2015/02/13
大人の修学旅行2015 in 土佐の一本釣り(その7)
3両編成の下り特急「あしずり3号」に土佐久礼駅から乗車する乗客はなく、降車客だけで、数人の乗客が列車からホームに降りてきました。私は駅舎に続く階段のあるホームの須崎寄りに立って待っていたのですが、一番反対側(窪川側)の1号車から白いセーターにワインレッドのコートを羽織った女性が降りてきました。オネエです。徹夜明けの赤い目を隠すためか、オネエは芸能人がかけるような大きめのサングラスをかけています。
昔からオネエがかなり強い近眼なのは知っているので、「オネエ~!」って大きく両腕を振りながら大きな声で呼び掛けると、私に気づいたオネエも手を振りながら、「エッチャ~ン!」と遠くから高校時代と同じ呼び方で応えくれました。
私は高校時代の友人達からは、今も「エッチャン」と呼ばれています。高校1年の時の古文のD先生が、私の名前“越智正昭”を漢文読みして、「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」と読んだのがその始まり(語源)だと友達の間では言われています。確か、基本となる漢文読みの記号のところの授業で、ご丁寧に私の名前を黒板に書いて、レ点まで付けて…。まぁ、おかげで、漢文読みの記号に関してはよく理解できましたが…(-_-;)
その「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」の前半部分を大胆にバッサリと削ぎ落として「エッチャン」になったということに友人達の間ではなっているのですが、実は「エッチャン」と私のことを最初に愛称で呼んでくれたのはオネエでした。後で聞くと、どうもオネエは同じクラスになって知り合った当初、“越智”という苗字は“エッチ”と読むのだと真面目に思っていたようなのです(笑)。なので「エッチャン」になったというのが実際のところの真相なのです。本人が言うのだから間違いありません。まぁ~、「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」語源説のほうも“エッチ”という読み方から来ているので、その説も正解と言えば正解ではありますが…。ホント、困った苗字です(^^;
(ちなみに“越智”という苗字は愛媛県では越智郡という地名があるぐらいで、わりと一般的な苗字で、町でも時々見掛けるので、まず読み間違えられることはないのですが、同じ四国でも隣の香川県にいくとほとんど見掛けない苗字になるので、途端に難読苗字になっちゃうんです。この“越智”という愛媛県以外では難読苗字ともいえる苗字については、我が家の妻や子供達もいろいろと“笑えるエピソード”“笑えないエピソード”を持っているようです。)
まぁ~、つまり、オネエは「エッチャン」という40年以上も続く私の愛称の“名付け親”みたいなものです(^^)d 最初に呼んだ名付け親ですので、やはり「エッチャン」という愛称は、元祖であるオネエから呼ばれるのが一番しっくりと耳に入ってきます。ちなみに、中学校では“オッチャン”って愛称でしたので、高校入学と共に、五十音表のア行のところで一段上に上がることができました(笑)。それ以来、高校時代の友人達からは、男女を問わず、還暦を迎えようとしているこの年齢になっても「エッチャン」という愛称で呼ばれています。孫がいるオジイチャンになっても、「エッチャン」は「エッチャン」です(^-^)v
(古文のD先生の呼び方が起源になって付けられたクラスメートの愛称は私のほかにも、バンタロー、ユウテン、ポジン等いくつかあって、そのどれもが多くの人が還暦を迎えた今も使われています。このクラスのまとまりの良さは、もしかしたら、入学したての極々早い段階からお互いを愛称で呼び合うクラスの文化を根づかせてくれたD先生のお陰なのかもしれません。その意味で、D先生は滅茶苦茶インパクトのある凄い先生でした。)
