2015/02/18
厚木市で発生した激しい突風
2月13日、横浜地方気象台は「神奈川県竜巻注意情報」を発表した。本文冒頭に【目撃情報あり】の文字が見られる。気象台が発表する「竜巻注意情報」は、竜巻等の激しい突風の発生しやすい状況が、竜巻発生確度ナウキャストや数値予報資料等で予想された場合やレーダー観測により竜巻の発生を示唆するエコー等が検出された場合に発表されるが、今回の発表は、激しい突風を目撃したとの通報を受けて、発表したものである。
この運用を始めたのは昨年9月2日からで、気象台職員のほか関東地方に限って消防による目撃情報も活用することにした(関東地方と限定しているのは、試験的な導入で順次全国に広げていく計画と聞いている)。
この運用を開始して間もなくの9月12日に、新潟地方気象台の観測担当の職員が気象台の北10km付近に竜巻が発生しているのを観測したことを受けて、初運用を行った。今回の事例は、気象台の職員の目撃ではなく、厚木市消防からの目撃情報を受けて行った初めての発表であった。
竜巻は発生頻度が極めて小さい現象であるため、目撃することは極めてまれであるが、実際に竜巻が目撃された場合に、その周辺で複数の竜巻等の激しい突風が発生した例があることから、目撃情報を活用して、竜巻注意情報にその旨を付して、注意喚起を呼び掛けることにしたものである。
ところで、「竜巻」と言えば、上空を覆った積乱雲の底から漏斗状に雲が垂れ下がり、地上付近は巻き上げられた砂塵や飛散物が、この渦の周りに飛び散っている画像をイメージするが、今回の厚木市で発生した現象を捉えた写真や動画では、発達した積乱雲が見られず、漏斗状の雲が垂れ下がっている様子を捉えたものはなかった。撮影した方向によっては青空の下に発生したように見えるものもあった。
横浜地方気象台は翌日、現地調査の結果、「この突風をもたらした現象は、局地的な前線に伴う旋風と推定した。」と発表した「旋風」とは渦巻き状に立ち上がる突風を指す言葉で、「つむじ風」とも言われる現象である。気象観測では「塵旋風」と言い、「晴れた日の昼間に地上付近で発生する鉛直軸を持つ強い渦巻で、突風により巻き上げられた砂塵を伴う。竜巻と違い積雲や積乱雲を伴わず、地上付近で熱せられた空気の上昇によって発生する」現象としている。今回の目撃情報などから上空に積乱雲や漏斗状の雲がなかったことから「竜巻」ではなかったと推定したものである。
「竜巻」ではないとされたが、「竜巻」以外にも被害が起こるような激しい突風現象が色々とあることを知らせてくれた事例ともいえる。こうしたことから、気象台が発表する「竜巻注意情報」は標題に「竜巻」を使っているが、対象とする現象は、本文中に示されている「竜巻などの激しい突風」としている。
当時の気象状況を見ることにする。15時の気象衛星画像を見ると、北海道南部に発達した低気圧があり、この西から南に寒気の流入が見られ、日本海には、寒気に伴う積雲や積乱雲列が見られる。関東地方を 見ると中北部は雲がないが、東京都から房総半島中部を通って東南東方向に延びる積雲や積乱雲を含む雲の帯が見える。突風の発生した厚木市はこの雲の帯の南側に位置している。
突風が発生したとされる時間(15時10分)前後の地上の様子をアメダス観測によって風と気温の変化を見る。図中の赤丸付近が厚木市で近傍の観測点は海老名である。衛星画像で見られた雲の帯に対応して、その北側では北から北東の風となっており、所によっては10m/s近い強風が吹いている。一方、南側では南西の風となっていた。両者の風がぶつかっている境界線(収束線)を茶色破線で示した。風が収束したことで上昇気流が発生し、積雲や積乱雲が発生し、雲の帯が形成された。細かくこの収束線の変化を見ると、15時00分に比べ10分、20分と神奈川県を南下していることが判る。次に、気温を見ると、南西風の領域は9℃~10℃に対して、北風の領域は7℃~8℃と低く、海老名では20分間で3℃の気温低下が見られた。
これらから見て激しい突風は、この収束線の近傍で発生したと思われるが、発生時には、上空に積乱雲はなかった。レーダーで降水域を確認してみたが、発生時の15時10分には横浜川崎付近に弱い降水域が見られる程度で、衛星画像で捉えた雲の帯はあまり発達していなかったと思える。
なお、この時の雷ナウキャストと竜巻発生確度ナウキャストを見ると、関東平野では雷の発生はなく、竜巻の発生確度も高い所はなかった。
さて、今回の激しい突風を「旋風(塵旋風)」と推定した。この「塵旋風」は乾燥した晴天時に発生するもので、「積乱雲」などを親雲とする「竜巻」とは異なるものである。確かに、近傍には積乱雲もなく降水もなかったが、「塵旋風」で頭に浮かぶ、「運動会日和の晴天下で、校庭で塵旋風(つむじ風)が発生し、テントが飛ばされた」といった状況とは少し違っていたように思う。衛星画像やアメダス等の観測資料によって、発生前後の状況を細かく見ると、単に地上が熱せられただけでなく、2方向からの風の収束が起こっていると近傍であったことが、強い上昇気流を起こしたと見られる。気象台が「この突風をもたらした現象は、局地的な前線に伴う旋風と推定した。」とした局地的な前線(厚木市付近を通過した収束線)が、より強い塵旋風をもたらしたものであろう。
