2015/02/04
平成26年2月の関東甲信地方の大雪
平成26年2月7~8日と14日~15日に本州の南岸を発達しながら東北東または北東進した低気圧によって、関東甲信地方では記録的な大雪となった。
2月7~8日の南岸低気圧低気圧の通過による各地の最深積雪は、河口湖町で65㎝、甲府市と熊谷市で43㎝、千葉市中央区で33㎝、千代田区大手町では27㎝等となり、千葉市中央区では1966年の統計開始以来の最深となった。また、千代田区大手町では45年ぶりに25㎝を超えた。 一週間後の2月14日~15日の南岸低気圧の通過による各地の最深積雪は、河口湖町で143㎝、甲府市で114㎝、秩父市で98㎝、前橋市で73㎝、熊谷市で63㎝、横浜市で28㎝、千代田区大手町で27㎝等となり、関東甲信地方の宇都宮、前橋、熊谷、秩父、甲府市、河口湖町、軽井沢町、飯田市の8か所で統計開始以来の最深積雪を更新する記録的な大雪となった。
除雪対策等の備えも不十分な雪の多くない地域での連続した2回の記録的な大雪により、鉄道の運休や高速道路等の通行止め、航空機の欠航など交通機関にも大きな影響を及ぼした。特に、14~15日の被害は、全国で死者26人、重傷者118人、住家全半壊62棟、非住家400棟の大きな被害となった。関東甲信地方では、積雪による建物の破損、ビニールハウスや車庫の倒壊、着雪による電線の断線で停電などが各所で発生した。また、生活道路が積雪のため不通となり山間地の一部集落の孤立も発生した。さらに、この時に積もった雪が完全に消えたのは、秩父では3月3日、河口湖では3月19日と山間地はこの後遺症が長引く災害となった。
大雪をもたらした2事例の地上天気図を示す。
2つの低気圧の経路は、東シナ海や南西諸島近海で発生し、本州の南岸を東北東~北東に進んでいる。こうした経路を取る低気圧を南岸低気圧と言い、冬期から春先に現れると、関東地方では雪となる可能性が高くなるため、予報担当者が最も緊張する天気図パターンである。低気圧のコースや発達度合、関東内陸部の冷気の状態と低気圧が運び込む暖気の流入度合等をみて、雪になるか雨になるかの判断をするが、雪と雨の境界は微妙でわずか1℃の予想ずれが判断に響くため、判別に非常に神経を使う。
天気図中には12時間刻みの低気圧の中心位置を示し、それを矢印で連ねた経路を示したが、7~8日の低気圧は東北東進して、関東南沿岸を通過したのに対して、14~15日の低気圧の方は北東に進んで関東東部を通過している。2つの低気圧の発達度合を見ると、最初の低気圧の方がやや発達が大きかった程度である。しかし、後の低気圧の方が大雪となっているのは何故だろう。この違いは低気圧が運び込んだ暖気が後の低気圧の方が顕著であったためで、15日朝には、房総半島東部から茨城県の内陸を通過したのに伴って、関東東部沿岸地域に冬としては珍しい大雨を降らせており、多い所で150㎜を超えた。このような大雨を降らすほどの多量の水蒸気が運び込まれたため、関東西部や山梨県では、記録的な大雪となったものである。
2つの低気圧による積雪分布を見る。
上段の黒字がその時の最深積雪を示しており、下段の赤字は、1時間毎の積雪の差の合計(-となったときは省く)を示したもので、降雪量を示している。
7~9日は東京湾岸地域と内陸部の積雪の差はそれほど大きな開きはなかったが、14~16日の積雪は、東部は途中から雨に変わったため少ないが、西部は多い所で1mを超える記録的な積雪となっている。これは、東部で冬期としては珍しい大雨になったと同じように西部でも雨に換算すると100㎜前後の降水量を記録したため、終始雪であった地域は記録的な大雪となったものである。
この日の東京と秩父の降水量、積雪及び気温をグラフにしてみた。東京は14日早朝、気温が4℃から一気に2℃以下に降下しているが、この頃から雪が降り始め、夕方から積雪が増え始めている。そして15日1時に積雪27㎝を記録した頃には1時間5㎜前後の降水量を記録しているが、その後、雨が混じり始めたため、積雪が減少を始めている。気温を見ると、この頃から上昇を始めているが、雪の降り始めの気温に比べ、雨が混じり始めたときの気温はかなり低く0℃近かった。これは、上空に暖気が流入して、落下途中で雪が雨に変わったが、地表面付近には関東内陸から寒気が流れ出していたため、地表付近の気温は低いまま雨へと変化したものである。
