2016/03/14
自治体の災害対応マネジメント実務の参考①
はじめに
1 新たな災害対応マネジメント手法の開発の必要性
都内某区役所庁舎に、「区政は区民を幸福にするドメインである」という標語が掲げられています。地域住民の幸福実現は、地方自治体が行政を通じて実現しようとする目的(ビジョン)です。「住民が地域社会で幸福に暮らせるかどうか」は、地方自治体の「行政マネジメント」の手腕に掛かっていると思います。
災害対応においても同じことが云えます。わが国では、これまで各地で発生した、
地震・津波、豪雨・台風等の自然災害により、多大の人的被害を、繰り返し被ってきました。災害が切迫している場合の「住民の生命財産の安全確保」は、地方自治体の「災害対応マネジメント」の手腕に掛かっています。災害を経験した多くの自治体では、「災害対応マネジメントがこれまで通りで良いのか」と問題を感じている職員が、少なからず、存在しているのではないでしょうか。
今後も自然災害の脅威に曝される可能性がある地方自治体にとって、災害対応業務のマネジメント手法を確立し、そこで規定する戦略や業務手法を管理者だけでなく、
実務を担う全職員に普及徹底することは、喫緊の課題であると考えております。
以上のような問題意識で、勢いに任せて、「マネジメント実務の参考」を書きあげました。自ら読み返して、文章の冗長さに気付きました。自分が経験したことを伝えるために解りやすく、なるべく具体的に記述したつもりです。このテーマに関心のある方は、強い意志で最後まで読んでいただけたら幸いです。
2 災害時のマネジメントを担う地方自治体組織の現状
災害対応マネジメントの在り方を考察するにあたっては、地方自治体の災害対策組織の特性を考慮する必要があります。
地方自治体の災害対策組織の特性を二つ取り上げます。一つは、ハブ型組織という特性です。中心に災害対策本部が位置し、その外周に自治体と共同して災害対策活動を行う関係機関等が位置しています。本部と関係機関の間は、命令服従の指揮関係ではなく、協力関係で結ばれています。外周組織は、夫々、固有のミッションと行動慣習を持ち、災害対策本部の指揮調整を受けて自己の役割を決定します。状況によって、災対本部の意図を確認して、そこから自らの役割を類推して自律的に行動します。 もう一つは、ハブ組織の中央に位置する災害対策本部の特性です。本部長を頂点とするピラミッド組織ですが、平時の役所の慣習をそのまま引き継ぎ、集団による意志決定体制をとっています。最終的な意志決定は本部員で構成される「本部会議」で行います。また、本部自体が災害時に設置される臨時組織であることから、OJT等で鍛えられたプロ集団ではなく、危機対応のアマチュア集団です。
以上の組織特性を踏まえ、災害対応マネジメントの在り方を考える必要があります。
地方自治体のマネジメントの現場について、次のような意識調査結果があります。
管理者に期待される「妥協を許されないミッションの追求」「文脈と将来予測に立脚した判断と実行」「トリアージの決断」等は、どれをとっても、マネジメントの対象に対する深い理解が必要な、片手間の対応では達成できない重要な仕事です。管理者が、組織特性を踏まえつつ、仕事環境がもたらす様々な障害に阻害されることなく、「各種事象の関係性(原因と結果)」を繋ぎ合わせながら期待された役割を果たすためには、「周到な事前準備」「明確な戦略」「確固としたフレームワーク」「スケジュールンによる統制」「外部との情報共有と連携の確保」等に関する工夫が、特に重要です。
3 災害対応マネジメントのフレームワーク
確固としたマネジメントのフレームワークを構築することは、マネジャーがミッションを見失わずに仕事を続けることをサポートする大変役に立つ手法です。
別紙PDF:自治体の風水害対応マネジメントのフレームワーク(概要)
フレームワークを構築するために、やるべき事は二つあります。
一つは、地方自治体が行う災害対応業務プロセスを体系整理することです。
自治体が行う災害対応業務プロセスは、「プランニング」「危機対応」「評価」「改善」のPDCAサイクルを基本に構成されます。PDCAサイクルを廻す具体的プロセスを展開することは、フレームワークづくりの重要な思考段階です。そのためには、平時から、危機が顕在化して行く過程における、状況の評価・プランニング・意思決定・行動・評価改善と云った災害対応手順を具体化する必要があります。このプロセスは、様々な危機対応に対し共通性を有していますから、業務処理の訓練やシミュレーションを反復し、業務の標準化を進めていくことが大切です。
二つ目は、災害対応事業を細分化し、時間軸に沿って事業領域を展開することです。
