2015/01/23
気象予報士試験
1月25日(日)、北海道、宮城県、東京都、大阪府、福岡県、沖縄県の6会場において気象予報士試験が行われ、気象予報士を目指す3000人余りの方が挑戦する。弊社の通信講座の受講生やスクーリングに参加された方々も精一杯頑張ってくれると期待している。1年に2回の機会があるが、毎回の合格者は5%程度とかなりの難関である。ただ、資格試験なので、知識と能力を備えたと判断される得点が得られれば合格するので、数回の挑戦で合格している方が多い。一回であきらめず、こつこつと学習すれば合格も見えてくるでしょう。
気象予報士は、民間で気象業務に係る者のうち、気象予測を行う業務に就くものが必要とする資格で、気象の予測を科学的根拠に基づき行うための知識と技能を持つものを指す。テレビの天気予報番組で気象庁発表の天気予報を解説する方は、自ら予報を組み立てているわけではないので、特に気象予報士の資格がなくても構わないが、資格を有する者の解説であれば信頼度も高まるであろうとの期待もあって有資格者が多い。
気象予報士試験について若干説明する。気象業務支援センターの案内には、気象予報士試験は、その合格者が現象の予想を適確に行うに足る能力を持ち、気象予報士の資格を有することを認定するために行うものとしており、具体的には、気象予報士として、
1.今後の技術革新に対処しうるように必要な気象学の基礎的知識を持ち
2.各種データを適切に処理し、科学的な予測を行う知識および能力を持ち
3.予測情報を提供するに不可欠な防災上の配慮を適確に行うための知識および能力を持つものを認定するとしており、受験資格は特に制限を設けていない。
今回の試験を申請した方の年齢を見ると最年少は10才、最高齢は86才で、平均年齢は41.2才であり、それぞれに様々な目的を持って受験されているようである。
気象予報士試験は一般知識と専門知識を問う学科試験と、気象予測を行う技能を問う実技試験とで構成されている。学科試験は一般知識、専門知識とも15問の5者択一方式で行われ、実技試験は文章や図表で解答する記述式で行われている。それぞれ一定の得点を得れば、それぞれに合否が判定される。また、学科試験の一般知識・専門知識のいずれか,または両方に合格された方については,申請により合格発表日から一年以内に行われる当該学科試験が免除される。もし、一般知識だけ合格した場合は、1年間有効となるので、次の試験は専門知識と実技試験だけ受ければよいことになる。
試験は、一般知識と専門知識の両方に続き、午後に実技試験の2課題が行われる。一発で学科二科目をクリアし、実技試験を突破される方は、大学で気象学を専攻している方や、気象会社等で実際に天気図などを扱っている方などごくわずかで、多くの合格者は4回以上の挑戦の結果、勝ち得ているのが実態である。
昨年8月に行われた前回の試験でどのような問題が出題されたか、その一端を紹介する。
学科試験の一般知識問題。
一般知識では、①大気の構造、②大気の熱力学、③降水過程、④大気における放射、⑤大気の力学、⑥気象現象、⑦気候の変動、⑧気象業務法その他の気象業務に関する法規の各分野から15題が出題される。一例として、気候の変動にかかわる大気と海洋の関係に関する問題を挙げる。
この問題の形式は、間違った文章があるかもしれませんといった形での出題となっており、受験者にとっては「必ず入っている間違い」を探すのとは違う難しさを含む形である。それだけに確実な理解を求められていると言える。この問題の答は、「⑤すべて正しい」が正解である。
この課題は海洋の特性を深く理解していることで解答できるが、問題によっては、計算しないと答えが出ない問題もある。いずれにせよ。一般知識問題では気象に関わる広範囲の知識を必要とする。
次に、学科試験の専門知識問題。
専門知識では、①観測の成果の利用、②数値予報、③短期予報・中期予報、④長期予報、⑤局地予報、⑥短時間予報、⑦気象防災・気象災害、⑧予想の精度の評価、⑨気象の予想の応用の各分野から15題が出題される。
専門試験では、観測技術や予測技術の進歩と、社会のニーズに合わせた予測資料の改善に合わせて出題されるため、最新の気象予測技術の理解を必要とする。最新の話題では、特別警報の発表が始まって1年が経過したところである。このような新しい取り組みの理解を浸透させるためにも、これに関連した問題が出題される可能性が出てくる。
前回試験の一例として、気象防災・気象災害に関する問題を示す。竜巻注意情報と竜巻発生確度ナウキャストに関する問題である。竜巻注意情報は平成20年に開始し、その後2回程内容の改善が行われている。一方の竜巻発生確度ナウキャストは平成22年に開始した。
実技試験では2課題について実施される。1課題ごとに特定の事例を取り上げて、その時の観測資料、実況と予想天気図等を使って、問題の指示に従って、図表等から必要要素の読み取り、解析、分析等を行って、解答するものである。天気図等により、指示された要素の解析を行う問題と、予想資料等の分析を指定された文字数で簡潔な文章を作成する問題は、かなり苦戦している方が多いようだ。ここでは解析に関する課題の部分の紹介をする。