「エッチャン」と愛称で呼ばれたら、条件反射のように一気にスイッチが入って、高校時代の感覚に逆戻りしちゃいます。高校時代の感覚とは、「オネエの下僕(しもべ)」ということも含めて。まるで“パブロフの犬”のように(笑)
オネエは毎回、自身が気に入っている日本酒を二次会用の差し入れとして持ってきてくれるのですが(旅館の仲居さんへの心付けのお菓子も)、見ると今回も重そうな紙袋を持っています。徹夜明けで相当に疲れているだろうに…。下僕としてはそんな“お姫様”に重いモノを持たせるわけにいきません。両腕を左右に大きく広げながらオネエのほうに駆け寄ると、オネエのほうも持っていた荷物をホームに置いて「エッチャ~ン!」と言いながら駆け寄ってきてくれて、軽くハグ(*^^*) 徹夜明けで相当疲れていたのに加え、一人ぼっちでの寂しい長旅の末にやっとの思いで辿り着いた初めての土地(それも随分と寂れた田舎町)で馴染みの顔が出迎えたので、ホッとしたのでしょう。サングラスをはずしたオネエの両目は真っ赤でした。ホッとし過ぎて泣いているの? ま・さ・か…(^^; 目の下にはしっかりクマもできているし、こりゃあ本当に徹夜明けだわ(^-^)
無事に“不時着機をキャッチ(回収)”することができました。ひとまず“オネエの下僕”として、任務完了!(^o^ゞ ってところです。思い立って中村駅からトンボ返りで戻ってきて、本当によかったです(^-^)v
真っ昼間の田舎の駅のホーム上で1年振りの再会をハイテンションで喜び合うオッサンとオバサン2人の横を、特急「あしずり3号」は窪川の方向に向けて静かに発車していきました。それにしても、このシチュエーション、かなりマズくないかい?(^_^;) 状況や背景を知らない人が見たら、間違いなく誤解しちゃいそうです。漫画『土佐の一本釣り』の中で、純平と八千代の間で土佐久礼駅でのこんなシーン、なかったっけ?
駅舎に続く短い階段を降りながらオネエが、
「エッチャン、ごめんね。わざわざ予定を切り上げて迎えに来てくれて、ありがとう」
「いやいや、オネエをこんな何もないようなところで、1人で2時間も待たせるわけにはいかないから」
「それにしても、エッチャン、“鉄ちゃん”だったんだ。高校時代からそうだったんだっけ?」
「そうだよ、小さい頃からのバリバリの“鉄ちゃん”。ケーイチもモトム(どちらもクラスメート)もそうだよ。彼等のほうが俺よりもっと“鉄分(鉄道マニア度)”は濃かったけどな。まぁ~、男の子は生まれながらにして“乗り物好き”の資質がDNAの中に組み込まれているから、意外と“鉄ちゃん”は多いよ」
「ふぅ~ん」
そんな話をしながら“無人の改札口”を出て駅前に出ました。
「なっ!、なぁ~んにもないだろ。あそこに見える喫茶店、今日は残念ながら臨時休業みたい。オネエが調べてくれた『ノームの家』って喫茶店は駅の反対側にあるのかもしれない。とにかく駅の反対側に行ってみよう」
「問い合わせた時に国道のほうにある…って聞いたけど。国道ってどっち?」
「なら正解だ。ホームから駅の反対側に国道らしき道路が見えたから」
土讃線の線路の下を潜るように国道に向かう道路があって、その線路の下を抜けるとすぐに目当ての喫茶店『ノームの家』は見つかりました。土佐久礼の町は駅から海の方角に集落が固まっていて、駅の反対側、すなわち海と反対側には国道と思しきちょっと広い道路が走っているくらいで、国道のその先は山の斜面になっています。駅とその国道との間にはパチンコ屋が1軒あるくらいで、民家らしき建物は数えるくらいしかありません。その喫茶店も2階建ての民家の1階部分が喫茶店になっていたので、駅のホームからはその存在が分かりませんでした。
「なんじゃ、駅からチッカイじゃん」
