2015/06/03
サマーレスキュー~天空の診療所 ~(その1)
3年前の2012年、TBS系列で日曜劇場『サマーレスキュー ~天空の診療所~』というドラマが放映されました。このドラマ、基本的に実話に基づいたものなのです。その実話の主人公というのが、実は私の中学・高校時代の同級生(うち高校の3年間は同じクラス)、臼杵尚志君なのです。臼杵君は現在、国立香川大学附属病院の外科部長で、専門は消化器外科。“神の手”と言われる手術の達人です。
TBS日曜劇場『サマーレスキュー ~天空の診療所~』番宣HP
そのドクター臼杵教授が長年(38年間1年も休まず)ボランティアで取り組んできたのが、夏の期間だけ開設される北アルプスの山小屋に作られた診療所『三俣診療所』での診療です。医療設備も満足に揃っていない北アルプスの山の上で、怪我や病気をした登山者達を救う診療所、そこで診察と医学生に対する指導医療を行うことで、若い医学生達に“医の心”を教えようという取り組み、活動なのです。その活動が2011年にNHK総合テレビの『にっぽん紀行』という番組で「山で見つけた”医の心” ~北アルプス・医学生診療所~」と題して紹介され、その番組を観て感動したTBSのプロデューサーが是非ドラマ化したいと思い立ち、取り上げられることになったそうなんです(ドクター臼杵本人からお聞きしました)。
フィクションとはいえ、ドクター臼杵ご自身が経験したエピソードが随所に採用されたのだそうで、医療指導の面から脚本にもチェックを入れられたとのこと。主演の青年心臓外科医・速水圭吾役は若手の人気俳優・向井理さん。私の同級生、ドクター臼杵にあたる指導教官の大学教授・倉木泰典を演じる役者はなんとなんと時任三郎さん。臼杵と倉木…、なぁ~んとなく名前の響きが似ているような、似ていないような…(笑) それにしても、あの時任三郎さんがドクター臼杵の役を演じるのか…、ちょっとイメージが違うようなぁ~…(^_^;)
TBS系列の日曜夜9時からの時間帯と言えば、“ドラマのTBS”の中でも、一番の時間帯。『日曜劇場』は私が生まれた1956年に放送を開始した、半世紀以上の長い歴史を持つドラマ番組枠で、これまでに数々の伝説的な名作ドラマを幾つも輩出してきました。最近でも大沢たかおさん主演の「JIN―仁―」があり、木村拓哉さん主演の「南極大陸」があり、中居正広さん主演の「ATARU」があり、内野聖陽さん主演の「とんび」があり、社会現象ともなった堺雅人さん主演の「半沢直樹」があり…と、名作・大作揃いの番組枠です。民放大好きの我が家においては、日曜夜のこの時間帯はたいていこのTBSの『日曜劇場』を観ています。そこに私の中学高校の同級生で長年の友人、ドクター臼杵が長年取り組んできた活動をモチーフとしたドラマがかかるとは! 素晴らしすぎですd=(^o^)=b
ちなみに、ドクター臼杵は高校時代に生徒会長を務めたのですが、そのドクター臼杵に生徒会長に立候補するよう熱烈に薦め(迫り)、強引に口説きおとしたのは、実はこの私ですσ(^_^;)。そのため、彼の応援演説は私が務めました。知名度のなさを猛烈な選挙活動でひっくり返しての圧勝でした。今更ながら私の目に狂いはなかった…と大満足しているところです(^-^)v そうした級友を持ったことを誇りに思っています。
そのドクター臼杵からの依頼で、5月23日(土)、24日(日)の2日間に渡って四国の香川県高松市のサンポート高松で開催された第35回日本登山医学会の学術大会のシンポジウムで講演をさせていただいてきました。
日本登山医学会という名称でお分かりのように、この学会はドラマ『サマーレスキュー ~天空の診療所~』で取り上げられた全国各地にある山の診療所で活躍されている山岳医療に従事されるお医者さん方で作っておられる学会です。山岳診療のみならず、ヒマラヤ等のより高所への登山に対する対応とか、高地民族を対象とした高所医学、学校登山の安全といった分野、運動生理学や力学的な研究等も行っているのだそうです。
そういう超専門的な医学の学会の学術大会のシンポジウムで、私のような門外漢が講演をさせていただくのは、かなり場違いな感じもしましたし、何をお話しすればいいのか迷ってしまいましたが、ほかならぬドクター臼杵からの依頼でしたので、少しでもお役に立てれば…とお引き受けさせていただきました。
