2017/02/27
銀の匙Silver Spoon第2章(その4)
出張2日目(2月16日)です。今日は午後13時30分から私の講演があります。早朝、露天風呂に入り、心身をシャキッとして、迎えを待ちます。
中標津の地名のうち、標津とはアイヌ民族が当地を流れる川のことを「シ・ペッ」(アイヌ語で大きい川または本流の意味)と呼び、それを地名に使っていたことに由来します。その大きい川、「シ・ペッ」が標津川で、私が宿泊したトーヨーグランドホテルのすぐ横を流れています。二級河川で「大きい川」と呼ばれるほどの大河ではありませんが、このあたりに住んでいたアイヌの人達にとっては大河に思えたのでしょうね、きっと。
ホテルの玄関前に池があって、その水面から湯気が上がっています。中を覗くと鯉が泳いでいます。この池には温泉が湧き出ているのか、引き込まれているのでしょうね。ホテルのフロントの人にお聞きすると、タンチョウ鶴などの野鳥もこの小さな池に訪れることがあるのだそうです。
私の講演は午後13時30分からなので、午前中は中標津町の南隣、別海町の西春別にある株式会社ウエストベースさんが運営するTMRセンターと最先端の搾乳ロボットを導入している株式会社オークリーファームさんの牧場を見学させていただくことにしました。
(その3)でも書きましたが、別海(べっかい)町の総面積は約1,320㎢。1つの町だけで東京23区を合わせた面積(621㎢)の2倍以上あります。しかも、町の大半は根釧台地の原野を切り開いた丘陵地帯で、山が少なくほぼ真っ平ら。北海道的な牧場風景が広がります。この広い大地の中で、約1万6000人の町民(人口密度は11.8人/㎢)と、人の8倍以上の約12万頭の牛さん達(牛の密度は90.9頭/㎢)が暮らしています。自治体別では全国1位の生乳生産量を誇り、年間生産量は43万トン。 高級アイスクリームの原料供給地として有名です。町名の由来は、アイヌ語の「ベッ・カイェ」(川の折れ曲がっているところ)からなのだそうです。山がなく、地平線まで広がる見渡す限りの牧草地帯には、ただただ圧倒されます。
有限会社ウエストベースが運営する西春別TMRセンターです。西春別TMRセンターは平成20年10月から供給を開始したTMRセンターです。構成員は17戸(うち13戸がFS飼養酪農家)。管理しているのは牧草地904ha、とうもろこし(デントコーン)畑353haの合計1,257haで、飼養頭数は約3,100頭(うち搾乳頭数は約2,100頭)。昨年(平成28年)の年間乳量は20,000トンと、このあたりでも最大規模を誇るTMRセンターです。75m(奥行き)×15m(幅)×3m(高さ)の巨大バンカーサイロを15基保有しています。また牧草収穫用に630馬力という巨大な自走式コンバインハーベスターも1台保有しています。
前日に見学させていただいた開陽D.A.I TMRセンターさんのバンカーサイロが62.0m(奥行き)×12,0m(幅)×2.7m(高さ)の大きさだったのですが、それを上回る75m(奥行き)×15m(幅)×3m(高さ)の超巨大バンカーサイロです。容量は3,375立方メートル。それが15基並んでいるので、全容量は約5万立方メートルもあります。壮観です。約5万立方メートルと言ってもあまりに大きすぎてイメージが掴みにくいと思いますので、分かりやすいものと比較してみます。オリンピック等で使用される競泳用のプールが50m(長さ)×25m(幅)×2 m(深さ)の2,500立方メートルなので、5万立方メートルと言うと、競泳用プール20個分に相当します。それくらいの大量の牧草が約3,100頭の乳牛が1年間に食べる量です。そして、その牧草が約20,000トンの生乳に生まれ変わります。
ここはJA西春別が民生安定事業により整備した西春別TMRセンターの貸与を受けて、有限会社ウエストベースがTMRセンターを運営しています。草地の管理は全て有限会社ウエストベースが行い、毎日のミキシングから配送、及び牧草収穫、糞尿散布作業は外部の協力会社に委託しています。