この問題は、竜巻発生確度ナウキャストの処理技術の詳細を問うのではなく、情報を使う上で、知っておく必要のある約束事を理解しているかを問われている。一方で、数値予報や観測技術については処理の基本や資料の活用に関する理解を問うことが多い。なお、この問題の答えは「⑤正 正 正」が正解である。
最後に実技試験。
上の図中には1004㍱と1002㍱の等圧線が解析されていない。この部分を解析して、低気圧中心を検出し、その中心に×印を付す課題である。解析された等圧線によって、「この天気図に記入されている気圧値が正確に読みとれるか。」、「低気圧中心部分ではどのような風の分布をするか理解しているか。」、「レーダーエコー図の特徴的なパターンと低気圧の中心に関する理解があるか。」等を評価します。勿論、等値線についての理解も評価されます。
②は解析した低気圧中心とのレーダーエコー分布の関係を読み取り、30文字程度の文章とする課題で、解答用紙には15字×3行の文字枠が用意されている。30字の所に区切りが示されているので、丁度この付近で収まるような文章を作るのであるが、特徴的なレーダーエコー分布の名称等の理解があると簡潔に表現でき、言いたいことの全てを網羅して、指示された字数に近い文章ができるようになっている。
支援センターの解答例を示すと次のようになっている。
実技試験では、解析問題や記述問題が多くだされるが、この課題のように支援センターの解答例は1つしか示されない。しかし、解答例と寸分違わない解答を作ることの方がまれであり、解答例以外の正解はかなり認められるものである。受験された方から、これで良いかといった問い合わせを受けることがあるが、結構幅広く正解としていると見られた方が良いでしょう。
前回試験の問題の一部を紹介したが、これから気象予報士試験に挑戦しようとする方は、基礎を確実に理解することから初めてもらいたい。学習を始めると、難解な数式が次々と出てくるが、数式の持つ意味を理解することが目標で、その数式を自在に展開することまで求められていません。気象現象の理解のため、数式で覚えることが苦手であれば、数式の意味を言葉として理解するよう努めることです。
実技試験に関しては、観測資料や天気図類の見方に精通する必要があります。まず、それぞれの資料が何を表現しているかを理解すること。次に、その資料が表現している様々な形状がどのような現象を示しているかを理解し、さらに、気象現象の構造の理解に結び付けることができるようにすることです。
弊社では学習の手助けができればと、通信講座を設けています。また、試験前にはスクーリングも行って、直接指導の機会も設けています。
気象予報士は、民間で気象業務に係る者のうち、気象予測を行う業務に就くものが必要とする資格で、気象の予測を科学的根拠に基づき行うための知識と技能を持つものを指す。テレビの天気予報番組で気象庁発表の天気予報を解説する方は、自ら予報を組み立てているわけではないので、特に気象予報士の資格がなくても構わないが、資格を有する者の解説であれば信頼度も高まるであろうとの期待もあって有資格者が多い。
気象予報士試験について若干説明する。気象業務支援センターの案内には、気象予報士試験は、その合格者が現象の予想を適確に行うに足る能力を持ち、気象予報士の資格を有することを認定するために行うものとしており、具体的には、気象予報士として、
1.今後の技術革新に対処しうるように必要な気象学の基礎的知識を持ち
2.各種データを適切に処理し、科学的な予測を行う知識および能力を持ち
3.予測情報を提供するに不可欠な防災上の配慮を適確に行うための知識および能力を持つものを認定するとしており、受験資格は特に制限を設けていない。
今回の試験を申請した方の年齢を見ると最年少は10才、最高齢は86才で、平均年齢は41.2才であり、それぞれに様々な目的を持って受験されているようである。
気象予報士試験は一般知識と専門知識を問う学科試験と、気象予測を行う技能を問う実技試験とで構成されている。学科試験は一般知識、専門知識とも15問の5者択一方式で行われ、実技試験は文章や図表で解答する記述式で行われている。それぞれ一定の得点を得れば、それぞれに合否が判定される。また、学科試験の一般知識・専門知識のいずれか,または両方に合格された方については,申請により合格発表日から一年以内に行われる当該学科試験が免除される。もし、一般知識だけ合格した場合は、1年間有効となるので、次の試験は専門知識と実技試験だけ受ければよいことになる。
試験は、一般知識と専門知識の両方に続き、午後に実技試験の2課題が行われる。一発で学科二科目をクリアし、実技試験を突破される方は、大学で気象学を専攻している方や、気象会社等で実際に天気図などを扱っている方などごくわずかで、多くの合格者は4回以上の挑戦の結果、勝ち得ているのが実態である。
