2016/12/21
鉄研機関誌「せのはち」(その8)
広島駅行きの1号線(広島駅~宇品・広島港)のGREEN MOVER Maxを紙屋町東で降りました。紙屋町は広島市のまさに中心地で、広電の路面電車のうち5系統(私が乗ってきた1号線に加えて2、3、6、7号線)の電車がこの紙屋町を通るので、広島で路面電車見物をしたかったら、実はこの紙屋町でじっとしているだけで十分なんです。
紙屋町は行先方面別に東と西の電停に分かれているのですが、紙屋町東の電停で電車を降りると、反対側から見覚えのある古い電車が1両、接近してくるのが目に入りました。650形電車です。広電の路面電車といえばこの電車を忘れてはいけません。この650形電車、昭和17年(1942年)に製造された広電のオリジナル車両です。昭和17年に製造された広島電鉄のオリジナル車両ということは、昭和20年8月6日に広島に原爆が投下された時も広島の街を走っていた電車です。
昨年、NHK総合テレビで阿部寛さん、黒島結菜さん主演で戦後70年のスペシャルドラマ『一番電車が走った』が放映されました。昭和20年8月9日、原爆投下からわずか3日で一部の路線を復旧させた広島電鉄の社員達と戦地へ行った男性の代わりに運転士となった女学生達、広島復興のために立ち上がった人々の苦闘の感動の実話をドラマ化したものです。すべてを失った広島が「電車が動いたら広島は復活するんじゃ!」との希望を込めてその路面電車のことを「一番電車」と呼んだ…とされています。650形電車もその「一番電車」となったまさにその電車の中の1つです。
広電650形電車はそのほとんどが原爆の深刻な被害に遭ったのですが、修復されて今も運行中で、実質的に、広島電鉄で現在運転されている唯一の被爆車両です。とは言え、最新鋭の新型車両が続々と投入される中で、この650形はあまりにも性能が低く、最高速度も35km/時程度となっていることから、次第に活躍の場を減らしていっています。平成18年(2006年)には、最後まで残った4両の車両のうち、653号が江波車庫で休車(ごく稀に運転)となり、654号は廃車となり広島市の交通科学館で保存され、営業用として現在残っているのは651号、652号の2両のみで、主に朝の通勤ラッシュ時に運転されています。その貴重な2両のうちの1両、652号が広島駅方面からやってきました。この広電の650形電車は、近年になって被爆電車として歴史的価値の高い車両として認識されるようになり、広島電鉄の歴史を語る上で欠かせない車両であることから、昼間は主として観光客用の貸切電車として運行されることが多く、この日も修学旅行と思しき高校生達の一団を乗せて、私の目の前を原爆ドーム方向に通り過ぎていきました。走行している650形電車を間近に見ることができて、本当にラッキーでした。貴重な歴史遺産ですので、今後も出来る限り長く使用していっていただきたいものだ…と願っています。
紙屋町では広島バスセンターに立ち寄ってみました。広島市中心部の紙屋町にあるこの広島バスセンターは1日平均の乗降人数は約4万人、1日の発車本数は約1600本と西日本で最大規模を誇るバスターミナルで、広島の郊外路線バス・高速バスの始発着点となっています。センターの3階には1番から9番までの乗り場があり、それぞれ目的方面別に分けられています。バスの行先は東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸、さらには九州の鹿児島、別府、福岡といった夜行の長距離路線から、鳥取、松江、米子、出雲市、浜田、益田、石見、岡山、倉敷、山口、徳山、宇部といった中国地方他県へ向かう路線、さらにはしまなみ海道や瀬戸大橋を渡って四国の高松、徳島、高知、今治に向かう路線、広島県内の福山、尾道、呉、三次などに向かう路線…と実に多岐に渡っていて、広島のバス会社のバスだけではなく、そうした対地の会社の様々な塗色を施されたバスが次から次へと発着します。なので、ここにいると、まさにこの広島が中国四国地方の中心地であることを実感します。この広島バスセンターは私が広島大学に入学した昭和49年(1974年)に完成しました。私は鉄道マニアですが、この広島バスセンター、結構好きです。
しばし、バスの発着を眺めた後、広島駅に向かうことにしました。紙屋町東の電停に戻って広島駅行きの電車に乗ります。最初にやって来たのが最新鋭の超低床車両5100形GREEN MOVER Maxだったのでやり過ごし、次にやって来た単車の800形電車に乗ることにしました。この800形は昭和58年(1983年)から平成9年(1997年)までの14年間に渡り、計14両が製造された広電オリジナルの車両です。日本における路面電車のイメージを一新したとされる画期的な車両で、現在、広電では最もよく見掛ける車両の1つです。本当は1900形のような古い車両に乗りたかったのですが、次に行きたいところもあり、時間の関係でそれは諦めて、この800形電車に乗ることにしました。
