2014/12/08
「坂の上のクラウドコンソーシアム」に込めた思い
11月26日(水)、松山市久米窪田町にあるテクノプラザ愛媛に愛媛県農業法人協会の会員をはじめとした県内の農業従事者の皆さんにお集まりいただき、「坂の上のクラウドコンソーシアム」が、今年度、これまで開発してきたシステムのお披露目会(と言うか、中間発表会)が開催されました。
愛媛新聞2014年11月27日「農地ごとに気象予報 試用版完成、松山で説明会」
【坂の上のクラウドコンソーシアムとは】
皆さんよくご存知のように、現在、日本の農業は従事者の高年齢化が進み、それに伴って膨大な耕作放棄地が生まれており、経営マインドを持つ農業者が力を発揮できる環境の整備が急務となっています。農林水産省も産業界の力を積極的に活用して、農業生産のコスト削減や農業経営の新しいビジネスモデルの開発を目指す「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」(先端モデル事業)をはじめとした様々な施策を展開して、農業の生産現場を応援していこうとしています。
その農林水産省の先端モデル事業に今年度(平成26年度)採択されている愛媛県発の取り組みが『高精度気象予報システムを活用した“コストダウン”及び“品質向上・被害防止”のための実証実験』で、それを推進している組織体が「坂の上のクラウドコンソーシアム」です。
この「坂の上のクラウドコンソーシアム」とは、愛媛県内の地元IT企業数社と農業生産法人の方による組織体で、弊社ハレックスもこの「坂の上のクラウドコンソーシアム」の中核企業の1社となっています。
「坂の上のクラウドコンソーシアム」では、弊社ハレックスが独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ解析処理による高精度気象情報(1kmメッシュ、30分ごとの更新、最大72時間先まで)を活用した世界初の農業用気象情報提供システムを構築し、露地栽培におけるリスクを回避し、生産コストを削減するサービスを農業従事者が安価で利用しやすく提供することを目指しています。
【母体は「えひめITソリューション研究会」】
この「坂の上のクラウドコンソーシアム」は昨年(平成25年)8月に愛媛県経済労働部さんの呼び掛けで、県内IT企業の下請け体質からの脱却と、異業種連携による自社製品(プロダクト)開発を目的として発足した「えひめITソリューション研究会」を母体としています。
それまで仕事の上ではまったく愛媛県と関係のなかった私が故郷愛媛県と深く関わりを持つようになり、また、この年齢になって自分が愛媛県人であることに改めて目覚めることになったのも、この「えひめITソリューション研究会」の立ち上げの最初の段階から深く関わらさせていただいたことがきっかけでした。
この「えひめITソリューション研究会」に東京から私(弊社ハレックス)が参加するようになったきっかけは、愛媛県が進めている「スゴ技データベース」と、それをもとにした「ビジネスマッチング」という施策でした。この施策は、愛媛県内企業が持つ優れた技術と、東京や大阪の企業が持つ優れた技術や販路等を組み合わせて、新しい付加価値やビジネスモデルを産み出そうとする愛媛県経済労働部さんの取り組みなのですが、その取り組みの中で、2年前(2012年)の8月に偶然、愛媛県人である私の存在が愛媛県経済労働部の方に“発見(?)”されたのでした。
発見されたきっかけは私の“苗字”。「越智さんということは、愛媛県に所縁のある方ですか?」「はい、本籍は今治市で、実家は松山にありますが、なにか?」……こんなやり取りから愛媛県さんとのご縁が生まれました。今、思い返すと、つくづく越智という苗字でよかったな…と思いますね(笑)
私は前の会社では主に中央省庁様向けの情報処理システムの営業や開発を行っていたので、それまでは愛媛県の仕事とは(と言うか、地方の仕事とは)まったくご縁がなかったのですが、2年前の8月に突然故郷である愛媛県からお声が掛かり、正直、驚くとともにメッチャ嬉しかったですね。私の中に眠っていた愛媛県人としてのDNAが一気に覚醒した感じがしました(^^)d
実は弊社も、ちょうど独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ処理を用いた1kmメッシュ高精細天気情報を素材(API: Application Programming Interface )として提供を開始したばかりの時期で、その情報素材をもとにお客様に提供する最終段の様々なアプリケーションプログラムを開発していただけるIT企業さんを探していたところでしたので、愛媛県の推進するIT企業とのビジネスマッチングには大きな魅力を感じました。
弊社からオリジナルの1kmメッシュ高精細天気情報を素材として提供させていただき、それをベースに愛媛県のIT企業で自社プロダクトを開発していただこうというところまではすぐに決まったのですが、問題はどんな市場分野のどんなプロダクトを作ればいいのかということでした。
経済労働部の方々とそのようなプロジェクトの進め方に関して議論を重ね、その間、いろいろと紆余曲折があったのですが、最終的にその市場ターゲットを農業に絞ったきっかけとなったのは、昨年(2013年)の3月に行われた中村知事の定例記者会見の場で出た次のような一言でした。「愛媛にとって第1次産業は基幹産業であり、未来を考える上で重要。愛媛農業の振興に全力を尽くしたい」
「そうだ!これだ! 愛媛県は中国四国地方随一の農業県なのだから、地元IT企業が農業を市場ターゲットとするのは至極当然のことだ。自然を相手にする農業という産業にとって、気象情報の活用範囲は間違いなく広い筈だ。農業分野への活用をテーマとして賛同者を募り、まずはワーキンググループ(WG)を立ち上げよう!」…ということでその場にいた関係者全員の意見が一致したのでした。
