2016/10/03

イグ・ノーベル賞2016

ノーベル賞のパロディー版として人を笑わせ、考えさせるような独創的な研究や開発に対して、毎年贈られる「イグ・ノーベル賞」の授賞式が、今年も9月22日に米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学で行われ、「頭を逆さにして両足の間から見る“股覗き”によって物の見え方が変化すること」を実験で証明した立命館大学の東山篤規教授と大阪大学の足立浩平教授が「知覚賞」に選ばれました。

東山教授と足立教授は、“股覗き”をすると物の大きさは実際よりも小さく、距離は近くに見え、奥行きがなくなったように感じることを実験で確認しました。そのうえで、180度逆さに見えるめがねをかけて実験したところ、物の大きさや距離の見え方は変わらなかったことから、見え方の変化は、目から入る情報よりも、体を逆さにする感覚の変化によるところが大きいということを示しました。これでイグ・ノーベル賞における日本人の受賞は10年連続のことです。

この10年連続で日本人が受賞したというのが嬉しいですね。前述のようにイグ・ノーベル賞は人を笑わせ、そして考えさせる独創的でユニークな研究を讃える賞で、基礎研究をしっかり行っているからこそ受賞できる賞です。その上で、ほかの人達とは全く異なる突拍子もない発想の研究を尊重するような風土がないと、とても10年連続での受賞なんて無理というものです。だからこそ、私はこの10年連続での日本人科学者のイグ・ノーベル賞受賞を大変嬉しく思っています。

これまで毎年のようにこの時期に『おちゃめ日記』の場でご紹介しているように、私はこのイグ・ノーベル賞の発表を楽しみにしています。

イグ・ノーベル賞(2014/09/29)

ノーベル医学生理学賞&物理学賞(2015/10/30)

今年のイグ・ノーベル賞は日本の東山教授と足立教授が受賞した「知覚賞」を含めて、10の部門に贈られました。その受賞者は以下の通りです。

イグ・ノーベル賞公式HP

【生殖賞】故Ahmed Shafik氏(エジプト)……ズボンの素材によるラットの性生活への影響を研究し、同様の研究を人間の男性に対しても行ったことに対して

【経済学賞】Mark Avis氏、Sarah Forbes氏ら(ニュージーランド、英国)……販売とマーケティングの観点における石のブランドパーソナリティーの評価に対して

【物理学賞】Gábor Horváth氏、Miklós Blahó氏ら(ハンガリー、スペイン等)……白い馬がアブに強い理由の発見。およびトンボが黒い墓石に激突死する理由の発見に対して

【化学賞】Volkswagen(ドイツ)……テスト時はいつでも自動で排出物を減少させることにより、自動車の排出する過剰な汚染物質の問題を解決したことに対して

【医学賞】Christoph Helmchen氏、Carina Palzer氏ら(ドイツ)……体の左側に痒みを感じるとき、鏡を見ながら体の右側を掻くことで痒みを軽減できる(逆もまた同様)ことの発見に対して

【心理学賞】Evelyne Debey氏、Maarten De Schryver氏(ベルギー、オランダ等)……1,000人の嘘つきにどの程度の頻度で嘘をつくか質問した。また、その答えが信頼に値するものかどうかを決定したことに対して

【平和賞】Gordon Pennycook氏、James Allan Cheyne氏ら(カナダ、米国)……一見深遠に思われる戯言の受容と検出の学術的研究に対して

【生物学賞】Charles Foster氏、Thomas Thwaites氏(英国)……それぞれ別の時にアナグマ、カワウソ、シカ、キツネ、鳥として自然の中で生活することと、ヤギのように動くことを可能にし、ヤギとともに山を歩き回って過ごすことを実現する義足の作成に対して

【文学賞】Fredrik Sjöberg氏(スウェーデン)……死んだハエやまだ死んでいないハエを収集することの愉悦について記した自伝的な三部作に対して

【知覚賞】東山篤規氏、足立浩平氏(日本)……体をかがめて両脚の間から物を見た場合、通常とは異なって見えるかどうかを調査したことに対して

なんじゃそりゃ?…と思えるような面白い題名の研究が幾つも並んでいます。このうち注目すべきは「化学賞」。今年の「化学賞」は、規制値を超える自動車の排ガス規制の問題について、検査の際に排ガスの量を自動的かつ機械的に下げることでその問題を解決したとして、去年、排ガス規制を逃れるために不正を行っていたことが発覚したドイツの大手自動車メーカー、フォルクスワーゲンに贈られました。イグ・ノーベル賞らしい強烈な皮肉ですね。報道によると、さすがにフォルクスワーゲン社は授賞式には姿を見せなかったそうです。

で、いよいよ今週は、今年の正規の『ノーベル賞』の受賞者発表が今日10月3日(月)の生理学・医学賞を皮切りに、明日10月4日(火)には物理学賞、明後日10月5日(水)には化学賞…と、次々に発表されます。米国の調査会社トムソン・ロイター社が9月21日に発表した学術論文の引用数などから予想したノーベル賞受賞候補者24人によると、日本からは生理学・医学賞に京都大学の本庶佑名誉教授、化学賞に崇城大学の前田浩特任教授と国立がん研究センターの松村保広分野長の3名の名前が挙がっているのだそうです。昨年(2015年)は北里大学の大村智特別栄誉教授がフィラリア等の寄生虫による病気の治療薬を開発したことなどが評価されて医学・生理学賞を受賞し、素粒子ニュートリノに質量があることを発見した東京大宇宙線研究所の梶田隆章教授が物理学賞を受賞して、日本列島中が沸き返りました。果たして、今年も日本人のノーベル賞受賞者が生まれるのでしょうか。楽しみです。