(その3)で、酪農という産業は、牧草をはじめとした飼料を原材料にして、それを乳牛という“生きている機械”で加工し、生乳という製品を作り出す産業だということを書かせていただきました。その意味で、生乳の原材料は乳牛の餌となる飼料です。製品である生乳の量も品質も、すべては餌となる飼料が鍵を握っていると言っても過言ではありません。その生乳の原材料の飼料を生産し、貯蔵しているのが地域のTMRセンターです。
(その2)の開陽D.A.I TMRセンターのところでも述べましたが、牛に与える飼料は、大まかに言って、繊維質の多い、生の牧草・乾草などの「粗飼料」と、繊維質の少ないトウモロコシ(デントコーン)などの穀類や植物油の絞りかす等をつかった「濃厚飼料」とに分けられます。文字通り、粗飼料に比べ濃厚飼料のほうが高カロリーです。高脂肪の乳を搾り取るため、粗飼料中心の酪農から、近年は濃厚飼料中心の酪農へと変ってきています。
牧草は乾燥させた乾草(かんそう)として与えるか、保存等のために密封し乳酸発酵させたサイレージとして与えます。かつては牧草を気密度の高い塔型サイロに入れて発酵させていたのですが、この方式は機械の故障が多発し、維持管理に多額の費用がかかることから廃れていき、現在では平面型のバンカーサイロ等が使用されるようになってきています。
なお、牛乳の味としては、緑色のままの牧草(牧草地に生えている状態の牧草)だけを食べさせた乳牛の乳はやや青臭みがあり、これを取り去るには乾草も食べさせなければなりません。また、牛乳の味には季節要因もあり、一般に夏場の方が飲み口がさっぱりしていますがコクは少な目です。また、このコク=タンパク質を牛乳に増やすためには、飼料にタンパク質を多く含む大豆、米、麦などの穀類を混ぜる必要があります。
ちょうどサイレージの積み出しを行っていました。下の右側の写真をご覧いただくとお分かりいただけますが、大型トラックにナンバープレートが取り付けられておりません。このトラックはこの西春別TMRセンターの構内だけを走る大型トラックです。ミキサー車と言われています。この後で出てくる濃厚飼料と混ぜ合わせるために荷台に設置された構造物が大きすぎて、一般公道を走行することができません。言ってみれば、この大型ミキサー車は工場のベルトコンベアのようなものです。その大型ミキサー車にこれまた大型の2台のタイヤショベル(タイヤの付いたショベルカー)で次々と出来上がったサイレージがバンカーサイロから積み込まれます。ちなみに、この大型のタイヤショベル、バンカーサイロに刈り取ってきた牧草やトウモロコシを詰め込む際にも使用する機械で、うず高く山のように積まれた牧草の上を踏み固める際にも大活躍するのだそうです。ちなみに、バンカーサイロでは牧草の上にビニールシートを被せて密封し、その上に漬物石のようにデッカイ古タイヤが置かれているのですが、そのデッカイ古タイヤもこのタイヤショベルで使った古タイヤのようです。
西春別TMRセンターでは14基の濃厚飼料の入った配合飼料タンクがあり、粗飼料(サイレージ)を積み込んだ大型トラック(ミキサー車)はその配合飼料タンクの下を通りながら、各種ミネラル等の濃厚飼料を適切な割合で混合し、乳牛に必要となる養分を十分供給できるように調整した乳牛用の飼料を作り上げていきます。
濃厚飼料と混ぜ合わされた粗飼料は飼料調整棟に運ばれ、ベルトコンベアに移し替えられます。
ベルトコンベアの先にあるのが「縦型圧縮梱包機」です。西春別TMRセンターでは上部から原料を投入する「縦型圧縮梱包機」を3基保有していて、TMR飼料を計量のうえロール状に圧縮し、梱包するということをやっています。「圧縮梱包」をすることにより、飼料の二次発酵を抑制し、TMR飼料の品質を損なうことなく、保存が可能になります。また、腐敗による損失も削減することができます。これにより、複数日分の飼料の同時配送・多品種同時配送が可能となるばかりでなく、衛生的で圧縮減容による効果的な運送・配送も可能としています。道路への飼料の飛散も防ぐことができ、汚れを少なくすることができます。
前述のように、これら毎日のミキシングから配送、及び牧草収穫、糞尿散布といった作業は外部の協力会社に委託しています。皆さん、専門のオペレーターさんなので、実に手際が良くて、感心しちゃいます。職人技って感じで、次々とギチギチに詰まったロール状に圧縮梱包された飼料が出来上がり、配送用のトラックに積み込まれていきます。
……(その5)に続きます。
