2016/03/29
転作の好機を掴む(その2)
『中国四国 土を考える会』の総会&研修会は尾道の市街地のすぐ裏手(北側)に聳える小高い千光寺山(標高136.9)の山頂付近に建つ観光旅館『千光寺山荘』で開催されました。千光寺山荘は尾道市街や瀬戸内海を一望できる風光明媚な場所に立地していて、全ての客室の窓からは尾道の素晴らしい風景を楽しむことができます。千光寺山荘のすぐ近くには尾道を代表する観光地、中国地方屈指の名刹『大宝山権現院 千光寺』があります。外からは時折美しいウグイスの鳴き声も聴こえてきます。会場は大広間。私はこれまで何度も講演をさせていただいてきたのですが、これだけ景色の美しい場所、しかも畳の上で講演させていただいたのは初めてのことでした。(靴を脱いで畳の上で講演するのって、なかなかいいものです。気持ちが開放的になります)
『転作の好機を掴む』と題したこの日の研修会は3人のスピーカーによるプレゼン&講演とパネルディスカッションから構成されていました。
スピーカーのトップバッターは株式会社イカリファーム代表取締役の井狩篤士さん。【経営発表】として『好機を掴むイカリファームの実践農業』と題して、転作で利益を残す営農の秘訣について発表されました。
イカリファームは「土づくり技術」、「化学肥料低減技術」、「化学農薬低減技術」を取り入れ、持続性の高い農業生産方式を導入することで、環境保全型農業を実践する「エコファーマー」として滋賀県で認定されています。週刊ダイヤモンドで経営規模や販売力等4つの指標を用いて評価した「担い手農家ランキング」でも、1,952人中4位の評価を得られている滋賀県近江八幡市にある農業生産法人さんです。
イカリファームHP
代表取締役の井狩篤士さんはまだ30歳後半の若い農業者さんです。両親の跡を継いで農業に従事し、平成20年6月に農業生産法人を設立。それまで稲作主体だった経営形態を、麦(小麦)と大豆、キャベツ等の野菜に転作し、順調に業績を伸ばしておられます。現在の経営面積は米:65ha、麦(小麦):45ha、大豆:50ha、キャベツ:2.2ha。この他、保有する大型農業機械を活用して、周辺農業者からの米や麦、大豆の刈り取りや農地のレベリング等の作業受託もやっておられます。
リスク分散のためと多岐に渡る消費者ニーズに応えるため栽培品種も多種に渡り、
米に関しては、ひとめぼれ、コシヒカリ、ミルキークリーン、きぬむすめ、日本晴、山田錦、滋賀羽二重餅、しきゆたか、ヒノヒカリ、にこまる
麦に関しては、ゆめちから、みなみのかおり
大豆に関しても、ことゆたか、タマホマレ、ふくゆたか
…といった多品種の栽培を行っておられます。
何を考えてこうやっているのかに始まり、様々な工夫や苦労について語られたのですが、日本の農業に明るい未来を感じさせて貰えるような素晴らしい発表でした。井狩篤士さんのような若くて元気で意識の高い農業者の姿を見させていただくと、嬉しくなってきます(^_^)v
次にスピーカーとして登場されたのは、「土を考える会」の事務局も務めておられる農業専門の通信社、(株)農業技術通信社の代表取締役、昆 吉則さん。【情報提供】として『水田を活かす子実コーン最前線』と題した発表でした。
昆さんは農業専門の通信社の社長兼編集長と言うことで、取材のため全国の名だたる農業者、農業関係者との交流が深く、この日の発表でもそうした素晴らしい方々の実例の紹介を中心に、「水田農業の経営リスクに対処する水田イノベーション」について熱く語られました。中でも一番面白く大変参考になったのは、北海道十勝地方において小麦専作で130haを経営する農事組合法人 勝部農場(北海道夕張郡栗山町、勝部征矢代表理事)の取組みについての話でした。
「農業は大地に鍬で彫る版画なり」という先代の故・勝部徳太郎氏(平成8年7月30日没・享年92歳)の言葉に始まり、現在の勝部征矢代表理事の「自分の目の中に灯台と顕微鏡を持て」という言葉にも大変に感銘を受けました。どの世界でも、その道を究めた優れた方というのは、素晴らしい名言を口にされます。
勝部農場の取組みに関しては、農業技術通信社が運営する農業総合専門サイト『農業ビジネス』に詳しく書かれていますので、下記をクリックして、そちらのほうを是非お読みください。
(農業ビジネスHP 農業経営者ルポ第36回)
勝部農場の勝部征矢代表理事は次のようなこともおっしゃられています。「農地にはこれまで(補助金という名の)国民の税金が膨大に投入されている。従って、その農地から少しでも多くの収穫を得るのは、農民の“義務”である」。この言葉を引用して、昆さんは土地管理型農業経営への転換を提言されました。
