25分頃に98cm、網走港では午前11時34分頃に86cmとなりました。北海道東部の根室港では17日午前8時49分頃に潮位が通常より1m69cm高い2m3cmに達しました。
くわえて、海が“大しけ”になったことで沿岸部を高さ5mを超すほどの高波が襲ったことが重なり、これにより、さらに潮位が上昇し、各地で高潮による浸水の被害が相次ぎました。
厳しい寒さも続き、19日朝の最低気温は、北海道旭川市で氷点下11℃、長野市で氷点下5℃、名古屋市で氷点下3℃、山形市と広島市、高知市で氷点下2℃、仙台市と東京の都心、大阪市で0℃など、平年を大きく下回りました。
この災害をもたらしたのが16日から17日にかけて日本列島の南の太平洋上を、日本列島に沿って発達しながら西から東に通り過ぎ、北海道の東の海上でしばらく停滞した低気圧です。
上記の天気図をご覧いただくとお分かりいただけると思いますが、16日の午前9時の段階で四国の足摺岬の沖にあった低気圧が、日本列島の南の海岸に沿って、徐々に北上していきました。16日の午前9時に足摺岬の沖にあった段階での中心気圧は1008ヘクトパスカル(hPa)。それが24時間後の17日午前9時に北海道の知床半島の沖のオホーツク海に達した時には958hPaまで一気に50hPaも発達しています。それに伴って、強い冬型の気圧配置になっています。
958hPaと言うと、猛烈な大型台風並みの勢力です。しかも、台風のように遥か南の海上ではなく、日本列島近海でここまで急激に発達したのです。大雪や高潮による甚大な被害が出ているのも、さもありなんという感じです。
この低気圧、気象庁は「急速に発達する低気圧」という表現を使っていますが、“台風”のような特別な名称では呼んではいません。ただの「低気圧」です。
そもそも「台風」の定義は、日本の南海上で発生した熱帯性低気圧が暖かい海の上で発達し、中心付近の最大風速が17m/秒を超えたもののことです。
これに対して、今回のような低気圧は、中緯度や高緯度において(すなわち日本列島周辺において)偏西風によって運ばれてくる大陸からの寒気と、偏西風の南側にある赤道方面から流れてくる暖気のぶつかりによって発生した低気圧のことで、台風とは成立の仕方が異なります。厄介なことにこの低気圧は前線を伴うことによって広範囲の激しい雨または雪などの「暴風雨」、「暴風雪」を引き起こします。また、これらは短期間で非常に発達し、大型台風並みの勢力を持つことがあります。今回の低気圧もそれでした。
こういう日本列島周辺で「急速に発達する低気圧」は近年しばしば発生するようになってきていて、最近では新聞やテレビといったメディアでは「爆弾低気圧」という表現が使われるようになってきています。これは気象の世界で古くから使われてきた「Bomb cyclone」という言葉をそのまんま訳したものです。この「爆弾低気圧」、い ちおう、1日(24時間)で24hPa以上発達する低気圧のこと…と定義はされているようです。
ただし、気象庁ではこの言葉を使われていないため「急速に発達した低気圧」などという表現になっています。そのために注意喚起が遅れているのではないか…と私は危惧しています。
実際に、「爆弾低気圧」は、台風のようにその進行方向や発達の状況が逐一、天気予報で報道されるのと違って、突然天気図上に現れて、ものの数時間で「爆発的」に発達することから、非常に警戒すべき事象なのです。特に日本海側では過去にも数々の深刻な被害を発生させていますし、その勢力も最大瞬間風速は40m/秒を超える、まさに台風を超えるくらいの威力です。
過去においては2005年12月に山形県で羽越本線が爆弾低気圧の強風(40m/秒を超えていたと言われています)により脱線。5人が死亡、32名が重軽傷を負うという事故がありました。一般的に風速が15m/秒を超えると歩行は困難になり、20m/秒を超えると風によって飛んだ看板などによる事故が発生し始めます。40m/秒を超える強風が吹くと、走行中の列車も脱線するほどだということです。
夏から秋にかけての台風シーズンにおいては、運動会シーズンやレジャーシーズン、農業の場合は収穫シーズンと重なることもあり、一般の人も天気予報や天気図に大いに関心を持って「台風」の動向に注意していただいているのですが、この「爆弾低気圧(気象庁の表現で言うと「急速に発達した低気圧」)」には「たいしたことはないだろう…」と、軽く見がちな傾向にあるように思います。
ですが、油断は禁物。強烈な降雨や強風が吹き荒れるなど、猛烈な勢力で襲い掛かってくるため、準備をしていないことによって思わぬ被害を生むことになります。
2012年、2013年においてもこれらの低気圧の急速な発達事例(爆弾低気圧)は継続して発生していて、年々増加傾向にあるように感じています。これはやはり近年日本列島に接近してくる台風の勢力が強まっているのと同様に、日本近海の海水面の温度上昇が主な原因のように思われます。温暖化によって海の表面の温度が高まり、上空の寒気との間の温度差が広ることで海水面から蒸発する水蒸気が増え、積乱雲が発達しやすくなるためです。
今後も日本の南側の海水面の高温傾向は続くと思われますので、冬から春にかけての「低気圧の動向」にはもっと関心を持っていただきたい…と思います。
くれぐれもご用心ください。
18日午後6時の積雪は、新潟県津南町で2m4cm、長野県野沢温泉村で1m80cm、福井県の大野市九頭竜で1m58cmなどと、各地で平年を大きく上回る大雪となっています。
積雪が一時、23cmに達した名古屋市でも雪が残り、18日午後6時の積雪は9cmとなっています。
また、17日から18日にかけて、北海道東部やオホーツク海沿岸では低気圧の影響で潮位が通常より1m前後も高くなり、各地で高潮による浸水の被害が出ました。
