2015/02/13
ならいの土手
冬季の伊豆大島付近は西高東低の冬型気圧配置になると、関東平野を吹き降りる寒気が北東の風となることが多い。しかし、この北東の風は、伊豆大島の南に位置する新島や神津島には届かず、これらの島では強い西風になっていることが多い。このような風の変化は、中部山岳地帯から伊豆半島の地形によって現れるものである。
2月9日朝、北海道の北に進んだ発達した低気圧から南東に延びる前線が日本列島の東海上に進み、この後を追うように強い寒気が流れ込んで、冬型の気圧配置になってきた。このため、関東地方は北風が強まり寒い朝となった。この北風が伊豆大島付近では北東から東の風となっていた。一方、静岡県沿岸は、西風となっており、新島や神津島ではこの西風が吹き抜けている。冬の季節風は中部山岳地帯の北側から関東平野に流れ込むものと、山岳地帯の西側から東海地方を吹き抜けるものとに分かれる。この二つの流れが再び合流する部分に伊豆諸島が位置しているが、伊豆半島が西風を遮る形で南北に伸びているため、伊豆大島は関東平野を吹き降りた北風の領域に当たっている。伊豆大島に現れた北東の風と、新島に現れた西風とのぶつかる部分に風の収束線ができ、雲(積雲)列ができる。この様子をアメダスの風観測資料に衛星画像を重ねた図で見る。関東平野の部分の北風と静岡県沿岸の西風がぶつかってできた収束線を太い白破線で示した。この収束線の北側に雲が帯となって東北東に伸びている。より鮮明な衛星画像は後で示すのでここでは、この位置に雲列が確認できることを見ていただきたい。ところで、この雲列は北回りの風が強いと南東走行に、西風が強いと西走向に延びることが多い。
少し離れた所からは、この雲列が土手のように見えることから「ならいの土手」と呼ばれる。
「ならい」とは、北西からの冬の季節風をさす風の地方名で,東日本の太平洋側(三陸海岸から紀伊半島東側まで)の各地で用いられていて、地方によって風向が異なる。西風を指す地域もあれば、北風を指す地域もあり、北東の風を指す地域もある。伊豆諸島については、西風を表現しているとしているものと、北東風と表現しているものと混在しているようだ。ただ、土手がはっきり見えるのは南側の西風の領域が多いので、ここでは「ならい」は西風を指しているように思える。
この雲列付近では風の急変が起こり、波が高くなっているので、注意を喚起する意味で言い伝えられて いるものである。
9日朝の可視画像で、この付近の様子を改めてみると、伊豆半島の東岸から伊豆大島を通って東南東に延びる雲の帯が見られる。日本海には寒気による筋状の雲が全体を覆っており、強い寒気がはん濫している様子を捉えている。日本海側の各地はこの雲が覆っているが、関東平野は北部中心に雲がなく晴れている。一方、若狭湾付近から関ヶ原を抜けて伊勢湾付近を経て南東にのびる雲があるが、この雪雲のため、東海道新幹線が関ケ原付近で減速運転することとなった。太平洋側に位置する名古屋周辺では、この関ヶ原を抜けて雪雲が流れ込むためである。
改めて、伊豆大島付近を見ると、この部分にかかっている雲列の南側では雲がなく、西嶋や神津島は晴れている。一方、雲列の北側に位置する神奈川県では雲がかかっている。この帯状の雲が発達し積乱雲となり、雲頂部分の雲が上空の西南西の風に流されて広がっているもので、レーダーでは一部に降水エコーが広がっている。地上観測では、横浜では一時雪が舞っており、この雲列の帯の下に当たる伊豆大島や、熱海市網代では雨を観測していた。
この日の「ならいの土手」は長続きしなかったが、この北風と西風の境界にできるこの雲列は風の弱まりと共に変形し、時には収束線上に小さな低気圧を作り、房総半島や関東南部に雨を降らせることがある。天気は西から変化するというが、ここにできる小さな低気圧の影響は伊豆半島より東側だけに現れる。
そんな形で関東地方の天気が崩れた例があった。2日前の7日夕方に、伊豆諸島付近に小さな低気圧ができ、これが房総半島をかすめて北北東に進んだため、関東東部で雨となった例である。7日9時の可視画像では、伊豆諸島から南東方向に延びる雲列がある。一本の雲帯ではないが、この雲の発生も伊豆諸島付近の風の収束によってできたものである。寒気が弱まり形状がくずれている状態である。これが、15時の可視画像では伊豆諸島から関東南部に丸みを持った雲域にまとまっている。三宅島の西に小さな低気圧の中心ができつつある。この時のレーダーによると、小さな低気圧の北側を中心に降水域がまとまっている。この6時間後の21時には雨域は北北東に進んで房総半島に広がっている。低気圧がまとまりながら進んだためである。
最近の数値予報モデルでは、こうした小さい低気圧の発生も予想できるようになり、狭い地域に現れる天気変化も比較的よく表現できるようになった。天気予報で関東地方だけに雨が付くようなときには、伊豆諸島付近に小さな低気圧の発生を予想している場合がある。天気予報を使うとき、どのような理由で雨を予想しているかを考えては如何か。