【運命の出会い】
実は愛媛県経済労働部さん達とそんなことをやっている裏で、私には“運命的な出逢い”とも言える、ある方との偶然の出逢いがありました。
2年前の10月上旬のことでしたが、私が愛媛県経済労働部の方々との打ち合わせに出席するため羽田空港から松山行きのANAの最終便に乗ったのですが、搭乗後、なんらかの理由でその便の出発が40分ほど遅れたのです。その時、隣の席に座っている方に「あれあれ、仕方ないですね┐(‘~`;)┌。まっ、急いでいるわけではないし、今日中に松山に着けばいいので(^.^)」…なぁ~んて感じでどちらからともなく話しはじめ、他愛もない話題だったと思うのですが、どういうわけか初対面にも関わらずすぐに意気投合しちゃったのです(こういうことって滅多にないことで、今、思い返してみても奇跡のようなことでした)。
お互い自分が何者なのか名乗りもしないままいろいろと話が弾み、気がついたら松山空港に到着していました。そのままでは別れがたく、松山空港に到着してから互いに名刺を交換したのですが、そこで初めてその方が東温市で農業生産法人ジェイ・ウイングファームの代表を務められておられる牧秀宣さんであることが判りました。鉄工所かなにか製造業をやられている会社の社長さんかな…と思っていたのですが、これには驚きました。と同時に、それまでモヤモヤと悩んでいた霧のようなことが晴れて、これから自分がやるべきことが一気に見えてきた感じがしました。
実は、当時、私は1つの壁のようなものにぶち当たっていました。それまで気象情報会社として、使命感をもって“防災”の分野に注力してきたのですが、それだけで本当にいいのかな…という思いも正直感じていました。もちろん“防災”に対する仕組みを提供することは社会的にも大事なことにかわりはありません。しかし、いろいろやっているうちにあることに気付いてしまったのです。“防災”の仕組みって、所詮は使われないことが一番幸せな仕組みなんだってことに。言ってみれば、それって単なる“コスト”ってことに過ぎません。世の中でコスト削減なんて言葉が各所で聞かれる中で、これではビジネス的には伸びません。やはりお客様のプロフィット(利益)に直結するような分野に乗り出していかないと…。そんな気象情報ビジネスの壁のようなものを感じていたのです。
そうした私にとって、牧さんとの出逢いによって一気に霧が晴れるような思いに至ったのです。「そうだ! 自然には圧倒的な破壊力を持つ“脅威の側面”とは別に、代えがたい豊かな“恵みの側面”というものがある(^^)d その代えがたい豊かな“恵みの側面”の分野に取り組めばいいんだ!」…とね(^^)d
この気付きは私にとってメチャメチャ大きかったですね。東京に戻るとすぐに主だった社員達を集め、「俺はこれからしばらく“農業”や“漁業”といった第1次産業向けの気象情報提供の研究に没頭する! “防災”をはじめとしたこれまでの事業は君達に任せる!」と宣言までしたくらいです(^-^)v (社員達は私のこのような“暴走”にはもう慣れっこになってしまっているようで、「あ~ぁ、またか…」ってな感じでしたが、誰も反対する者もなく、逆に私にやらせてくれと志願してくる者もいて、これには嬉しかったですね。)
その後は帰省や出張で松山に帰るたびに東温市のジェイ・ウイングファームに出向き、牧さんから農業に関していろいろと教えていただきました。その中から自分の中で、“農業向け気象情報提供はどうあるべきか”について、イメージを固めていきました。実際に篤農家と呼ばれる農業の生産現場で長く経験を積んでこられたベテランの方の話は勉強になります。私も貪欲に知識の吸収に努めたこともありますが、半年もしないうちに、現在の日本の農業が直面する課題や、生産現場の悩みについていっぱしのことが言えるようになったと思っています(とは言え、まだまだ未熟者ですが…)。
【「坂の上のクラウドコンソーシアム」発足へ】
その牧さんが愛媛県農業法人協会の会長を務められていたということも非常に大きかったですね。農業を市場ターゲットとして「えひめITソリューション研究会」なる組織を立ち上げようと話がまとまった時、私が一番最初にしたことは、愛媛県農業法人協会の理事会に乗り込み、これから「えひめITソリューション研究会」が検討しようとしている取り組みについてプレゼンを行って、協力を取り付けることでした。
IT企業はことITに関しては専門家かもしれませんが、農業に関してはズブの素人です。そんなズブの素人が集まっていくら知恵を絞って考えてみても、農業の生産現場で真に役に立つ素晴らしい仕組みなんてそうそう考え付けるわけがありません。
ソリューションとは、お客様(利用者)が抱えている課題や悩みを解決する方策のことです。お客様(利用者)が抱えている課題や悩みがまず最初の出発点になくてはなりません。これが“顧客視点”というもので、これを正確に把握できているかどうかがプロジェクトの成否の鍵を握るということを、私もこれまでの経験から感じていましたので、現状に対する問題意識の高い篤農家の皆さんが集まっている愛媛県農業法人協会の協力を取り付けることはプロジェクトの成否に関わる最重要事項でした。
会長である牧さんからの応援のコメントもいただき、理事会では満場一致で「えひめITソリューション研究会」の取り組みに対しての協力を決議していただきました。一口に農業と言っても幅が広いので、ここはなにかに焦点を絞って検討をしたいと話したところ、「やはり愛媛県なんだから柑橘がよかろう」ということになって、柑橘栽培をなさっている農業生産法人の方(清家農園様、野本農園様)が協会を代表して定例の検討会に参加してくれることになりました。
