2015/04/09
東京の4月の雪
2015年4月8日朝、関東地方では季節外れの強い寒気の南下により、雪やみぞれとなったところがあった。9時の観測によると東京、千葉、銚子、水戸、熊谷等でみぞれを観測し、宇都宮では雪で、積雪となり7時に積雪2cmを記録した。下の図は9時の天気分布で、静岡県、神奈川県、千葉県南部は雨で、東京都と千葉県北部から北ではみぞれであった。この1時間前の気温分布をみると概ね3℃以下の場所でみぞれになっているようである。群馬県や山梨県の一部で雨となっているが、この地域は周囲より気温が高かった。
3月末には関東地方の内陸の一部で最高気温が25℃を超える夏日になるほどの高温を記録したこともあって、桜(ソメイヨシノ)は関東北部で一斉に開花し足早に満開になり、春本番を迎えたと思った矢先の寒の戻りである。老体には体調管理も大変である。
ところで、桜の咲いた4月に雪やみぞれが降ることは珍しいことである。東京大手町の観測で4月に雪やみぞれとなった日を見ると、平成になってからは、2010年4月17日と2007年4月4日があるが、共に都心では積雪には至っていない。今回と同様に一時白いものが混じったといった感じであった。
しかし、さらに遡ると4月に積雪を記録した事例も出てくる。1953年以降で1cm以上の記録は3例あり、第一位は、1988年(昭和63年)4月8日の9cmである。この年の桜の開花は4月2日で、まだ満開前の見ごろを迎えた桜の枝に、雪が積って無残に枝が折れた木が多く見られた。この寒さと積雪で、この年の桜の満開は開花から10日目の4月11日となった。
この事例を見ることにする。4月7日9時、九州の南海上にあった低気圧は発達しながら本州の南岸を進み、8日9時には関東の東海上に進んだ。加えて、日本の上空には寒気が流れ込んでおり、日本列島は7日夜から8日朝にかけて大荒れの天気となり、関東地方では季節外れの大雪となった。
天気図を下に示すが、関東地方で大雪をもたらす天気図パターンである。この形は毎年のように現れるが、4月になれば、上空の気温も高くなり、冷たい雨が降っても雪になることはまれであるが、強い寒気のため大雪となったのだ。横浜で積雪7cm、秩父で積雪19cmとなって4月の最深積雪の記録を更新した。東京でも9cmの積雪となって歴代第2位の記録的なものであった。
この日の関東甲信地方の最深積雪を図に示すと、関東地方東部では積雪となったところがなく、関東地方西部から甲信地方の山間地で10㎝を超える積雪となり、所により30㎝を超えている。
地上気温が雨になるか雪になるかの境界と言われる2℃前後となって、少し高めであった東部はほとんど雨で経過し、西部や標高の高い所では雪となって積雪となったものである。
平成26年2月14日~15日に関東甲信地方に記録的な大雪をもたらしたときには、茨城県や千葉県では100mmを超える大雨が降っている。この事例も降水量は少なかったが同じような降雪パターンを示している。
参考までに、前日21時の850㍱面天気図(上空約1500m付近)を示す。東海沖の低気圧の東側に、南からの湿った暖かい気流が流入している。この低気圧が翌朝にかけて発達しながら関東南岸を通過したのに伴って、南からの暖気は関東平野の上空に湿った気流を流入させた。一方、東北地方の東海上から関東地方には北東からの冷たい気流が流入しているが、茨城県つくばの気温は-3.5℃で普段であれば地上では雨となる気温であるが、低気圧が発達して接近したことで、さらに強い冷気を関東平野に引き込むこととなり、内陸部の冷気と重なり、関東西部から甲信にかけては大雪となった。しかし、東部では積雪までに至らなかった。
この大雪のため、交通事故や道路渋滞が相次ぎ、着雪被害も多く、各地で停電した。また、ビニールハウスの倒壊や果樹の枝折れが相次いだ。果樹の着果期を襲った大雪と異常な低温が重なり、着果不良も深刻なものとなり、農業関係に大きな被害があった。
気象要覧によると、この大雪の被害は関東・甲信地方と東北地方南部に及び、死者1名、負傷者69名、通信施設被害5818回線、農業被害17億6865万円、陸便の運休や遅延、空便の欠航、高速道路の通行止め多数、停電13316戸等となっている。
真冬でなく、野菜や果樹の生育期に入っての異常な低温と大雪が農業被害を増大させたと言える。
今年は、関東地方は3月から周期的に強い寒の戻りが起こっている。長期予報を見ても、引き続き寒暖の変動の大きい状況が続くようである。下の図は、1か月予報の解説資料に示された東京の気温変化の実況と予想を示すものである。黒太線で示された実況の経緯を見ると3月後半は平年(緑線)より高めに経過する中で間の戻りが見られたが、4月8日に関東地方にみぞれや雪をもたらした状況は、この図の1週目の太線と灰色で示されたように平年を下回る予想である。灰色の範囲で変動する確率が高いことを示している。この図では来週は更に低い可能性を予想している。後半については、2週間の平均的な傾向を示しているため、後半部分の短期的な変動は消されているので、これを見て後半は平年並みの状況が続くと見る訳にはいかない。いずれにせよ、農作物の管理に例年以上に神経を使うことが多いと思われる。