2月9日朝、北海道の北に進んだ発達した低気圧から南東に延びる前線が日本列島の東海上に進み、この後を追うように強い寒気が流れ込んで、冬型の気圧配置になってきた。このため、関東地方は北風が強まり寒い朝となった。この北風が伊豆大島付近では北東から東の風となっていた。一方、静岡県沿岸は、西風となっており、新島や神津島ではこの西風が吹き抜けている。冬の季節風は中部山岳地帯の北側から関東平野に流れ込むものと、山岳地帯の西側から東海地方を吹き抜けるものとに分かれる。この二つの流れが再び合流する部分に伊豆諸島が位置しているが、伊豆半島が西風を遮る形で南北に伸びているため、伊豆大島は関東平野を吹き降りた北風の領域に当たっている。伊豆大島に現れた北東の風と、新島に現れた西風とのぶつかる部分に風の収束線ができ、雲(積雲)列ができる。この様子をアメダスの風観測資料に衛星画像を重ねた図で見る。関東平野の部分の北風と静岡県沿岸の西風がぶつかってできた収束線を太い白破線で示した。この収束線の北側に雲が帯となって東北東に伸びている。より鮮明な衛星画像は後で示すのでここでは、この位置に雲列が確認できることを見ていただきたい。ところで、この雲列は北回りの風が強いと南東走行に、西風が強いと西走向に延びることが多い。
少し離れた所からは、この雲列が土手のように見えることから「ならいの土手」と呼ばれる。
「ならい」とは、北西からの冬の季節風をさす風の地方名で,東日本の太平洋側(三陸海岸から紀伊半島東側まで)の各地で用いられていて、地方によって風向が異なる。西風を指す地域もあれば、北風を指す地域もあり、北東の風を指す地域もある。伊豆諸島については、西風を表現しているとしているものと、北東風と表現しているものと混在しているようだ。ただ、土手がはっきり見えるのは南側の西風の領域が多いので、ここでは「ならい」は西風を指しているように思える。
この雲列付近では風の急変が起こり、波が高くなっているので、注意を喚起する意味で言い伝えられて いるものである。
9日朝の可視画像で、この付近の様子を改めてみると、伊豆半島の東岸から伊豆大島を通って東南東に延びる雲の帯が見られる。日本海には寒気による筋状の雲が全体を覆っており、強い寒気がはん濫している様子を捉えている。日本海側の各地はこの雲が覆っているが、関東平野は北部中心に雲がなく晴れている。一方、若狭湾付近から関ヶ原を抜けて伊勢湾付近を経て南東にのびる雲があるが、この雪雲のため、東海道新幹線が関ケ原付近で減速運転することとなった。太平洋側に位置する名古屋周辺では、この関ヶ原を抜けて雪雲が流れ込むためである。
改めて、伊豆大島付近を見ると、この部分にかかっている雲列の南側では雲がなく、西嶋や神津島は晴れている。一方、雲列の北側に位置する神奈川県では雲がかかっている。この帯状の雲が発達し積乱雲となり、雲頂部分の雲が上空の西南西の風に流されて広がっているもので、レーダーでは一部に降水エコーが広がっている。地上観測では、横浜では一時雪が舞っており、この雲列の帯の下に当たる伊豆大島や、熱海市網代では雨を観測していた。
この日の「ならいの土手」は長続きしなかったが、この北風と西風の境界にできるこの雲列は風の弱まりと共に変形し、時には収束線上に小さな低気圧を作り、房総半島や関東南部に雨を降らせることがある。天気は西から変化するというが、ここにできる小さな低気圧の影響は伊豆半島より東側だけに現れる。
そんな形で関東地方の天気が崩れた例があった。2日前の7日夕方に、伊豆諸島付近に小さな低気圧ができ、これが房総半島をかすめて北北東に進んだため、関東東部で雨となった例である。7日9時の可視画像では、伊豆諸島から南東方向に延びる雲列がある。一本の雲帯ではないが、この雲の発生も伊豆諸島付近の風の収束によってできたものである。寒気が弱まり形状がくずれている状態である。これが、15時の可視画像では伊豆諸島から関東南部に丸みを持った雲域にまとまっている。三宅島の西に小さな低気圧の中心ができつつある。この時のレーダーによると、小さな低気圧の北側を中心に降水域がまとまっている。この6時間後の21時には雨域は北北東に進んで房総半島に広がっている。低気圧がまとまりながら進んだためである。
最近の数値予報モデルでは、こうした小さい低気圧の発生も予想できるようになり、狭い地域に現れる天気変化も比較的よく表現できるようになった。天気予報で関東地方だけに雨が付くようなときには、伊豆諸島付近に小さな低気圧の発生を予想している場合がある。天気予報を使うとき、どのような理由で雨を予想しているかを考えては如何か。
執筆者
気象庁OB
市澤成介