この運用を始めたのは昨年9月2日からで、気象台職員のほか関東地方に限って消防による目撃情報も活用することにした(関東地方と限定しているのは、試験的な導入で順次全国に広げていく計画と聞いている)。
この運用を開始して間もなくの9月12日に、新潟地方気象台の観測担当の職員が気象台の北10km付近に竜巻が発生しているのを観測したことを受けて、初運用を行った。今回の事例は、気象台の職員の目撃ではなく、厚木市消防からの目撃情報を受けて行った初めての発表であった。
竜巻は発生頻度が極めて小さい現象であるため、目撃することは極めてまれであるが、実際に竜巻が目撃された場合に、その周辺で複数の竜巻等の激しい突風が発生した例があることから、目撃情報を活用して、竜巻注意情報にその旨を付して、注意喚起を呼び掛けることにしたものである。
ところで、「竜巻」と言えば、上空を覆った積乱雲の底から漏斗状に雲が垂れ下がり、地上付近は巻き上げられた砂塵や飛散物が、この渦の周りに飛び散っている画像をイメージするが、今回の厚木市で発生した現象を捉えた写真や動画では、発達した積乱雲が見られず、漏斗状の雲が垂れ下がっている様子を捉えたものはなかった。撮影した方向によっては青空の下に発生したように見えるものもあった。
横浜地方気象台は翌日、現地調査の結果、「この突風をもたらした現象は、局地的な前線に伴う旋風と推定した。」と発表した「旋風」とは渦巻き状に立ち上がる突風を指す言葉で、「つむじ風」とも言われる現象である。気象観測では「塵旋風」と言い、「晴れた日の昼間に地上付近で発生する鉛直軸を持つ強い渦巻で、突風により巻き上げられた砂塵を伴う。竜巻と違い積雲や積乱雲を伴わず、地上付近で熱せられた空気の上昇によって発生する」現象としている。今回の目撃情報などから上空に積乱雲や漏斗状の雲がなかったことから「竜巻」ではなかったと推定したものである。
「竜巻」ではないとされたが、「竜巻」以外にも被害が起こるような激しい突風現象が色々とあることを知らせてくれた事例ともいえる。こうしたことから、気象台が発表する「竜巻注意情報」は標題に「竜巻」を使っているが、対象とする現象は、本文中に示されている「竜巻などの激しい突風」としている。
当時の気象状況を見ることにする。15時の気象衛星画像を見ると、北海道南部に発達した低気圧があり、この西から南に寒気の流入が見られ、日本海には、寒気に伴う積雲や積乱雲列が見られる。関東地方を 見ると中北部は雲がないが、東京都から房総半島中部を通って東南東方向に延びる積雲や積乱雲を含む雲の帯が見える。突風の発生した厚木市はこの雲の帯の南側に位置している。
突風が発生したとされる時間(15時10分)前後の地上の様子をアメダス観測によって風と気温の変化を見る。図中の赤丸付近が厚木市で近傍の観測点は海老名である。衛星画像で見られた雲の帯に対応して、その北側では北から北東の風となっており、所によっては10m/s近い強風が吹いている。一方、南側では南西の風となっていた。両者の風がぶつかっている境界線(収束線)を茶色破線で示した。風が収束したことで上昇気流が発生し、積雲や積乱雲が発生し、雲の帯が形成された。細かくこの収束線の変化を見ると、15時00分に比べ10分、20分と神奈川県を南下していることが判る。次に、気温を見ると、南西風の領域は9℃~10℃に対して、北風の領域は7℃~8℃と低く、海老名では20分間で3℃の気温低下が見られた。
これらから見て激しい突風は、この収束線の近傍で発生したと思われるが、発生時には、上空に積乱雲はなかった。レーダーで降水域を確認してみたが、発生時の15時10分には横浜川崎付近に弱い降水域が見られる程度で、衛星画像で捉えた雲の帯はあまり発達していなかったと思える。
なお、この時の雷ナウキャストと竜巻発生確度ナウキャストを見ると、関東平野では雷の発生はなく、竜巻の発生確度も高い所はなかった。
さて、今回の激しい突風を「旋風(塵旋風)」と推定した。この「塵旋風」は乾燥した晴天時に発生するもので、「積乱雲」などを親雲とする「竜巻」とは異なるものである。確かに、近傍には積乱雲もなく降水もなかったが、「塵旋風」で頭に浮かぶ、「運動会日和の晴天下で、校庭で塵旋風(つむじ風)が発生し、テントが飛ばされた」といった状況とは少し違っていたように思う。衛星画像やアメダス等の観測資料によって、発生前後の状況を細かく見ると、単に地上が熱せられただけでなく、2方向からの風の収束が起こっていると近傍であったことが、強い上昇気流を起こしたと見られる。気象台が「この突風をもたらした現象は、局地的な前線に伴う旋風と推定した。」とした局地的な前線(厚木市付近を通過した収束線)が、より強い塵旋風をもたらしたものであろう。
執筆者
気象庁OB
市澤成介