さらに、昆さんによると、「慣行の農業体系のままの稲作だと、いくら規模(作付面積)を拡大しても約15haでコストダウンは頭打ちになる。大型の農業機械の導入等により、規模拡大でむしろ収益性が悪化している例もよく見受けられる。しかも家族労力だけでは25~30haが限界」なのだそうです。従って、「最近流行りのICT導入より先にやるべきことがあるだろう!」…とおっしゃっていました。それには私も強く同感です。昆さんによれば、慣行作業体系を見直して、同じ稲作をやるにしても“代掻き(田植えのために、水田に水を入れて土を砕いて掻きならす作業)”を省く「畑作作業体系」へまず転換することがまず大事で、その先に大豆やトウモロコシという他の作物への転作を考えるということを推奨していました。言ってみれば、「水田での稲作では“代掻き”は必須」という従来からの常識を破る発想の転換ってやつで、まさに「水田イノベーション」と呼ぶに相応しいものです。「水田とは水の張れる畑のことである」、なるほどなぁ~。
昆さんの発表は、次の言葉で締めくくられました。
「出来ない理由探し」をする者は敗北者である。チャレンジする者にだけ明るい未来がある。
これは農業だけでなく、気象情報の業界を含め、あらゆる産業、業種業態に従事する者に当てはまる言葉だと思います。
3番目に登場したのが私で、『気象ビッグデータの活用で農業を元気に!』と題して【講演】させていただきました。
広島県尾道市という開催地に関してはアウェイ感はまったく感じなかったものの、事務局さんから講演の依頼を受けた時、この「転作」という研修会のテーマに関してはさすがにアウェイ感を感じてしまいました。「転作」と「気象」、どう繋げて講演しようか…と(^_^;) かなり迷いましたが、「ええい、ままよ! スベってしまったら、私を選んだ事務局が悪い!」(笑)…と開き直り、下手な小細工はせずに、基本はこのところ農業向けの講演で定番にしている内容のままでやらせていただきました。農業のプロの方々を前にして、付け焼き刃は通用しませんからね。それでも、「転作」がテーマということで、講演の中で私は、不遜にも「何故米(コメ:水稲)は日本人の主食になったのか?」…ということを皮切りに、転作における気象情報活用の重要性についても付け加えて話をさせていただきました。
「何故米(コメ:水稲)は日本人の主食になったのか?」 「おちゃめ日記」の読者の皆さんは何故だと思われますでしょうか? …… それは米(コメ:水稲)は日本原産の作物で、日本の気候風土に合っているから、日本人の主食なんだということです。なので、田植えの時期と、刈り取りの時期さえ間違えなければ、たいして手間もいらず、放っておいても(素人であっても)それなりに育つ作物だということなんです。その証拠に、兼業農家のほとんどは稲作農家です。他の職業を持ちながらでも、稲作は出来るってことなんです。
しかし、それ以外の作物はこうはいきません。何故なら基本的に日本原産の作物ではないからです。小麦は中央アジアのコーカサス地方からイラクあたりにかけてが原産地と考えられています。大豆の原産地にはいくつかの説がありますが、一般的には紀元前2000年以前から中国のかなり広い範囲で栽培されていたようで、日本には約2000年前の弥生時代に、原産地である中国から朝鮮半島を通じて入ってきたと考えられています。トウモロコシは原産地と起源が明確にわかっていないのですが、メキシコやグアテマラ等の中南米付近が原産地なのではないか…との説が有力とされています。
野菜や果樹にいたってはなおのことです。現在、我が国で栽培されている野菜や果樹の多くは海外が原産で、中国や朝鮮半島を経由して日本に伝搬されてきたものがほとんどです。その海外から伝搬されてきた野菜や果樹が長い年月をかけて地域ごとに改良され、普及してきたわけです。実は日本列島原産の野菜や果樹は比較的少なく、ほとんどが葉菜類で、また気候風土が合っているため手をかけずに放っておいてもそれなりに育つ育てやすい作物なのからか、品種改良もあまり進んでいません。
従って、野菜や果樹については基本的に日本列島の気候風土に合っていないので栽培するには手間がかかり、兼業ではとても無理で、専業農家でないと栽培が難しいわけなんです。
穀類も野菜も果樹も、原産地においては実は自然にそこら野山に這えていた雑草だったわけで、言い方を代えれば、もともとは原産地の気候風土に合った作物だというわけです。従って、それぞれの作物の原産地の自然環境を知り、原産地とよく似た自然環境を与えてやりさえすれば、たいていは元気に育つ筈のものだということです。
