2015/04/03
寒暖の変動の大きかった3月
今年3月の東京の月平均気温は10.3℃で平年より1.6℃も高く、観測開始以来の歴代8位の高温であった。同様に最高気温は15.5℃で平年より1.9℃高く、最低気温は5.8℃で平年より1.4℃高かった。
そこで、3月の東京における日平均気温、日最高気温、日最低気温の変化をグラフにしてみると、全体として高めに経過しているが、寒暖の差の大きい1か月であったことが見えてきた。
3月に入って寒暖を繰り返しながら順調に気温の上昇が見られたが、10日に北日本で急速に発達した低気圧に向かって大陸から強烈な寒気が日本列島に南下したため、11日朝の東京は氷点下の冷え込みとなった。10日9時の地上天気図は北日本の太平洋側と日本海に発達中の低気圧があり、これらが1つにまとまってさらに発達し、冬型気圧配置が強まっていた。この寒の戻りで3日程強い冷え込みが続いたが、その後は再び順調に昇温が見られ、21日鹿児島、熊本で桜の開花があり、22日には四国、東海でも開花し、23日には関東地方の東京、横浜で桜が開花した。東京は平年より3日早く、昨年より2日早い開花であった。強い寒の戻りがあったが全体としては気温が高めに経過したことが早い開花を迎えたのだろう。
しかし、日本付近に暖気を呼び込んだ低気圧が北日本で一つにまとまり発達すると、東日本や西日本は強い北風に変わって真冬並みの寒気が入ってきた。23日9時の地上天気図では、北海道を中心にして北海道の西と北海道の南東の低気圧が反時計回りに移動しており、これが一つにまとまり発達した。この寒の戻りで、東京郊外では氷も張る程の冷え込みとなり、関東や東海地方に到達した桜の開花前線は足踏みしてしまった。桜も咲き春の到来が実感できるようになっての寒の戻りは厳しく、体調を崩した方も多かったのではなかろうか。
その後、強い寒気が抜けた26日頃から遅れた春を取り戻すかのように気温は急上昇し、東京は3月30日の最高気温が23.6℃と、東京の3月の最高気温としては歴代10位を記録した。31日には群馬県館林で25.5℃、埼玉県熊谷で25.0℃など関東地方でも夏日を記録したところがでた。この暖かさで関東地方各地の桜は28日~30日に一気に開花となって、一足早く開花していた東京では30日には満開(平年より5日早く、昨年より1日早い)となった。
「春は3日の晴れなし」といった諺を聞いたことがあると思うが、今年の3月の寒暖の変動は半月程度の周期で繰り返しており、短周期の天気変化より週間規模の変動によって起こったもので、この諺とはかなり異なる変動であった。
日本付近の上層の大気の流れが西から東へと順調に流れる状態では、3、4日に一度、低気圧が通過する形となり、諺にあるような短周期の天気変化が現れるが、上空の大気の流れが大きく南北に変動する形になると、天気変化が遅くなり、晴天の日が続いたり、曇雨天の日が続いたりするようになる。気温も暖かい日々が続いたり、冷たい日々が続いたりするようになる。
このような状況が現れる理由は色々考えられるが、一つには北半球規模での南北の温度差が小さくなると、偏西風と呼ばれる西風が弱まり、西から東への流れの中に、所々で南北へ蛇行する流れが起こりやすくなる。この蛇行する流れは東西方向の動きが遅く、一部地域には持続的に暖気を送り込み、一部地域には持続的に寒気を運び込む状況を作る。こうした状況が現れ易くなるのも温暖化に関連していると考えられる。
長期予報によると関東地方では気温は高めに経過するが、3月に見られた半月程度の周期での寒暖の変動が続くようで、4月第2週には低気圧や前線の影響で、平年に比べ曇りや雨の日が多く、第1週よりかなり気温が低くなるとしている。その後、第3週からは平年のような晴れの天気が多くなるとしている。
東京中心に見てきたが、全国的に3月がどのような天候状況であったかもふれておこう。
