2015/05/15
台風第6号の記録から
5月4日3時カロリン諸島で発生した台風第6号は、ルソン島の東海上で中心気圧915hPaの猛烈な強さにまで発達した。11日夜には先島諸島を通って、南西諸島沿いに北東に進み、5月12日18時に紀伊半島沖で温帯低気圧へ変わった。この台風は猛烈な強さに迄発達したが、規模としては小さいものであった。また、台風シーズンに先駆けて5月は半ばでの日本列島への接近台風となった。上陸はしなかったものの、早い時期に接近する台風があると、この台風も例に挙げられると思うので、特徴的な点を観測資料の面から、紹介することにした。
ルソン島北東端通過で勢力がそがれた
台風第6号はルソン島の東海上で中心気圧915hPa、中心付近の最大風速55m/sの猛烈な勢力となって北北西に進み、10日20時頃ルソン島をかすめたと思われる。この時、ひまわり7号が捉えた台風の眼の変化を示す。上段左から右、そして下段左から右の順に並べてある。上段の画像には台風の眼がはっきりと見える。猛烈に発達した台風の眼はコンパクトで輪郭が明瞭であるが、その特徴を示している。しかし、下段の画像に移ると明瞭な眼が見えなくなっている。この変化は、ルソン島が少なからず影響したと見られる。
ルソン島に接近時の台風第6号は、風速15m/s以上の強風域が半径220kmと規模の小さい台風にも関わらず、猛烈な勢力であった。これは、中心付近の気圧傾度が極めて急峻であることを示している。しかし、この形状は海上を進む間は維持することができるが、摩擦の大きい陸地にかかると、中心部の急峻な形状が破壊されて、急激な衰弱を示すことがある。1978年26号台風はルソン島に上陸前は905hPaであったのが上陸後には945hPaと弱まり、南シナ海に進んだときは975hPaまで衰弱した。今回の台風第6号はかすめる程度であったが、陸地の影響を受けて衰弱したことが読み取れる変化である。
八重山諸島通過時に台風の特徴が現れた
ルソン島北東端をかすめた台風第6号はバシー海峡の東で進路を北北東に変えて11日夜には先島諸島に接近し、夜半頃石垣島や多良間島の直ぐ近くを通過して東シナ海に入った。台風は勢力を弱めたものの引き続き強い勢力を保っていた。しかし、風速15m/sの強風域半径は180kmと狭く、時速40kmと速度を上げていたため、台風が近傍を通過した島々では、短時間に急激に雨や風の強まりがあった。台風の接近は判っていても、なかなか降り出さない雨と、強まらない風を見て、大した台風でないと、警戒を緩めかねないので危険度の高い台風と言える。
台風の中心が直近を通過した石垣島と、やや離れたところを通過した宮古島の気象要素の変化を図に示す。また、石垣島付近を通過時から多良間島を通って、東シナ海に進んだ頃までの30分間隔のレーダーエコー図も合わせて示す。23時30分のレーダーでは石垣島の一部が強い降雨バンドの内側(台風の眼)に入っており、0時には多良間島が眼の北端に入って、30分後は円形の降雨帯の内側に入っていた。この時間には宮古島の西の下地島もこの中に入っているのがわかる。なお、このレーダー合成図を見ると宮古島付近を境にギャップが見られるが、石垣島レーダーと沖縄レーダーの境界にあってスムーズに接続できていないものだが、台風中心部は石垣島レーダーの探知範囲にあるので、この影響を考えなくても良い。
少し詳細に気象要素の変化を見る。石垣島では最低気圧が出た前後10分程度横ばいの状態が見られ、この時には一時風が弱まり、雨も止んでいる。台風の眼の端(強い降雨帯の内側)に入ったと見られる。
東南東の風から北西の風に変わった後に最大風速も最大瞬間風速も出ている。吹き返しが強かったことを示している。瞬間風速が20m/sを超えた時間は4時間弱と短く、雨が降った時間も短かった。規模の小さい台風が通過時の特徴的な変化である。宮古島でも風雨が強まった時間はかなり短かったことが読み取れる。
宮古島での変化で石垣島との大きな違いは、最低気圧を記録した時間帯に風の弱まりはない。これは台風の眼の中には入っていないことを示している。また、最低気圧の時間が0時30分頃から1時頃までであるが、最低気圧の記録された時間は気圧上昇が始まっている1時5分となっている。実は、この時刻は最大風速の発現時と降雨が一番激しい時間に一致している。これから推測できるのは、活発な積乱雲下での突風等の現象が重なったと考えられる。
温帯低気圧に変化後の静岡県での短時間の激しい雨
奄美大島付近を通過する頃には台風の勢力はかなり衰えており、日本海から延びる前線が次第に台風に接近していた。台風はこの南北に延びる前線の雲域に吸収されるように一体化し、夕方には温帯低気圧に変わった。温帯低気圧に変わったことが勢力を弱めたと思われる方が多いようだが、それは間違いで、低気圧の性質が変化したもので、風や雨が弱まることを示したものではない。現に、温帯低気圧に変化した後も、暴風や強雨となった所が多い。
