2016/04/06
もうひとつの真田の舞台〜上州沼田〜(その1)
今年のNHK大河ドラマは『真田丸』。堺雅人さんが演じる真田信繁(幸村)を主人公に、群雄割拠の戦国時代において、信濃の一領主に過ぎず大きな力を持っていなかった真田家が、生きる延びるために権謀術数の限りを尽くして戦国の荒波に立ち向かっていく物語です。
主人公の信繁だけでなく、大泉洋さん演じる信繁の兄・信幸(信之)、草刈正雄さん演じる信幸信繁兄弟の父・昌幸をはじめとした真田家の個性溢れる面々に加えて、真田家がかつて仕えた武田、真田家の前に立ち塞がる織田、豊臣、徳川、北条、上杉といった戦国武将とその家臣達の姿が魅力的に描かれています。
歴史的な事実をベースに、かなり現代風にアレンジされたいささか奇想天外にも思えるストーリーになっていて、評価は分かれているといわれていますが、脚本が三谷幸喜さんという段階で、それはもうお約束ってことですね。期待を裏切ってくれません。私はこういう大河ドラマ、好きですよ(^^)d
3月末のここまでは主人公の信繁よりも、父・真田昌幸の権謀術数ぶりが半端なく描かれてきました。真田昌幸の打ち出す策はまさに「権謀術数」。権謀術数の「権」は権力、「謀」は謀略、「術」は技法、「数」は計算を意味するとされていますが、まさにその通りで、毎回楽しませていただいています。
この『真田丸』を観る上での必需品は、なんと言っても日本地図。領地や城の名前が次々と出てくるので、その位置関係を正確に把握しておかないと、時代背景や距離感、戦いの必然性というようなものがなかなか読み取れませんからね。特に地形。私は「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」だと思っていて、“地形”と“気象”から歴史を読み解くのを最近の趣味にしているようなところがありますから。
その『真田丸』で、現在クローズアップされている場所があります。それが上州沼田。今の群馬県沼田市周辺です。現在の沼田市は群馬県の北部に位置する人口5万人ちょっとの関東平野の内陸部にある小規模な地方都市なのですが、中世の戦国時代においては沼田城の城下町で、関東平野北部の軍事的な重要地として、「関東を制するには沼田をとらねばならぬ」と言われたほどの要衝の地でした。上杉謙信と武田信玄、北条氏はここ沼田の領有権をめぐって激しく対立。上杉軍の北条氏攻撃の拠点ともなりました。戦国時代末期には真田昌幸・信幸親子の領有地ともなりました。江戸時代には沼田藩となり、最盛期には3万5千石を数えました。
3月27日(日)に放送された『真田丸』の第12回「人質」では、沼田領をめぐり徳川家康と対立を深める真田家を描いています。勝手に和睦した徳川家康と北条氏政から領国・沼田を死守するため、真田昌幸は再び上杉景勝に近づき、対抗策を講じます。これが4月3日(日)に放送された第13回「決戦」で描かれた第1回上田合戦に繋がります。
また、沼田市に隣接する利根郡みなかみ町下津(上越新幹線の上毛高原駅の近く)にある名胡桃(なぐるみ)城は、沼田城の支城の小城ですが、この城の領有権をめぐる真田家と北条氏との間の争いが、1590年の豊臣秀吉による小田原征伐、そして北条氏滅亡の誘因となったことで歴史的に有名です。
現在、東京から沼田市に鉄道で行こうとすると、これがなかなかに大変です。通過している鉄道路線はJR上越線だけで、かつては関東地方と新潟県をはじめとした日本海沿岸部を結ぶ幹線であったその上越線も上越新幹線開業後はただのローカル路線に変わり、高崎から普通列車に乗り換えて、50分近くかかってしまいます。おまけに運行本数は1時間に1本か2本。上越新幹線の駅は沼田市にはなく、隣接する利根郡みなかみ町月夜野にある上毛高原駅が最寄り駅になりますが、公共交通機関は路線バスしかなく、その路線バスも本数が限られているのでタクシー利用になってしまいます。
今でこそ沼田市は行くのにも不便な場所なのですが、昔の街道地図を見ると、ここは武蔵、信濃、越後、甲斐、会津へ向かう交通の要衝で、重要な軍事拠点であったことが分かります。真田家も信濃の国(長野県)の小県郡の一領主に過ぎなかったのですが、この上州の沼田を領有することにより、有力大名が群雄割拠する中で存在感の輝きを放っていったのがよぉ~く、分かります。上州(群馬県)は古くから関東と信州を経て京や北陸、越後・東北などを繋ぐ交通の要所でした。 またそれは、物資や文化を運ぶだけでなく、そこに生きる人達の生活を支える大切な道でもありました。江戸時代の五街道のひとつで、東海道に次いで江戸と京都を結ぶ重要な街道であった「中仙道」、三国峠を越えて越後に通じる「三国街道」、中仙道の脇街道で信州や北陸からの近道として、また草津などの湯治客や善光寺への参道としても使われた「信州街道」といった当時の主要幹線がここ上州の地を通っていました。