しかし、前述のように日本列島は原産地とは気候風土が異なるため、原産地と似た環境を与えると言っても、簡単なことではありません。北緯25度から45度までの中緯度帯のモンスーン気候帯に位置し、周囲を海に囲まれた日本列島は季節ごとの気候の変化、日々の気象の変化が激しいですからね。従って、野菜や果樹を栽培するためには、日々、環境の管理や制御が必要となり、専業農家でないとうまくできないというわけです。そして、稲作ではさほど重要ではなかった季節ごとの気候の変化や、日々の気象の変化に関する詳細な情報が、成否を分ける重要な情報となるというわけです。
【参考】家庭菜園…作物の原産地を知ることは農業の基本(^^)d (おちゃめ日記 2015.5.22)
『転作の好機を掴む』というテーマの研修会での講演でしたので、なかば無理矢理、上記のようなことを付け加えてお話しさせていただいたのですが、これが聴いていただいた方々には意外とウケたように感じています。質疑応答では聴いていただいたから幾つもの質問が寄せられました。
私の講演の後、【パネルディスカッション】に移りました。【パネルディスカッション】のテーマは『転作の成功と失敗』というもので、前出の井狩篤士さん、昆 吉則さん、私に加えて、スガノ農機の下村 剛さんがパネラーで、コーディネーターは農研機構・近畿中国四国農業研究センター主任研究員の藤本 寛さん、そして中国四国 土を考える会の田中正保さん(田中農場代表取締役)が務めてくださいました。そのパネルディスカッションの場でも、私の講演内容に関する話題が数多く取り上げられました。今後、転作が進むと、農業現場では作と作の間が短くなり、天候に左右されながら限られた時間の中で様々な作業を強いられるようになるので、気象情報の活用の場はますます増えていくと感じられました。
研修会のあとは会場を本来の大広間に戻しての意見交換会(懇親会)でした。意見交換会には茨城県稲敷郡美浦村にあるスガノ農機の本社から菅野充八代表取締役も参加されて、大いに盛り上がりました。お酒も入って皆さん饒舌になり、いろいろと農業の生産現場での本音のお話を聴くことができました。こうした農業の生産現場で頑張っておられる皆さん方との交流の場はたいへん貴重なもので、その話の中から我々気象情報会社への期待やニ-ズも聞き出すことができ、私は常に大事にしています。今回も今後の当社の事業運営において考えていくべきことに関して、幾つもの貴重なヒントをいただき、大いに参考になりました。
(その3)に続きます。
『転作の好機を掴む』と題したこの日の研修会は3人のスピーカーによるプレゼン&講演とパネルディスカッションから構成されていました。
スピーカーのトップバッターは株式会社イカリファーム代表取締役の井狩篤士さん。【経営発表】として『好機を掴むイカリファームの実践農業』と題して、転作で利益を残す営農の秘訣について発表されました。
イカリファームは「土づくり技術」、「化学肥料低減技術」、「化学農薬低減技術」を取り入れ、持続性の高い農業生産方式を導入することで、環境保全型農業を実践する「エコファーマー」として滋賀県で認定されています。週刊ダイヤモンドで経営規模や販売力等4つの指標を用いて評価した「担い手農家ランキング」でも、1,952人中4位の評価を得られている滋賀県近江八幡市にある農業生産法人さんです。
イカリファームHP
代表取締役の井狩篤士さんはまだ30歳後半の若い農業者さんです。両親の跡を継いで農業に従事し、平成20年6月に農業生産法人を設立。それまで稲作主体だった経営形態を、麦(小麦)と大豆、キャベツ等の野菜に転作し、順調に業績を伸ばしておられます。現在の経営面積は米:65ha、麦(小麦):45ha、大豆:50ha、キャベツ:2.2ha。この他、保有する大型農業機械を活用して、周辺農業者からの米や麦、大豆の刈り取りや農地のレベリング等の作業受託もやっておられます。
リスク分散のためと多岐に渡る消費者ニーズに応えるため栽培品種も多種に渡り、
米に関しては、ひとめぼれ、コシヒカリ、ミルキークリーン、きぬむすめ、日本晴、山田錦、滋賀羽二重餅、しきゆたか、ヒノヒカリ、にこまる
麦に関しては、ゆめちから、みなみのかおり
大豆に関しても、ことゆたか、タマホマレ、ふくゆたか
…といった多品種の栽培を行っておられます。
何を考えてこうやっているのかに始まり、様々な工夫や苦労について語られたのですが、日本の農業に明るい未来を感じさせて貰えるような素晴らしい発表でした。井狩篤士さんのような若くて元気で意識の高い農業者の姿を見させていただくと、嬉しくなってきます(^_^)v