ここで、南西諸島に接近し、四国沖で温帯低気圧に変わり、関東を通過して三陸沖に進むまでの変化を動画にして示す。南西諸島に接近してくるまでは、丸みのある台風の雲は前線の雲とは別であったが、北上と共に、前線の雲と一体化する様子が見られる。しかし、中心の活発な対流雲はその中で際立った塊として追跡できる。四国沖で台風から変わった後も低気圧の中心部には特に活発な対流雲があって、静岡県から関東地方を抜けていく様子が追える。この時、静岡県を中心には激しい雨が降り、東海道新幹線をはじめ、鉄道の一時運転見合わせもあった。
静岡県内の雨の分布を見ると、総雨量が100mmを超えた部分が県中部から東部に帯状に伸びており、この部分では1時間雨量が40mm以上の激しい降り方をしたことが判る。10分間雨量の最大を見ると富士で18mm、静岡で17mmと1時間降り続けば100mmを超える猛烈な降り方をしている。静岡の10分毎の変化を見ると、台風から変わった低気圧の通過直前に激しい雨となったが通過とともに雨が止んでいた。 ここで、南西諸島に接近し、四国沖で温帯低気圧に変わり、関東を通過して三陸沖に進むまでの変化を動画にして示す。南西諸島に接近してくるまでは、丸みのある台風の雲は前線の雲とは別であったが、北上と共に、前線の雲と一体化する様子が見られる。しかし、中心の活発な対流雲はその中で際立った塊として追跡できる。四国沖で台風から変わった後も低気圧の中心部には特に活発な対流雲があって、静岡県から関東地方を抜けていく様子が追える。この時、静岡県を中心には激しい雨が降り、東海道新幹線をはじめ、鉄道の一時運転見合わせもあった。
温帯低気圧に変わった低気圧は、静岡県中部から関東地方を通過した。この頃の低気圧の中心気圧はそれほど深い値を示していなかったが、この低気圧の南側にあたった沿岸の地方では、短い時間であったが、最大風速が20m/s、最大瞬間風速が30m/sを超える暴風となった所もあった。
台風第6号は5月前半の接近台風となったが、台風の進んだ海域は、台風シーズン本番の頃と比べると海水温も低かったこともあって北上とともに勢力を弱めたことが救いであった。また、中心が通過した地域では、雨風が急激に激しさを増したが、短時間であったため、短時間強雨と暴風による交通障害と一部の停電があった程度で済みやれやれである。
今年は沖縄地方の梅雨入りがまだであり、週間予報を見ても梅雨入りの気配が見られない。この時期としては多くの台風の発生があり、一方で、梅雨期も変調に推移しないか気がかりなことも多い。
ルソン島北東端通過で勢力がそがれた
台風第6号はルソン島の東海上で中心気圧915hPa、中心付近の最大風速55m/sの猛烈な勢力となって北北西に進み、10日20時頃ルソン島をかすめたと思われる。この時、ひまわり7号が捉えた台風の眼の変化を示す。上段左から右、そして下段左から右の順に並べてある。上段の画像には台風の眼がはっきりと見える。猛烈に発達した台風の眼はコンパクトで輪郭が明瞭であるが、その特徴を示している。しかし、下段の画像に移ると明瞭な眼が見えなくなっている。この変化は、ルソン島が少なからず影響したと見られる。
ルソン島に接近時の台風第6号は、風速15m/s以上の強風域が半径220kmと規模の小さい台風にも関わらず、猛烈な勢力であった。これは、中心付近の気圧傾度が極めて急峻であることを示している。しかし、この形状は海上を進む間は維持することができるが、摩擦の大きい陸地にかかると、中心部の急峻な形状が破壊されて、急激な衰弱を示すことがある。1978年26号台風はルソン島に上陸前は905hPaであったのが上陸後には945hPaと弱まり、南シナ海に進んだときは975hPaまで衰弱した。今回の台風第6号はかすめる程度であったが、陸地の影響を受けて衰弱したことが読み取れる変化である。
八重山諸島通過時に台風の特徴が現れた
ルソン島北東端をかすめた台風第6号はバシー海峡の東で進路を北北東に変えて11日夜には先島諸島に接近し、夜半頃石垣島や多良間島の直ぐ近くを通過して東シナ海に入った。台風は勢力を弱めたものの引き続き強い勢力を保っていた。しかし、風速15m/sの強風域半径は180kmと狭く、時速40kmと速度を上げていたため、台風が近傍を通過した島々では、短時間に急激に雨や風の強まりがあった。台風の接近は判っていても、なかなか降り出さない雨と、強まらない風を見て、大した台風でないと、警戒を緩めかねないので危険度の高い台風と言える。