そうそう、この愛媛県農業法人協会の理事会の場で、会長の牧さんにおっしゃっていただいた応援のコメントを、私は今でも鮮明に覚えています。「この人が言わんとしていることは、一言で言えば、新しい“農業用の暦(こよみ)”を作ろうと言うこっちゃ! 農業において“暦”は大事なものや。どや、一緒にやろうやないか!」。この一言で理事会が全会一致で協力に賛成をしていただきました(映画やテレビドラマの1シーンみたいでしょ(^-^)v )。そして、なにより私自身も自分が目指そうとしていることの目標が一瞬にしてクリアになった気がしました。
そうなんですよね、農業においては自然と真っ正面から向き合わないといけないため、季節を読み解く指針となる“暦”というものが極めて重要なのです。そもそも“暦”というものが研究され、開発されたのは農業のためだったと言ってもいいくらいです。近年、地球規模で起きている気候変動の影響からか、従来からの季節感や気象に関する昔からの言い伝えというものが微妙に狂ってきているように感じています。すなわち、従来からの“暦”が現実に合わないものになってきていると言うことです。ならば、新しい“農業用の暦”というものを作ろうじゃないか。それも、最新のICT(情報処理・情報通信技術)を駆使して、その地方その地方に合った“暦”というものを!(^^)d
当時、岡田准一さん&宮崎あおいさん主演、滝田洋二郎監督で映画化された『天地明察』という映画が公開中でした。この映画は、日本で初めて独自の暦法である貞享暦を作るのに成功した渋川春海夫婦の苦闘の日々を描いた作品です。原作は第7回本屋大賞、第31回吉川英治文学賞を受賞し、第143回直木賞の候補になった冲方丁さんの同名小説。それまで800年にわたり使用されてきた暦の誤りを見抜き、日本独自の暦を作り上げた主人公・渋川春海が、数々の挫折を繰り返しながら、夫婦手を取り合ってこの改暦という大事業に挑む姿を描いています。私も公開直後に観ました。新しい“暦”を作るということは社会的な意義は大きなものではあるのですが、それだけに大変なことであり、誰にでも出来るというものでもありません。ただ、どういうわけか、ここでそのチャンスに恵まれたようですので、牧さんの言葉をお聞きして、「面白い! やるだけやってやろうじゃないの!」…って気持ちになりました。
農業法人協会様の協力を取り付けたので、ここで初めて地元のIT企業の方々に正式にお声掛けをし、賛同いただける企業さんを募ったわけです。幸い、コンピュータシステム株式会社様、株式会社ウィン様、株式会社ロジック様、株式会社大栄電機工業様の4社様が快諾で名乗りを上げていただけました(株式会社大栄電機工業様は残念ながらその後自己破産のため撤退)。さらに、ITに詳しくない現場の農業従事者と、農業に詳しくないIT企業を繋ぎ、地元の推進役を果たしていただくことを期待してITコーディネーター(経済産業省関連資格)を活用すべく、NPO法人ITC愛媛様にメンバーになっていただきました。事務局はえひめ産業振興財団に務めていただくことにして、これで「えひめITソリューション研究会」が平成25年の8月に発足することになりました。
愛媛新聞2013年08月14日「IT 農業にどう生かす 松山の9社 生産者と意見交換」
ITを活用した農業支援の仕組みに関しては、既に幾つかの大手ITベンダー等がプロダクトを提供していて、「えひめITソリューション研究会」の取り組みは明らかに後発でした。後発であるのに加えて、大変申し訳ないけど、愛媛県のIT企業は投資できる資金面も人材面も技術面も先行する大手ITベンダーには遥かに及びません。そうした状況にあって、いくら弊社ハレックスが独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ解析処理による高精度気象情報という秘密兵器があると言っても、後発の「えひめITソリューション研究会」が先行する大手ITベンダーと同じようなことをやってみても、とても勝負にはなりません。そこで採ったのが最初から「マーケットイン」の発想で仕組みを考える仕組み作りで、まだ何をしようとしているのか決まってもいない段階で無謀にも愛媛県農業法人協会に一番最初に協力を取り付けに行ったのは、そのためでした。
そこには、「誰かが作ったプロダクトやパッケージを現場の農業従事者に押し付けること(プロダクトアウト)で農業が良くなることは絶対にない!」…という強い考えがありました。第2回目の「社会の最底辺のインフラは地形と気象(^^)d」でも書かせていただきましたが、地形と気象は、日本全国、地域ごとに微妙に異なり、決して全国均一でモノゴトを考えてはいけないというのが、私の基本思想です。自然と真っ正面から向き合う必要のある農業という産業は、その地形と気象に最も影響を受ける産業です。農業こそ、地元密着の「マーケットイン」の発想で臨まないと絶対に成功しないと私は考えました。愛媛県の現場農業従事者が真に必要としているモノは、現場農業従事者の皆さん方と一緒になって作り出していかないといけない!…ってことです。
これが、私が勝手に『愛媛モデル』と呼んでいるこのコンソーシアムの枠組みで、私達はこの取り組みのスキームとスタイルを頑なにまでに守っているわけです。それが先行する大手ITベンダー等の他社の取り組み等とはまるで一線を画した決定的な違いになっている…と自負している点です。
ちょうど今年1月に農林水産省が「農業界と産業界の連携による先端モデル実証事業」の募集があり、「えひめITソリューション研究会」で検討してきたことで応募をして、我々の取り組みをご評価いただこうということになり、改めて愛媛発を印象付ける組織名称に変えようということになり、付けた組織名称が『坂の上のクラウドコンソーシアム』でした。めでたく農林水産省の先端モデル実証事業に採択されたのですが、実施する内容以上に、この『坂の上のクラウドコンソーシアム』の取り組みのスキームとスタイルが高く評価されて採択された…と私達は分析しています。
愛媛新聞2014年04月05日「低コスト農業の先端モデル 県関係2事業採択 農水省」
