2014/09/29

木曽御嶽山 噴火

御嶽山噴火1

御嶽山噴火2
御嶽山噴火3


9月27日(土)午前11時53分頃、長野県と岐阜県の県境にある木曽御嶽山が突然噴火しました。この噴火に多数の登山者が巻き込まれ、これまでに山頂付近で心肺停止になっている31人の登山者らを確認し、このうち4人の死亡が確認されました。また、この噴火で、これまでに長野側で30人、岐阜側で10人の合わせて40人が重軽傷を負っているということのようですが、ほかにも被災者がいないか心配です。自衛隊や警察や消防が懸命の救助活動を行っているようですが、地形が険しかったり、硫黄の臭いが強まったりと、二次災害の危険性もあることから、
捜索活動が難航しているようです。

犠牲になられた方々のご冥福を心よりお祈りいたします。合掌…………。

この木曽御嶽山、頂上の標高は3,067メートル。標高3,000メートルを超える山としては、日本国内で最も西に位置する山です。古くから信仰の山として信者の畏敬を集めてきた巨峰で、幾つもの峰を連ねて聳える独立峰の活火山です。名古屋市を含む尾張地方からでもその大きな山容を望めることができ、「木曽のおんたけさん」と呼ばれ、木曽地方を代表する山として人々に親しまれている山です。日本百名山にも選定されています。

山腹は深い森で覆われていて、多くの滝があり、木曽川水系の源流部にあたる山であり、その下流部である中京圏の貴重な水源となっています。また、木曽檜を主とする林業の盛んな地域でもあります。

私は登ったことこそありませんが、今でもその姿が思い出せる“思い出の地”の1つです。20歳代の時、木曽御嶽山の北の麓に広がる開田高原(御嶽山の登山ルートの1つです)というところにハマったことがあって、そこを何度か訪れました。

その開田高原での私のイチオシの絶景ポイントが木曽福島から開田高原を抜けて飛騨高山に至る旧飛騨街道にある西野峠。ここは旧開田村の把ノ沢地区と西野地区を繋ぐ峠なのですが、峠道から約300メートルほど尾根づたいにさらに登ったところには「城山展望台」という実に見晴らしのいい絶景ポイントがあり、そこからは木曽御嶽山、乗鞍岳、木曽駒ヶ岳を一望することができました。中でも圧巻だったのは木曽御嶽山。ここから見る木曽御嶽山の光景は、圧巻!の一言でした。開田高原自体、木曽御嶽山の北側の麓、標高1,000~1,500メートルに広がるなだらかな高原なのですが、木曽御嶽山の標高は3,067メートル。独立峰だけにそこから一気に2,000メートル近く聳え立ち、その光景は圧巻の一言でした。なので、私にとって木曽の御嶽山と言えば、西野峠の「城山展望台」から見える御嶽山の姿です。

あの木曽御嶽山が突然噴火したのですね。きっと開田高原にも噴火による酷い火山灰の降灰があったことでしょうね。

この木曽御嶽山、以前は死火山や休火山であると思われていた山なのですが、今から35年前の1979年(昭和54年)10月28日に突如、剣ヶ峰の南斜面で中規模の噴火が発生しました。また、7年前の2007年(平成19年)にもごく小規模な噴火が発生しています。このため、気象庁は継続的に活動を監視し、噴火予報を発表してきていたのですが、これまでは「火山活動に大きな変化はない」との見解で、噴火警戒レベル1の「平常」状態が継続されていました。

昨日(28日)行われた気象庁の記者会見によると、御嶽山では今月9日に山頂付近を震源とする火山性の地震が10回観測され、10日にはそれが52回に増えて、11日は85回を観測したそうです。火山性の地震の回数が1日に80回を超えるのは前回の噴火の2007年以来のことで、その後も火山性の地震は噴火の前まで1日に数回から20回を超える状態が続いていたそうです。また今月14日には、地下での活動があることを示すとされる体に感じない低周波地震も発生していました。気象庁が山体の変化を観測したのは、山頂の南東3kmの地点に設置した、地面の傾きを精密に測ることができる傾斜計という装置ですが、噴火前の午前11時45分から山体が膨らみ始め、その7分後の同52分には沈下に転じたそうです。膨らんだ状態が沈んだ状態に変わった直後の午前11時53分に噴火が始まったとみられています。