中標津の地名のうち、標津とはアイヌ民族が当地を流れる川のことを「シ・ペッ」(アイヌ語で大きい川または本流の意味)と呼び、それを地名に使っていたことに由来します。その大きい川、「シ・ペッ」が標津川で、私が宿泊したトーヨーグランドホテルのすぐ横を流れています。二級河川で「大きい川」と呼ばれるほどの大河ではありませんが、このあたりに住んでいたアイヌの人達にとっては大河に思えたのでしょうね、きっと。
ホテルの玄関前に池があって、その水面から湯気が上がっています。中を覗くと鯉が泳いでいます。この池には温泉が湧き出ているのか、引き込まれているのでしょうね。ホテルのフロントの人にお聞きすると、タンチョウ鶴などの野鳥もこの小さな池に訪れることがあるのだそうです。
私の講演は午後13時30分からなので、午前中は中標津町の南隣、別海町の西春別にある株式会社ウエストベースさんが運営するTMRセンターと最先端の搾乳ロボットを導入している株式会社オークリーファームさんの牧場を見学させていただくことにしました。
(その3)でも書きましたが、別海(べっかい)町の総面積は約1,320㎢。1つの町だけで東京23区を合わせた面積(621㎢)の2倍以上あります。しかも、町の大半は根釧台地の原野を切り開いた丘陵地帯で、山が少なくほぼ真っ平ら。北海道的な牧場風景が広がります。この広い大地の中で、約1万6000人の町民(人口密度は11.8人/㎢)と、人の8倍以上の約12万頭の牛さん達(牛の密度は90.9頭/㎢)が暮らしています。自治体別では全国1位の生乳生産量を誇り、年間生産量は43万トン。 高級アイスクリームの原料供給地として有名です。町名の由来は、アイヌ語の「ベッ・カイェ」(川の折れ曲がっているところ)からなのだそうです。山がなく、地平線まで広がる見渡す限りの牧草地帯には、ただただ圧倒されます。
有限会社ウエストベースが運営する西春別TMRセンターです。西春別TMRセンターは平成20年10月から供給を開始したTMRセンターです。構成員は17戸(うち13戸がFS飼養酪農家)。管理しているのは牧草地904ha、とうもろこし(デントコーン)畑353haの合計1,257haで、飼養頭数は約3,100頭(うち搾乳頭数は約2,100頭)。昨年(平成28年)の年間乳量は20,000トンと、このあたりでも最大規模を誇るTMRセンターです。75m(奥行き)×15m(幅)×3m(高さ)の巨大バンカーサイロを15基保有しています。また牧草収穫用に630馬力という巨大な自走式コンバインハーベスターも1台保有しています。
前日に見学させていただいた開陽D.A.I TMRセンターさんのバンカーサイロが62.0m(奥行き)×12,0m(幅)×2.7m(高さ)の大きさだったのですが、それを上回る75m(奥行き)×15m(幅)×3m(高さ)の超巨大バンカーサイロです。容量は3,375立方メートル。それが15基並んでいるので、全容量は約5万立方メートルもあります。壮観です。約5万立方メートルと言ってもあまりに大きすぎてイメージが掴みにくいと思いますので、分かりやすいものと比較してみます。オリンピック等で使用される競泳用のプールが50m(長さ)×25m(幅)×2 m(深さ)の2,500立方メートルなので、5万立方メートルと言うと、競泳用プール20個分に相当します。それくらいの大量の牧草が約3,100頭の乳牛が1年間に食べる量です。そして、その牧草が約20,000トンの生乳に生まれ変わります。
ここはJA西春別が民生安定事業により整備した西春別TMRセンターの貸与を受けて、有限会社ウエストベースがTMRセンターを運営しています。草地の管理は全て有限会社ウエストベースが行い、毎日のミキシングから配送、及び牧草収穫、糞尿散布作業は外部の協力会社に委託しています。
(その3)で、酪農という産業は、牧草をはじめとした飼料を原材料にして、それを乳牛という“生きている機械”で加工し、生乳という製品を作り出す産業だということを書かせていただきました。その意味で、生乳の原材料は乳牛の餌となる飼料です。製品である生乳の量も品質も、すべては餌となる飼料が鍵を握っていると言っても過言ではありません。その生乳の原材料の飼料を生産し、貯蔵しているのが地域のTMRセンターです。
