2016/11/22

銀の匙 Silver Spoon(その2)

研修会終了後、懇親会に参加して北海道各地からご参集された皆様方と意見交換をさせていただいたのですが、皆さんのお話はまさに『銀の匙 Silver Spoon』の中で描かれている世界のようで、大変興味深く聞かせていただきました。

今回のブログの題名にもした『銀の匙 Silver Spoon』とは『鋼の錬金術師』などで人気の北海道帯広在住の女流漫画家・荒川弘(ひろむ)さんが描き、漫画雑誌「週刊少年サンデー」に2011年から連載中の漫画のことです。北海道の帯広にある農業高校、大蝦夷農業高等学校(通称:エゾノー )を舞台に、酪農に向き合う主人公と、個性豊かな登場人物が織りなす仲間同士の友情、恋の行方、夢と現実の狭間での葛藤、農家の社会問題、そして“命”と真摯に向き合う姿がユーモラスに描かれている、青春グラフィティ作品です。キャッチコピーは「汗と涙と家畜の酪農青春グラフィティ!!」。

銀の匙 Silver Spoon公式HP

この『銀の匙 Silver Spoon』は「マンガ大賞2012」ほか様々な賞に輝き、幅広い層からの支持を集めていて、コミック本は既に13巻目が発売されて、2013年7月発行の第8巻にて累計1000万部を達成したそうですから、これまでの発売総数は、ゆうに1,500万部を超えているのではないかという大ヒット漫画です。2013年の第1期と2014年の第2期の2回に分けてフジテレビ系列でアニメ化されて放映されたほか、2014年3月には実写映画化され公開されました。ちなみに、2011年連載開始の割にはコミック本がまだ第13巻というのは、連載期間中に作者の荒川弘さんが第二子・第三子を出産したり、ご家族の病気療養のサポートも加わって、このところ不定期連載の状態になっているためのようです。

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作者の荒川弘さんは北海道の酪農家の生まれで帯広農業高等学校の卒業生であり、作中には作者・荒川弘さんが実際に経験したことが多く反映されています。作品の舞台となる大蝦夷農業高等学校(エゾノー)は、作者・荒川弘さんの母校である帯広農業高等学校をモデルにしています。なので、あまりにもリアリティがあり、酪農だけでなく農業の生産現場の方々から絶大な評価を得ているようです。

私がこの漫画『銀の匙 Silver Spoon』の存在を知ったのは、今から4年前の2012年の11月のこと。ひょんな事で愛媛県農業法人協会会長の牧秀宣さんと知り合いになり、牧さんとの出会いから強烈な刺激を受けて農業に目覚め、「よしっ! ハレックス社として農業向け気象情報提供に真剣に取り組もう!」と思いたち、牧さんが代表を務める愛媛県東温市の農業生産法人ジェイ・ウィングファームを初めて訪ねた際に牧さんから薦められた本が、この漫画『銀の匙 Silver Spoon』でした。「自然の産物を扱うという点で、農業もこの漫画で描かれている酪農と同じだ。農業の入門書として、この本(漫画)は最適だ! 農業のことを知りたければ、まず、この本を読んで、農業者の気持ちや悩みの本質を理解するところからだ。」ということでした。越智本家は代々農家の家系ですが、父はそこの四男でサラリーマン、私はそのサラリーマンの息子なので、それまで農業のことなど少しも知りませんでした。なので、私の農業に関する原点はこの漫画『銀の匙 Silver Spoon』となりました。

『銀の匙 Silver Spoon』は2011年から週刊少年サンデーに連載が開始されたので、ちょうどその頃はコミック本が第1巻から第3巻まで発売されているところでした。さいたま市の自宅に戻ってすぐに書店に行ってその第1巻から第3巻までを購入して読んだのですが、面白くて一気に読めちゃいました。

その気になって読むと、なるほどぉ〜…と思えることが多く、自然の産物を扱う農業や酪農、畜産(おそらく漁業も)という産業に従事するとはどういうことなのか…ということの“入り口”を一気に学べたように思います。それから4年後の今回、酪農の本場北海道で、全道から集まられた大勢の名だたるプロの酪農家の皆様方の前で偉そうに講演をさせていただきました。前述のように、講演終了後、確かな手応えを感じられた背景には、聴いていただいたそうしたプロの酪農家の皆様方が私のことを胸襟を開いて受け入れていただけたことにあるように思えます。「おっ、こいつは異業種の人間だけど、酪農や農業のことが少しは分かっているじゃん!」…ってね。そんな私の農業(酪農)に関する原点が、実は漫画『銀の匙 Silver Spoon』でした。

私は漫画『銀の匙 Silver Spoon』のコミック本は第10巻までしか読んでいません。前述のように作者の荒川弘さんが出産やご家族の介護のために不定期連載となり、コミック本の出版も間隔が開いたことで、うっかりしてノーマークの状態になっていました。『銀の匙 Silver Spoon』の公式HPを覗いてみると現在第13巻が発売されているということのようですので、“エゾノーファン”としては、これは古本屋に行って第11巻から第13巻までを購入して読まねばなりません。高校3年生になって将来の進路について悩んでいるであろう主人公・八軒勇吾クンやクラスメイトの御影アキちゃん、駒場一郎クン、稲田多摩子(タマコ)さんといった個性的な登場人物の面々のことが大いに気になっていますから。ということで、さっそく購入してきました。