今回の第35回の大会はドクター臼杵の地元(すなわち私の地元でもありますが…)、香川県高松市で開催されるということで、ドクター臼杵は、大変に多忙な中、今回の大会の大会委員長を務められました。その大会委員長であるドクター臼杵が私に今回の講演の依頼をしてこられたのは、実は昨年8月に地元で開催された高校の同窓会の会場でのことでした。私はこのところ講演を依頼されることが多いのですが、本番の9ヶ月も前の段階で講演の依頼を受けたなんてことは初めてのことで、これにはちょっと驚きました。ですが、同時にドクター臼杵の強い期待の度合いというものを感じましたので、少しでも彼の期待に応えねば…という思いで、後先を考えずに二つ返事で了解したわけです。ですが、さすがに場違いな場での講演だけに、日が迫るにつれて、果たして期待に応えることができるかどうか…という大きなプレッシャーを感じてしまいましたね(^^;
ドクター臼杵が気象情報会社の私に講演を依頼してきたのには、大きな意味がありました。私が改めて申し上げるまでもないことですが、生身の身体で大自然を相手にする登山においては、天候は時として生命に関わるような重要な環境要因となります。標高の高い山では平地と違って大気の流れが速いため、気象状況の変化が急激で、平地と同じ感覚でいたら危険なわけです。実際、山岳遭難事故を分析してみると、直接的、間接的に気象が関係しているとみられる事故は全体の9割を超えていて、山岳遭難事故を防止するためには登山者による気象状況の把握は不可欠なものなのです。
登山者に安心安全を提供するという上では山の診療所で治療にあたるお医者さんの活躍がなくてはならないのですが、そのいっぽうで、事故の“予防”のためには私達“気象”に関わる者の頑張りも不可欠なものですからね。そのあたり、自らも山に登り、山岳医療に携わっている“天空の診療所”の医師なので、肌身の実感として感じておられるのでしょう。大会委員長であるドクター臼杵が私に講演を依頼してきたことの背景には、そういうことがあるということはすぐに察知できましたので、なんとか協力してあげたいという思いで、前述のように、後先も考えずに二つ返事でお引き受けしたわけです。
シンポジウムでは、私のほかに、長野県茅野市をベースとして登山者向けの気象情報を専門に提供している国内唯一の山の天気予報専門会社ヤマテンの猪熊隆之社長と、気象予報士の資格を持つ登山ガイドの森田秀樹さんのお2人が講演をしました。
弊社ハレックスも会社として“気象”という自然を相手にしていることから、自然に関心の高い社員が揃っており、中でも山好きの社員が多いことから、「ハレックス山の会」という唯一の会社公認のサークルがあります。気象情報会社の社員が山で遭難したのではシャレにならない…ということで、山に行く際には必ず登山計画を会社に提出すること…と義務付けるために会社公認のサークルにしました。数えてみると、今や全社員の2割弱が「ハレックス山の会」の会員です。
このように、気象情報会社と登山って、かなり密接に関係しているところがあります。私も「ハレックス山の会」の連中に何度か山に連れていって貰ったことはあるのですが、山の気象に関してはとてもとても猪熊社長や登山ガイドの森田さんにかなうものではありますん。なので、私からは、ICT(情報通信・情報処理技術)色を前面に押し出して、これまで弊社ハレックスで取り組んできた山岳向け気象情報提供サービスのご紹介と、山岳向けにも、近い将来、応用が十分に期待できる弊社の最新の気象予報技術のご紹介を中心に講演をさせていただきました。
★日本登山医学会学術集会シンポジウム資料150523
弊社ハレックスでは平成22年(2010年)から平成24年(2012年)にかけての3年間、夏季限定で長野県の5箇所の山小屋向けに衛星携帯FAXを用いて、山岳気象情報をボランティア提供するという取り組みを行っていました。「ハレックス山の会」の連中がもしかするとお世話になるかもしれないという思いで始めた試験的な取り組みです。携帯電話の電波が届きにくい山の中では通信手段の確保が難しいので、同じく通信手段の確保が難しい内航船舶向け海洋気象情報提供で使っているdocomoさんの通信衛星を利用したFAX情報提供の仕組みを持ち込んだわけなのです。
この仕組みはそれなりに好評を博し、長野県警山岳救助隊様からも感謝状をいただいたりしましたが、携帯電話会社様が山の中にもアンテナを建てはじめ、携帯電話の電波が届く範囲が拡大してきたことを受けて平成24年の夏を最後に打ち切り、次は携帯電話やスマートフォンでの情報提供に取り組むことにしたわけです。通信衛星を利用したFAXによる情報提供では、紙媒体と言う制約から提供できる情報は限定的なものになり、欲しい地点の気象状況を読み解くには情報量が不足していました。しかも情報の鮮度という点でも大いに問題がありました。なんと言っても変わりやすい山の天気では、情報の鮮度の確保は最重要となる課題です。
