2015/01/14
カルマン渦
1月9日の衛星画像には、チェジュ島と屋久島の風下にきれいに並んだ渦列が見られた。動画で見ると島影に新たに渦が発生し、次々と南下している。この渦列はカルマン渦と呼ばれるもので、
流れのなかに障害物を置いたとき、または流体中で固体を動かしたときにその後方に交互にできる渦の列のことをいう。チェジュ島や屋久島が空気の流れにとっては障害物となり、この下流側に交互に渦が形成され流されていくため、きれいに雲の渦が並んで見える。
このカルマン渦列は、次のような条件下で発生すると言われている。
●強い気温の逆転下にある層雲または層積雲によって覆われた広い海域が存在すること。
●方向の一定した比較的強い下層風が持続すること。
●気温の逆転層の上へ数百メートル突き出ている山岳を持つ島が存在すること。
地理的な条件を見ると、チェジュ島には中央に韓国最高峰の漢拏山(標高1950m)がそびえており、屋久島には九州最高峰の宮之浦岳 (1,936m) がそびえている。そしてそれぞれの島の南には東シナ海や太平洋が広がっている。
次に気象要因を見ると、この海域は冬期には、北西風~北風の季節風が卓越することが多く、比較的強い風が長時間続き、かつ風下側に広い海が位置する形となる。渦が可視化できるのは雲が発生することも条件に入るが、大陸からの寒気は東シナ海や太平洋の海面からの水蒸気の補給を受け、対流雲が発生するので好都合である。この対流雲の高さは寒気があまり強くないと上空からの乾燥した気塊によって、成長が抑えられ、雲頂は約1500m程度となり、条件が整うことになる。ただし、雲頂高度が山頂高度より高くなるような強い寒気が氾濫している時には発生しない。
一般的には、大陸の優勢な高気圧が日本付近に張り出している間は、黄海、東シナ海には北西から南東の走向をもつ積雲列が発生し、カルマン渦は発生しない。しかし、上空寒気が弱まり、高気圧の一部が移動性となって上海付近からゆっくり東進するようになると、積雲列は徐々に層積雲化し、チェジュ島の風下や屋久島の風下にカルマン渦が発生するもので、この日の地上天気図はまさに典型的な事例と言える。
チュジュ島の高層観測資料を見ると、下層は北北西の風が10~15m/s程度と強めの風が吹いており、温度と露点温度の鉛直分布から、気温の逆転(上層の方が気温が高い)が起こり、露点温度が急激に下がっている約1400mで対流雲の頂が抑えられていると見られる。
日本付近では、この2つの島陰に発生するカルマン渦は良く見かけるが、この他に利尻島の風下にもできることがあるが、北東風が持続することが条件のため、まれにしか発生しない。その発生例を示す。
秋田沖に低気圧があって、北海道の西海上は、この低気圧の周りを回る、北東からの風が吹いている。この北東風は宗谷海峡を経て利尻島にぶつかり、この風下側に南西方向に延びる渦列を作っている。低気圧が近すぎると雲が発達しすぎても渦は形成されず、また、低気圧の動きが速すぎれば、変化が激しく雲渦を持続的に発生することができない。宗谷海峡から礼文島に持続的に北東の風が吹くため、低気圧が離れた位置にあって、かつ動きがほとんどなく停滞していたために発生したまれに見られる現象であった。
カルマン渦は冬季に現れやすい現象であるが、別の季節でも見られることがある。次の衛星画像は平成24年台風21号が奄美大島の東海上を北上している時に現れたカルマン渦である。チェジュ島から少し離れた南海上に北から南に並ぶカルマン渦が見られる。渦はチェジュ島の直ぐ南に発生して、南に流されているのであるが、チェジュ島付近では雲がないため見えず、少し下流まで流されたところで雲が発生しているため、渦の存在を知ることができたのである。
台風の周辺は対流活動が活発で厚い雲域の部分では雲頂高度は10km以上になっているが、台風から離れた所では、北からの寒気の流入や台風の中心部分で上昇した気塊が下降するため、雲が発生してもこれらの強い下降気流によって、雲の成長が抑えられて、カルマン渦ができやすい条件となったものである。台風という背の高い雲で作られた大きな雲渦の隣に小さな背の低いカルマン渦列が見られ、二つの現象を対比してみることができた珍しい例である。
