2015/06/19
鹿児島の大雨情報では「土砂災害に警戒を」
鹿児島地方気象台は、6月17日に次のような気象情報を発表し、異常な降雨により土砂災害の発生する恐れが高くなっているとして、一層の警戒を呼び掛けている。この情報は梅雨入りしてからの降水量が薩摩・大隅地方のほぼ全域で平年値の3倍を超える雨が降り、一部地域では5倍に達していることを地図を使って表現している。言葉だけではなかなか理解できないことでも、このような図を使って説明すると、気象台が訴えたいことが伝わってくる。気象台が文字だけでなく図表も用いて、今起こっている現象について、判りやすく訴える取り組みをしていることを理解していただくために、ここに発表情報を掲載することとした。
ここでは、この情報発表に至った気象状況等を観測資料により見ることで、土砂災害の危険性の高まりについてもふれることにする。
梅雨入り以降、梅雨前線は時々通過した小低気圧によって前線活動を活発化させ、一時的に九州中部迄北上しても、すぐに九州南部まで下がって停滞を繰り返しをしている。このため、鹿児島県の島嶼部を除く、薩摩・大隅地方では、梅雨入り以降で雨がなかった日はわずか2日か3日で、ほぼ連日どこかの時間帯で雨となっていた。この連日の雨の中で、日雨量が100㎜を超えた日も多く発生しており、梅雨とは言え雨の極めて多い状況にある。
6月1日から18日までの朝9時の可視画像で梅雨前線の位置の変動を見ることにする。梅雨前線は東西に延びた雲の帯として現れており、この帯の中で一段と白く輝く団塊状の部分では激しい雨が降っている。1日~6日にかけては、梅雨前線は九州と南西諸島の間を南北に大きく変動しているが、7日頃から前線帯は九州南部を中心に南北の変動の小さい状況に変わっている。
ところで、梅雨入り以来どれほどの雨が降ったのだろうか。気象台発表の情報中の図で平年の450%以上の多量の雨が降った地点とその周辺について、18日迄の総雨量を見ると、なんと、軒並み800㎜を超える大雨となっており、吉ケ別府(鹿屋市下高隈町吉ケ別府)では1277.5㎜、鹿屋(鹿屋市寿)で1047.0㎜、喜入(鹿児島市喜入中名町)で1028.5㎜、肝付前田(肝属郡肝付町前田)で1000.0㎜など1000㎜を超えていた。平年の500%を記録した枕崎に加え、積算雨量が多い方から3点の日雨量の経緯と積算雨量を図に示す。
この期間の雨の降り方は、2~5日、8~11日、14~17日と3つの山に分けられ、特に2つ目の山では、8日夜から9日午前中と11日夜から12日朝に強い雨があり、鹿屋市に対しては、9日朝には「肝属川はん濫注意情報」が発表され、9日と11日~12日にかけては「土砂災害警戒情報」が発表された。特に12日は土砂災害警戒情報情報の対象が、鹿屋市、指宿市、日置市、霧島市、南さつま市、南九州市の6市に及んだ。雨量で見る限り総雨量も1時間雨量も9日の方が多かったが、土砂災害の危険性は、降り続いた雨の影響を受け、11日~12日にかけての雨の方が高くなったことを示している。
降り続く雨によって、土壌中にはたっぷりと水を含んでいると考えられる。これまでと同じ程度の雨でも土砂災害の危険度が高くなるので、これからの雨の降り方には十分な警戒が必要となる。
このようにそれまでの雨の降り方は、土砂災害の危険度に深くかかわることから、土砂災害の警戒を呼び掛ける大雨警報の発表基準は土壌中の水分量を示す一つの指標として「土壌雨量指数」を用いている。また、都道府県と共同で行っている「土砂災害警戒情報」にも土壌雨量指数の値を用いている。
気象庁HPには、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」が掲載されている。この情報は、土砂災害警戒情報を補足する情報として提供されているもので、5km四方の領域毎に土砂災害発生の危険度を5段階に判定した結果を表示したものである。なお、予想については避難にかかる時間を考慮して、2時間先までの土壌雨量指数等の予想を用いている。この情報はあくまでも、土砂災害警戒情報を捕捉する情報ですが、危険度の高まっている地域がどこにあるか、対象地域での危険度の変化等を監視する材料として活用していただきたい。
下に、6月18日までの5日間の朝9時における土砂災害警戒判定メッシュ情報を示す。鹿児島県では他の件に比べ危険度の高い状況が続いていることがわかる。こんな中で、15日9時と、17日9時は、半日以上雨が止んでいたため、警報級の危険度の所は無くなっていたが、注意報級の状況が続いたことを示している。これからは雨の量が少ないと言って安心できない。降り出す前から注意報級の危険度を含んでいると思って対策を講じてほしい。
最後に、この期間に1000㎜を超える大雨が降ったことがどれほど異常かを見るため、鹿児島地方気象台では、平年値との比較を用いている。ただ、年々の梅雨期の雨の降り方はかなりの変動幅があるので、そのバラツキの程度も考慮しなくてはならない。
そこで、別な方法で、今年の梅雨前線の雨の異常さを見ることにした。それぞれの観測地点における6月の月降水量の最多記録を調べてみた。それによると、吉ケ別府では1130㎜(2010年)、鹿屋では990㎜(2010年)、喜入では1049.0㎜(2012年)、枕崎で1056.5㎜(2012年)であった。それぞれの地点は統計開始から40年程度であるが、それにしても、20日に満たない期間で、既にこの最多記録を上回るか、それに近い量に達している。これはまさに異常な降り方といえるだろう。 それにしても、これまでの最多記録の発生年は2010年と2012年である。近年、こうした極端な雨の降り方が多くなっているのだろうか。気になる資料でもある。