これらについて気象庁の北川貞之火山課長は、「地震活動が活発化したため、噴火警戒レベルの変更について検討をしたが、マグマの上昇を示すような山体の大きな膨らみが観測されなかったため、地殻変動を伴っていないと判断し変更はしなかった」と話しています。噴火警戒レベルの変更までは行わなかったものの、今後の火山活動の推移に注意するよう…という呼び掛けは行われていたようです。

もう既にテレビや新聞で何度も報道されているので、私から改めて説明するまでもないことなのでしょうが…、火山の噴火には大きく別けて「水蒸気噴火」と「マグマ噴火」の2種類があります。

「水蒸気噴火」は地下の高温のマグマの熱で地下水が熱せられて急激に水蒸気が発生し、火口周辺の土砂や火山灰が水蒸気とともに吹き上げられる噴火で、次第に白色の噴煙が多くなるという特徴があります。「水蒸気噴火」ではマグマと地下水は直接接しないため、マグマ本体はほとんど噴出されません。御嶽山で1979年(昭和54年)と2007年(平成19年)に起きた噴火はいずれもこの「水蒸気噴火」でした。

一方「マグマ噴火」は、高温で溶けた岩石であるマグマそのものが火口から激しく噴出するタイプの噴火で、大量の火山灰や溶岩流、それに高温の火砕流を同時に起きやすいのが特徴です。2011年(平成23年)の霧島連山・新燃岳の噴火や、1991年(平成3年)の長崎県の雲仙普賢岳の噴火、それに1986年(昭和61年)の伊豆大島の噴火などはこの「マグマ噴火」でした。

また「水蒸気噴火」と「マグマ噴火」が複合して発生する「マグマ水蒸気噴火」と呼ばれるものもあり、これは地下水と高温のマグマが直接接触することで急激に膨張し、水蒸気がマグマとともに爆発的に火口から噴出する噴火です。伊豆諸島の三宅島では1983年(昭和58年)の噴火や2000年(平成12年)から2002年(平成14年)にかけて起きた噴火で、この「マグマ水蒸気噴火」が確認されています。

昨日(28日)には火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長の記者会見も行われたのですが、その中で藤井会長は「マグマ噴火と比べて今回のような水蒸気噴火を予知することは本来、非常に難しい。突発的に起こることが多く、事前に明確に把握することは困難で現在の学問の限界だ」と述べました。

そのうえで、噴火の前に山頂付近で火山性の地震が増えていたことや、地下深くで火山活動を反映しているとみられる体に感じない低周波地震が起きていたことなどについて、「異常なことが起きているということを自治体や、場合によっては直接、登山客に知らせるなど、情報伝達に工夫があってもよかったのではないか」と指摘しました。

また「比較的規模の小さな噴火でも人がいる場所では大きな災害に繋がる。一方で少しでも危険なら近づくなとなると、活火山にはすべて近づくなということになってしまう。前兆を把握するのは難しく、完全に安全と断定することはありえないので、丁寧な情報発信があってもいいかもしれない。今回の噴火を受けて、今後、噴火警戒レベルの上げ方なども改善の余地があると思う」と述べて、情報伝達や噴火警戒レベルの運用の在り方について、改めて検討すべきだという考えを示しました。

「水蒸気噴火」の場合、マグマそのものの動きは小さく、より規模の大きな「マグマ噴火」にすぐに繋がるものとは考えにくいという専門家のコメントもありましたが、気になります。

この『おちゃめ日記』の『巨大災害 ~MEGA DISASTER~ 地球大変動の衝撃(第4集)』の稿でも書きましたが、私はいろいろな種類の自然の脅威がある中で、突然発生する火山の噴火が一番恐ろしいと思っているというようなことを書きました。その思いを強くしました。

今回の木曽御嶽山の噴火で象徴的なのは、カメラ付きの携帯電話やスマートフォンの爆発的な普及で、噴火した山頂付近を登山中だった登山者が火口近くで撮影したビデオ映像を含む様々な写真や映像がすぐにテレビやインターネットのYouTube等で流され、我々一般市民も目にすることができるようになったことです。そのあまりの凄まじさには息をのみます。まさに疑似体験が可能な時代になったと実感しています。

この日(9月27日)、私はこの木曽御嶽山噴火のニュースを三重県の桑名市で受けました。この日、三重県桑名市では三重県の鈴木英敬知事もご臨席のもと、三重県と㈱時評社さんの主催(桑名市、木曽岬超、みえ防災。減災センター、財団法人国土計画協会さんの共催、国土交通省と総務省の後援)で、『伊勢湾台風55年シンポジウム・風水害セミナー』というイベントが開催され、私もそのうちの「風水害セミナー」で講演を依頼されたので、講師として参加していました。

