2014/08/29

四国に記録的な大雨を降らせた動きの遅い台風は?

平成26年台風第11号は動きが遅かったことも加わって、四国に記録的な大雨を降らせた。このような時「こんな大雨は経験したことがない」と良く言われるが、本当に過去になかっただろうか。そこで、「動きの遅い台風」と「四国の記録的な大雨」をキイワードに過去の台風事例を当ってみた。

動きが遅い台風や、動きを止めてしまった台風はいくつもあり、四国に記録的な大雨を降らせた台風もいくつもある。この中から、特に際立った台風を2つ取り上げる。ただしこれは被害の大きさとは関係なく選んだ。

気象庁HPから日降水量の歴代全国ランキングを見ると、1位は高知県魚梁瀬の851.5mmで、これは平成23年台風第6号が7月19日にゆっくり四国沖を東進し、室戸市付近を通過した時であった。この日は6位(三重県宮川)と15位(徳島県福原旭)もランクインしており、四国と紀伊半島で記録的な雨が降ったことが判る。この台風があまりクローズアップされない理由は2つある。一つは、同年に紀伊半島に記録的な大雨と甚大な被害が発生した台風12号があったためこちらに焦点が移ってしまったこと。今一つは、四国は大雨の発生事例が全国で最も大きい地域であり、被害が軽微であったことから、話題にならなかったと思われる。現に気象庁HPの「災害をもたらした気象事例」に入っていない。

実は今年の台風第11号による四国の大雨はこの日雨量の歴代全国ランキングの順位を変えるほどではなかった。過去には、今回を凌ぐような激しい雨が降った例があったことがわかる。これが今回の大雨を大したことではなかったというものではなく、それぞれの地域の過去の記録的な大雨をもたらした事例をしっかりと記録し、これを教訓にしてほしいとの思いからである。

四国に記録的大雨を降らせた動きの遅い台風

さらに、このランキング表には、4位(香川県内海)と9位(徳島県剣山)に1976年9月11日に発生した値が入っている。これは昭和51年台風第17号がもたらした大雨である。九州の南西海上で10日午後から2日間程ほとんど停滞を続けた台風で、九州から中部地方にかけては、長期間にわたって台風と前線の影響を受け、8日~13日の総雨量が500~1,000mmに達し、四国地方では2,000mmに達した所もあった。

普段雨の少ない瀬戸内海の香川県小豆島の内海町で、11日に最大1時間雨量が95mm(この地の歴代1位)、日雨量は790mm(全国歴代4位)となり、この台風による総雨量は1,328mmに達した。平年の年間降水量(1099mm)を考えると、如何に記録的な豪雨であったか想像できるだろう。この豪雨によって、島内では、土石流や洪水で多数の人的被害や住家被害が発生した。

この内海での1時間雨量の時間経過を見ると、台風が九州の南海上に接近し速度を落とし始めた10日未明から雨が降り出し、11日未明から断続的に激しい雨が降り、次第に強さを増している。
そして21時までの1時間に95mmの猛烈な雨が降ったが、降り始めからの雨量が900mmを超える状況下で、このような短時間に猛烈な雨が降るのは極めて危険な降り方となり、土砂災害や洪水害が頻発することにつながったと思う。

四国に記録的大雨を降らせた動きの遅い台風_2

また、この日には剣山山頂にあった剣山測候所(今は廃止された)では、日雨量は726mm(全国歴代9位)に達し、総雨量1837.5mmを記録している。この他、徳島県、高知県のいくつかの観測所で総雨量は1300mmを超えていた。まさに記録破りの豪雨であった。

気象台の管轄ではないが、徳島県那賀町にある四国電力日早観測所では日雨量1114mmを記録した。この記録は当時としては全国1位の記録であったが、平成16年台風第10号のときに、同じ徳島県那賀町にある四国電力海川観測所で日雨量1317mmを観測し一位の記録が更新された。
残念ながらこのときの日早観測所の1時間雨量の記録が手元にないので、時間経過を示す図を作成できないが、一日中時間50mm程度の非常に激しい雨が降り続いたことになる。
なお、この台風による日早の総雨量は2781mmに達しており、これも極めて異常な値である。

このような記録的な大雨をもたらした台風の経路を改めて確認する。9月11日21時から12日9時までの12時間間隔の4枚の天気図を並べてみる。天気図上で台風は同心円状の等圧線となり、円形の等圧線の部分が台風の勢力下にあると見て良い。この4枚ともに九州南部は円形等圧線の中にあり、台風の勢力下に入り続けたことが読み取れる。台風は強い勢力を維持したままであったため、九州南部とその南の島々は、台風が停滞を続けている間ずっと暴風雨の中にあった。

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台風の動きを止めたのは、10日に北日本を通過した気圧の谷の後に、中国東北区に進んで来た大きな高気圧によって偏西風の流れはすっかり姿を消し、台風の行く手を塞ぐ形となってしまった。このため、太平洋高気圧の割れ目に沿って北上した台風第17号は3方向を高気圧に囲まれ、身動きできなくなった。行く手を塞いだ北の高気圧が東に移動した後に、偏西風の流れが南下し顕在化し、台風を日本海へと進めた。

台風が日本付近に来れば、速度を上げ北東進するといった、教科書に記述されるによな動きをする台風ばかりでない。それぞれの台風を取り巻く周囲の状況によって大きく異なるので、常に新しい進路予報で確認することが大切です。