台風の中心が直近を通過した石垣島と、やや離れたところを通過した宮古島の気象要素の変化を図に示す。また、石垣島付近を通過時から多良間島を通って、東シナ海に進んだ頃までの30分間隔のレーダーエコー図も合わせて示す。23時30分のレーダーでは石垣島の一部が強い降雨バンドの内側(台風の眼)に入っており、0時には多良間島が眼の北端に入って、30分後は円形の降雨帯の内側に入っていた。この時間には宮古島の西の下地島もこの中に入っているのがわかる。なお、このレーダー合成図を見ると宮古島付近を境にギャップが見られるが、石垣島レーダーと沖縄レーダーの境界にあってスムーズに接続できていないものだが、台風中心部は石垣島レーダーの探知範囲にあるので、この影響を考えなくても良い。
少し詳細に気象要素の変化を見る。石垣島では最低気圧が出た前後10分程度横ばいの状態が見られ、この時には一時風が弱まり、雨も止んでいる。台風の眼の端(強い降雨帯の内側)に入ったと見られる。
東南東の風から北西の風に変わった後に最大風速も最大瞬間風速も出ている。吹き返しが強かったことを示している。瞬間風速が20m/sを超えた時間は4時間弱と短く、雨が降った時間も短かった。規模の小さい台風が通過時の特徴的な変化である。宮古島でも風雨が強まった時間はかなり短かったことが読み取れる。
宮古島での変化で石垣島との大きな違いは、最低気圧を記録した時間帯に風の弱まりはない。これは台風の眼の中には入っていないことを示している。また、最低気圧の時間が0時30分頃から1時頃までであるが、最低気圧の記録された時間は気圧上昇が始まっている1時5分となっている。実は、この時刻は最大風速の発現時と降雨が一番激しい時間に一致している。これから推測できるのは、活発な積乱雲下での突風等の現象が重なったと考えられる。
温帯低気圧に変化後の静岡県での短時間の激しい雨
奄美大島付近を通過する頃には台風の勢力はかなり衰えており、日本海から延びる前線が次第に台風に接近していた。台風はこの南北に延びる前線の雲域に吸収されるように一体化し、夕方には温帯低気圧に変わった。温帯低気圧に変わったことが勢力を弱めたと思われる方が多いようだが、それは間違いで、低気圧の性質が変化したもので、風や雨が弱まることを示したものではない。現に、温帯低気圧に変化した後も、暴風や強雨となった所が多い。
ここで、南西諸島に接近し、四国沖で温帯低気圧に変わり、関東を通過して三陸沖に進むまでの変化を動画にして示す。南西諸島に接近してくるまでは、丸みのある台風の雲は前線の雲とは別であったが、北上と共に、前線の雲と一体化する様子が見られる。しかし、中心の活発な対流雲はその中で際立った塊として追跡できる。四国沖で台風から変わった後も低気圧の中心部には特に活発な対流雲があって、静岡県から関東地方を抜けていく様子が追える。この時、静岡県を中心には激しい雨が降り、東海道新幹線をはじめ、鉄道の一時運転見合わせもあった。
静岡県内の雨の分布を見ると、総雨量が100mmを超えた部分が県中部から東部に帯状に伸びており、この部分では1時間雨量が40mm以上の激しい降り方をしたことが判る。10分間雨量の最大を見ると富士で18mm、静岡で17mmと1時間降り続けば100mmを超える猛烈な降り方をしている。静岡の10分毎の変化を見ると、台風から変わった低気圧の通過直前に激しい雨となったが通過とともに雨が止んでいた。 ここで、南西諸島に接近し、四国沖で温帯低気圧に変わり、関東を通過して三陸沖に進むまでの変化を動画にして示す。南西諸島に接近してくるまでは、丸みのある台風の雲は前線の雲とは別であったが、北上と共に、前線の雲と一体化する様子が見られる。しかし、中心の活発な対流雲はその中で際立った塊として追跡できる。四国沖で台風から変わった後も低気圧の中心部には特に活発な対流雲があって、静岡県から関東地方を抜けていく様子が追える。この時、静岡県を中心には激しい雨が降り、東海道新幹線をはじめ、鉄道の一時運転見合わせもあった。
温帯低気圧に変わった低気圧は、静岡県中部から関東地方を通過した。この頃の低気圧の中心気圧はそれほど深い値を示していなかったが、この低気圧の南側にあたった沿岸の地方では、短い時間であったが、最大風速が20m/s、最大瞬間風速が30m/sを超える暴風となった所もあった。
台風第6号は5月前半の接近台風となったが、台風の進んだ海域は、台風シーズン本番の頃と比べると海水温も低かったこともあって北上とともに勢力を弱めたことが救いであった。また、中心が通過した地域では、雨風が急激に激しさを増したが、短時間であったため、短時間強雨と暴風による交通障害と一部の停電があった程度で済みやれやれである。
今年は沖縄地方の梅雨入りがまだであり、週間予報を見ても梅雨入りの気配が見られない。この時期としては多くの台風の発生があり、一方で、梅雨期も変調に推移しないか気がかりなことも多い。
執筆者
気象庁OB
市澤成介