2016/04/25

『平成28年熊本地震』の特徴

『平成28年熊本地震』の本震と推定される4月16日未明のマグニチュード 7.3の大きな地震から1週間が過ぎ、今回の地震による被害の実態も徐々に明らかになってきました。余震はまだまだ続いているものの、マスコミの報道を見ても、鉄道や道路、ガス、水道、通信網…といった重要インフラの復旧に関する情報が多くなってきましたし、被災地に関する多くの情報も集まるようになってきました。また、私の身近でも熊本に救援に入ったという方がいらっしゃって、その方が実際に見た現地の様子も聞くことができています。

それらを総合してみると、今回の『平成28年熊本地震』は12年前に起きた『平成16年新潟中越地震』と非常によく似た地震被害であるということが判ってきました。地震発生直後、マスコミ各社の報道は、ともすれば東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)や阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)と比較して…という感じの報道がほとんどで、私も最初はそういうものなのか…と捉えていたところがありました。しかしながら、ちょっと違和感を感じていたのも事実で、様々な情報が集まってくるようになると、『新潟中越地震』との比較で考えたほうが極めて分かりやすい地震であることが判ってきました。

そもそもが地震発生のメカニズムが異なる「海溝型の地震」が引き起こした東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)と比較するのはナンセンスなことだということは判っていましたが、同じ「内陸型の地震」でも阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)ともちょっと異なるな…とも思っていました。それで、『平成16年新潟中越地震』を思い出してみると、かなり似通った部分を感じるようになってきました。

まず、それぞれの地震の規模、最大震度、震源の深さは以下のとおりです。

1995年1月 兵庫県南部地震  M7.3 最大震度7 震源の深さ約16km
2004年10月 新潟県中越地震  M6.8 最大震度7 震源の深さ約13km
2016年4月 熊本地震     M7.3 最大震度7 震源の深さ約12km
(参考)
2011年3月 東北地方太平洋沖地震 M9.0 最大震度7 震源の深さ約24km

熊本地震と新潟県中越地震はともに震源の深さが約12~13kmと似ているのがお分かりいただけると思います。地震の規模は熊本地震のほうがマグニチュード7.3と新潟県中越地震の6.8よりも数段大きいのですが、まぁ~規模の大きな地震であるという点は同じです。

次に一連の地震の中で震度5弱以上を観測した地震の回数を比較してみると

熊本地震では17回(4月14日21時26分頃~4月21日までの1週間)
新潟県中越地震では、震度5弱の地震が本震含め1週間の間に15回発生。
いっぽう、兵庫県南部地震では震度5弱以上の地震は本震のみで、余震では1回も観測されていません。(最大震度は4までです)
 気象庁『震度データベース検索』を使用しました。

最大震度6弱以上に絞ると
熊本地震では7回(うち2回が震度7)
新潟県中越地震が4回(うち1回が震度7)

震度6弱以上の地震が1週間の間に7回(うち震度7が2回)も襲ったというのが今回の熊本地震の最大の特徴ですが、これも新潟県中越地震と非常に似通っています。ちなみに、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震ですが、本震発生後1週間以内に観測された最大震度5弱以上の余震の回数は6強が1回、5強が2回、5弱が13回の計16回でした。これは震源域が沖合の海底であること、そして震源域が極めて広い範囲に及んでいることも大きいのですが、被害自体が地震そのものの揺れによる被害ではなかったということを意味しているように思えます。

これが今回の『平成28年熊本地震』の最大の特徴であると言えるのではないでしょうか。すなわち、少なくとも一連の地震発生において震度5弱以上の強い揺れをもたらした地震(本震及び余震)の回数は、観測史上で「巨大地震」と言われているどの地震よりも多いということです。そして、今回の『平成28年熊本地震』は『平成16年新潟中越地震』の規模をさらに大きくしたような地震であったということが言えようかと思います。