この日、広島の街は地元で「えべっさん」と呼ばれて親しまれている「胡子大祭(えびすたいさい)」の真っ盛り。胡子大祭とは、広島市中区の胡子神社で11月17日から4日間開かれる祭りのことで、広島三大寺社祭りの一つに数えられています。この期間、胡子神社では商売繁盛の縁起物が飾られた熊手(こまざらえ)を発売するとともに、地元のえびす通り商店街では胡子講の開催に合わせて大売り出しが行われます。また、周辺の商店やデパート(福屋や三越、天満屋等)では、一斉にバーゲンが行われ、中央通りが歩行者天国となり、期間中は10万人以上の人出で賑わいます。この胡子大祭、慶長8年(1603年)の胡子神社建立より続く由緒ある祭りで、熊手は明治34年(1901年)の鎮座300年祭より売り出されるようになりました。昭和20年(1945年)8月6日に原爆被災に遭った際も、僅か3ヶ月後のその年の11月20日には仮設のバラック建ての社殿で祭典が行われたほどで、戦争による中断等もなく、400年以上途切れずに行われている広島の街に深く深く根付いた祭りです。電車の車窓からも、交通規制が敷かれ歩行者天国のような状態になった通りが幾つも確認できました。この日もかなり大勢の人出のようです。そう言えば、昨夜は二次会が終了して23時過ぎにホテルに戻ったのですが、そんな時間になっても大勢の若者達が繁華街である流川に繰り出して、気勢をあげていました。まぁ~、年に一度の「えべっさん」ですから。
終点の広島駅に到着しました。この広島駅も4系統の電車が発着するので、いろいろな種類の路面電車を見掛けることができます。広島駅は終点なので、やって来た電車はここで次々と折り返していくのですが、その折り返しを効率よく行うために、ちょっと特殊な線路構成、乗り場構成になっています。それをここで説明すると長くなってしまうので、興味をお持ちの方は、広島に行った時に是非一度広島駅前にお立ち寄りください。広島にお住まいの方なら当たり前のことなのですが、なるほどぉ~と思ってしまうことでしょう。
……(その9)に続きます。
紙屋町は行先方面別に東と西の電停に分かれているのですが、紙屋町東の電停で電車を降りると、反対側から見覚えのある古い電車が1両、接近してくるのが目に入りました。650形電車です。広電の路面電車といえばこの電車を忘れてはいけません。この650形電車、昭和17年(1942年)に製造された広電のオリジナル車両です。昭和17年に製造された広島電鉄のオリジナル車両ということは、昭和20年8月6日に広島に原爆が投下された時も広島の街を走っていた電車です。
昨年、NHK総合テレビで阿部寛さん、黒島結菜さん主演で戦後70年のスペシャルドラマ『一番電車が走った』が放映されました。昭和20年8月9日、原爆投下からわずか3日で一部の路線を復旧させた広島電鉄の社員達と戦地へ行った男性の代わりに運転士となった女学生達、広島復興のために立ち上がった人々の苦闘の感動の実話をドラマ化したものです。すべてを失った広島が「電車が動いたら広島は復活するんじゃ!」との希望を込めてその路面電車のことを「一番電車」と呼んだ…とされています。650形電車もその「一番電車」となったまさにその電車の中の1つです。
広電650形電車はそのほとんどが原爆の深刻な被害に遭ったのですが、修復されて今も運行中で、実質的に、広島電鉄で現在運転されている唯一の被爆車両です。とは言え、最新鋭の新型車両が続々と投入される中で、この650形はあまりにも性能が低く、最高速度も35km/時程度となっていることから、次第に活躍の場を減らしていっています。平成18年(2006年)には、最後まで残った4両の車両のうち、653号が江波車庫で休車(ごく稀に運転)となり、654号は廃車となり広島市の交通科学館で保存され、営業用として現在残っているのは651号、652号の2両のみで、主に朝の通勤ラッシュ時に運転されています。その貴重な2両のうちの1両、652号が広島駅方面からやってきました。この広電の650形電車は、近年になって被爆電車として歴史的価値の高い車両として認識されるようになり、広島電鉄の歴史を語る上で欠かせない車両であることから、昼間は主として観光客用の貸切電車として運行されることが多く、この日も修学旅行と思しき高校生達の一団を乗せて、私の目の前を原爆ドーム方向に通り過ぎていきました。走行している650形電車を間近に見ることができて、本当にラッキーでした。貴重な歴史遺産ですので、今後も出来る限り長く使用していっていただきたいものだ…と願っています。
