2015/10/16
北のカナリアたちに逢いに最北限の島へ(その9)
礼文島は、稚内から西へ、60km。北緯45度30分、東経141度4分に位置する礼文島は、北海道北部、宗谷海峡にほど近い日本海に浮かぶ南北に細長い島で、日本最北の離島です。総面積約82平方キロメートル。標高490メートルの最高峰、礼文岳を中心に、南北29キロメートル、東西8キロメートルにわたって、なだらかな丘陵性の地形が広がっています。地名の語源はアイヌ語のレプン(沖の)・シリ(島)。幅約19kmの礼文水道を挟んで利尻島の北西に位置します。
利尻島と同じく、ケッペンの気候区分では亜寒帯湿潤気候に属しています。海洋性気候という立ち位置で、冬場は-16℃を下回らないかわりに、北のオホーツク海から流れ込んでくる寒流であるリマン海流の影響で日中でも気温が上がらず、最高気温は1月~2月で-3℃ほど。2010年2月3日には最高気温が-12.5℃という日中の冷え込みを記録しています。冬期に厳しい偏西風が吹きつける西海岸は切りたった断崖絶壁が連なっていて、その反対側の東海岸は緩やかな山並みが海へと続いています。
島内の多くの地域が利尻礼文サロベツ国立公園に指定されていて、最果ての雄大な自然に育まれた約300種類の花々が咲き誇る礼文島は、別名「花の浮島」とも呼ばれています。なかには本州以南では標高2,000メートル以上の高山でしか見られない高山植物も、ここでは海抜0メートル地帯から咲き乱れ、それらの花の開花が始まる6月から8月にかけての観光シーズンには、多くの旅人が礼文島を訪れます。また、奇岩が多い絶景の島としても有名なところで、1989年には「日本の秘境100選」の一つに選定されています。町の主な産業はコンブ・ウニを中心とした漁業・水産加工業と商業・観光業で、2015年(平成27年)1月1日現在、2,730人(礼文町『広報れぶん』より)の島民が暮らしています。
礼文島・香深港に到着後、私と木村課長は真っ先に船を降り、フェリーターミナルのはずれにあるレンタカーショップに駆け込みました。礼文島滞在時間が5時間ちょっとと限られているため、少しでも早く行動を開始しないといけませんからね。礼文島で借りたレンタカーはトヨタVitz。レンタカーでお馴染みのクルマで、利尻島で借りた軽自動車のダイハツTANTOと比べ排気量も多少大きいので走りはさらに快適です。当初は礼文岳の登山口のある内路(ないろ)まで2往復して山の会の連中を搬送しようと思っていたのですが、約30分後に路線バスがあるというので、ベテランの木村課長と馬場社員の2人は後からバスで追いかけてもらうことにして、私と妻と3名の山の会の連中の計5名で、先発隊として内路に向かいました(一度フェリーターミナルまで引き返して、レンタカーで2往復したのでは、登山開始はさらに遅くなってしまいますから)。
借りたトヨタVitzにカーナビは付いているものの、レンタカーショップのオヤジの言葉によると、使うことはないとのこと。島内には東海岸を海岸沿いに南北に縦断する道路が一本と、幾つかの枝道があるだけだそうで、迷いようがないということでした。西海岸は前述のように切りたった断崖絶壁が連なっていて、景色は綺麗なのですが車道はないとのことです。確かに地図にもそうなっています。
それにしても、利尻島も礼文島も、レンタカーは離島特別料金のため、本州や北海道本島よりも料金が割高となっています。ハッキリ言って、高い! 個人旅行者が島内を自由に巡る場合には確かに車の利用が便利であるのですが、時間があるのなら礼文島は歩いて見るのがもっとも適しているところのようです。車を使うとどうしても駐車場を中心とした点の周りしか見られないのですが、西海岸がそうであるように、この島の美しい所を見て回るには、公共交通機関(路線バス)と足を駆使して線の旅をするべきということなのでしょう。とは言え、滞在時間僅か5時間ちょっとの今回の旅行では、どうしてもレンタカーの力を借りないといけません。なので離島特別料金も惜しくはありません。
香深港フェリーターミナルを出て、礼文水道(海)越しに美しい利尻島の景色を右手に眺めながら東海岸の海岸沿いの道路を北に向かって走ること約20分。礼文岳の登山口である内路の礼文岳登山口に到着しました。登山口と言っても内路は海岸べりのところで、すぐ海側は漁港になっていて、この時間、多くのカモメが羽を休めていました。礼文岳の山頂は標高490メートルということなので、ここからだと正真正銘海抜0メートルから490メートルを登ることになります。