昨年8月に行われた前回の試験でどのような問題が出題されたか、その一端を紹介する。
学科試験の一般知識問題。
一般知識では、①大気の構造、②大気の熱力学、③降水過程、④大気における放射、⑤大気の力学、⑥気象現象、⑦気候の変動、⑧気象業務法その他の気象業務に関する法規の各分野から15題が出題される。一例として、気候の変動にかかわる大気と海洋の関係に関する問題を挙げる。
この問題の形式は、間違った文章があるかもしれませんといった形での出題となっており、受験者にとっては「必ず入っている間違い」を探すのとは違う難しさを含む形である。それだけに確実な理解を求められていると言える。この問題の答は、「⑤すべて正しい」が正解である。
この課題は海洋の特性を深く理解していることで解答できるが、問題によっては、計算しないと答えが出ない問題もある。いずれにせよ。一般知識問題では気象に関わる広範囲の知識を必要とする。
次に、学科試験の専門知識問題。
専門知識では、①観測の成果の利用、②数値予報、③短期予報・中期予報、④長期予報、⑤局地予報、⑥短時間予報、⑦気象防災・気象災害、⑧予想の精度の評価、⑨気象の予想の応用の各分野から15題が出題される。
専門試験では、観測技術や予測技術の進歩と、社会のニーズに合わせた予測資料の改善に合わせて出題されるため、最新の気象予測技術の理解を必要とする。最新の話題では、特別警報の発表が始まって1年が経過したところである。このような新しい取り組みの理解を浸透させるためにも、これに関連した問題が出題される可能性が出てくる。
前回試験の一例として、気象防災・気象災害に関する問題を示す。竜巻注意情報と竜巻発生確度ナウキャストに関する問題である。竜巻注意情報は平成20年に開始し、その後2回程内容の改善が行われている。一方の竜巻発生確度ナウキャストは平成22年に開始した。
実技試験では2課題について実施される。1課題ごとに特定の事例を取り上げて、その時の観測資料、実況と予想天気図等を使って、問題の指示に従って、図表等から必要要素の読み取り、解析、分析等を行って、解答するものである。天気図等により、指示された要素の解析を行う問題と、予想資料等の分析を指定された文字数で簡潔な文章を作成する問題は、かなり苦戦している方が多いようだ。ここでは解析に関する課題の部分の紹介をする。
この問題は、竜巻発生確度ナウキャストの処理技術の詳細を問うのではなく、情報を使う上で、知っておく必要のある約束事を理解しているかを問われている。一方で、数値予報や観測技術については処理の基本や資料の活用に関する理解を問うことが多い。なお、この問題の答えは「⑤正 正 正」が正解である。
最後に実技試験。
上の図中には1004㍱と1002㍱の等圧線が解析されていない。この部分を解析して、低気圧中心を検出し、その中心に×印を付す課題である。解析された等圧線によって、「この天気図に記入されている気圧値が正確に読みとれるか。」、「低気圧中心部分ではどのような風の分布をするか理解しているか。」、「レーダーエコー図の特徴的なパターンと低気圧の中心に関する理解があるか。」等を評価します。勿論、等値線についての理解も評価されます。
②は解析した低気圧中心とのレーダーエコー分布の関係を読み取り、30文字程度の文章とする課題で、解答用紙には15字×3行の文字枠が用意されている。30字の所に区切りが示されているので、丁度この付近で収まるような文章を作るのであるが、特徴的なレーダーエコー分布の名称等の理解があると簡潔に表現でき、言いたいことの全てを網羅して、指示された字数に近い文章ができるようになっている。
支援センターの解答例を示すと次のようになっている。
実技試験では、解析問題や記述問題が多くだされるが、この課題のように支援センターの解答例は1つしか示されない。しかし、解答例と寸分違わない解答を作ることの方がまれであり、解答例以外の正解はかなり認められるものである。受験された方から、これで良いかといった問い合わせを受けることがあるが、結構幅広く正解としていると見られた方が良いでしょう。
前回試験の問題の一部を紹介したが、これから気象予報士試験に挑戦しようとする方は、基礎を確実に理解することから初めてもらいたい。学習を始めると、難解な数式が次々と出てくるが、数式の持つ意味を理解することが目標で、その数式を自在に展開することまで求められていません。気象現象の理解のため、数式で覚えることが苦手であれば、数式の意味を言葉として理解するよう努めることです。
実技試験に関しては、観測資料や天気図類の見方に精通する必要があります。まず、それぞれの資料が何を表現しているかを理解すること。次に、その資料が表現している様々な形状がどのような現象を示しているかを理解し、さらに、気象現象の構造の理解に結び付けることができるようにすることです。
弊社では学習の手助けができればと、通信講座を設けています。また、試験前にはスクーリングも行って、直接指導の機会も設けています。
執筆者
気象庁OB
市澤成介