紙屋町では広島バスセンターに立ち寄ってみました。広島市中心部の紙屋町にあるこの広島バスセンターは1日平均の乗降人数は約4万人、1日の発車本数は約1600本と西日本で最大規模を誇るバスターミナルで、広島の郊外路線バス・高速バスの始発着点となっています。センターの3階には1番から9番までの乗り場があり、それぞれ目的方面別に分けられています。バスの行先は東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸、さらには九州の鹿児島、別府、福岡といった夜行の長距離路線から、鳥取、松江、米子、出雲市、浜田、益田、石見、岡山、倉敷、山口、徳山、宇部といった中国地方他県へ向かう路線、さらにはしまなみ海道や瀬戸大橋を渡って四国の高松、徳島、高知、今治に向かう路線、広島県内の福山、尾道、呉、三次などに向かう路線…と実に多岐に渡っていて、広島のバス会社のバスだけではなく、そうした対地の会社の様々な塗色を施されたバスが次から次へと発着します。なので、ここにいると、まさにこの広島が中国四国地方の中心地であることを実感します。この広島バスセンターは私が広島大学に入学した昭和49年(1974年)に完成しました。私は鉄道マニアですが、この広島バスセンター、結構好きです。
しばし、バスの発着を眺めた後、広島駅に向かうことにしました。紙屋町東の電停に戻って広島駅行きの電車に乗ります。最初にやって来たのが最新鋭の超低床車両5100形GREEN MOVER Maxだったのでやり過ごし、次にやって来た単車の800形電車に乗ることにしました。この800形は昭和58年(1983年)から平成9年(1997年)までの14年間に渡り、計14両が製造された広電オリジナルの車両です。日本における路面電車のイメージを一新したとされる画期的な車両で、現在、広電では最もよく見掛ける車両の1つです。本当は1900形のような古い車両に乗りたかったのですが、次に行きたいところもあり、時間の関係でそれは諦めて、この800形電車に乗ることにしました。
この日、広島の街は地元で「えべっさん」と呼ばれて親しまれている「胡子大祭(えびすたいさい)」の真っ盛り。胡子大祭とは、広島市中区の胡子神社で11月17日から4日間開かれる祭りのことで、広島三大寺社祭りの一つに数えられています。この期間、胡子神社では商売繁盛の縁起物が飾られた熊手(こまざらえ)を発売するとともに、地元のえびす通り商店街では胡子講の開催に合わせて大売り出しが行われます。また、周辺の商店やデパート(福屋や三越、天満屋等)では、一斉にバーゲンが行われ、中央通りが歩行者天国となり、期間中は10万人以上の人出で賑わいます。この胡子大祭、慶長8年(1603年)の胡子神社建立より続く由緒ある祭りで、熊手は明治34年(1901年)の鎮座300年祭より売り出されるようになりました。昭和20年(1945年)8月6日に原爆被災に遭った際も、僅か3ヶ月後のその年の11月20日には仮設のバラック建ての社殿で祭典が行われたほどで、戦争による中断等もなく、400年以上途切れずに行われている広島の街に深く深く根付いた祭りです。電車の車窓からも、交通規制が敷かれ歩行者天国のような状態になった通りが幾つも確認できました。この日もかなり大勢の人出のようです。そう言えば、昨夜は二次会が終了して23時過ぎにホテルに戻ったのですが、そんな時間になっても大勢の若者達が繁華街である流川に繰り出して、気勢をあげていました。まぁ~、年に一度の「えべっさん」ですから。
終点の広島駅に到着しました。この広島駅も4系統の電車が発着するので、いろいろな種類の路面電車を見掛けることができます。広島駅は終点なので、やって来た電車はここで次々と折り返していくのですが、その折り返しを効率よく行うために、ちょっと特殊な線路構成、乗り場構成になっています。それをここで説明すると長くなってしまうので、興味をお持ちの方は、広島に行った時に是非一度広島駅前にお立ち寄りください。広島にお住まいの方なら当たり前のことなのですが、なるほどぉ~と思ってしまうことでしょう。
……(その9)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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