この日の東京の観測を見ると、この時間帯に「凍雨」を観測している。これは、上空で雪が雨に変わったが、この雨が地表面付近の冷たい気層を落下中に雨滴の表面が凍ったために起きた現象である。こうした観測をすることは上空にかなりの暖気が送り込まれていたことを示している。
これを示すものがレーダーエコー図に見られた。東京レーダー、静岡レーダー、名古屋レーダーを赤丸で囲んだ。動画で見ると、この部分に円形の降雨強度が強い部分が見られる時間帯がある。この円形をした降雨強度の強い部分が現れるのは、上空で雪から雨に変わる融解層付近に見られる現象でブライトバンドと呼ばれるものであるが、東京で「凍雨」が観測された時間帯に、東京レーダーの周囲にブライドバンドが現れていた。
雨と雪の境界付近で降った雪は水分が多く重い雪となる。このことを東京と秩父の降水量と積雪の関係で比較してみると、都心部では雨10㎜に対して雪7㎝程度となっていたが、内陸部の秩父では、雪の降り始めから気温は0℃以下で経過しており、降水量の増加と積雪の増加はほぼ対応していることが判る。そして、秩父では雨10㎜に対して雪10㎝程度の関係であった。東京では、夜半を過ぎてから雨が混じったため、積雪は減少しているが、積もった雪の重みは更に重くなっていたであろう。
参考までに、甲府の状況も図にしてみた。甲府も降水を観測した時間帯には気温は0℃以下となっているので、終始雪が降っていたので、降水量ではなく積雪の差(1時間前との)を図にした。1時間に数㎝の積雪が続いており、除雪が間に合わない状況であったであろう。1日に1mに達する積雪となったこともあり、雪の重みによる災害が大きくなったと見られる。
今年も、1月30日に南岸低気圧の通過で都心部に積雪があった。うっすら積もった程度であるにも関わらず、多くの負傷者が出たことは残念である。雪の少ない地域だからこそ、まれに降る雪にどう行動すれば安全か、考えておいて欲しい。
予報では5日に、また南岸を進む低気圧によって関東地方は雪の予報となっている。南岸を低気圧が通過しやすい状況がその後も続くので、天気予報に留意して、雪への対策を考えてほしい。
2月7~8日の南岸低気圧低気圧の通過による各地の最深積雪は、河口湖町で65㎝、甲府市と熊谷市で43㎝、千葉市中央区で33㎝、千代田区大手町では27㎝等となり、千葉市中央区では1966年の統計開始以来の最深となった。また、千代田区大手町では45年ぶりに25㎝を超えた。 一週間後の2月14日~15日の南岸低気圧の通過による各地の最深積雪は、河口湖町で143㎝、甲府市で114㎝、秩父市で98㎝、前橋市で73㎝、熊谷市で63㎝、横浜市で28㎝、千代田区大手町で27㎝等となり、関東甲信地方の宇都宮、前橋、熊谷、秩父、甲府市、河口湖町、軽井沢町、飯田市の8か所で統計開始以来の最深積雪を更新する記録的な大雪となった。
除雪対策等の備えも不十分な雪の多くない地域での連続した2回の記録的な大雪により、鉄道の運休や高速道路等の通行止め、航空機の欠航など交通機関にも大きな影響を及ぼした。特に、14~15日の被害は、全国で死者26人、重傷者118人、住家全半壊62棟、非住家400棟の大きな被害となった。関東甲信地方では、積雪による建物の破損、ビニールハウスや車庫の倒壊、着雪による電線の断線で停電などが各所で発生した。また、生活道路が積雪のため不通となり山間地の一部集落の孤立も発生した。さらに、この時に積もった雪が完全に消えたのは、秩父では3月3日、河口湖では3月19日と山間地はこの後遺症が長引く災害となった。
大雪をもたらした2事例の地上天気図を示す。
2つの低気圧の経路は、東シナ海や南西諸島近海で発生し、本州の南岸を東北東~北東に進んでいる。こうした経路を取る低気圧を南岸低気圧と言い、冬期から春先に現れると、関東地方では雪となる可能性が高くなるため、予報担当者が最も緊張する天気図パターンである。低気圧のコースや発達度合、関東内陸部の冷気の状態と低気圧が運び込む暖気の流入度合等をみて、雪になるか雨になるかの判断をするが、雪と雨の境界は微妙でわずか1℃の予想ずれが判断に響くため、判別に非常に神経を使う。