災害対策は、タイミングが重要です。時機を失した対策は、効果を期待できません。「必要な対策を、必要な時期に」というのが、災害対策の鉄則です。事業の順序を決め、事業領域を展開する際には、この原則の重要性は、増大します。
事業展開の内容・順序は、災害の種類によって異なります。夫々の災害が発生・拡大する様相を分析して、「何を」「いつ」の判断を実施する必要があります。
最終的には、いくつかの事業展開パターンに整理することができると思います。
マネジメントのフレームワークは、以上の二つの体系を使って、マトリクス構造をもって構築する事が出来ます。
横軸は災害対応業務プロセス体系であり、縦軸は災害対応事業体系です。
このマトリクス基盤の上に、各事業領域で処理すべきPDCAサイクルの災害対応業務が展開されます。
マネジメントに当たって、マトリクスの縦横管理が基本的に重要となります。
マトリクス管理の一つが、事業領域管理です。事業領域は、危機顕在化過程に連動して設定されています。この判断によって災害対応事業を開始するタイミングや組織態勢を決定づけることになります。危機の変化を的確に認知して組織の事業領域を宣言する仕組みと管理責任体制を明確にすることが重要になります。
マトリクス管理のもう一つが、プロセス管理です。
業務プロセスは、インプットをアウトプットに変える過程です。
PDCAサイクルは、様々な業務プロセスで構成されています。一連の業務が、ミッション達成という一貫した思想の下に、論理的に、且つシームレスに実施されるためには、プロセス管理が大変重要です。
管理者は、顕在化する危機に対応し、組織の災害対応業務が予め設定されたプロセスに沿って着実に遂行されるように、注意深く管理しなければなりません。
そのためには、各プロセスを本部の業務予定表に落とし込み、プロセスの実行をスケジュール管理することが有効な方法となります。
また、各プロセスのインプットとアウトプットを明確にすることも重要な仕事です。各プロセスを担当する職員は指示された内容から、自分が担当する業務の目標と文脈を理解し、これに基づいて業務の相互調整を自主的に行うようになります。
以下、「別紙PDF:自治体の風水害対応マネジメントのフレームワーク(概要)」に基づき、マネジメントの概要を説明します。
続きます。
1 新たな災害対応マネジメント手法の開発の必要性
都内某区役所庁舎に、「区政は区民を幸福にするドメインである」という標語が掲げられています。地域住民の幸福実現は、地方自治体が行政を通じて実現しようとする目的(ビジョン)です。「住民が地域社会で幸福に暮らせるかどうか」は、地方自治体の「行政マネジメント」の手腕に掛かっていると思います。
災害対応においても同じことが云えます。わが国では、これまで各地で発生した、
地震・津波、豪雨・台風等の自然災害により、多大の人的被害を、繰り返し被ってきました。災害が切迫している場合の「住民の生命財産の安全確保」は、地方自治体の「災害対応マネジメント」の手腕に掛かっています。災害を経験した多くの自治体では、「災害対応マネジメントがこれまで通りで良いのか」と問題を感じている職員が、少なからず、存在しているのではないでしょうか。
今後も自然災害の脅威に曝される可能性がある地方自治体にとって、災害対応業務のマネジメント手法を確立し、そこで規定する戦略や業務手法を管理者だけでなく、
実務を担う全職員に普及徹底することは、喫緊の課題であると考えております。
以上のような問題意識で、勢いに任せて、「マネジメント実務の参考」を書きあげました。自ら読み返して、文章の冗長さに気付きました。自分が経験したことを伝えるために解りやすく、なるべく具体的に記述したつもりです。このテーマに関心のある方は、強い意志で最後まで読んでいただけたら幸いです。
2 災害時のマネジメントを担う地方自治体組織の現状
災害対応マネジメントの在り方を考察するにあたっては、地方自治体の災害対策組織の特性を考慮する必要があります。
地方自治体の災害対策組織の特性を二つ取り上げます。一つは、ハブ型組織という特性です。中心に災害対策本部が位置し、その外周に自治体と共同して災害対策活動を行う関係機関等が位置しています。本部と関係機関の間は、命令服従の指揮関係ではなく、協力関係で結ばれています。外周組織は、夫々、固有のミッションと行動慣習を持ち、災害対策本部の指揮調整を受けて自己の役割を決定します。状況によって、災対本部の意図を確認して、そこから自らの役割を類推して自律的に行動します。 もう一つは、ハブ組織の中央に位置する災害対策本部の特性です。本部長を頂点とするピラミッド組織ですが、平時の役所の慣習をそのまま引き継ぎ、集団による意志決定体制をとっています。最終的な意志決定は本部員で構成される「本部会議」で行います。また、本部自体が災害時に設置される臨時組織であることから、OJT等で鍛えられたプロ集団ではなく、危機対応のアマチュア集団です。