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そうそう、この漫画『銀の匙 Silver Spoon』では、登場人物が発するセリフの中には酪農や農業に関係することのみならず、若い人達が、この先、生きて行く上で参考になるであろう様々な示唆に富んだ言葉、名言が各所に散りばめられています。第1巻から第3巻までの中から私が気に入って抜粋してメモを残しているものだけでも、次のようなものがあります。


叶うにしろ叶わないにしろ…
夢を持つという事は、同時に現実と闘う事になるのを覚悟する事だと思うよ。
     by 馬の診療所の先生

これが子豚の性質だ。
一度ここと決めてしまうと、他に良い場所が
あるにもかかわらず、劣った環境に居続けてしまうのだ。
最初の競争からはじき出されただけで、二度と上を目指さず「ここで良い」と決めてしまう…
おまえ達はこうなるなよ。
     by 富士先生

価値観の違う物が混ざれば、群れは進化する。
     by 富士先生 (私はこの富士先生が好きですね)

もやもやウロウロしてるって事は、出口を探し続けてるって事だ。
思考停止じゃない。
     by 稲田 真一郎

君の人生は教科書に全部書いてあんのかい?
     by 御影家の祖父

馬鹿はロクでもないものに金を遣う。
賢い奴は自分の成長のために遣う。
金の遣い方で男の価値はわかるものさ。
     by 御影家の曾祖母

ひとつの障害を通過したら、すぐ次の障害へと視線を向けなさい。
そうすれば馬が察してくれて、次の障害へと君達を導いてくれる事でしょう。
     by 中島先生

逃げ道の無い経済動物と君達は違うんですから、生きるための逃げは有りです。
有り有りです。
     by 校長



ほかにもいっぱい出てきます。こういう漫画が少年漫画誌に長期にわたって連載され、コミック本が総計1,500万部以上も発売される大ヒット漫画になっています。そういうことを知ると、日本の酪農も農業も、いや日本の国自体もまんざら捨てたもんじゃあないなぁ〜…と思え、日本の将来に対して希望が湧いてきます。皆さん、是非読んでみてください。特にこれから新規に農業や酪農に関連した仕事に従事しようと思っている方には絶対にお薦めです。


【追記】

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今回の札幌出張では新千歳空港〜札幌駅間をJR北海道の快速エアポートを利用したのですが、車内放送や駅の表示板には今年8月下旬に連続した台風の北海道上陸の影響で、北海道内の鉄道路線に甚大な被害が発生して、一部の区間で運休等が発生している旨の案内が流れていました。

特に根室線の東鹿越駅〜新冠駅の被害が大きく、橋梁の流出や路盤の流出が複数箇所で発生していて、札幌と帯広・釧路間を結ぶ特急の“スーパーおおぞら”と“スーパーとかち”は全列車・全区間で運休のままで、年内の復旧を目指しているのだそうです。

JR北海道HP

このJR北海道さんのHPを見ると、今年8月に連続して襲った台風でかなり甚大な被害が出ているのが分かります。特に札幌から帯広や釧路、根室といった道東地方を結ぶ鉄道路線が長期間の不通を余儀なくされています。道東地方と言えば酪農。今回お招きを受けた北海道TMRセンター連絡協議会第11回研修会に参加された皆さんの中には道東地方からご参加の方が大勢いらっしゃって、札幌に出てくるのに鉄道が使えないので、随分と不便なさったのではないでしょうか。多くの方はクルマで札幌までおこしだと思うのですが、それでも日高山脈を横切り、日本海側と太平洋側との分水嶺にもなっている狩勝峠など、既にこの時期は積雪したり路面が凍結したりしていることでしょうから大変だったと思います。

札幌駅のホームは道東の帯広や釧路へ向かう特急の“スーパーおおぞら”と“スーパーとかち”の姿がないので、鉄道マニアとしてはちょっと寂しい感じがしました。

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そうそう、私が大好きな映画俳優・高倉健さんは『網走番外地シリーズ』や『幸せの黄色いハンカチ』に代表されるように北海道の風景が本当によく似合う俳優さんでした。加えて、その北海道の風景の中でも『駅 STATION』、そして『鉄道員(ぽっぽや)』に代表されるように、北海道のローカル線の寂れた駅の雰囲気が本当によく似合う俳優さんでした。そういうこともあり、私、北の大地北海道の鉄道風景が大好きです。本州以南の車両と比べて窓が小さく、普通列車用車両も乗降ドア付近がデッキになって客室とは壁で仕切られ、さらにリアワイパーや熱線式リアデフォッガー、リアフォグランプ等が追加されるなど車体自体も重厚な印象を受ける寒冷地仕様のJR北海道の車両も、独特の味があって大好きです。

ちなみに、『駅 STATION』の舞台となった増毛駅は、今年(2016年)12月5日、留萌本線(深川駅〜増毛駅間)の留萌駅〜増毛駅間が廃止になるのに伴い、廃駅になる予定です。鉄道利用者の減が理由ですが、なぁ〜んか寂しいですね。この『駅 STATION』では劇中で八代亜紀さんが歌う代表曲「舟唄」が印象的に使用されています。この「舟唄」も厳しい冬の北海道にピッタリの楽曲です。帰路、新千歳空港に向かう快速エアポートの二重窓越しの車窓を眺めて、そんなことを思いながら、私の頭の中では「舟唄」が流れていました。

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