気象庁の観測によると、北海道のオホーツク海沿岸では18日、潮位が通常より80cmから1m余り高くなりました。このうち、北部の枝幸町では午前1時43分頃に潮位が通常より1m7cm高い1m13cmに達したほか、紋別港では午前9時25分頃に98cm、網走港では午前11時34分頃に86cmとなりました。北海道東部の根室港では17日午前8時49分頃に潮位が通常より1m69cm高い2m3cmに達しました。
くわえて、海が“大しけ”になったことで沿岸部を高さ5mを超すほどの高波が襲ったことが重なり、これにより、さらに潮位が上昇し、各地で高潮による浸水の被害が相次ぎました。
厳しい寒さも続き、19日朝の最低気温は、北海道旭川市で氷点下11℃、長野市で氷点下5℃、名古屋市で氷点下3℃、山形市と広島市、高知市で氷点下2℃、仙台市と東京の都心、大阪市で0℃など、平年を大きく下回りました。
この災害をもたらしたのが16日から17日にかけて日本列島の南の太平洋上を、日本列島に沿って発達しながら西から東に通り過ぎ、北海道の東の海上でしばらく停滞した低気圧です。
上記の天気図をご覧いただくとお分かりいただけると思いますが、16日の午前9時の段階で四国の足摺岬の沖にあった低気圧が、日本列島の南の海岸に沿って、徐々に北上していきました。16日の午前9時に足摺岬の沖にあった段階での中心気圧は1008ヘクトパスカル(hPa)。それが24時間後の17日午前9時に北海道の知床半島の沖のオホーツク海に達した時には958hPaまで一気に50hPaも発達しています。それに伴って、強い冬型の気圧配置になっています。
958hPaと言うと、猛烈な大型台風並みの勢力です。しかも、台風のように遥か南の海上ではなく、日本列島近海でここまで急激に発達したのです。大雪や高潮による甚大な被害が出ているのも、さもありなんという感じです。
この低気圧、気象庁は「急速に発達する低気圧」という表現を使っていますが、“台風”のような特別な名称では呼んではいません。ただの「低気圧」です。
そもそも「台風」の定義は、日本の南海上で発生した熱帯性低気圧が暖かい海の上で発達し、中心付近の最大風速が17m/秒を超えたもののことです。
これに対して、今回のような低気圧は、中緯度や高緯度において(すなわち日本列島周辺において)偏西風によって運ばれてくる大陸からの寒気と、偏西風の南側にある赤道方面から流れてくる暖気のぶつかりによって発生した低気圧のことで、台風とは成立の仕方が異なります。厄介なことにこの低気圧は前線を伴うことによって広範囲の激しい雨または雪などの「暴風雨」、「暴風雪」を引き起こします。また、これらは短期間で非常に発達し、大型台風並みの勢力を持つことがあります。今回の低気圧もそれでした。
こういう日本列島周辺で「急速に発達する低気圧」は近年しばしば発生するようになってきていて、最近では新聞やテレビといったメディアでは「爆弾低気圧」という表現が使われるようになってきています。これは気象の世界で古くから使われてきた「Bomb cyclone」という言葉をそのまんま訳したものです。この「爆弾低気圧」、い ちおう、1日(24時間)で24hPa以上発達する低気圧のこと…と定義はされているようです。
ただし、気象庁ではこの言葉を使われていないため「急速に発達した低気圧」などという表現になっています。そのために注意喚起が遅れているのではないか…と私は危惧しています。
実際に、「爆弾低気圧」は、台風のようにその進行方向や発達の状況が逐一、天気予報で報道されるのと違って、突然天気図上に現れて、ものの数時間で「爆発的」に発達することから、非常に警戒すべき事象なのです。特に日本海側では過去にも数々の深刻な被害を発生させていますし、その勢力も最大瞬間風速は40m/秒を超える、まさに台風を超えるくらいの威力です。
過去においては2005年12月に山形県で羽越本線が爆弾低気圧の強風(40m/秒を超えていたと言われています)により脱線。5人が死亡、32名が重軽傷を負うという事故がありました。一般的に風速が15m/秒を超えると歩行は困難になり、20m/秒を超えると風によって飛んだ看板などによる事故が発生し始めます。40m/秒を超える強風が吹くと、走行中の列車も脱線するほどだということです。
夏から秋にかけての台風シーズンにおいては、運動会シーズンやレジャーシーズン、農業の場合は収穫シーズンと重なることもあり、一般の人も天気予報や天気図に大いに関心を持って「台風」の動向に注意していただいているのですが、この「爆弾低気圧(気象庁の表現で言うと「急速に発達した低気圧」)」には「たいしたことはないだろう…」と、軽く見がちな傾向にあるように思います。
ですが、油断は禁物。強烈な降雨や強風が吹き荒れるなど、猛烈な勢力で襲い掛かってくるため、準備をしていないことによって思わぬ被害を生むことになります。
2012年、2013年においてもこれらの低気圧の急速な発達事例(爆弾低気圧)は継続して発生していて、年々増加傾向にあるように感じています。これはやはり近年日本列島に接近してくる台風の勢力が強まっているのと同様に、日本近海の海水面の温度上昇が主な原因のように思われます。温暖化によって海の表面の温度が高まり、上空の寒気との間の温度差が広ることで海水面から蒸発する水蒸気が増え、積乱雲が発達しやすくなるためです。
今後も日本の南側の海水面の高温傾向は続くと思われますので、冬から春にかけての「低気圧の動向」にはもっと関心を持っていただきたい…と思います。
くれぐれもご用心ください。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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