【「坂の上のクラウドコンソーシアム」の今後】
「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組みでは、世界で他に例のない仕組みを創ると華々しく目標を掲げてはいますが、決して“とんでもなく凄いモノを作る”というのではなく、“多くの農業従事者に実際に使ってもらえるモノを創る”という基本スタンスをとっています。
実際にお使いいただく農家の声を活かして、まず第一に、近い将来、実用化した時のサービス提供価格に関しても、1人でも多くの農業従事者の方に使っていただけるように、“月々の新聞購読料”くらいから導入が可能であること…という前提を最初に設けました。
次に、新しい仕組みを取り入れるにあたっては、お使いいただく方々がそれまでのやり方や考え方を根底から変えなければならないようなものは、それがどんなに凄いモノであっても、抵抗のほうが大きく(乗り越えるハードルが高く)、なかなか普及しません。それまでのやり方の中で、“あったらいいな”と思えるようなところから徐々に入っていく…これを基本としました。
加えて、これまで世の中になかったようなモノを作り出すには、最初から完成品(理想品)を作り上げることを目指すのではなく、まず最初に自分達の目指しているものをある程度具現化はするものの、あまり欲張らずに最低限の基本機能だけを有した試作品(β版)を作り、それを実際にお使いいただきながら、足りない機能を追加したり、使えない機能は改善したりしながら、一歩一歩、使える完成品に近づけていく。言ってみれば、現場の農業従事者の皆さんと一緒になって、自分達が本当に必要なものを作り上げていく…これが、真の意味での“マーケットイン”ということではないか…と私達は思っています。
なので、今回のお披露目会もゴールではなくて、これが本当の意味でのスタートラインということなのです。これが“愛媛モデル”というものです(^^)d
今回のお披露目会には、将来の愛媛の農業を、さらには日本の食を支えていただかないといけない、意識の高い、そして志のある若手農業従事者の皆さん方(農業生産法人の若手社員さん等)に多数参加していただき、活発で建設的なご意見を幾つもいただけました。実際に生産現場で使っていただき、頑張っていただかないといけないのはこうした若い皆さん方なわけですから、そうした人達の声を反映して、彼等の夢や志を叶えてあげること、これが「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組みを通して日本の農業を元気にする具体的方策の1つだ…と私達は考えています。
今回のお披露目会には、隣県香川県からも香川県農業法人協会会長ほか何人かの農業従事者の方がご参加いただいたほか、農林水産省で先端モデル事業を担当なさっている部局の企画官をはじめ、東京からも多数の方々にご参加いただきました。中には遠く関東地方の千葉県からわざわざ参加して下さった農業法人の方もいらっしゃったりして、私達の事前の想定を遥かに超える70名を超える多くの方々にご参加いただきました。この愛媛県での私達の取り組みに対する関心の高さ、期待の大きさというものがヒシヒシと伝わってきました。そうした皆さま方のご期待にお応えすべく、近い将来の製品化、さらには愛媛発の全国展開に向けて、「坂の上のクラウドコンソーシアム」のメンバー一同、改めて気合いを入れ直しているところです。前述のように、ここからが本当の意味でのスタートですから(^^)d
「坂の上のクラウドコンソーシアム」では今年度(平成26年度)は気象リスク回避のための仕組み(言ってみれば“戦術”のための仕組み)を作り上げようとしています。この計画は3年計画で、来年度(平成26年度)は1ヶ月予報や3ヶ月予報という中長期の気象予報を用いて作付時期や栽培品種の選定といった農業経営“戦略”の分野にトライしようとしています。さらに再来年度(平成27年度)は出荷時期を想定しての栽培管理の分野にもトライしていこうとしています。
農業はなにも生産の分野だけに限りません。農業の分野では今、“六次産業化”という言葉が叫ばれています。これは、生産(第一次産業)+加工(第二次産業)+流通・販売(第三次産業)という意味での六次産業化ということで、農業という産業は生産を原点として裾野の極めて広い産業なのです。農業に関しては、まだまだやらねばならないことが山ほど残っています。なにより、愛媛県は中国四国地方随一の第一次産業(農業・漁業)県なのですから(^^)d
「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組み、詳しくはWebで(^^)d
坂の上のクラウドコンソーシアムHP
【追記】
私が申し上げるまでもなく、コンソーシアム名称の『坂の上のクラウド』とは、私が大好きな司馬遼太郎先生の小説『坂の上の雲』から採らせていただきました。いっさい迷わずに決めちゃったのですが、愛媛県発の取り組みということを前面に押し立てた、これ以上ないネーミングが出来たのではないか…と自画自賛をしちゃっています。実際、このネーミングで全国的に注目を集めているようなところもありますので、正解でした。こういうことって、どうでもいいことのように思えるのですが、実はマーケティング上では意外と重要なことなんです(^^)d
最後に、農林水産省の先端モデル事業の申請にあたっての申請書類及びプレゼン資料の最後の1ページをご紹介します。日本海海戦の際に秋山真之中佐(当時)が、大本営に発する電文に「本日、天気晴朗なれども波高し」という有名な一文をサラサラっと書き加えたと伝えられていますが、その秋山真之中佐と同じように私もこの1ページを一気に書き上げてプレゼン資料に付け加えましたφ(.. ) 今読み返しても、我ながら名文だと思っています(^-^)v