(その2)の開陽D.A.I TMRセンターのところでも述べましたが、牛に与える飼料は、大まかに言って、繊維質の多い、生の牧草・乾草などの「粗飼料」と、繊維質の少ないトウモロコシ(デントコーン)などの穀類や植物油の絞りかす等をつかった「濃厚飼料」とに分けられます。文字通り、粗飼料に比べ濃厚飼料のほうが高カロリーです。高脂肪の乳を搾り取るため、粗飼料中心の酪農から、近年は濃厚飼料中心の酪農へと変ってきています。
牧草は乾燥させた乾草(かんそう)として与えるか、保存等のために密封し乳酸発酵させたサイレージとして与えます。かつては牧草を気密度の高い塔型サイロに入れて発酵させていたのですが、この方式は機械の故障が多発し、維持管理に多額の費用がかかることから廃れていき、現在では平面型のバンカーサイロ等が使用されるようになってきています。
なお、牛乳の味としては、緑色のままの牧草(牧草地に生えている状態の牧草)だけを食べさせた乳牛の乳はやや青臭みがあり、これを取り去るには乾草も食べさせなければなりません。また、牛乳の味には季節要因もあり、一般に夏場の方が飲み口がさっぱりしていますがコクは少な目です。また、このコク=タンパク質を牛乳に増やすためには、飼料にタンパク質を多く含む大豆、米、麦などの穀類を混ぜる必要があります。
ちょうどサイレージの積み出しを行っていました。下の右側の写真をご覧いただくとお分かりいただけますが、大型トラックにナンバープレートが取り付けられておりません。このトラックはこの西春別TMRセンターの構内だけを走る大型トラックです。ミキサー車と言われています。この後で出てくる濃厚飼料と混ぜ合わせるために荷台に設置された構造物が大きすぎて、一般公道を走行することができません。言ってみれば、この大型ミキサー車は工場のベルトコンベアのようなものです。その大型ミキサー車にこれまた大型の2台のタイヤショベル(タイヤの付いたショベルカー)で次々と出来上がったサイレージがバンカーサイロから積み込まれます。ちなみに、この大型のタイヤショベル、バンカーサイロに刈り取ってきた牧草やトウモロコシを詰め込む際にも使用する機械で、うず高く山のように積まれた牧草の上を踏み固める際にも大活躍するのだそうです。ちなみに、バンカーサイロでは牧草の上にビニールシートを被せて密封し、その上に漬物石のようにデッカイ古タイヤが置かれているのですが、そのデッカイ古タイヤもこのタイヤショベルで使った古タイヤのようです。
西春別TMRセンターでは14基の濃厚飼料の入った配合飼料タンクがあり、粗飼料(サイレージ)を積み込んだ大型トラック(ミキサー車)はその配合飼料タンクの下を通りながら、各種ミネラル等の濃厚飼料を適切な割合で混合し、乳牛に必要となる養分を十分供給できるように調整した乳牛用の飼料を作り上げていきます。
濃厚飼料と混ぜ合わされた粗飼料は飼料調整棟に運ばれ、ベルトコンベアに移し替えられます。
ベルトコンベアの先にあるのが「縦型圧縮梱包機」です。西春別TMRセンターでは上部から原料を投入する「縦型圧縮梱包機」を3基保有していて、TMR飼料を計量のうえロール状に圧縮し、梱包するということをやっています。「圧縮梱包」をすることにより、飼料の二次発酵を抑制し、TMR飼料の品質を損なうことなく、保存が可能になります。また、腐敗による損失も削減することができます。これにより、複数日分の飼料の同時配送・多品種同時配送が可能となるばかりでなく、衛生的で圧縮減容による効果的な運送・配送も可能としています。道路への飼料の飛散も防ぐことができ、汚れを少なくすることができます。
前述のように、これら毎日のミキシングから配送、及び牧草収穫、糞尿散布といった作業は外部の協力会社に委託しています。皆さん、専門のオペレーターさんなので、実に手際が良くて、感心しちゃいます。職人技って感じで、次々とギチギチに詰まったロール状に圧縮梱包された飼料が出来上がり、配送用のトラックに積み込まれていきます。
……(その5)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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