被災地の被害状況に関しても、今回の『平成28年熊本地震』と『平成16年新潟中越地震』は極めて似通ったようなところがあります。

『平成16年新潟中越地震』は2004年(平成16年)10月23日17時56分頃、新潟県中越地方を震源としてマグニチュード6.8、震源の深さ13kmで発生した直下型の地震です。この地震では、山間部でおよそ3,800ヶ所に及ぶ大規模な土砂災害が相次ぎ、高齢者や子供を中心に68人(うち家屋の倒壊や土砂崩れによる直接死が16人)の尊い命が失われたほか、重軽傷者は約4,800人、住宅の全壊3,175棟、半壊13,810棟、一部損壊105,682棟…と、住宅の被害は12万棟余りに上りました。また、山崩れや土砂崩れなどで鉄道と道路は至る所で分断されました。この年、2004年は、7月13日に新潟県地方で大雨による大規模な水害が起こり(平成16年7月新潟・福島豪雨)、また夏から秋にかけて台風が過去最多の10個も上陸するという例年にない多雨に見舞われた年でもありました。もともと地滑りの発生しやすい地形であったところに、7月の豪雨と度重なる台風の襲来による降雨によって地盤が相当緩んでいて、それにより地震が発生した際におよそ3,800ヶ所という途方もなく多くの土砂崩れを引き起こしたと考えられています。続きは『おちゃめ日記』に書いておりますので、是非そちらのほうをご覧ください。
  『新潟県中越地震から10年(その1)』 
  『新潟県中越地震から10年(その2)』 
 
今回の『平成28年熊本地震』もこの原稿を書いている4月22日の段階で、43人の尊い命が失われたほか、重軽傷者は約1,100人。住宅の全壊は熊本県内だけで1,526棟、半壊1,407棟、一部損壊2,338棟、被害分類が未確定な住宅を含めると計約11,000棟と、住宅の被害は1万棟以上に上っています。また、山崩れや土砂崩れなどで九州新幹線や九州自動車道をはじめ鉄道と道路が至る所で分断されました。熊本県も阿蘇山の火山灰が堆積した土壌であることから地滑りの発生しやすい地形であり、随所で大規模な地滑りが発生しています。まだ調査中でその箇所数は特定できていませんが、おそらく新潟県中越地震の時の3,800ヶ所という数に匹敵するような箇所で地滑りが発生しているのではないかと想像しています。『平成16年新潟中越地震』で甚大な被害を出して有名となったところが「山古志村」でしたが、今回の『平成28年熊本地震』でも「南阿蘇村」という鄙びた山村が甚大な被害を受けました。

このように、今回の『平成28年熊本地震』と『平成16年新潟中越地震』は極めて似通ったところがあると私は思っています。なので、今後の復旧・復興にあたっても、『平成16年新潟中越地震』の時の経験と言うか教訓がより活きる地震であると私は思っています。10月の下旬に発生した『平成16年新潟中越地震』では迫り来る雪の季節が問題になりましたが、今回の『平成28年熊本地震』では、ヒタヒタと迫り来る出水期(梅雨のシーズン)が大いに気になるところです。

熊本では4月20日(水)以降は震度5弱以上の地震は発生していないようですが、小さな規模の余震は引き続き発生しています。『平成16年新潟県中越地震』では本震から2ヶ月以上経ってから震度5弱という規模の大きな余震が発生しました。終息しつつあると思っても予断は絶対に禁物です。くれぐれもお気をつけ下さい。

1日も早くこの一連の地震が終息することを願っています。


【追記】
今回の熊本地震では14日の震度7の前震では倒壊を免れた家屋も、16日の本震で次々と崩れ落ちるという事象が数多く発生しました。これは前震で倒壊を免れた建物も、建物内部では見えないところで柱や梁の繋ぎ目部分が緩み致命的なダメージを受けていて、そこに本震の揺れが襲ったことから一気に倒壊したと考えられます。調べてみると、現在の建物の耐震設計基準は1度の大きな揺れしか想定していないのだそうです。と言うことは、これだけ強い揺れの地震が続いたわけですから、この先、さほど強い地震でなくても崩壊する家屋が続出する危険性が大きいということです。

十分にお気をつけ下さい。