礼文岳登山の様子に関しては、利尻山登山同様、ハレックス山の会の皆さんに別途報告していただきましょう。
ハレックス山の会の3名を登山口で降ろし、私と妻はさらに北を目指します。かつて礼文島を観光で訪れたことのある青柳社員から「須古頓岬(スコトン岬)と澄海岬(スカイ岬)は是非訪れてみてください。特に澄海岬(スカイ岬)は絶対にお勧めです」と推薦を受けたので、この両地点を目指すことにしました。
スコトン岬へ向かう道と金田ノ岬へ向かう道が分岐する船泊(ふなどまり)あたりで、朝、採ってきた昆布を浜辺で干して乾燥している漁師のオッサンの姿を見掛けました。昆布を干しているところを間近で見られることなんて初めてのことなので、クルマを停めて、見学させてもらうことにしました。
礼文島は昆布、そして美味しい昆布をたくさん食べて育ったウニ、ホッケなどの海産物がたくさん獲れることで有名で、それらを加工したウニの一夜漬けやトロロコンブなどの昆布製品、ヌカぼっけやタコの珍味などが特産品になっています。中でも昆布。
昆布と言えば「利尻昆布」が有名ですが、実は礼文島の昆布のほうが質が高く、いい出汁が取れるのだとか。昨日、反省会を開いた利尻島鴛泊の漁師居酒屋『魚勝』の大将がそう言っていました。「利尻昆布」はブランド名として広く知られているだけで、実際は礼文島で採れた昆布も「利尻昆布」と称して販売されているものも多いそうで、『魚勝』の大将としては、利尻で昆布を採っている漁師としてはとても悔しいのだけれど、礼文島の昆布のほうが質が高いことを認めざるを得ない…と。プロの漁師が言うのですから、間違いのないことなんでしょう。それがこの昆布なんですね。
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朝、採ってきたばかりの生の昆布を触らせて貰ったのですが、とても肉厚で、持つとズッシリととても重いんです。長さが5メートルほどあるのですが、重量は軽く10kgを超えていそうです。喩えは適切ではないと思いますが、ゴムタイヤのような感じです。この肉厚の昆布を天日に曝して乾燥させると市販の昆布のように薄くなるのですが、もとが肉厚だけに、それがギュッと薄く固まるのですから、出汁の素となる旨味が凝縮されるのでしょう。なるほどなるほど。
漁師のオッサンによると、「今年も昆布のシーズンは終わりに近づいてきているのだとか」。虫に喰われたように端が欠けている昆布を見せながら、「この時期になると、こういう昆布が混じるようになってきた。これじゃあ等級が下がるから、高く売れない。もう今年のシーズンも終わりかな」とおっしゃっていました。
漁師のオッサンに礼を言い、さらにスコトン岬を目指します。ほどなくスコトン岬に到着。
スコトン岬(須古頓岬)は、礼文島北端にある岬です。“スコトン”という奇妙な響きの地名は、アイヌ語でス(夏の)コタン(集落)という意味なんだそうです。おそらく昔のアイヌの人達も夏の期間この島の北限の地に住んで、昆布やウニ等の海の幸を採り、暴風雪が吹きすさぶ厳寒の冬期には島の南の香深(フェリーターミナルがあるところ)あたりに移り住んでいたのではないでしょうか。基本的にアイヌは狩猟の民だったことから、こういう生活を送っていたと考えられます。きっと、その生活様式が地名になって残っているのでしょう。
スコトン岬の緯度は北緯45度27分51秒。宗谷岬は北緯45度31分22秒にあるので、実は宗谷岬の方が約3分31秒(距離にして約6,541m)北に位置します。以前は共に最北を名乗っていたのですが、測量の結果、宗谷岬のほうが「最北端」であると判明したため、その後スコトン岬は「最北限」を名乗るようになっていて、岬には「最北限のトイレ」、「最北限の売店」、「最北限のバス停」などがあります。(余談ですが、日本国政府の実効支配の及ぶ範囲内での最北端は、宗谷岬北西方にある弁天島の北緯45度31分35秒であり、さらに日本国政府が領有権を主張する範囲内での最北端は、択捉島のカモイワッカ岬の北緯45度33分28秒です)。