やや長い気温変動に対しては、種蒔き、植え付け等の調整も必要となるが、日々の変動にも眼を向けて、作物の管理も行う必要がある。毎日の天気予報で最低気温と最高気温が予想されているが、この予想を有効に活用して頂きたい。最低気温は必ずしも早朝に現れるとは限らない。雨が予想された時や、最高気温と最低気温の温度差が小さい予報の時には、一日の内でいつ頃最低気温が現れるかにも注意して、3時間刻みの気温予想が示されている時系列予報を参考にして頂きたい。
3月末には関東地方の内陸の一部で最高気温が25℃を超える夏日になるほどの高温を記録したこともあって、桜(ソメイヨシノ)は関東北部で一斉に開花し足早に満開になり、春本番を迎えたと思った矢先の寒の戻りである。老体には体調管理も大変である。
ところで、桜の咲いた4月に雪やみぞれが降ることは珍しいことである。東京大手町の観測で4月に雪やみぞれとなった日を見ると、平成になってからは、2010年4月17日と2007年4月4日があるが、共に都心では積雪には至っていない。今回と同様に一時白いものが混じったといった感じであった。
しかし、さらに遡ると4月に積雪を記録した事例も出てくる。1953年以降で1cm以上の記録は3例あり、第一位は、1988年(昭和63年)4月8日の9cmである。この年の桜の開花は4月2日で、まだ満開前の見ごろを迎えた桜の枝に、雪が積って無残に枝が折れた木が多く見られた。この寒さと積雪で、この年の桜の満開は開花から10日目の4月11日となった。
この事例を見ることにする。4月7日9時、九州の南海上にあった低気圧は発達しながら本州の南岸を進み、8日9時には関東の東海上に進んだ。加えて、日本の上空には寒気が流れ込んでおり、日本列島は7日夜から8日朝にかけて大荒れの天気となり、関東地方では季節外れの大雪となった。
天気図を下に示すが、関東地方で大雪をもたらす天気図パターンである。この形は毎年のように現れるが、4月になれば、上空の気温も高くなり、冷たい雨が降っても雪になることはまれであるが、強い寒気のため大雪となったのだ。横浜で積雪7cm、秩父で積雪19cmとなって4月の最深積雪の記録を更新した。東京でも9cmの積雪となって歴代第2位の記録的なものであった。
この日の関東甲信地方の最深積雪を図に示すと、関東地方東部では積雪となったところがなく、関東地方西部から甲信地方の山間地で10㎝を超える積雪となり、所により30㎝を超えている。
地上気温が雨になるか雪になるかの境界と言われる2℃前後となって、少し高めであった東部はほとんど雨で経過し、西部や標高の高い所では雪となって積雪となったものである。
平成26年2月14日~15日に関東甲信地方に記録的な大雪をもたらしたときには、茨城県や千葉県では100mmを超える大雨が降っている。この事例も降水量は少なかったが同じような降雪パターンを示している。
参考までに、前日21時の850㍱面天気図(上空約1500m付近)を示す。東海沖の低気圧の東側に、南からの湿った暖かい気流が流入している。この低気圧が翌朝にかけて発達しながら関東南岸を通過したのに伴って、南からの暖気は関東平野の上空に湿った気流を流入させた。一方、東北地方の東海上から関東地方には北東からの冷たい気流が流入しているが、茨城県つくばの気温は-3.5℃で普段であれば地上では雨となる気温であるが、低気圧が発達して接近したことで、さらに強い冷気を関東平野に引き込むこととなり、内陸部の冷気と重なり、関東西部から甲信にかけては大雪となった。しかし、東部では積雪までに至らなかった。
この大雪のため、交通事故や道路渋滞が相次ぎ、着雪被害も多く、各地で停電した。また、ビニールハウスの倒壊や果樹の枝折れが相次いだ。果樹の着果期を襲った大雪と異常な低温が重なり、着果不良も深刻なものとなり、農業関係に大きな被害があった。
気象要覧によると、この大雪の被害は関東・甲信地方と東北地方南部に及び、死者1名、負傷者69名、通信施設被害5818回線、農業被害17億6865万円、陸便の運休や遅延、空便の欠航、高速道路の通行止め多数、停電13316戸等となっている。
真冬でなく、野菜や果樹の生育期に入っての異常な低温と大雪が農業被害を増大させたと言える。
今年は、関東地方は3月から周期的に強い寒の戻りが起こっている。長期予報を見ても、引き続き寒暖の変動の大きい状況が続くようである。下の図は、1か月予報の解説資料に示された東京の気温変化の実況と予想を示すものである。黒太線で示された実況の経緯を見ると3月後半は平年(緑線)より高めに経過する中で間の戻りが見られたが、4月8日に関東地方にみぞれや雪をもたらした状況は、この図の1週目の太線と灰色で示されたように平年を下回る予想である。灰色の範囲で変動する確率が高いことを示している。この図では来週は更に低い可能性を予想している。後半については、2週間の平均的な傾向を示しているため、後半部分の短期的な変動は消されているので、これを見て後半は平年並みの状況が続くと見る訳にはいかない。いずれにせよ、農作物の管理に例年以上に神経を使うことが多いと思われる。
やや長い気温変動に対しては、種蒔き、植え付け等の調整も必要となるが、日々の変動にも眼を向けて、作物の管理も行う必要がある。毎日の天気予報で最低気温と最高気温が予想されているが、この予想を有効に活用して頂きたい。最低気温は必ずしも早朝に現れるとは限らない。雨が予想された時や、最高気温と最低気温の温度差が小さい予報の時には、一日の内でいつ頃最低気温が現れるかにも注意して、3時間刻みの気温予想が示されている時系列予報を参考にして頂きたい。
執筆者
気象庁OB
市澤成介