2015/06/19
ローマ法王に米を食べさせた男
愛媛県松山市近郊の農業法人『ジェイ・ウイングファーム』の若き現場リーダー齊藤碌クンに薦められてAmazonに注文した本『ローマ法王に米を食べさせた男』(高野誠鮮著:講談社)が届いたので、さっそく読み始めたのですが、あまりに面白く、グイグイ惹き込まれていって、254ページを1日で一気に読み終えてしまいました。
副題が「過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?」とありますが、この本は1%の可能性を信じて、限界集落を救った石川県羽咋市職員(現・農林水産課ふるさと振興係課長補佐)高野誠鮮さんの実録(ノンフィクション)です。
表紙の帯に「立川志の輔師匠推薦!」とあり、「発想には限界がないことを教えてもらった」 「可能性の無視は最大の悪策だ!」とあります。まさにそんな感じの読後感想です。
会議はやらない。企画書は作らない。上司には事後報告。反対意見は知恵を使って丸め込む。「本当に人の“役”に立ってこそ“役人”です」…とも。う~ん、なるほどぉ~。
1ページ目の「はじめに」の冒頭の書き出しは次のようなものです。
「最近の会社員、特に大企業に勤めている人は、公務員化しているようです。いざ新しいプロジェクトを始めようとすると、失敗することを恐れて初めの一歩が踏み出せず、前例ばかりに縛られていい知恵も出てこない。そして何より誰も責任を取りたがらない。そのくせ会議は何回も何十回も開き、分厚い立派な企画書を作りたがる…。けれど私は聞きたいのです。実際に動き出すのはいつですか、誰ですか?と。たとえば、天井の電球が切れていたとする。それをみんなで下から見て、あーだこーだ騒いだところで灯りはつきますか? 誰かが電球を取り替えないと明るくはならないのです。」
この書き出しを読んだだけで、もう私の心をグワシッ!と鷲掴み状態です。ジェイ・ウイングファームの齊藤クンが「越智さんに是非読んで欲しい。越智さんならきっと共鳴していただけると思います」と言って推薦してくれたのですが、この本に書かれていることはまさに私の信条そのもの。レベルの差はあまりにありすぎますが、私のやり方、考え方に近いものがあります。なのでメチャメチャ共鳴しちゃいました。
私も前の会社では「3σの外側(標準偏差で3σは±99.7%)」とか「困った時の越智頼み(アイデアマン)」とか、社外の方からは「N◯Tデ◯タの奇跡」とか言われた一般のサラリーマンからしたら規格外のタイプのようなのですが(自分ではまったくそんなこと意識したこともありませんが…)、そんな私から見てもこの高野誠鮮さんは群を抜いています。もう、破天荒とでも言うべきか…。メチャメチャ悔しいけれど、企画屋としての圧倒的なレベルの差、大きな敗北感さえも感じてしまいます(敗北感が感じられるということが嬉しいですね。私も高野誠鮮さんと同種のタイプだということでしょうから)。
しかし同時に「よぉ~し!俺も負けてはいられない!」という対抗心がメラメラと湧いてきて、いっぱい元気を貰った感じもしています。高野誠鮮さんは1955年(昭和30年)のお生まれですから、私とおそらく同学年です。同学年という対抗意識も芽生えています。
高野誠鮮さんがいったい何をやったのかについてはここでは触れませんが、心に残ったフレーズが幾つもあります。すべてをご紹介すると、何ページにもなりますから、そのうちの1つだけを紹介します。「さいごに」のところにある一文です。
「実行したから「失敗した」「うまくいった」と言われます。何もしないのとやってみるのでは天地の開きがあり、何度も失敗を繰り返したからこそ私たちは、補助輪なしで、初めて自転車に乗れました。「ひっくり返ったらどうする?」「転んだらどうする?」と言われてもやめてはいけません。もう一度トライして乗るだけ。だから自転車に乗れるのです。印刷物の計画書のとおりに世界は動かない。でもそれは、計画書が甘いから出来ないのではなく、実行しないから出来ないだけ。過疎高齢化の問題にしても、何度議論すれば1%高齢化率が下がるのでしょうか? 議会で論議さえすれば下がるのだったら、日本中から過疎集落はとっくになくなっています。役人は、文書を作るのが仕事でなく、本当に課題を解決し、変えるための行動や実行する力を求められているのです。」
もう1つ。
「何もしないで「出来ない」という人が多いのですが、結局は人の努力によって解決できることがほとんどです。たとえ少しずつでも出来ることを積み上げていけば、大きなことになる。1%でも可能性があれば、とにかくやってみようの信念で、今日も仕事と向き合っています。」
まったくおっしゃる通りです。実績(結果)が伴っているだけに圧倒的な説得力があります。私も高野誠鮮さんと同じく、夢は必ず実現するものだと常日頃から思っていますし、1%でも可能性があるのであればやってやろうという気構えでいます。要は知恵の出しどころだ!…と。企画屋としての醍醐味はそこにあり!…ってやつです。忘れかけていた企画屋としての本能のようなものが覚醒された感じがしています。
最近、いろいろなところで『イノベーション(変革)』という言葉を目にします。イノベーションは待っていたら自然に起きてくるというものではなく、誰かが起こさないと起きないって性格のものです。そして、イノベーションを起こすのはこういう過去の前例やしきたりに縛られず、柔軟な発想と抜群の行動力を持つ高野誠鮮さんのような方なんだろうな…と私は思っています。
久々に興奮するような本に出逢えました。紹介してくれたジェイ・ウイングファームの齊藤クンには感謝感謝です。この高野誠鮮さんのような方が1人でも多く増えると、競争力が低下し閉塞感が漂う今の日本も、特に過疎高齢化に悩む地方も、そしてTPP参加問題で揺れている日本の農業や漁業もきっと活力を取り戻すことができるのではないか…と、私は思っています。そして私もその1人と呼ばれるようになりたいな…と思っています。頑張ろうo(^o^)o
『ローマ法王に米を食べさせた男』(高野誠鮮著:講談社)、農業に関心があるないに関わらず、この本は絶対にお薦めです。とにかく、読後は元気になれます。
【追記1】
現在、高野誠鮮さんが(羽咋市が)取り組んでいることとして、最後の第5章に『「腐らない米」自然栽培でTPPに勝つ!』と題して、青森県弘前市に住むリンゴ農家、木村秋則さんと組んでのコラボレーションについて書かれています。この木村秋則さんは、それまで農薬や除草剤を使わないと生産できないと言われていたリンゴを、長年かけて自然栽培で作ることに成功し、「奇跡のリンゴ」を作ったと言われる人です。NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられ、映画にもなりました。農業の世界では知らない人はいないとも言われる有名人です。
【追記2】
高野誠鮮さんは著書の中でこんなことも書いています。
市役所の職員には3種類あって、(圧倒的大多数の)「いてもいなくてもいい職員」、それと「いては困る職員」、そして「いなくてはならない職員」。どれを自分は求めているのか? これが大事だ。
これは市役所の職員だけのことではなく、我々民間企業の社員にだって当てはまることです。皆さんはどれを求めていますか?
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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