2016/08/15
大人のお泊まり遠足2016 in 京都祇園祭 (その5)
鴨川の西岸には京都や大阪の夏の風物詩の一つである「納涼床(のうりょうゆか、のうりょうどこ)」が並んでいます。納涼床は「川床」とも言います。この「川床」、大阪の北浜では「かわゆか」、京都の鴨川沿いでは「ゆか」、同じ京都でも上流の貴船や高雄では「かわどこ」と読むのが一般的です。納涼床は料理店や茶屋、料理旅館が川の上や、屋外で川のよく見える位置に座敷を作り、料理を提供するもので、京都市内中心部では二条から五条にかけての鴨川西岸に90軒ほどの店が並びます。昔、冷房がなかった時代、京都人は鴨川の河原に将棋を並べて、一時の涼を楽しむ知恵を生み出しました。納涼床はその伝統を今に伝えるもので、自然の川風に吹かれて夏の京都の夜に美味しい料理とお酒を楽しむという趣向です。
今日の宿泊場所はそういう料理旅館の1軒、五条大橋から見ると一番手前に見える『鶴清』さんです。昭和の初期に建造された木造3階建て、総檜造りの建物は実に深い味わいがあります。もちろん、夜の宴会は納涼床で行います。
京料理・鴨川納涼床「鶴清」公式サイト
この京都の鴨川の納涼床、過去に何度か見掛けたことがあり、「いいなぁ〜〜、いつかはあんなところで食べてみたいな‥‥」と思っていたのですが、それが今回実現しちゃいました。雨天の場合は屋内のお座敷に場所を移しての宴会になるということなので、天気が大いに気になるところです。空を見上げると、夕方が近づくにつれて徐々に雲が多くなって、しまいにはほぼ空一面が雲に覆われる状態になったのですが、雲の高度は高く、うん、これなら天気はこのままもちそうです。しかも、一面の雲に覆われて直射日光に照らされていないぶん気温もさほど上がっておらず、「メチャメチャ蒸し暑い」というイメージの強い京都とは思えない感じです。自然の川風に吹かれて夏の京都の涼を楽しむには、まさにピッタリの環境と言えます。これも“晴れ男”のレジェンドの神通力と言うものでしょうか‥‥。宴会が楽しみでワクワクしてきます。私達9名が『鶴清』に到着したすぐ直後に、午前中の診療を終えて大阪から駆け付けたトシエさん(皮膚科開業医)も合流し、これで今回の参加者10名全員が揃いました。
下の写真は『鶴清』の2階の部屋から撮ったものです。鴨川を隔てて東山のなだらかな連峰がすぐそばに迫る静かな佇まいが堪りません。写真の左端の奥に写っているこんもりした山は比叡山です。鴨川沿いの遊歩道を散歩する人、ジョギングする人、ベンチに座って仲睦まじく語り合う若いカップル…、いいなぁ~~~。川の中では長い竿と毛バリでアユ(鮎)を釣っている人の姿もあります。それだけ鴨川には清流が流れているってことですよね。
これまであまり言ったことがなかったのですが、実は私、高校時代、京都の国立大学へ進学することに強く憧れていました。結局は、前述のように社会科、特に歴史というどうしようもなく苦手な科目があり、その苦手を克服できる見通しもまったく立たなかったことから、その京都への憧れを断腸の思いで諦めて、受験科目に社会科が必要なかった広島の国立大学を受験しました。ただ、私立は京都の大学を受験しました。幸いどちらも合格したのですが、大いに悩んだ末に広島の国立大学に進学しました。今ではその時に自分の下した選択は正しかったと思い、一つも後悔はしておりませんが、京都の街への憧れだけは、正直、今も残っています。この鴨川の河畔の風景をボォ~~~っと眺めながら、若い頃の京都の街への憧れを思い出していました。
ちなみに、そのくらい社会科、特に歴史を苦手科目にしていた私ですが、還暦を過ぎた今では歴史をいろいろと調べることが大好きで、知識も相当に増えていますので、考えてみれば不思議なものです。
宴会は18時からだったので、それまでの間、めいめい風呂に入って汗を流したり、烏丸や河原町あたりにお土産を買いに出掛けたりして時間を過ごしました。16時を過ぎたあたりから「川床」の準備が始まり、ただの板張りの床が、立派な宴会場に姿を変えていきます。17時を過ぎたあたりから1組目のお客様の宴会が始まりました。色とりどりの美しい夏の着物姿の女性の団体さんの姿もあります。おっ!、いかにも“京都の夏”って感じです。素晴らしい! どのお客様もこの納涼床で宴会を行い、その後、祇園祭の宵山に繰り出そうとしているのでしょう。
私達の宴会の開始は18時でした。開始した当初はまだまだ陽が残っていて、外は結構明るくて、屋外で開く宴会に違和感もあったのですが、陽が沈んでからは、雪洞(ボンボリ)の優しい灯りが「川床」で行う宴会の雰囲気を一気に盛り上げてくれます。鴨川の流れで大気が冷却されるのか、頬に当たる微かな風もヒンヤリして気持ちいいです。最高です!