宗谷岬には私も若い頃に行って、岬の先端に立ったことがあるのですが、宗谷岬と異なり、海に突き出た岬であるため、周りの荒涼とした風景と重なり非常に趣のある岬となっています。私はこのスコトン岬のほうが“最果て”のイメージが強くあって、好きです。晴れた日には遠く樺太(サハリン)が望めるそうなのですが、この日は爽やかに晴れていたので、ジッと目を凝らして水平線のあたりを眺めてみたのですが、水平線上にあれが樺太なのかな…と思える黒い線が微かに見えているくらいで、残念ながらあれが樺太であるとの確証までは持てませんでした。
岬の先には海驢島(トド島)という無人島があって、運が良ければその島に生息するトドも見えるそうなのですが、こちらも残念ながら確認できませんでした。ちなみに、その海驢島(トド島)のさらに北には種島という無人島があります。
岬の真下には「民宿スコトン岬」があり、岬には「人が住んでいます。石を投げないでください」との看板が立っているのが笑えました。岬の先端に立つと、背後の一部(岬)と目の前の海驢島(トド島)を除き、ほぼ360度の大パノラマで海が広がっています。見渡す限りの水平線で、地球が丸いことを実感します。
岬にある「最北限の売店」の若い男性店員に呼び止められて、根昆布を試食させていただきました。この根昆布、昆布が岩につく根っこの部分を干したもので(と言うか、干した昆布のうち、形が不揃いなので、商品にするには切って捨てているような部分)、実はこちらのほうが昆布の旨味がより凝縮されていて、美味しいんだとか。ふつうの昆布(試食品)と食べ比べてみると、素人の私にだって、確かにその違いが分かります。根昆布のほうが旨味がより凝縮されていると言うか、濃厚なんです。口の中に旨味が残り、あとを引きそうになります。
男性店員によると、この根昆布は数量が限定されているため、観光バスでやって来たお客さんには試食をさせないんだそうです。ここに上がって来るまでの道で、2台の観光バスとすれ違いました。このところ人気の観光スポットになっているのか、礼文島の中は利尻島以上に観光バスが姿を見掛けます。今は観光バスが行ってしまった後で、空白の時間ができたかのように観光客の数が少なく、私達夫婦のほかは家族連れが一組だけです。ラッキーなタイミングで訪れたものです。
「これ、コッチャン(孫娘)にしゃぶらせたい。コッチャン、きっと喜ぶと思うよ」と妻も言うので、さっそく店内に入り、根昆布をお土産に買い求めました。店内にいたアイヌの方とおぼしき女性店員さん(違っていたら失礼にあたるので、アイヌの方ですか?…とは聞けませんでしたが)に、さらに昆布についての豆知識を詳しく教えていただきました。妻がその女性店員さんの話を聞いている中、私はさらに根昆布の試食をさせていただこうと、表の若い男性店員のところに行き、彼と話をしました。
聞くとこの男性店員クン、実は埼玉県に住む大学生で、「離島インターンシップ」なる企画に応募して、今年の夏休みの期間中、礼文島でアルバイトをしながら、いろいろと離島生活を楽しんでいるのだとか。最近は「離島インターンシップ」なんて企画があるのですね。
その彼によると、私達は本当に運がいいんだとか。何の運がいいかと言うと、天気。この礼文島最北端のスコトン岬は、この時期、ずっと天気が悪く、雨ばっかり降るのだそうです。前日もかなり強い雨が降って視界が悪く、スコトン岬の目と鼻の先にある海驢島(トド島)さえも見えなかったんだそうです。前日、利尻島は爽やかに晴れていたのですが、幅僅か19kmしか離れていない礼文島では雨が降っていたのですね。そう言えば、利尻山に登ったハレックス山の会の連中が、上からは礼文島のほうで雨が降っているのが見えたって言っていました。前日に訪れたお客様はとても気の毒でした…とその男性店員クンも言っていました。
ちなみに、その彼は礼文島にやって来た日が晴れただけで、あとはずっと雨。やっとこの日、晴れたって言っていました。ここでも驚異の「晴れ男」パワー全開です。もう“レジェンド晴れ男”と呼んで欲しい!(^^)d
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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