2014/10/03

自治体における気象災害対応の重要課題   (自治体は集中豪雨にどう備えるか)

1.集中豪雨にどう備えるかは、自治体の重要課題
地震災害と違って、気象災害は、一般的に、被害軽減を目的とした事前対応のための猶予時間を持つ事が出来ると考えられている。
災害から住民の生命を守る責務を持つ地方自治体にとって、昨今の気象災害の特徴的誘因である「集中豪雨」に対し、猶予時間をどう確保し、その中で、どう備えるかは、 喫緊の重要課題であると思われる。
この課題について、主として自治体の立場から検討して見たい。

2.事前防災行動の意義
国土交通省は、気象災害予兆の感知から実際に災害が発生するまでの猶予時間を活用して人的被害を軽減するため、米国がハリケーンの高潮・高波による浸水災害対処のために開発した事前防災行動計画(タイムライン)の考え方を日本の気象災害に応用する事を推奨している。
毎年のように、気象災害による被害発生に苦しめられ、その事後処理的な救助活動に追われている地方自治体にとって、事前防災行動(タイムライン)の考え方は、魅力的であり、検討する価値が十分あると考える。

3.事前防災行動の成否の決め手
日本で発生する各種気象災害を相手に、事前防災行動(タイムライン)を効果的に実行するには、大きな課題があると思われる。
事後の対応と事前の対応との決定的違いは、「予測の要否」である。
事後の対応では、災害は現実のものになっており、災害発生の時期場所等についての予測は必要ないが、事前対応においては、その成否は予測精度に懸かっていると云っても過言ではない位、予測の重要性が高い。
タイムラインを日本の気象災害に適用するためには、如何なる災害が、特に、台風による直接災害だけでなく、前線性の集中豪雨災害が、いつ、どこに発生するかを予測する事が重要課題になる。
日本の災害予測は、ハリケーン災害の予測と違って、遥かに複雑であり、素人ながら、その難しさは想像できる。

一方、自治体の立場から、この事を考えると、様々な問題が浮かんでくる。事前行動の重要性は理解しても、人や物を動かせば、それだけ費用がかかる。自治体だけでなく、関係機関を動かす場合、費用の問題を無視できない。
この段階で、災害救助法の適用はあり得ないから、自治体の負担という事になる。
それでも、その結果、住民の生命を守る事が出来れば、問題にはならない。
昨今、「空振り覚悟」という言葉が躍っているが、費用の心配をする人はいない。
自治体の防災責任者は、出来るだけ無駄な費用は使いたくないし、使ったとしても、議会や住民に説明できるだけの空振りの正当な理由が必要と考える。
また、住民避難は、経済活動の中断を意味するので、中断によって生じる経済的損失を被った住民からは、当然、空振りに対する苦情が寄せられるだろう。
首長選挙が近い場合、空振りによる苦情を無視できないかもしれない。
更に、今後の防災行政を進めていくに当たり、住民が行政の行為を「狼少年」視するようになる事を恐れる気持ち働く。

多くの自治体は、やる事をやった上での空振りなら仕方がないが、何も努力せずに、簡単に空振り覚悟の決断をする事は、容認出来ないと考えている。
このことから、事前防災行動を実行するに当たっては、気象災害に関する的確な予測の実施が、一層、重要になってくると思われる。

3.現在の危機レベルの判定と将来の気象災害発生の予測
事前防災行動のためには、気象災害の予測判定を適時適切に実施する事が極めて重要という事は既に述べた。
災害の総合商社という異名を持つ台風の接近を例にとり、自治体が実施する意志決定の手順を説明する。
自治体は、台風の勢力拡大、移動をフォローしつつ、台風がもたらす危機レベルの現状判定を適宜のタイミングで実施し、判定した危機レベルに基づき、「情報所態勢」「指揮所態勢」「現場活動態勢」の中から、状況の緊急度に適合した本部の態勢を選択する。
自治体は、気象情報と前兆現象を分析しながら、気象災害の発生(災害の種類、発生の時期・場所、発生公算とインパクト等)を予測する。
この分析判断は、時間経過とともに継続的に実施し、その都度、予測内容を修正する。
自治体は、災害の種類・規模、発生の時期場所、公算が、ある程度の確度で予測できる段階になった場合は、予測される災害の種類・規模、発生の時期場所に適合した、事前防災行動を実施し、被害軽減に努める。

4.事前防災行動のための猶予時間の確保
行動には、それなりの重さがあり、関係組織が多くなれば、それだけ実行に時間が懸かると云う事を理解しなければならない。
自治体が、事前防災行動の実施を決定してから、関係組織を集めて指示し、調整し、其々の組織が行動を準備し、現場に移動し、防災行動に取りかかり、住民を動かし、所定の成果を収めるためには、相当の時間が必要である。
現場の事前防災行動は、住民の混乱回避のため、夜間を避ける配慮も必要である。
以上を考慮すると、自治体は早目の判断を実施して相当の猶予時間を確保する必要がある。自治体にとって、相当の猶予時間とは、どの程度の時間を指すと考えたらよいであろうか。私の経験から結論的に申し上げると、関係機関を包括した行動を行う場合、最小限24時間(昼間12時間)は必要と考える。

5.民間気象会社への期待
問題は、24時間前の「分析」で、集中豪雨発生の見極め、発生の時期・場所、危険度(公算とインパクト)を、どの程度の確度で予測できるか、という事である。
民間気象会社が、自治体ニーズに応えると云う事は、こういう問題に対し適切な解答を提示するという意味である。
行政がおかれている「空振りを簡単には容認できない」という厳しい現実を理解した上で、我々、民間気象会社がやるべき事は、24時間前に、支援対象自治体地域における気象災害、なかんずく集中豪雨の発生を予測する能力の開発である。
気象の素人である事を恐れず申し上げるなら、空間と時間を限定し、メカニズムと過去の事例を参考にしながら、その地域における集中豪雨の発生をモデル化し、パターン予測する方法を確立することが出来るのではないかと考える。
それにより、精度は別にして、自治体のニーズである早目の決断をサポートする道が開かれるのではないだろうか。専門家の皆さんのご叱声を賜りたい。

民間気象会社は、自治体が気象庁の警報発表を待たずに早目の決断をする場合、集中豪雨発生の蓋然性について、ここまでの予測が出来るという「線」を自治体に対し、示す事が必要である。
そこで示された蓋然性の評価(ゼロと100を除いた、その間のグレイの濃淡)に基づき、予測を行動に結び付けるのは行政の責任であると考える。
自治体としては、そこまで努力すれば、空振りは厭わないという気持ちになるのではないだろうか。
その付近に、民間気象会社として挑戦すべき目標が存在するのではないだろうか?



以上