木曽御嶽山が噴火したのは午前11時53分頃のことで、その第一報のニュースが飛び込んできたのは、午前中のシンポジウムが終わって、昼休憩に入ってすぐのことでした。私を含むその日の講演者や三重県の主な関係者はご一緒に会議室でお弁当をいただいていたのですが、そこにその第一報が入ってきました。その後は防災関連のイベント、それも同じ中部地方でのイベントということで、ほかではちょっと見られないような光景になりました。

この日のセミナーの一番最後に〆の講演を予定されていた国土交通省水資源・国土保全局の石橋良啓防災課長は、すぐに東京に戻ることになり、代わって国土交通省中部地方整備局の澁谷慎一木曽川下流工事事務所長が急遽ピンチヒッターを務めることになりました。午後からのセミナーでは、御嶽山の噴火関連の最新ニュースが入るたびに、登壇する講師の紹介の際に司会者からそのニュースが短く差し挟められたり、登壇した講師も最初に御嶽山の噴火のことに触れたり…と、さすが防災関連のセミナーだなって感じになりました。自然災害はいつどこで突然起こるか分からない…、この当たり前のようなことがセミナー全体にいい意味での緊張感を与えて、いつも以上に素晴らしいセミナーになったように思います。

気象庁の観測では、御嶽山では27日の昼に始まった火山性微動が今日(29日)も続いており、現在も噴火は続いているとみられています。噴煙は火口から約500メートルまで上がって東に流れていて、火口から4km圏内は大きな噴石や火砕流への警戒が必要とのことです。捜索・救出活動に当たっている陸上自衛隊や警察の関係者によると、救出活動に当たっている隊員らは火山ガスの検知器を携帯しているとのことですが、山頂周辺は有毒な硫化水素ガスの濃度が上がっており、一部の地域では捜索を中断したとのことです。

大変に気掛かりな状況が続いています。


【追記】


ハレックス山の会1

ハレックス山の会2
ハレックス山の会3
気象情報会社という会社の性格上、弊社には自然に関心の高い社員、もっと正確に言うと“山好き”の社員が多く、弊社唯一の公認サークルが『ハレックス山の会』です。気象情報会社の社員が山で遭難したとなるとシャレにならない…ということで、会社公認サークルにしていて、山に入る時には必ず登山計画を会社に提出するようになっているのですが、その『ハレックス山の会』のメンバー7名がこの週末(9月27日、28日)、長野県内の山に登る計画であることが分かっていました。

会社に提出した登山計画書に書かれた行き先は今回噴火を起こした木曽御嶽山の隣の木曽駒ヶ岳。この日の朝、名古屋まで移動した東海道新幹線の車窓からは雲一つない青空の中にとても美しい富士山の全容が見えました。全国的に快晴で、彼等は計画通りに木曽駒ヶ岳に登っている筈なのですが、なにかの理由で急遽木曽御嶽山に目的地を変更しているかもしれないと思い、急いで安否確認のメールを入れました。

予定通り、木曽駒ヶ岳に登っていることが分かり安心はしたのですが、さすがにこの日だけは「下山したら連絡を入れてくれ」と返事を出しました。添付の写真は彼等が撮影したもので、一番上の写真は彼等が木曽駒ヶ岳山頂から撮影した木曽御嶽山の噴火の様子です。

最近は空前の登山ブームとなっています。2013年の登山人口は約770万人と言われ、特に若い女性の登山者が急増しているようです。私も『ハレックス山の会』の連中に誘われて何度か山に登ったことがあるのですが、下界の憂さを忘れさせてくれるようなハッとするほど美しい光景に、私もいっぺんで“山好き”になっちゃいました。

今回の木曽御嶽山の噴火で「山は怖いもの」という風に思われる方もいらっしゃるかと思います。ハッキリ言わせていただくと、「その通りです!」。ただ、しっかりとした装備をしていれば、決して怖いところではありません。その装備の中には、“情報の装備”も含まれます。特に、山の気象は変わりやすく、命に直結するもので、気象情報は極めて重要な“装備”であると言えます。私達気象情報会社も、今回の事故を受けて、その命に直結する情報を扱っているのだという使命感を改めてもって日々の業務に当たる必要がある…と思っています。

山は美しく素晴らしいところです。今回の噴火で分かったように、山は怖いものではありますが、山を必要以上に怖がっていただきたくありませんし、嫌いになっていただきたくないと思っています。そのためにも微力ながら私達気象情報会社も頑張らさせていただきます。