現在、「地域創生」が時代の重要なキーワードのようになっていますが、その「地域創生」を考えるにあたり、この『坂の上のクラウドコンソーシアム』の取り組みと考え方が少しでも参考になれば幸いです。
愛媛新聞2014年11月27日「農地ごとに気象予報 試用版完成、松山で説明会」
【坂の上のクラウドコンソーシアムとは】
皆さんよくご存知のように、現在、日本の農業は従事者の高年齢化が進み、それに伴って膨大な耕作放棄地が生まれており、経営マインドを持つ農業者が力を発揮できる環境の整備が急務となっています。農林水産省も産業界の力を積極的に活用して、農業生産のコスト削減や農業経営の新しいビジネスモデルの開発を目指す「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」(先端モデル事業)をはじめとした様々な施策を展開して、農業の生産現場を応援していこうとしています。
その農林水産省の先端モデル事業に今年度(平成26年度)採択されている愛媛県発の取り組みが『高精度気象予報システムを活用した“コストダウン”及び“品質向上・被害防止”のための実証実験』で、それを推進している組織体が「坂の上のクラウドコンソーシアム」です。
この「坂の上のクラウドコンソーシアム」とは、愛媛県内の地元IT企業数社と農業生産法人の方による組織体で、弊社ハレックスもこの「坂の上のクラウドコンソーシアム」の中核企業の1社となっています。
「坂の上のクラウドコンソーシアム」では、弊社ハレックスが独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ解析処理による高精度気象情報(1kmメッシュ、30分ごとの更新、最大72時間先まで)を活用した世界初の農業用気象情報提供システムを構築し、露地栽培におけるリスクを回避し、生産コストを削減するサービスを農業従事者が安価で利用しやすく提供することを目指しています。
【母体は「えひめITソリューション研究会」】
この「坂の上のクラウドコンソーシアム」は昨年(平成25年)8月に愛媛県経済労働部さんの呼び掛けで、県内IT企業の下請け体質からの脱却と、異業種連携による自社製品(プロダクト)開発を目的として発足した「えひめITソリューション研究会」を母体としています。
それまで仕事の上ではまったく愛媛県と関係のなかった私が故郷愛媛県と深く関わりを持つようになり、また、この年齢になって自分が愛媛県人であることに改めて目覚めることになったのも、この「えひめITソリューション研究会」の立ち上げの最初の段階から深く関わらさせていただいたことがきっかけでした。
この「えひめITソリューション研究会」に東京から私(弊社ハレックス)が参加するようになったきっかけは、愛媛県が進めている「スゴ技データベース」と、それをもとにした「ビジネスマッチング」という施策でした。この施策は、愛媛県内企業が持つ優れた技術と、東京や大阪の企業が持つ優れた技術や販路等を組み合わせて、新しい付加価値やビジネスモデルを産み出そうとする愛媛県経済労働部さんの取り組みなのですが、その取り組みの中で、2年前(2012年)の8月に偶然、愛媛県人である私の存在が愛媛県経済労働部の方に“発見(?)”されたのでした。
発見されたきっかけは私の“苗字”。「越智さんということは、愛媛県に所縁のある方ですか?」「はい、本籍は今治市で、実家は松山にありますが、なにか?」……こんなやり取りから愛媛県さんとのご縁が生まれました。今、思い返すと、つくづく越智という苗字でよかったな…と思いますね(笑)
私は前の会社では主に中央省庁様向けの情報処理システムの営業や開発を行っていたので、それまでは愛媛県の仕事とは(と言うか、地方の仕事とは)まったくご縁がなかったのですが、2年前の8月に突然故郷である愛媛県からお声が掛かり、正直、驚くとともにメッチャ嬉しかったですね。私の中に眠っていた愛媛県人としてのDNAが一気に覚醒した感じがしました(^^)d
実は弊社も、ちょうど独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ処理を用いた1kmメッシュ高精細天気情報を素材(API: Application Programming Interface )として提供を開始したばかりの時期で、その情報素材をもとにお客様に提供する最終段の様々なアプリケーションプログラムを開発していただけるIT企業さんを探していたところでしたので、愛媛県の推進するIT企業とのビジネスマッチングには大きな魅力を感じました。
弊社からオリジナルの1kmメッシュ高精細天気情報を素材として提供させていただき、それをベースに愛媛県のIT企業で自社プロダクトを開発していただこうというところまではすぐに決まったのですが、問題はどんな市場分野のどんなプロダクトを作ればいいのかということでした。
経済労働部の方々とそのようなプロジェクトの進め方に関して議論を重ね、その間、いろいろと紆余曲折があったのですが、最終的にその市場ターゲットを農業に絞ったきっかけとなったのは、昨年(2013年)の3月に行われた中村知事の定例記者会見の場で出た次のような一言でした。「愛媛にとって第1次産業は基幹産業であり、未来を考える上で重要。愛媛農業の振興に全力を尽くしたい」
「そうだ!これだ! 愛媛県は中国四国地方随一の農業県なのだから、地元IT企業が農業を市場ターゲットとするのは至極当然のことだ。自然を相手にする農業という産業にとって、気象情報の活用範囲は間違いなく広い筈だ。農業分野への活用をテーマとして賛同者を募り、まずはワーキンググループ(WG)を立ち上げよう!」…ということでその場にいた関係者全員の意見が一致したのでした。
【運命の出会い】
実は愛媛県経済労働部さん達とそんなことをやっている裏で、私には“運命的な出逢い”とも言える、ある方との偶然の出逢いがありました。