『ノームの家』は典型的な田舎の喫茶店で、このあたりの住民の溜まり場のようなところでした。壁の一面に「山口六平太」や「ゴルゴ13」といった漫画の単行本が1巻からズラァ~っと綺麗に並び、BGMはラジオのNHKのラジオ第一放送。よくよく見ると、並んでいるのは「ビッグコミック」や「ビッグコミック・オリジナル」といった小学館発行の男性向け漫画雑誌に連載された漫画の単行本ばかりです。私は10年ほど前までは「ビッグコミック」と「ビッグコミック・オリジナル」を愛読していたので、並んでいる漫画の題名はあらかた分かります。ここ土佐久礼を舞台にした青柳裕介さんの『土佐の一本釣り』も小学舘の「ビッグコミック」に連載された漫画でしたので、その繋がりなのかもしれません。ただ、その『土佐の一本釣り』の単行本だけは見掛けませんでしたけどね。きっと地元の人なら一家にひととおり全巻、お持ちなのかもしれません。オネエと一緒でなかったら、おそらくこの大量の漫画を読み耽っていたと思います。と言うか、その前に、そもそもオネエの“不時着”を迎えるために中村から急遽折り返して来なかったら、この喫茶店には来ていなかったわけで、どっちにしても読めなかったわけだから、まぁ~いいっか(^.^)
それにしても、NHKのラジオ第一放送、こうした田舎の風景や雰囲気の中で聴くと、格別の趣(おもむき)があります。テンポというか、流れるスピードというか、少し籠ったような柔らかい感じの音質というか、同じく少し低音の利いた音質というか…、とにかく渋くて田舎の雰囲気にピッタリとフィットしている感じです。当社の社員も何人かNHKラジオのローカル放送に気象予報士として出演させていただかせているのですが、NHKのラジオ第一放送は地方の生活においては欠くべからざるものであるということを、改めて実感しました。地元の人達の生活をお守りするために頑張れ!…と、彼等に伝えようと思いました。
私達が扉を開けて店内に入っていった時、客の姿は1人もいませんでした。私達より少し年配と思われる男性の店主が1人で店を切り盛りしているようなのですが、そのあたりでは見掛けない男女2人の入店に一瞬驚いたような顔をしましたが、愛想よく迎えてくれました。
オネエとは他愛もない話をしていたのですが、どういう切っ掛けからか、来年の『大人の修学旅行』の開催場所をどこにしよう…という話題になって、ここはどう? あそこはどう?…という話で大いに盛り上がりました。驚いたことに、オネエはこれまでに日本中いろいろなところに行ったことがあるようです。凄い! そして、なんで? 謎です(^^;
今年の『大人の修学旅行』はまだ始まったばかりで、これからクライマックスとも言える参加者全員が揃っての宴会が始まると言うのに、もう来年の開催地のことを話題にするなんて、気が早いというのにも、ほどがあります(笑)
気がついてふと時計を見ると、時刻は16時になろうとしていました。私とオネエを除く本隊の連中12名は16時35分に土佐久礼駅に到着する特急「あしずり5号」でやって来るので、間もなくです。私はオネエの時と同じように、駅のホームで皆の到着を出迎えようかと思っていたのですが、オネエが一言。
「先にホテルに行って、そこで皆を待ち受けようよ」
「はいはい。御意!」
下僕としてはお姫様のお言葉には従わないといけません(笑)
宿泊する『黒潮本陣』というホテルは、駅から歩いていくにはちょっと距離があり、おまけに坂道を登らないといけないということなので、ホテルに電話を入れてマイクロバスで迎えに来て貰うことにしました。『黒潮本陣』のマイクロバスは乗客を最大12人までしか乗せられないそうなので、14人だとどうしても2往復しなければいけません。先に我々2人がホテルに先乗りしておくことで、本隊の12名は寒空の中、駅前で待つこともなく、一団で来ることができますので、かえって都合がよかろうという判断もありました(後付けですが…)。