天気図中には12時間刻みの低気圧の中心位置を示し、それを矢印で連ねた経路を示したが、7~8日の低気圧は東北東進して、関東南沿岸を通過したのに対して、14~15日の低気圧の方は北東に進んで関東東部を通過している。2つの低気圧の発達度合を見ると、最初の低気圧の方がやや発達が大きかった程度である。しかし、後の低気圧の方が大雪となっているのは何故だろう。この違いは低気圧が運び込んだ暖気が後の低気圧の方が顕著であったためで、15日朝には、房総半島東部から茨城県の内陸を通過したのに伴って、関東東部沿岸地域に冬としては珍しい大雨を降らせており、多い所で150㎜を超えた。このような大雨を降らすほどの多量の水蒸気が運び込まれたため、関東西部や山梨県では、記録的な大雪となったものである。
2つの低気圧による積雪分布を見る。
上段の黒字がその時の最深積雪を示しており、下段の赤字は、1時間毎の積雪の差の合計(-となったときは省く)を示したもので、降雪量を示している。
7~9日は東京湾岸地域と内陸部の積雪の差はそれほど大きな開きはなかったが、14~16日の積雪は、東部は途中から雨に変わったため少ないが、西部は多い所で1mを超える記録的な積雪となっている。これは、東部で冬期としては珍しい大雨になったと同じように西部でも雨に換算すると100㎜前後の降水量を記録したため、終始雪であった地域は記録的な大雪となったものである。
この日の東京と秩父の降水量、積雪及び気温をグラフにしてみた。東京は14日早朝、気温が4℃から一気に2℃以下に降下しているが、この頃から雪が降り始め、夕方から積雪が増え始めている。そして15日1時に積雪27㎝を記録した頃には1時間5㎜前後の降水量を記録しているが、その後、雨が混じり始めたため、積雪が減少を始めている。気温を見ると、この頃から上昇を始めているが、雪の降り始めの気温に比べ、雨が混じり始めたときの気温はかなり低く0℃近かった。これは、上空に暖気が流入して、落下途中で雪が雨に変わったが、地表面付近には関東内陸から寒気が流れ出していたため、地表付近の気温は低いまま雨へと変化したものである。
この日の東京の観測を見ると、この時間帯に「凍雨」を観測している。これは、上空で雪が雨に変わったが、この雨が地表面付近の冷たい気層を落下中に雨滴の表面が凍ったために起きた現象である。こうした観測をすることは上空にかなりの暖気が送り込まれていたことを示している。
これを示すものがレーダーエコー図に見られた。東京レーダー、静岡レーダー、名古屋レーダーを赤丸で囲んだ。動画で見ると、この部分に円形の降雨強度が強い部分が見られる時間帯がある。この円形をした降雨強度の強い部分が現れるのは、上空で雪から雨に変わる融解層付近に見られる現象でブライトバンドと呼ばれるものであるが、東京で「凍雨」が観測された時間帯に、東京レーダーの周囲にブライドバンドが現れていた。
雨と雪の境界付近で降った雪は水分が多く重い雪となる。このことを東京と秩父の降水量と積雪の関係で比較してみると、都心部では雨10㎜に対して雪7㎝程度となっていたが、内陸部の秩父では、雪の降り始めから気温は0℃以下で経過しており、降水量の増加と積雪の増加はほぼ対応していることが判る。そして、秩父では雨10㎜に対して雪10㎝程度の関係であった。東京では、夜半を過ぎてから雨が混じったため、積雪は減少しているが、積もった雪の重みは更に重くなっていたであろう。
参考までに、甲府の状況も図にしてみた。甲府も降水を観測した時間帯には気温は0℃以下となっているので、終始雪が降っていたので、降水量ではなく積雪の差(1時間前との)を図にした。1時間に数㎝の積雪が続いており、除雪が間に合わない状況であったであろう。1日に1mに達する積雪となったこともあり、雪の重みによる災害が大きくなったと見られる。
今年も、1月30日に南岸低気圧の通過で都心部に積雪があった。うっすら積もった程度であるにも関わらず、多くの負傷者が出たことは残念である。雪の少ない地域だからこそ、まれに降る雪にどう行動すれば安全か、考えておいて欲しい。
予報では5日に、また南岸を進む低気圧によって関東地方は雪の予報となっている。南岸を低気圧が通過しやすい状況がその後も続くので、天気予報に留意して、雪への対策を考えてほしい。
執筆者
気象庁OB
市澤成介