2年前の10月上旬のことでしたが、私が愛媛県経済労働部の方々との打ち合わせに出席するため羽田空港から松山行きのANAの最終便に乗ったのですが、搭乗後、なんらかの理由でその便の出発が40分ほど遅れたのです。その時、隣の席に座っている方に「あれあれ、仕方ないですね┐(‘~`;)┌。まっ、急いでいるわけではないし、今日中に松山に着けばいいので(^.^)」…なぁ~んて感じでどちらからともなく話しはじめ、他愛もない話題だったと思うのですが、どういうわけか初対面にも関わらずすぐに意気投合しちゃったのです(こういうことって滅多にないことで、今、思い返してみても奇跡のようなことでした)。
お互い自分が何者なのか名乗りもしないままいろいろと話が弾み、気がついたら松山空港に到着していました。そのままでは別れがたく、松山空港に到着してから互いに名刺を交換したのですが、そこで初めてその方が東温市で農業生産法人ジェイ・ウイングファームの代表を務められておられる牧秀宣さんであることが判りました。鉄工所かなにか製造業をやられている会社の社長さんかな…と思っていたのですが、これには驚きました。と同時に、それまでモヤモヤと悩んでいた霧のようなことが晴れて、これから自分がやるべきことが一気に見えてきた感じがしました。
実は、当時、私は1つの壁のようなものにぶち当たっていました。それまで気象情報会社として、使命感をもって“防災”の分野に注力してきたのですが、それだけで本当にいいのかな…という思いも正直感じていました。もちろん“防災”に対する仕組みを提供することは社会的にも大事なことにかわりはありません。しかし、いろいろやっているうちにあることに気付いてしまったのです。“防災”の仕組みって、所詮は使われないことが一番幸せな仕組みなんだってことに。言ってみれば、それって単なる“コスト”ってことに過ぎません。世の中でコスト削減なんて言葉が各所で聞かれる中で、これではビジネス的には伸びません。やはりお客様のプロフィット(利益)に直結するような分野に乗り出していかないと…。そんな気象情報ビジネスの壁のようなものを感じていたのです。
そうした私にとって、牧さんとの出逢いによって一気に霧が晴れるような思いに至ったのです。「そうだ! 自然には圧倒的な破壊力を持つ“脅威の側面”とは別に、代えがたい豊かな“恵みの側面”というものがある(^^)d その代えがたい豊かな“恵みの側面”の分野に取り組めばいいんだ!」…とね(^^)d
この気付きは私にとってメチャメチャ大きかったですね。東京に戻るとすぐに主だった社員達を集め、「俺はこれからしばらく“農業”や“漁業”といった第1次産業向けの気象情報提供の研究に没頭する! “防災”をはじめとしたこれまでの事業は君達に任せる!」と宣言までしたくらいです(^-^)v (社員達は私のこのような“暴走”にはもう慣れっこになってしまっているようで、「あ~ぁ、またか…」ってな感じでしたが、誰も反対する者もなく、逆に私にやらせてくれと志願してくる者もいて、これには嬉しかったですね。)
その後は帰省や出張で松山に帰るたびに東温市のジェイ・ウイングファームに出向き、牧さんから農業に関していろいろと教えていただきました。その中から自分の中で、“農業向け気象情報提供はどうあるべきか”について、イメージを固めていきました。実際に篤農家と呼ばれる農業の生産現場で長く経験を積んでこられたベテランの方の話は勉強になります。私も貪欲に知識の吸収に努めたこともありますが、半年もしないうちに、現在の日本の農業が直面する課題や、生産現場の悩みについていっぱしのことが言えるようになったと思っています(とは言え、まだまだ未熟者ですが…)。
【「坂の上のクラウドコンソーシアム」発足へ】
その牧さんが愛媛県農業法人協会の会長を務められていたということも非常に大きかったですね。農業を市場ターゲットとして「えひめITソリューション研究会」なる組織を立ち上げようと話がまとまった時、私が一番最初にしたことは、愛媛県農業法人協会の理事会に乗り込み、これから「えひめITソリューション研究会」が検討しようとしている取り組みについてプレゼンを行って、協力を取り付けることでした。
IT企業はことITに関しては専門家かもしれませんが、農業に関してはズブの素人です。そんなズブの素人が集まっていくら知恵を絞って考えてみても、農業の生産現場で真に役に立つ素晴らしい仕組みなんてそうそう考え付けるわけがありません。
ソリューションとは、お客様(利用者)が抱えている課題や悩みを解決する方策のことです。お客様(利用者)が抱えている課題や悩みがまず最初の出発点になくてはなりません。これが“顧客視点”というもので、これを正確に把握できているかどうかがプロジェクトの成否の鍵を握るということを、私もこれまでの経験から感じていましたので、現状に対する問題意識の高い篤農家の皆さんが集まっている愛媛県農業法人協会の協力を取り付けることはプロジェクトの成否に関わる最重要事項でした。
会長である牧さんからの応援のコメントもいただき、理事会では満場一致で「えひめITソリューション研究会」の取り組みに対しての協力を決議していただきました。一口に農業と言っても幅が広いので、ここはなにかに焦点を絞って検討をしたいと話したところ、「やはり愛媛県なんだから柑橘がよかろう」ということになって、柑橘栽培をなさっている農業生産法人の方(清家農園様、野本農園様)が協会を代表して定例の検討会に参加してくれることになりました。
そうそう、この愛媛県農業法人協会の理事会の場で、会長の牧さんにおっしゃっていただいた応援のコメントを、私は今でも鮮明に覚えています。「この人が言わんとしていることは、一言で言えば、新しい“農業用の暦(こよみ)”を作ろうと言うこっちゃ! 農業において“暦”は大事なものや。どや、一緒にやろうやないか!」。この一言で理事会が全会一致で協力に賛成をしていただきました(映画やテレビドラマの1シーンみたいでしょ(^-^)v )。そして、なにより私自身も自分が目指そうとしていることの目標が一瞬にしてクリアになった気がしました。