喫茶店『ノームの家』を出て土佐久礼駅の駅前まで戻ってくるとほどなく、車体の横に『黒潮本陣』と書かれたマイクロバスがやって来ました。「駅まで迎えに来て欲しい」という電話を入れてからの時間を考えると、さほど距離は離れていそうもありません。
……(その8)に続きます。
昔からオネエがかなり強い近眼なのは知っているので、「オネエ~!」って大きく両腕を振りながら大きな声で呼び掛けると、私に気づいたオネエも手を振りながら、「エッチャ~ン!」と遠くから高校時代と同じ呼び方で応えくれました。
私は高校時代の友人達からは、今も「エッチャン」と呼ばれています。高校1年の時の古文のD先生が、私の名前“越智正昭”を漢文読みして、「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」と読んだのがその始まり(語源)だと友達の間では言われています。確か、基本となる漢文読みの記号のところの授業で、ご丁寧に私の名前を黒板に書いて、レ点まで付けて…。まぁ、おかげで、漢文読みの記号に関してはよく理解できましたが…(-_-;)
その「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」の前半部分を大胆にバッサリと削ぎ落として「エッチャン」になったということに友人達の間ではなっているのですが、実は「エッチャン」と私のことを最初に愛称で呼んでくれたのはオネエでした。後で聞くと、どうもオネエは同じクラスになって知り合った当初、“越智”という苗字は“エッチ”と読むのだと真面目に思っていたようなのです(笑)。なので「エッチャン」になったというのが実際のところの真相なのです。本人が言うのだから間違いありません。まぁ~、「あきら(昭)かに、まさ(正)しくエッチ(越智)君」語源説のほうも“エッチ”という読み方から来ているので、その説も正解と言えば正解ではありますが…。ホント、困った苗字です(^^;
(ちなみに“越智”という苗字は愛媛県では越智郡という地名があるぐらいで、わりと一般的な苗字で、町でも時々見掛けるので、まず読み間違えられることはないのですが、同じ四国でも隣の香川県にいくとほとんど見掛けない苗字になるので、途端に難読苗字になっちゃうんです。この“越智”という愛媛県以外では難読苗字ともいえる苗字については、我が家の妻や子供達もいろいろと“笑えるエピソード”“笑えないエピソード”を持っているようです。)
まぁ~、つまり、オネエは「エッチャン」という40年以上も続く私の愛称の“名付け親”みたいなものです(^^)d 最初に呼んだ名付け親ですので、やはり「エッチャン」という愛称は、元祖であるオネエから呼ばれるのが一番しっくりと耳に入ってきます。ちなみに、中学校では“オッチャン”って愛称でしたので、高校入学と共に、五十音表のア行のところで一段上に上がることができました(笑)。それ以来、高校時代の友人達からは、男女を問わず、還暦を迎えようとしているこの年齢になっても「エッチャン」という愛称で呼ばれています。孫がいるオジイチャンになっても、「エッチャン」は「エッチャン」です(^-^)v
(古文のD先生の呼び方が起源になって付けられたクラスメートの愛称は私のほかにも、バンタロー、ユウテン、ポジン等いくつかあって、そのどれもが多くの人が還暦を迎えた今も使われています。このクラスのまとまりの良さは、もしかしたら、入学したての極々早い段階からお互いを愛称で呼び合うクラスの文化を根づかせてくれたD先生のお陰なのかもしれません。その意味で、D先生は滅茶苦茶インパクトのある凄い先生でした。)
「エッチャン」と愛称で呼ばれたら、条件反射のように一気にスイッチが入って、高校時代の感覚に逆戻りしちゃいます。高校時代の感覚とは、「オネエの下僕(しもべ)」ということも含めて。まるで“パブロフの犬”のように(笑)