沼田に限っても、沼田と前橋を結ぶ「沼田街道」(高崎で中仙道や信州街道と合流します)、上越両国を結ぶ最短ルートであり、上杉謙信の関東出陣など上杉、北条軍の抗争の時の通路として使われた「清水峠越往還」、上州から尾瀬を越えて会津に通じる街道で、上州と会津を結ぶ唯一の物資の流通路として、重要な街道であった「会津街道」が合流し、さらには前述の三国峠を越えて越後に通じる「三国街道」も沼田の領内を通っていました。これは前橋・高崎と並ぶ軍事上の戦略拠点と言えます。
このNHK大河ドラマ『真田丸』でがぜん注目を集めている群馬県沼田市に、先々週、行ってきました。沼田市の隣町である利根郡昭和村の本拠を構える株式会社野菜くらぶ様からご依頼を受けて、株主総会後に開催される同社の2016年度経営方針説明会の後半で講演するためです。講演は午後からだったのですが、私は自宅から直出で、大宮から上越新幹線の「Maxとき」でお昼前に上毛高原駅に入りました。上越新幹線はそれなりに本数はあるのですが、上毛高原駅に停車する列車は1時間に1本程度なので、乗り損ねたら大変です。幾つものトンネルを抜けて到着した上毛高原駅の標高は450メートル。東京やさいたま市に比べますとヒンヤリします。3月の下旬だというのに前日には小雪が舞ったとのこと。さすがに暖冬なのでこの冬は雪が少なかったそうで、上毛高原駅の周辺に雪は残っていませんでしたが、少し離れた山々はまだうっすら雪景色です。ちなみに、上越新幹線で上毛高原駅の次の駅が越後湯沢駅。川端康成先生の小説「雪国」の中で、「国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった」と書かれる清水トンネルが通る山々が目の前に見えます。もしかしたら、あの山々の向こうにはまだ雪が残っているかもしれません。
上毛高原駅で株式会社野菜くらぶの社長の奥様の出迎えを受け、奥様の運転するクルマで沼田市の会場に向かいました。講演までは時間的な余裕があったので、せっかくなので、昼食を挟んで、沼田城跡や沼田市街を観光することにしました。
まずは、なにはともあれNHK大河ドラマ『真田丸』で俄然注目を集めている沼田城址へ。沼田市の観光案内ガイドブックによると、沼田城は天文元年(1532年)に沼田万鬼斎顕泰が築き、当時は蔵内城と呼ばれていました。天正8年(1580年)に真田昌幸が入城し城の規模を広げ、天正18年(1590年)に昌幸の長男信幸(之)が沼田領二万七千石の初代城主となり、慶長2年には五層の天守を建造しました。その後5代91年間の真田氏の居城となりましたが、天和元年(1681年)、5代信利が江戸幕府に領地を没収され、翌年1月に沼田城は幕府の命により完全に破却、その後天守が再建されることはありませんでした。現在、城跡は沼田公園となっていますが、石垣の一部など遺構をわずかに確認することができます。
今は天守閣も残されていないただの公園で、これまではわざわざ観光で訪れる人もいなかったのですが、NHK大河ドラマ『真田丸』で俄然注目を集めるようになったので、沼田市や市の観光協会が大急ぎで整備した跡が随所に見て取れます。真田家の家紋である「六文銭」が印された幟が何本もはためき、天守閣跡の近くに今年1月に建立されたという真田信幸(之)と正室の小松姫(大河ドラマの中では吉田羊さんが演じ、これから登場してきます)の石像が建っているのですが、どれも真新しすぎて、ちょっと違和感さえ感じられます(この石像に何者かがスプレーをかけて汚されていたと最近ニュースで流れていましたが、私が訪れた時には既に修復されていました)。おそらく『真田丸』を観て訪れたのであろう観光客の姿もチラホラ見掛けます(平日でしたので、この程度なんでしょう)。
その沼田公園から眺めると、このあたりの地形がよく分かります。沼田市の中心部は、西部を利根川が、また南端をその支流である薄根川と片品川が流れ、その3つの川によって三方を削り取られた大規模な河岸段丘の上にあります。特に南側の片品川の河岸段丘は7段形成されているのがはっきり分かり、その規模と美しさで、地理の教科書でも紹介されるような日本有数の大規模な河岸段丘になっています。市の中心街はそうした河岸段丘の上部にあり、利根川に沿って段丘の下部をJR上越線や国道17号線が通り、JR沼田駅は市の中心部とは100メートル弱の高低差がある段丘崖の麓に位置し、若干離れています。なるほど、この地形を見ると、真田家がこの場所に城を構えた理由がよぉ~く分かります。ここは攻めるに難く、守るに易しい、鉄壁の要塞です。
沼田公園を後にして市内中心部に戻ったのですが、ここにも通りの両側に「六文銭」が印された幟が何本もはためき、『真田丸』一色です。グリーンベル21というところで、沼田市主催の『上州沼田真田丸展』が開催されているということでしたので、講演開始まで少し時間があったので訪れてみました。
(上州沼田真田丸展公式HP)
(沼田市公式HP)
『もうひとつの真田の舞台〜沼田〜 いざ天空の城下町 沼田へ!』とキャッチコピーがいいですね。
(その2)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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