携帯電話やスマートフォンでの情報提供にあたっては、可搬型の情報端末への情報提供が可能となることから、①欲しい地点のピンポイントの予報情報がとれること、②変わりやすい山の天気に対応するため、常に情報鮮度の高い予報情報がとれること…この2点に力点を置きました。そこで応用したのが、当時防災用に開発していたオリジナル気象システム「HalexDream!」でした。
オリジナル気象システム「HalexDream!」
この「HalexDream!」では、気象庁のスーパーコンピュータが予測演算した対流圏内全域の(主な標高毎の)気象予測情報や、最新のアメダスの観測情報、降水レーダーを用いて検出した雨雲の状態と、雨雲移動の予測により、標高補正や実測補正を加えた30分毎更新の1kmメッシュ天気予報情報の提供が可能で、山の天気予報に求められる前述の①と②の2つの課題の解決に一役かえると思いましたから。
そのように思っている矢先に、弊社ハレックスが気象情報の提供を担当させていただいているNHKグローバルメディア社様の運営なさっている会員制ケータイサイト『NHKニュース&スポーツ』で、登山者向けに山の天気予報の提供を行いたいという話があり、この「HalexDream!」のデータを用いたサービスの企画をご提案させていただきました。この企画はすぐに採用となり、『山の天気ナビ』が始まったわけです。
NHKニュース&スポーツ 山の天気ナビ
この『山の天気ナビ』、当初は“日本百名山(すなわち、100個の山)”から始めたのですが、現在は日本全国1,000を超える数の山の山頂の最新の天気予報を提供させていただいています。
さらに、地図情報サービスをなさっているマピオン様から類似のサービスを始めたい…というお話もいただき、こちらも『スマートフォン向けMapion』サービスの中で、山の天気の情報提供を開始しています。
スマートフォン向けMapion
また、公益社団法人日本山岳ガイド協会様と今年7月の運用開始に向けて現在準備中の新しいサービスについても、ご紹介させていただきました。これは、日本山岳ガイド協会様が運営するウェブサイト「コンパス」と弊社ハレックスの「HalexDream!」を連携させようという試みです。日本山岳ガイド協会様が運営するウェブサイト「コンパス」はパソコンやスマートフォン(スマホ)で登山の計画などを入力し、下山予定時刻から7時間たっても「下山届」がない場合、緊急連絡先にメールで知らせる仕組みで、現在既に1万5千人以上の方が登録しています。この仕組みのさらなる利用促進を図るため、弊社の「HalexDream!」を活用して、利用者向けに入山する山の天気を適宜提供しようというものです。
日本山岳ガイド協会様「コンパス」HP
日本山岳ガイド協会様は自治体や県警察と連携し、安全登山の啓発及び山岳遭難の対応を目的として登山届の閲覧協定を結んでいます。現在この協定を締結しているのは長野県警察、岐阜県、神奈川県警察、静岡県警察、山梨県/山梨県警察、新潟県の6県で、今後全国に拡大していく予定であると伺っております。
さらに、最新の気象予報技術として、現在開発中で、安定稼動試験中の最新の“秘密兵器”『WeatherView2』の世界初お披露目もこの第35回日本登山医学会の学術大会でやらせていただきました。これまで社外秘で秘かに開発を進めてきた技術で、そろそろ世の中にお披露目しようと思っていたところでした。とは言え、どの場で世の中の皆様方に“初公開”を行うかって大事なことなのですが、意表をついて、友人であるドクター臼杵からの依頼であるこの第35回日本登山医学会の学術大会のシンポジウムの場を“世界初公開”の場とさせていただきました。
先週、『WeatherView2』に関しましえては、この『おちゃめ日記』の場でも「“ビッグデータの可視化”から“状態の可視化”に」と題してご披露させていただきましたが、『おちゃめ日記』に掲載する2日前の5月23日に香川県高松市で世界初お披露目をさせていただきました。デモ画面を観ていただいた方からは、驚きの声が出ていました。手ごたえ十分でした。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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