オネエは毎回、自身が気に入っている日本酒を二次会用の差し入れとして持ってきてくれるのですが(旅館の仲居さんへの心付けのお菓子も)、見ると今回も重そうな紙袋を持っています。徹夜明けで相当に疲れているだろうに…。下僕としてはそんな“お姫様”に重いモノを持たせるわけにいきません。両腕を左右に大きく広げながらオネエのほうに駆け寄ると、オネエのほうも持っていた荷物をホームに置いて「エッチャ~ン!」と言いながら駆け寄ってきてくれて、軽くハグ(*^^*) 徹夜明けで相当疲れていたのに加え、一人ぼっちでの寂しい長旅の末にやっとの思いで辿り着いた初めての土地(それも随分と寂れた田舎町)で馴染みの顔が出迎えたので、ホッとしたのでしょう。サングラスをはずしたオネエの両目は真っ赤でした。ホッとし過ぎて泣いているの? ま・さ・か…(^^; 目の下にはしっかりクマもできているし、こりゃあ本当に徹夜明けだわ(^-^)
無事に“不時着機をキャッチ(回収)”することができました。ひとまず“オネエの下僕”として、任務完了!(^o^ゞ ってところです。思い立って中村駅からトンボ返りで戻ってきて、本当によかったです(^-^)v
真っ昼間の田舎の駅のホーム上で1年振りの再会をハイテンションで喜び合うオッサンとオバサン2人の横を、特急「あしずり3号」は窪川の方向に向けて静かに発車していきました。それにしても、このシチュエーション、かなりマズくないかい?(^_^;) 状況や背景を知らない人が見たら、間違いなく誤解しちゃいそうです。漫画『土佐の一本釣り』の中で、純平と八千代の間で土佐久礼駅でのこんなシーン、なかったっけ?
駅舎に続く短い階段を降りながらオネエが、
「エッチャン、ごめんね。わざわざ予定を切り上げて迎えに来てくれて、ありがとう」
「いやいや、オネエをこんな何もないようなところで、1人で2時間も待たせるわけにはいかないから」
「それにしても、エッチャン、“鉄ちゃん”だったんだ。高校時代からそうだったんだっけ?」
「そうだよ、小さい頃からのバリバリの“鉄ちゃん”。ケーイチもモトム(どちらもクラスメート)もそうだよ。彼等のほうが俺よりもっと“鉄分(鉄道マニア度)”は濃かったけどな。まぁ~、男の子は生まれながらにして“乗り物好き”の資質がDNAの中に組み込まれているから、意外と“鉄ちゃん”は多いよ」
「ふぅ~ん」
そんな話をしながら“無人の改札口”を出て駅前に出ました。
「なっ!、なぁ~んにもないだろ。あそこに見える喫茶店、今日は残念ながら臨時休業みたい。オネエが調べてくれた『ノームの家』って喫茶店は駅の反対側にあるのかもしれない。とにかく駅の反対側に行ってみよう」
「問い合わせた時に国道のほうにある…って聞いたけど。国道ってどっち?」
「なら正解だ。ホームから駅の反対側に国道らしき道路が見えたから」
土讃線の線路の下を潜るように国道に向かう道路があって、その線路の下を抜けるとすぐに目当ての喫茶店『ノームの家』は見つかりました。土佐久礼の町は駅から海の方角に集落が固まっていて、駅の反対側、すなわち海と反対側には国道と思しきちょっと広い道路が走っているくらいで、国道のその先は山の斜面になっています。駅とその国道との間にはパチンコ屋が1軒あるくらいで、民家らしき建物は数えるくらいしかありません。その喫茶店も2階建ての民家の1階部分が喫茶店になっていたので、駅のホームからはその存在が分かりませんでした。
「なんじゃ、駅からチッカイじゃん」