流れのなかに障害物を置いたとき、または流体中で固体を動かしたときにその後方に交互にできる渦の列のことをいう。チェジュ島や屋久島が空気の流れにとっては障害物となり、この下流側に交互に渦が形成され流されていくため、きれいに雲の渦が並んで見える。
このカルマン渦列は、次のような条件下で発生すると言われている。
●強い気温の逆転下にある層雲または層積雲によって覆われた広い海域が存在すること。
●方向の一定した比較的強い下層風が持続すること。
●気温の逆転層の上へ数百メートル突き出ている山岳を持つ島が存在すること。
地理的な条件を見ると、チェジュ島には中央に韓国最高峰の漢拏山(標高1950m)がそびえており、屋久島には九州最高峰の宮之浦岳 (1,936m) がそびえている。そしてそれぞれの島の南には東シナ海や太平洋が広がっている。
次に気象要因を見ると、この海域は冬期には、北西風~北風の季節風が卓越することが多く、比較的強い風が長時間続き、かつ風下側に広い海が位置する形となる。渦が可視化できるのは雲が発生することも条件に入るが、大陸からの寒気は東シナ海や太平洋の海面からの水蒸気の補給を受け、対流雲が発生するので好都合である。この対流雲の高さは寒気があまり強くないと上空からの乾燥した気塊によって、成長が抑えられ、雲頂は約1500m程度となり、条件が整うことになる。ただし、雲頂高度が山頂高度より高くなるような強い寒気が氾濫している時には発生しない。
一般的には、大陸の優勢な高気圧が日本付近に張り出している間は、黄海、東シナ海には北西から南東の走向をもつ積雲列が発生し、カルマン渦は発生しない。しかし、上空寒気が弱まり、高気圧の一部が移動性となって上海付近からゆっくり東進するようになると、積雲列は徐々に層積雲化し、チェジュ島の風下や屋久島の風下にカルマン渦が発生するもので、この日の地上天気図はまさに典型的な事例と言える。
チュジュ島の高層観測資料を見ると、下層は北北西の風が10~15m/s程度と強めの風が吹いており、温度と露点温度の鉛直分布から、気温の逆転(上層の方が気温が高い)が起こり、露点温度が急激に下がっている約1400mで対流雲の頂が抑えられていると見られる。
日本付近では、この2つの島陰に発生するカルマン渦は良く見かけるが、この他に利尻島の風下にもできることがあるが、北東風が持続することが条件のため、まれにしか発生しない。その発生例を示す。
秋田沖に低気圧があって、北海道の西海上は、この低気圧の周りを回る、北東からの風が吹いている。この北東風は宗谷海峡を経て利尻島にぶつかり、この風下側に南西方向に延びる渦列を作っている。低気圧が近すぎると雲が発達しすぎても渦は形成されず、また、低気圧の動きが速すぎれば、変化が激しく雲渦を持続的に発生することができない。宗谷海峡から礼文島に持続的に北東の風が吹くため、低気圧が離れた位置にあって、かつ動きがほとんどなく停滞していたために発生したまれに見られる現象であった。
カルマン渦は冬季に現れやすい現象であるが、別の季節でも見られることがある。次の衛星画像は平成24年台風21号が奄美大島の東海上を北上している時に現れたカルマン渦である。チェジュ島から少し離れた南海上に北から南に並ぶカルマン渦が見られる。渦はチェジュ島の直ぐ南に発生して、南に流されているのであるが、チェジュ島付近では雲がないため見えず、少し下流まで流されたところで雲が発生しているため、渦の存在を知ることができたのである。
台風の周辺は対流活動が活発で厚い雲域の部分では雲頂高度は10km以上になっているが、台風から離れた所では、北からの寒気の流入や台風の中心部分で上昇した気塊が下降するため、雲が発生してもこれらの強い下降気流によって、雲の成長が抑えられて、カルマン渦ができやすい条件となったものである。台風という背の高い雲で作られた大きな雲渦の隣に小さな背の低いカルマン渦列が見られ、二つの現象を対比してみることができた珍しい例である。
執筆者
気象庁OB
市澤成介