京都の鴨川の河畔の納涼床での宴会です。本当は静かに静かに大人の態度や所作で楽しまないといけないものなのかもしれませんが、大変に申し訳ないことに、そういうことは私達『大人の修学旅行』のオッサン、オバハン10人組には頼まれても無理な相談というものです。すぐにいつものようにバカ話の花が咲き、大声での笑い声が溢れます。おそらく、この日『鶴清』の川床で一番騒がしかったのは、間違いなく私達10名ではなかったか…と思っています。それもちょうど真ん中の席で…。今後、出禁(出入り禁止)にならなきゃあいいけど(笑)
出されるお料理は旬の素材の味わいを活かして仕上げる、彩りあざやかな京懐石。で、この時期の京都の料理に欠かせない定番の食材といえばハモ(鱧)! ハモ(鱧)は沿岸部に生息する全長1m以上にもなるウナギ目・ハモ科に分類される大型の肉食魚です。ウナギ目の魚ですが、ウナギと比べると口が大きく歯が鋭いのが特徴です。紀伊水道、瀬戸内海、九州などが主な産地で、京都では、生活に密着した食材で、スーパーマーケットでもハモ(鱧)の湯引きなどは広く販売されていて、決して安くはありませんが季節の食材としてふつうに扱われています。特に祇園祭が開催される夏の暑い季節に長いものを食べると精力がつくとして、ウナギ(鰻)と同様に食べる風習があり、夏の京都の味覚の代表的なものとして珍重されています。内陸部の(海に面していない)京都で何故海で獲れる魚であるハモ(鱧)が夏の京都の味覚の代表的なものになっているのかという疑問に対してですが、ハモ(鱧)は生命力が非常に強い魚で、内陸の京都にも生きたままの状態で運んで来れることができるのだそうです。この生命力の強さから、京都で盛んに食べられるようになったと言われています。
ちなみに、関東地方など東日本ではハモ(鱧)は京料理を提供する高級日本料理店以外ではあまり目にかかることはなく、馴染みの薄い食材です。こういうところ、関西と関東の食文化の大きな違いを感じます。この関西と関東の食文化の違いで言えば、東日本、特に関東地方でメチャメチャ高い人気を誇るマグロ(鮪)、実は意外なことに関西地方ではさほど食べないんですよね。食べるとしたらマグロ(鮪)よりブリ(鰤)です! (これって私の好みによる印象なのかなぁ~~~)
この時期の川魚の代表といえばアユ(鮎)。鮎の塩焼きが出されたのですが、ここで私達10名の間で話題になったのが鮎の塩焼きの正しい食べ方。すなわち、「箸を使うだけで鮎の骨をスルリと抜くことができるかどうか」ってやつです。やり方は、まず、尾びれを手で持って外し、次に箸で身の部分をまんべんなく押さえてほぐします。十分にほぐれたと思ったら、頭の部分を持って軽く捻るようにして頭を胴と切り離します。そのままゆっくりと途中で切れないように慎重に頭を引き出します。こうすると、スルリと骨が抜けるのですが、これがなかなかに難しい。私達10名の中で出来たのは半分の5名だけで、私は失敗した5名に含まれていました。魚好きの私としては、ちょっと悔しい!
トシエさんがヨシキに向かって、「ヨシキくぅ~ん、そこの鴨川に飛び込んで、鵜飼の鵜になって、もう一匹獲ってきて!」 おそらく、トシエさんも骨抜きに失敗したのでしょう(笑)
ホント贅沢な宴会を楽しませていただきました。この時期の京都に来ないと味わえない、これぞ『大人の修学旅行』とも言うべき宴会でした。大満足です。
美味しいお料理とお酒を堪能できたところで、いよいよ祇園祭の宵山に出掛けることにしました。時刻は20時30分。まだまだ京都の街は宵山見物の人でいっぱいの筈です。
……(その6)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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