『ノームの家』は典型的な田舎の喫茶店で、このあたりの住民の溜まり場のようなところでした。壁の一面に「山口六平太」や「ゴルゴ13」といった漫画の単行本が1巻からズラァ~っと綺麗に並び、BGMはラジオのNHKのラジオ第一放送。よくよく見ると、並んでいるのは「ビッグコミック」や「ビッグコミック・オリジナル」といった小学館発行の男性向け漫画雑誌に連載された漫画の単行本ばかりです。私は10年ほど前までは「ビッグコミック」と「ビッグコミック・オリジナル」を愛読していたので、並んでいる漫画の題名はあらかた分かります。ここ土佐久礼を舞台にした青柳裕介さんの『土佐の一本釣り』も小学舘の「ビッグコミック」に連載された漫画でしたので、その繋がりなのかもしれません。ただ、その『土佐の一本釣り』の単行本だけは見掛けませんでしたけどね。きっと地元の人なら一家にひととおり全巻、お持ちなのかもしれません。オネエと一緒でなかったら、おそらくこの大量の漫画を読み耽っていたと思います。と言うか、その前に、そもそもオネエの“不時着”を迎えるために中村から急遽折り返して来なかったら、この喫茶店には来ていなかったわけで、どっちにしても読めなかったわけだから、まぁ~いいっか(^.^)
それにしても、NHKのラジオ第一放送、こうした田舎の風景や雰囲気の中で聴くと、格別の趣(おもむき)があります。テンポというか、流れるスピードというか、少し籠ったような柔らかい感じの音質というか、同じく少し低音の利いた音質というか…、とにかく渋くて田舎の雰囲気にピッタリとフィットしている感じです。当社の社員も何人かNHKラジオのローカル放送に気象予報士として出演させていただかせているのですが、NHKのラジオ第一放送は地方の生活においては欠くべからざるものであるということを、改めて実感しました。地元の人達の生活をお守りするために頑張れ!…と、彼等に伝えようと思いました。
私達が扉を開けて店内に入っていった時、客の姿は1人もいませんでした。私達より少し年配と思われる男性の店主が1人で店を切り盛りしているようなのですが、そのあたりでは見掛けない男女2人の入店に一瞬驚いたような顔をしましたが、愛想よく迎えてくれました。
オネエとは他愛もない話をしていたのですが、どういう切っ掛けからか、来年の『大人の修学旅行』の開催場所をどこにしよう…という話題になって、ここはどう? あそこはどう?…という話で大いに盛り上がりました。驚いたことに、オネエはこれまでに日本中いろいろなところに行ったことがあるようです。凄い! そして、なんで? 謎です(^^;
今年の『大人の修学旅行』はまだ始まったばかりで、これからクライマックスとも言える参加者全員が揃っての宴会が始まると言うのに、もう来年の開催地のことを話題にするなんて、気が早いというのにも、ほどがあります(笑)
気がついてふと時計を見ると、時刻は16時になろうとしていました。私とオネエを除く本隊の連中12名は16時35分に土佐久礼駅に到着する特急「あしずり5号」でやって来るので、間もなくです。私はオネエの時と同じように、駅のホームで皆の到着を出迎えようかと思っていたのですが、オネエが一言。
「先にホテルに行って、そこで皆を待ち受けようよ」
「はいはい。御意!」
下僕としてはお姫様のお言葉には従わないといけません(笑)
宿泊する『黒潮本陣』というホテルは、駅から歩いていくにはちょっと距離があり、おまけに坂道を登らないといけないということなので、ホテルに電話を入れてマイクロバスで迎えに来て貰うことにしました。『黒潮本陣』のマイクロバスは乗客を最大12人までしか乗せられないそうなので、14人だとどうしても2往復しなければいけません。先に我々2人がホテルに先乗りしておくことで、本隊の12名は寒空の中、駅前で待つこともなく、一団で来ることができますので、かえって都合がよかろうという判断もありました(後付けですが…)。
喫茶店『ノームの家』を出て土佐久礼駅の駅前まで戻ってくるとほどなく、車体の横に『黒潮本陣』と書かれたマイクロバスがやって来ました。「駅まで迎えに来て欲しい」という電話を入れてからの時間を考えると、さほど距離は離れていそうもありません。
……(その8)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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