2015/09/18

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害

2015年9月7日3時日本の南海上に発生した台風第18号は、北上を続け9日10時過ぎに愛知県知多半島に上陸し、東海・北陸地方を経て日本海に進み、夜には温帯低気圧に変わった。この動きに合わせて、関東地方には、台風(低気圧)に向かって南から湿潤な気流の流入が続き、線状の降雨域が掛かり続けた。このため、栃木県を中心に記録的な大雨となり、この大雨域を流下する鬼怒川が茨城県常総市で氾濫し、甚大な被害が発生した。

ここでは、この記録的な雨についてみる。まず、3時間刻みのレーダーエコー図で関東地方とその周辺域の様子を見る。

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害_1


台風が上陸直前の9日9時には、台風の中心を取り巻くように強い雨雲があり、東側の部分で静岡県にかかる部分は円弧状をしていた。台風が上陸し北上するに従って、静岡県に掛かっていた円弧状をした強い降雨域はゆっくり東進しながら直線的な形状に変わり、9日夕方からは東京湾周辺から栃木県に向かって南北に延びる形で停滞を続けた。相模灘方面から雨雲が途切れることなく関東平野に流れ込み、関東北部の山地の影響を受け雨雲はさらに強化した。それぞれの時間の強雨域を見ると、強弱の繰り返しがあるが、流れ込の軸は常に栃木県に向かっており、この軸は茨城県に流下する鬼怒川に沿っているように見える。

この強い雨雲が掛かり続けた栃木県鹿沼市の1時間雨量の時間経過を見ると、9日夕方から10日早朝にかけて、1時間30㎜以上の雨が断続している様子が見える。この図に示した期間では500㎜弱であるが、7日から降り続いた雨は600㎜近くに達していた。

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害_2


鹿沼における9日の日雨量は325.5㎜に達し、この観測点のこれまでの日最大雨量を1.79倍も上回る記録的な値となった。このほか日光市今市でもこれまでの記録の1.44倍の366.5㎜を観測するなど、栃木県中部から北部にかけて記録的な雨となったところがあった。

この記録的な大雨によって、鬼怒川の水位もこれまでの記録を大幅に上回るものとなった。茨城県常総市にある鬼怒川水海道水位観測所の水位の記録を図にしてみた。

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害_3


これまでの水位は2001年台風第5号時に記録した5.63mが最高で、2011年台風第15号時にも5.17mを記録している。これらの値と比較しても、今回の出水が如何に桁違いであるかわかるであろう。

このように、栃木県で記録的な大雨があれば、その雨水はすべて下流の茨城県へと流下する。今回の雨は、これまでの最大雨量を大幅に上回る異常な状況であったため、鬼怒川が氾濫する最悪の事態となったと言える。

このように栃木県での記録的な大雨により、茨城点で洪水被害が増大した事例が他にもある。平成10年に那須地方を襲った豪雨である。平成10年の場合は、那須高原で日雨量607㎜とそれまでのその地の最大日雨量の3倍を記録し、8月26日~31日迄の6日間に1254㎜を記録した。まさに桁違いの豪雨であった。那須岳周辺に集中した記録的な大雨によって栃木県、福島県を中心に土砂災害や洪水被害が多発し死者行方不明者22名に及ぶ大惨事となった。この時、この那須岳周辺に降った記録的な大雨は那珂川を流下し、茨城県水戸市等に洪水被害をもたらしている。

この2つの事例での栃木県内の降雨記録を比較して見る。まず、総雨量の分布図によると、共に大雨域は線状(帯状といった方が良いかもしれない)に延びているが、今回の大雨域が関東平野中央部を南南東から北北西方向に延びているのに対して、平成10年の強雨域は神奈川県西部から栃木県に延びている。これは南海上からの気流の流れ込みが異なると、大雨の降る場所が変わることを示していると言える。

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害_4


次に、記録的な大雨となった地点の観測値を比較する。平成10年の場合は、1時間雨量が80㎜を超える猛烈な雨を伴った地点が2か所であったが、今回は最大で60㎜前後であった。この違いが今回の土砂災害が比較的少なかったことに繋がったかも知れない。日雨量は、那須高原の607㎜を除けばどちらもほぼ同じ程度であり、大雨の続いた期間は平成10年の方が長く、強雨域が次第にずれていた。なお、この表に示した1日~5日は其の日数の合計雨量の最大を表している。

栃木県の記録的な大雨と茨城県の水害_5


2つの大雨事例でわかるように、記録的な大雨を記録する領域は全県に及ぶのではなく、限られた範囲で発生するものである。記録的な大雨となった地域が違ったことは、河川の流域の違いとなって現れる。今回は鬼怒川流域に洪水をもたらし、平成 10年は那珂川流域に洪水をもたらしたように変わってくる。
このことは、大雨域を正確に捉えることによって、どの流域が洪水の危険度が高まるか把握できるので、各地の気象台では自分の担当する領域内に降る雨だけでなく、領域外の上流部の雨の状況も監視し、必要な情報を提供している。台風などにより、大雨が予想された時は、地元の気象台が発表する警報や情報に留意して頂きたい。

最後に、今回こんな記録的な大雨によっても私の町は被害がなかった。だから、今後も私の街には大雨被害はないと思うのは危険です。次には別の地域に記録的な大雨をもたらすかも知れないのです。常に、災害への備えを忘れないでほしい。