東京では2回の寒の戻りがあったが、気象庁HPにある統計資料を見ると全国的に現れたもので、地域別の気温変動でも11日頃と23日頃にはっきりした低温の時期が見られる。南西諸島や西日本では顕著な低温が見られたが、北日本や東日本は変動が大きいものの、平年から見れば高温の時期が2回あったと言える変化で、殊に、北日本では2月半ばからの高温傾向が続き、3月は平年を下回った日が一日もなく高温で経過した様子が見られる。暖かくて良かったわけではない。高温をもたらしたのは、北日本を低気圧が頻繁に通過したためで、雨や雪の日が多く、日照時間も少ない不順な天候であった。(気象庁HP掲載の図を引用)
月平均の状態を示す気温の平年偏差図を見ると、3月で最も特徴的なことは、北海道はほとんどの地点で3月の月平均気温が観測開始以来の第一位を更新する記録的な高温で、殊に、オホーツク海沿岸地域を中心に月平均気温は平年より3℃以上高くなった。 (気象庁発表資料「3月の天候」より引用)
北日本は過去に例を見ないような高温状態が続いている。しかし、今年のように平年からの大きなずれは、いつまでも続くわけではなく、揺り戻しがあると思った方が良い。北海道はまだ植物の生育が十分に進んでいないが、このような高温は多少なりとも植物に影響が出ていると思われる。早まった植物の生育に寒気の揺り戻しほど怖いものはない。
東日本や西日本では、3月から4月のこの時期は植物の生育に重要な時期にあたるので、気温の変動があまり大きいのは好ましいことではない。北日本もこれから植物の生育が進む時期を迎える。この地域も今後の天候に十分留意していただきたい。
気象庁がこの時期に「霜注意報」を発表するが、野菜の生育や果樹の芽吹きの時期に低温が現れると、新芽が凍枯死することがあるための呼びかけをするものである。「霜注意報」は晴天の日の明け方の冷え込みで、植物の生育に支障をきたすような温度が予想される場合に発表されるが、長期に及ぶ低温については別途、低温に関する情報を発表し、警戒を呼び掛けることもある。こうした情報にも留意して、適切な低温対策を講じられるよう願いたい。
最後になるが、今年は冬から春の始まりにかけて、北日本を中心に顕著な高温傾向と、全国的な寒暖の変動の大きさが眼に付いた。今後も北日本を中心とした天候の推移を見守る必要があろう。できれば、あまり変動の大きくない天候経過をしてほしいものである。
そこで、3月の東京における日平均気温、日最高気温、日最低気温の変化をグラフにしてみると、全体として高めに経過しているが、寒暖の差の大きい1か月であったことが見えてきた。
3月に入って寒暖を繰り返しながら順調に気温の上昇が見られたが、10日に北日本で急速に発達した低気圧に向かって大陸から強烈な寒気が日本列島に南下したため、11日朝の東京は氷点下の冷え込みとなった。10日9時の地上天気図は北日本の太平洋側と日本海に発達中の低気圧があり、これらが1つにまとまってさらに発達し、冬型気圧配置が強まっていた。この寒の戻りで3日程強い冷え込みが続いたが、その後は再び順調に昇温が見られ、21日鹿児島、熊本で桜の開花があり、22日には四国、東海でも開花し、23日には関東地方の東京、横浜で桜が開花した。東京は平年より3日早く、昨年より2日早い開花であった。強い寒の戻りがあったが全体としては気温が高めに経過したことが早い開花を迎えたのだろう。
しかし、日本付近に暖気を呼び込んだ低気圧が北日本で一つにまとまり発達すると、東日本や西日本は強い北風に変わって真冬並みの寒気が入ってきた。23日9時の地上天気図では、北海道を中心にして北海道の西と北海道の南東の低気圧が反時計回りに移動しており、これが一つにまとまり発達した。この寒の戻りで、東京郊外では氷も張る程の冷え込みとなり、関東や東海地方に到達した桜の開花前線は足踏みしてしまった。桜も咲き春の到来が実感できるようになっての寒の戻りは厳しく、体調を崩した方も多かったのではなかろうか。
その後、強い寒気が抜けた26日頃から遅れた春を取り戻すかのように気温は急上昇し、東京は3月30日の最高気温が23.6℃と、東京の3月の最高気温としては歴代10位を記録した。31日には群馬県館林で25.5℃、埼玉県熊谷で25.0℃など関東地方でも夏日を記録したところがでた。この暖かさで関東地方各地の桜は28日~30日に一気に開花となって、一足早く開花していた東京では30日には満開(平年より5日早く、昨年より1日早い)となった。