そうなんですよね、農業においては自然と真っ正面から向き合わないといけないため、季節を読み解く指針となる“暦”というものが極めて重要なのです。そもそも“暦”というものが研究され、開発されたのは農業のためだったと言ってもいいくらいです。近年、地球規模で起きている気候変動の影響からか、従来からの季節感や気象に関する昔からの言い伝えというものが微妙に狂ってきているように感じています。すなわち、従来からの“暦”が現実に合わないものになってきていると言うことです。ならば、新しい“農業用の暦”というものを作ろうじゃないか。それも、最新のICT(情報処理・情報通信技術)を駆使して、その地方その地方に合った“暦”というものを!(^^)d
当時、岡田准一さん&宮崎あおいさん主演、滝田洋二郎監督で映画化された『天地明察』という映画が公開中でした。この映画は、日本で初めて独自の暦法である貞享暦を作るのに成功した渋川春海夫婦の苦闘の日々を描いた作品です。原作は第7回本屋大賞、第31回吉川英治文学賞を受賞し、第143回直木賞の候補になった冲方丁さんの同名小説。それまで800年にわたり使用されてきた暦の誤りを見抜き、日本独自の暦を作り上げた主人公・渋川春海が、数々の挫折を繰り返しながら、夫婦手を取り合ってこの改暦という大事業に挑む姿を描いています。私も公開直後に観ました。新しい“暦”を作るということは社会的な意義は大きなものではあるのですが、それだけに大変なことであり、誰にでも出来るというものでもありません。ただ、どういうわけか、ここでそのチャンスに恵まれたようですので、牧さんの言葉をお聞きして、「面白い! やるだけやってやろうじゃないの!」…って気持ちになりました。
農業法人協会様の協力を取り付けたので、ここで初めて地元のIT企業の方々に正式にお声掛けをし、賛同いただける企業さんを募ったわけです。幸い、コンピュータシステム株式会社様、株式会社ウィン様、株式会社ロジック様、株式会社大栄電機工業様の4社様が快諾で名乗りを上げていただけました(株式会社大栄電機工業様は残念ながらその後自己破産のため撤退)。さらに、ITに詳しくない現場の農業従事者と、農業に詳しくないIT企業を繋ぎ、地元の推進役を果たしていただくことを期待してITコーディネーター(経済産業省関連資格)を活用すべく、NPO法人ITC愛媛様にメンバーになっていただきました。事務局はえひめ産業振興財団に務めていただくことにして、これで「えひめITソリューション研究会」が平成25年の8月に発足することになりました。
愛媛新聞2013年08月14日「IT 農業にどう生かす 松山の9社 生産者と意見交換」
ITを活用した農業支援の仕組みに関しては、既に幾つかの大手ITベンダー等がプロダクトを提供していて、「えひめITソリューション研究会」の取り組みは明らかに後発でした。後発であるのに加えて、大変申し訳ないけど、愛媛県のIT企業は投資できる資金面も人材面も技術面も先行する大手ITベンダーには遥かに及びません。そうした状況にあって、いくら弊社ハレックスが独自に開発したオンラインリアルタイム・ビッグデータ解析処理による高精度気象情報という秘密兵器があると言っても、後発の「えひめITソリューション研究会」が先行する大手ITベンダーと同じようなことをやってみても、とても勝負にはなりません。そこで採ったのが最初から「マーケットイン」の発想で仕組みを考える仕組み作りで、まだ何をしようとしているのか決まってもいない段階で無謀にも愛媛県農業法人協会に一番最初に協力を取り付けに行ったのは、そのためでした。
そこには、「誰かが作ったプロダクトやパッケージを現場の農業従事者に押し付けること(プロダクトアウト)で農業が良くなることは絶対にない!」…という強い考えがありました。第2回目の「社会の最底辺のインフラは地形と気象(^^)d」でも書かせていただきましたが、地形と気象は、日本全国、地域ごとに微妙に異なり、決して全国均一でモノゴトを考えてはいけないというのが、私の基本思想です。自然と真っ正面から向き合う必要のある農業という産業は、その地形と気象に最も影響を受ける産業です。農業こそ、地元密着の「マーケットイン」の発想で臨まないと絶対に成功しないと私は考えました。愛媛県の現場農業従事者が真に必要としているモノは、現場農業従事者の皆さん方と一緒になって作り出していかないといけない!…ってことです。
これが、私が勝手に『愛媛モデル』と呼んでいるこのコンソーシアムの枠組みで、私達はこの取り組みのスキームとスタイルを頑なにまでに守っているわけです。それが先行する大手ITベンダー等の他社の取り組み等とはまるで一線を画した決定的な違いになっている…と自負している点です。
ちょうど今年1月に農林水産省が「農業界と産業界の連携による先端モデル実証事業」の募集があり、「えひめITソリューション研究会」で検討してきたことで応募をして、我々の取り組みをご評価いただこうということになり、改めて愛媛発を印象付ける組織名称に変えようということになり、付けた組織名称が『坂の上のクラウドコンソーシアム』でした。めでたく農林水産省の先端モデル実証事業に採択されたのですが、実施する内容以上に、この『坂の上のクラウドコンソーシアム』の取り組みのスキームとスタイルが高く評価されて採択された…と私達は分析しています。
愛媛新聞2014年04月05日「低コスト農業の先端モデル 県関係2事業採択 農水省」
【「坂の上のクラウドコンソーシアム」の今後】
「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組みでは、世界で他に例のない仕組みを創ると華々しく目標を掲げてはいますが、決して“とんでもなく凄いモノを作る”というのではなく、“多くの農業従事者に実際に使ってもらえるモノを創る”という基本スタンスをとっています。