次にスピーカーとして登場されたのは、「土を考える会」の事務局も務めておられる農業専門の通信社、(株)農業技術通信社の代表取締役、昆 吉則さん。【情報提供】として『水田を活かす子実コーン最前線』と題した発表でした。
昆さんは農業専門の通信社の社長兼編集長と言うことで、取材のため全国の名だたる農業者、農業関係者との交流が深く、この日の発表でもそうした素晴らしい方々の実例の紹介を中心に、「水田農業の経営リスクに対処する水田イノベーション」について熱く語られました。中でも一番面白く大変参考になったのは、北海道十勝地方において小麦専作で130haを経営する農事組合法人 勝部農場(北海道夕張郡栗山町、勝部征矢代表理事)の取組みについての話でした。
「農業は大地に鍬で彫る版画なり」という先代の故・勝部徳太郎氏(平成8年7月30日没・享年92歳)の言葉に始まり、現在の勝部征矢代表理事の「自分の目の中に灯台と顕微鏡を持て」という言葉にも大変に感銘を受けました。どの世界でも、その道を究めた優れた方というのは、素晴らしい名言を口にされます。
勝部農場の取組みに関しては、農業技術通信社が運営する農業総合専門サイト『農業ビジネス』に詳しく書かれていますので、下記をクリックして、そちらのほうを是非お読みください。
(農業ビジネスHP 農業経営者ルポ第36回)
勝部農場の勝部征矢代表理事は次のようなこともおっしゃられています。「農地にはこれまで(補助金という名の)国民の税金が膨大に投入されている。従って、その農地から少しでも多くの収穫を得るのは、農民の“義務”である」。この言葉を引用して、昆さんは土地管理型農業経営への転換を提言されました。
さらに、昆さんによると、「慣行の農業体系のままの稲作だと、いくら規模(作付面積)を拡大しても約15haでコストダウンは頭打ちになる。大型の農業機械の導入等により、規模拡大でむしろ収益性が悪化している例もよく見受けられる。しかも家族労力だけでは25~30haが限界」なのだそうです。従って、「最近流行りのICT導入より先にやるべきことがあるだろう!」…とおっしゃっていました。それには私も強く同感です。昆さんによれば、慣行作業体系を見直して、同じ稲作をやるにしても“代掻き(田植えのために、水田に水を入れて土を砕いて掻きならす作業)”を省く「畑作作業体系」へまず転換することがまず大事で、その先に大豆やトウモロコシという他の作物への転作を考えるということを推奨していました。言ってみれば、「水田での稲作では“代掻き”は必須」という従来からの常識を破る発想の転換ってやつで、まさに「水田イノベーション」と呼ぶに相応しいものです。「水田とは水の張れる畑のことである」、なるほどなぁ~。
昆さんの発表は、次の言葉で締めくくられました。
「出来ない理由探し」をする者は敗北者である。チャレンジする者にだけ明るい未来がある。
これは農業だけでなく、気象情報の業界を含め、あらゆる産業、業種業態に従事する者に当てはまる言葉だと思います。
3番目に登場したのが私で、『気象ビッグデータの活用で農業を元気に!』と題して【講演】させていただきました。
広島県尾道市という開催地に関してはアウェイ感はまったく感じなかったものの、事務局さんから講演の依頼を受けた時、この「転作」という研修会のテーマに関してはさすがにアウェイ感を感じてしまいました。「転作」と「気象」、どう繋げて講演しようか…と(^_^;) かなり迷いましたが、「ええい、ままよ! スベってしまったら、私を選んだ事務局が悪い!」(笑)…と開き直り、下手な小細工はせずに、基本はこのところ農業向けの講演で定番にしている内容のままでやらせていただきました。農業のプロの方々を前にして、付け焼き刃は通用しませんからね。それでも、「転作」がテーマということで、講演の中で私は、不遜にも「何故米(コメ:水稲)は日本人の主食になったのか?」…ということを皮切りに、転作における気象情報活用の重要性についても付け加えて話をさせていただきました。
「何故米(コメ:水稲)は日本人の主食になったのか?」 「おちゃめ日記」の読者の皆さんは何故だと思われますでしょうか? …… それは米(コメ:水稲)は日本原産の作物で、日本の気候風土に合っているから、日本人の主食なんだということです。なので、田植えの時期と、刈り取りの時期さえ間違えなければ、たいして手間もいらず、放っておいても(素人であっても)それなりに育つ作物だということなんです。その証拠に、兼業農家のほとんどは稲作農家です。他の職業を持ちながらでも、稲作は出来るってことなんです。