「春は3日の晴れなし」といった諺を聞いたことがあると思うが、今年の3月の寒暖の変動は半月程度の周期で繰り返しており、短周期の天気変化より週間規模の変動によって起こったもので、この諺とはかなり異なる変動であった。
日本付近の上層の大気の流れが西から東へと順調に流れる状態では、3、4日に一度、低気圧が通過する形となり、諺にあるような短周期の天気変化が現れるが、上空の大気の流れが大きく南北に変動する形になると、天気変化が遅くなり、晴天の日が続いたり、曇雨天の日が続いたりするようになる。気温も暖かい日々が続いたり、冷たい日々が続いたりするようになる。
このような状況が現れる理由は色々考えられるが、一つには北半球規模での南北の温度差が小さくなると、偏西風と呼ばれる西風が弱まり、西から東への流れの中に、所々で南北へ蛇行する流れが起こりやすくなる。この蛇行する流れは東西方向の動きが遅く、一部地域には持続的に暖気を送り込み、一部地域には持続的に寒気を運び込む状況を作る。こうした状況が現れ易くなるのも温暖化に関連していると考えられる。
長期予報によると関東地方では気温は高めに経過するが、3月に見られた半月程度の周期での寒暖の変動が続くようで、4月第2週には低気圧や前線の影響で、平年に比べ曇りや雨の日が多く、第1週よりかなり気温が低くなるとしている。その後、第3週からは平年のような晴れの天気が多くなるとしている。
東京中心に見てきたが、全国的に3月がどのような天候状況であったかもふれておこう。
東京では2回の寒の戻りがあったが、気象庁HPにある統計資料を見ると全国的に現れたもので、地域別の気温変動でも11日頃と23日頃にはっきりした低温の時期が見られる。南西諸島や西日本では顕著な低温が見られたが、北日本や東日本は変動が大きいものの、平年から見れば高温の時期が2回あったと言える変化で、殊に、北日本では2月半ばからの高温傾向が続き、3月は平年を下回った日が一日もなく高温で経過した様子が見られる。暖かくて良かったわけではない。高温をもたらしたのは、北日本を低気圧が頻繁に通過したためで、雨や雪の日が多く、日照時間も少ない不順な天候であった。(気象庁HP掲載の図を引用)
月平均の状態を示す気温の平年偏差図を見ると、3月で最も特徴的なことは、北海道はほとんどの地点で3月の月平均気温が観測開始以来の第一位を更新する記録的な高温で、殊に、オホーツク海沿岸地域を中心に月平均気温は平年より3℃以上高くなった。 (気象庁発表資料「3月の天候」より引用)
北日本は過去に例を見ないような高温状態が続いている。しかし、今年のように平年からの大きなずれは、いつまでも続くわけではなく、揺り戻しがあると思った方が良い。北海道はまだ植物の生育が十分に進んでいないが、このような高温は多少なりとも植物に影響が出ていると思われる。早まった植物の生育に寒気の揺り戻しほど怖いものはない。
東日本や西日本では、3月から4月のこの時期は植物の生育に重要な時期にあたるので、気温の変動があまり大きいのは好ましいことではない。北日本もこれから植物の生育が進む時期を迎える。この地域も今後の天候に十分留意していただきたい。
気象庁がこの時期に「霜注意報」を発表するが、野菜の生育や果樹の芽吹きの時期に低温が現れると、新芽が凍枯死することがあるための呼びかけをするものである。「霜注意報」は晴天の日の明け方の冷え込みで、植物の生育に支障をきたすような温度が予想される場合に発表されるが、長期に及ぶ低温については別途、低温に関する情報を発表し、警戒を呼び掛けることもある。こうした情報にも留意して、適切な低温対策を講じられるよう願いたい。
最後になるが、今年は冬から春の始まりにかけて、北日本を中心に顕著な高温傾向と、全国的な寒暖の変動の大きさが眼に付いた。今後も北日本を中心とした天候の推移を見守る必要があろう。できれば、あまり変動の大きくない天候経過をしてほしいものである。
執筆者
気象庁OB
市澤成介