実際にお使いいただく農家の声を活かして、まず第一に、近い将来、実用化した時のサービス提供価格に関しても、1人でも多くの農業従事者の方に使っていただけるように、“月々の新聞購読料”くらいから導入が可能であること…という前提を最初に設けました。
次に、新しい仕組みを取り入れるにあたっては、お使いいただく方々がそれまでのやり方や考え方を根底から変えなければならないようなものは、それがどんなに凄いモノであっても、抵抗のほうが大きく(乗り越えるハードルが高く)、なかなか普及しません。それまでのやり方の中で、“あったらいいな”と思えるようなところから徐々に入っていく…これを基本としました。
加えて、これまで世の中になかったようなモノを作り出すには、最初から完成品(理想品)を作り上げることを目指すのではなく、まず最初に自分達の目指しているものをある程度具現化はするものの、あまり欲張らずに最低限の基本機能だけを有した試作品(β版)を作り、それを実際にお使いいただきながら、足りない機能を追加したり、使えない機能は改善したりしながら、一歩一歩、使える完成品に近づけていく。言ってみれば、現場の農業従事者の皆さんと一緒になって、自分達が本当に必要なものを作り上げていく…これが、真の意味での“マーケットイン”ということではないか…と私達は思っています。
なので、今回のお披露目会もゴールではなくて、これが本当の意味でのスタートラインということなのです。これが“愛媛モデル”というものです(^^)d
今回のお披露目会には、将来の愛媛の農業を、さらには日本の食を支えていただかないといけない、意識の高い、そして志のある若手農業従事者の皆さん方(農業生産法人の若手社員さん等)に多数参加していただき、活発で建設的なご意見を幾つもいただけました。実際に生産現場で使っていただき、頑張っていただかないといけないのはこうした若い皆さん方なわけですから、そうした人達の声を反映して、彼等の夢や志を叶えてあげること、これが「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組みを通して日本の農業を元気にする具体的方策の1つだ…と私達は考えています。
今回のお披露目会には、隣県香川県からも香川県農業法人協会会長ほか何人かの農業従事者の方がご参加いただいたほか、農林水産省で先端モデル事業を担当なさっている部局の企画官をはじめ、東京からも多数の方々にご参加いただきました。中には遠く関東地方の千葉県からわざわざ参加して下さった農業法人の方もいらっしゃったりして、私達の事前の想定を遥かに超える70名を超える多くの方々にご参加いただきました。この愛媛県での私達の取り組みに対する関心の高さ、期待の大きさというものがヒシヒシと伝わってきました。そうした皆さま方のご期待にお応えすべく、近い将来の製品化、さらには愛媛発の全国展開に向けて、「坂の上のクラウドコンソーシアム」のメンバー一同、改めて気合いを入れ直しているところです。前述のように、ここからが本当の意味でのスタートですから(^^)d
「坂の上のクラウドコンソーシアム」では今年度(平成26年度)は気象リスク回避のための仕組み(言ってみれば“戦術”のための仕組み)を作り上げようとしています。この計画は3年計画で、来年度(平成26年度)は1ヶ月予報や3ヶ月予報という中長期の気象予報を用いて作付時期や栽培品種の選定といった農業経営“戦略”の分野にトライしようとしています。さらに再来年度(平成27年度)は出荷時期を想定しての栽培管理の分野にもトライしていこうとしています。
農業はなにも生産の分野だけに限りません。農業の分野では今、“六次産業化”という言葉が叫ばれています。これは、生産(第一次産業)+加工(第二次産業)+流通・販売(第三次産業)という意味での六次産業化ということで、農業という産業は生産を原点として裾野の極めて広い産業なのです。農業に関しては、まだまだやらねばならないことが山ほど残っています。なにより、愛媛県は中国四国地方随一の第一次産業(農業・漁業)県なのですから(^^)d
「坂の上のクラウドコンソーシアム」の取り組み、詳しくはWebで(^^)d
坂の上のクラウドコンソーシアムHP
【追記】
私が申し上げるまでもなく、コンソーシアム名称の『坂の上のクラウド』とは、私が大好きな司馬遼太郎先生の小説『坂の上の雲』から採らせていただきました。いっさい迷わずに決めちゃったのですが、愛媛県発の取り組みということを前面に押し立てた、これ以上ないネーミングが出来たのではないか…と自画自賛をしちゃっています。実際、このネーミングで全国的に注目を集めているようなところもありますので、正解でした。こういうことって、どうでもいいことのように思えるのですが、実はマーケティング上では意外と重要なことなんです(^^)d
最後に、農林水産省の先端モデル事業の申請にあたっての申請書類及びプレゼン資料の最後の1ページをご紹介します。日本海海戦の際に秋山真之中佐(当時)が、大本営に発する電文に「本日、天気晴朗なれども波高し」という有名な一文をサラサラっと書き加えたと伝えられていますが、その秋山真之中佐と同じように私もこの1ページを一気に書き上げてプレゼン資料に付け加えましたφ(.. ) 今読み返しても、我ながら名文だと思っています(^-^)v
現在、「地域創生」が時代の重要なキーワードのようになっていますが、その「地域創生」を考えるにあたり、この『坂の上のクラウドコンソーシアム』の取り組みと考え方が少しでも参考になれば幸いです。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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