以上の組織特性を踏まえ、災害対応マネジメントの在り方を考える必要があります。
地方自治体のマネジメントの現場について、次のような意識調査結果があります。
管理者に期待される「妥協を許されないミッションの追求」「文脈と将来予測に立脚した判断と実行」「トリアージの決断」等は、どれをとっても、マネジメントの対象に対する深い理解が必要な、片手間の対応では達成できない重要な仕事です。管理者が、組織特性を踏まえつつ、仕事環境がもたらす様々な障害に阻害されることなく、「各種事象の関係性(原因と結果)」を繋ぎ合わせながら期待された役割を果たすためには、「周到な事前準備」「明確な戦略」「確固としたフレームワーク」「スケジュールンによる統制」「外部との情報共有と連携の確保」等に関する工夫が、特に重要です。
3 災害対応マネジメントのフレームワーク
確固としたマネジメントのフレームワークを構築することは、マネジャーがミッションを見失わずに仕事を続けることをサポートする大変役に立つ手法です。
別紙PDF:自治体の風水害対応マネジメントのフレームワーク(概要)
フレームワークを構築するために、やるべき事は二つあります。
一つは、地方自治体が行う災害対応業務プロセスを体系整理することです。
自治体が行う災害対応業務プロセスは、「プランニング」「危機対応」「評価」「改善」のPDCAサイクルを基本に構成されます。PDCAサイクルを廻す具体的プロセスを展開することは、フレームワークづくりの重要な思考段階です。そのためには、平時から、危機が顕在化して行く過程における、状況の評価・プランニング・意思決定・行動・評価改善と云った災害対応手順を具体化する必要があります。このプロセスは、様々な危機対応に対し共通性を有していますから、業務処理の訓練やシミュレーションを反復し、業務の標準化を進めていくことが大切です。
二つ目は、災害対応事業を細分化し、時間軸に沿って事業領域を展開することです。
災害対策は、タイミングが重要です。時機を失した対策は、効果を期待できません。「必要な対策を、必要な時期に」というのが、災害対策の鉄則です。事業の順序を決め、事業領域を展開する際には、この原則の重要性は、増大します。
事業展開の内容・順序は、災害の種類によって異なります。夫々の災害が発生・拡大する様相を分析して、「何を」「いつ」の判断を実施する必要があります。
最終的には、いくつかの事業展開パターンに整理することができると思います。
マネジメントのフレームワークは、以上の二つの体系を使って、マトリクス構造をもって構築する事が出来ます。
横軸は災害対応業務プロセス体系であり、縦軸は災害対応事業体系です。
このマトリクス基盤の上に、各事業領域で処理すべきPDCAサイクルの災害対応業務が展開されます。
マネジメントに当たって、マトリクスの縦横管理が基本的に重要となります。
マトリクス管理の一つが、事業領域管理です。事業領域は、危機顕在化過程に連動して設定されています。この判断によって災害対応事業を開始するタイミングや組織態勢を決定づけることになります。危機の変化を的確に認知して組織の事業領域を宣言する仕組みと管理責任体制を明確にすることが重要になります。
マトリクス管理のもう一つが、プロセス管理です。
業務プロセスは、インプットをアウトプットに変える過程です。
PDCAサイクルは、様々な業務プロセスで構成されています。一連の業務が、ミッション達成という一貫した思想の下に、論理的に、且つシームレスに実施されるためには、プロセス管理が大変重要です。
管理者は、顕在化する危機に対応し、組織の災害対応業務が予め設定されたプロセスに沿って着実に遂行されるように、注意深く管理しなければなりません。
そのためには、各プロセスを本部の業務予定表に落とし込み、プロセスの実行をスケジュール管理することが有効な方法となります。
また、各プロセスのインプットとアウトプットを明確にすることも重要な仕事です。各プロセスを担当する職員は指示された内容から、自分が担当する業務の目標と文脈を理解し、これに基づいて業務の相互調整を自主的に行うようになります。
以下、「別紙PDF:自治体の風水害対応マネジメントのフレームワーク(概要)」に基づき、マネジメントの概要を説明します。
続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
顧問
清水明徳