しかし、それ以外の作物はこうはいきません。何故なら基本的に日本原産の作物ではないからです。小麦は中央アジアのコーカサス地方からイラクあたりにかけてが原産地と考えられています。大豆の原産地にはいくつかの説がありますが、一般的には紀元前2000年以前から中国のかなり広い範囲で栽培されていたようで、日本には約2000年前の弥生時代に、原産地である中国から朝鮮半島を通じて入ってきたと考えられています。トウモロコシは原産地と起源が明確にわかっていないのですが、メキシコやグアテマラ等の中南米付近が原産地なのではないか…との説が有力とされています。
野菜や果樹にいたってはなおのことです。現在、我が国で栽培されている野菜や果樹の多くは海外が原産で、中国や朝鮮半島を経由して日本に伝搬されてきたものがほとんどです。その海外から伝搬されてきた野菜や果樹が長い年月をかけて地域ごとに改良され、普及してきたわけです。実は日本列島原産の野菜や果樹は比較的少なく、ほとんどが葉菜類で、また気候風土が合っているため手をかけずに放っておいてもそれなりに育つ育てやすい作物なのからか、品種改良もあまり進んでいません。
従って、野菜や果樹については基本的に日本列島の気候風土に合っていないので栽培するには手間がかかり、兼業ではとても無理で、専業農家でないと栽培が難しいわけなんです。
穀類も野菜も果樹も、原産地においては実は自然にそこら野山に這えていた雑草だったわけで、言い方を代えれば、もともとは原産地の気候風土に合った作物だというわけです。従って、それぞれの作物の原産地の自然環境を知り、原産地とよく似た自然環境を与えてやりさえすれば、たいていは元気に育つ筈のものだということです。
しかし、前述のように日本列島は原産地とは気候風土が異なるため、原産地と似た環境を与えると言っても、簡単なことではありません。北緯25度から45度までの中緯度帯のモンスーン気候帯に位置し、周囲を海に囲まれた日本列島は季節ごとの気候の変化、日々の気象の変化が激しいですからね。従って、野菜や果樹を栽培するためには、日々、環境の管理や制御が必要となり、専業農家でないとうまくできないというわけです。そして、稲作ではさほど重要ではなかった季節ごとの気候の変化や、日々の気象の変化に関する詳細な情報が、成否を分ける重要な情報となるというわけです。
【参考】家庭菜園…作物の原産地を知ることは農業の基本(^^)d (おちゃめ日記 2015.5.22)
『転作の好機を掴む』というテーマの研修会での講演でしたので、なかば無理矢理、上記のようなことを付け加えてお話しさせていただいたのですが、これが聴いていただいた方々には意外とウケたように感じています。質疑応答では聴いていただいたから幾つもの質問が寄せられました。
私の講演の後、【パネルディスカッション】に移りました。【パネルディスカッション】のテーマは『転作の成功と失敗』というもので、前出の井狩篤士さん、昆 吉則さん、私に加えて、スガノ農機の下村 剛さんがパネラーで、コーディネーターは農研機構・近畿中国四国農業研究センター主任研究員の藤本 寛さん、そして中国四国 土を考える会の田中正保さん(田中農場代表取締役)が務めてくださいました。そのパネルディスカッションの場でも、私の講演内容に関する話題が数多く取り上げられました。今後、転作が進むと、農業現場では作と作の間が短くなり、天候に左右されながら限られた時間の中で様々な作業を強いられるようになるので、気象情報の活用の場はますます増えていくと感じられました。
研修会のあとは会場を本来の大広間に戻しての意見交換会(懇親会)でした。意見交換会には茨城県稲敷郡美浦村にあるスガノ農機の本社から菅野充八代表取締役も参加されて、大いに盛り上がりました。お酒も入って皆さん饒舌になり、いろいろと農業の生産現場での本音のお話を聴くことができました。こうした農業の生産現場で頑張っておられる皆さん方との交流の場はたいへん貴重なもので、その話の中から我々気象情報会社への期待やニ-ズも聞き出すことができ、私は常に大事にしています。今回も今後の当社の事業運営において考えていくべきことに関して、幾つもの貴重なヒントをいただき、大いに参考になりました。
(その3)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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