6月下旬から7月前半にかけては、更に激しく降る可能性が高くなる時期であり、過去の記録を大幅に上回る恐れがあり、大きな災害に結び付かないよう適時、的確な気象情報の提供と、情報を活用した事前の大雨に対する備えを取っていただきたいと願うばかりである。
ここでは、この情報発表に至った気象状況等を観測資料により見ることで、土砂災害の危険性の高まりについてもふれることにする。
梅雨入り以降、梅雨前線は時々通過した小低気圧によって前線活動を活発化させ、一時的に九州中部迄北上しても、すぐに九州南部まで下がって停滞を繰り返しをしている。このため、鹿児島県の島嶼部を除く、薩摩・大隅地方では、梅雨入り以降で雨がなかった日はわずか2日か3日で、ほぼ連日どこかの時間帯で雨となっていた。この連日の雨の中で、日雨量が100㎜を超えた日も多く発生しており、梅雨とは言え雨の極めて多い状況にある。
6月1日から18日までの朝9時の可視画像で梅雨前線の位置の変動を見ることにする。梅雨前線は東西に延びた雲の帯として現れており、この帯の中で一段と白く輝く団塊状の部分では激しい雨が降っている。1日~6日にかけては、梅雨前線は九州と南西諸島の間を南北に大きく変動しているが、7日頃から前線帯は九州南部を中心に南北の変動の小さい状況に変わっている。
ところで、梅雨入り以来どれほどの雨が降ったのだろうか。気象台発表の情報中の図で平年の450%以上の多量の雨が降った地点とその周辺について、18日迄の総雨量を見ると、なんと、軒並み800㎜を超える大雨となっており、吉ケ別府(鹿屋市下高隈町吉ケ別府)では1277.5㎜、鹿屋(鹿屋市寿)で1047.0㎜、喜入(鹿児島市喜入中名町)で1028.5㎜、肝付前田(肝属郡肝付町前田)で1000.0㎜など1000㎜を超えていた。平年の500%を記録した枕崎に加え、積算雨量が多い方から3点の日雨量の経緯と積算雨量を図に示す。
この期間の雨の降り方は、2~5日、8~11日、14~17日と3つの山に分けられ、特に2つ目の山では、8日夜から9日午前中と11日夜から12日朝に強い雨があり、鹿屋市に対しては、9日朝には「肝属川はん濫注意情報」が発表され、9日と11日~12日にかけては「土砂災害警戒情報」が発表された。特に12日は土砂災害警戒情報情報の対象が、鹿屋市、指宿市、日置市、霧島市、南さつま市、南九州市の6市に及んだ。雨量で見る限り総雨量も1時間雨量も9日の方が多かったが、土砂災害の危険性は、降り続いた雨の影響を受け、11日~12日にかけての雨の方が高くなったことを示している。
降り続く雨によって、土壌中にはたっぷりと水を含んでいると考えられる。これまでと同じ程度の雨でも土砂災害の危険度が高くなるので、これからの雨の降り方には十分な警戒が必要となる。
このようにそれまでの雨の降り方は、土砂災害の危険度に深くかかわることから、土砂災害の警戒を呼び掛ける大雨警報の発表基準は土壌中の水分量を示す一つの指標として「土壌雨量指数」を用いている。また、都道府県と共同で行っている「土砂災害警戒情報」にも土壌雨量指数の値を用いている。
気象庁HPには、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」が掲載されている。この情報は、土砂災害警戒情報を補足する情報として提供されているもので、5km四方の領域毎に土砂災害発生の危険度を5段階に判定した結果を表示したものである。なお、予想については避難にかかる時間を考慮して、2時間先までの土壌雨量指数等の予想を用いている。この情報はあくまでも、土砂災害警戒情報を捕捉する情報ですが、危険度の高まっている地域がどこにあるか、対象地域での危険度の変化等を監視する材料として活用していただきたい。
下に、6月18日までの5日間の朝9時における土砂災害警戒判定メッシュ情報を示す。鹿児島県では他の件に比べ危険度の高い状況が続いていることがわかる。こんな中で、15日9時と、17日9時は、半日以上雨が止んでいたため、警報級の危険度の所は無くなっていたが、注意報級の状況が続いたことを示している。これからは雨の量が少ないと言って安心できない。降り出す前から注意報級の危険度を含んでいると思って対策を講じてほしい。
最後に、この期間に1000㎜を超える大雨が降ったことがどれほど異常かを見るため、鹿児島地方気象台では、平年値との比較を用いている。ただ、年々の梅雨期の雨の降り方はかなりの変動幅があるので、そのバラツキの程度も考慮しなくてはならない。
そこで、別な方法で、今年の梅雨前線の雨の異常さを見ることにした。それぞれの観測地点における6月の月降水量の最多記録を調べてみた。それによると、吉ケ別府では1130㎜(2010年)、鹿屋では990㎜(2010年)、喜入では1049.0㎜(2012年)、枕崎で1056.5㎜(2012年)であった。それぞれの地点は統計開始から40年程度であるが、それにしても、20日に満たない期間で、既にこの最多記録を上回るか、それに近い量に達している。これはまさに異常な降り方といえるだろう。 それにしても、これまでの最多記録の発生年は2010年と2012年である。近年、こうした極端な雨の降り方が多くなっているのだろうか。気になる資料でもある。
6月下旬から7月前半にかけては、更に激しく降る可能性が高くなる時期であり、過去の記録を大幅に上回る恐れがあり、大きな災害に結び付かないよう適時、的確な気象情報の提供と、情報を活用した事前の大雨に対する備えを取っていただきたいと願うばかりである。
執筆者
気象庁OB
市澤成介