2017/03/01
銀の匙Silver Spoon第2章(その5)
次に向かったのはその西春別TMRセンターから飼料の供給を受けている同じく別海町の株式会社オークリーファームさんの牧場です。ここは昨年、最新式の搾乳ロボットを導入したということで、それを見せていただきました。
搾乳ロボットは、入室してきた乳牛の搾乳を機械で行うBOX型のロボットのことです。ミルキングロボットと呼ばれることもあります。通常は1日2回(朝・夕方)行う搾乳作業を人の代わりに行い、搾乳作業を完全自動化するものです。牛に搾乳ロボットのところに来させるために、搾乳ロボット内で餌を給餌し、牛が餌を食べている間に搾乳を行います。
搾乳自動化の仕組みは次のとおりです。各乳牛にはICチップが内蔵された専用のタグが首から装着され、搾乳ロボットはそのタグから情報を読み取って個体を識別します。餌を目的にロボットのところへ来た牛の個体データを搾乳ロボットが読み取り、前回の搾乳から設定以上の時間が空いていれば飼料の給餌と搾乳を同時に行います。設定時間よりも短い(すなわち、前回の搾乳から十分な時間が経過していない)場合には、搾乳ロボットに入室させず、牛舎へ戻す仕組みになっています。
ちょうど牛が搾乳エリアに入ってきたので、搾乳ロボットで搾乳する様を見させていただきました。まず、入室した牛の立ち位置をロボット内に設置されたカメラや床面の重量移動などで認識し、乳房の位置を測定します。乳房位置を検知した後、アームと呼ばれる搾乳機器が収納された可動部が乳房まで移動して、まず搾乳前の乳頭洗浄を行います。乳頭の洗浄後、レーザーで乳頭位置を検知して、乳頭に1本ずつ乳頭カップの付いたミルカーと呼ばれる搾乳機を装着して搾乳を行います。搾乳中はロボット内でミルクの成分(電気伝導率・乳色など)を計測し、異常があればミルクを集乳せずにミルカーを分離したり、警告を表示したりします。搾乳された生乳が凄い勢いでミルクレシーバージャーと呼ばれる乳受け容器にいったん貯められていきます。ミルクレシーバージャーからはパイプでバルククーラー(生乳を冷やす冷蔵タンク)に送られ、そこで冷却・一時貯蔵されます。
搾乳終了後は、ゲートを開放して牛を退出させ、アームの搾乳機器を自動洗浄した後、次の牛の搾乳に備えます。さらには、搾乳後の各種情報(個体の乳質データや搾乳時間・泌乳量など)をパソコンの管理ソフトで確認して、農場の飼養管理に役立てることで、生産効率を高めています。
搾乳ロボットは牛舎内に設置し、牛が歩いて自由に訪問することが必須のため、フリーストール牛舎またはフリーバーン牛舎と呼ばれる構造の牛舎で、放し飼いの状態で飼育されています。牛は、自由に歩いて、採食・飲水・休息などの行動ができるため、繋ぎ飼い牛舎と比較してストレスなく過ごすことができます。この放し飼いのメリットとしては、牛が好きな量の餌を採食できるため乳量が増加したり、発情行動が分かりやすくなることで繁殖成績が向上したりする場合があり、牛舎の管理を行いやすい、動物福祉が実現する等が挙げられます。反面、繋ぎ飼い牛舎よりも個体の管理が難しく、牛の中での序列が低い牛(未経産牛)は争いに負けて行動が制限されることがあります。また、牛の脚が悪くなると採食や飲水に支障をきたすため、定期的な蹄浴やこまめに牛の観察を行う必要があるというデメリットもあります。このデメリットを補うために、前述のように、各乳牛の首にはICチップが内蔵された専用のタグが装着されています。
さらに、牛舎内にはバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)や自動給餌機が導入され、酪農作業の機械化がさらに進んでいます。右下の写真はバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)です。とにかく繊維質の多い牧草をタップリ食べるため、牛はとんでもない量のウンチを排泄します。私が見ている前でも1頭の牛がブリブリと脱糞したのですが、その量の多いこと多いこと。その掃除だけでも大変だと思うのですが、最近はこのバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)で、一気に掻き集めて外に搬出されます。
搾乳もロボットなら、牛が食べ散らかした餌寄せもロボットが行います。我が家でも大活躍してくれている自動お掃除ロボットの「ルンバ」を巨大で強力にしたような感じです。これがまた綺麗に餌寄せをしてくれます。凄い!その後ろ姿は我が家の“ルンちゃん”同様に健気で可愛かったですね。
このように定期的に(自動的に)牛舎の清掃を行うことで、衛生管理が格段に良好になったうえ、酪農家の労役もかなり軽減しています。株式会社オークリーファームの佐藤崇徳代表取締役からは、
「今、北海道の酪農で一番の課題は『労働力の確保』です。需要が大きいので規模を拡大すれば売上げが伸びるのは分かっているのだが、労働力確保の目処がつかないので、なかなかそれもままならない。これまでもTMRセンターを設立するなどして地域で分業による作業の集約化を図ってきたのですが、さらなる取組みをしないとこの先やっていけないと思い、1年前に搾乳ロボットの導入に踏み切りました。牛は24時間365日休んでくれないし、毎朝夕乳を絞ってやらないとすぐに乳頭炎にかかってしまいます。なので、搾乳ロボット導入前は私と家内と両親の家族4人で搾乳の作業にあたっていました。それが搾乳ロボットを導入してからは基本的に私1人で済むようになりました。家内も子育てがあるので、大変に助かっています。私の仕事も牛の管理や経営が主体へと大きく変わってきています。
それと搾乳ロボット導入以来、搾れる乳の量がおよそ3割増しになっています。これまでは毎日朝夕の2回搾乳を行なっていたのですが、この1日2回というのはあくまでも人間の側の事情によるものなのですね。搾乳ロボット導入以降は牛が乳房が張って我慢ができなくなってきたな…と思ったら、自分で勝手に搾乳エリアにやってきて、乳を搾るようになりました。なので、このやり方は牛にとってもストレスのかからないやり方なのですね。現在はたいていの牛で1日3回、多い牛だと1日5回搾るようになりました。これが収量の増加に繋がっているように思えます。」
というお話を聴くことができました。なるほどねぇ~。ほぼオートメーション化されたということは、反面で牛舎建設・機械投資コストが他の牛舎より高額になるということであり、維持管理も必要になるということから、ホントかなりの経営センスが求められると思います。酪農家の皆さんと話していると、どの方も“経営”のセンスを感じます。P/L(損益計算書)よりもB/S(貸借対照表)で事業全体を見ていて、ちゃんと将来を見越した投資を怠らない。それでいて定量的な日常管理もしっかりやっていて、数字で語れる。経営の基本を着実にやっておられる方がほとんどです。農業というよりも限りなく製造業に近いです。牛という“生きた機械”を使った製造業ということのようです。私も企業経営を担わせていただいておりますが、見習わないといけないことが多々あるな…と、大いに刺激を受けました。
オークリーファームさんの牧場を出る際に「JA道東あさひ」の文字の入った集乳車(タンクローリーの一種) が入ってきました。牧場内のバルククーラー(生乳を冷やす冷蔵タンク)に送られ冷却・一時貯蔵された絞りたての生乳はこの集乳車によって集荷され、牛乳工場へ運ばれます。酪農が盛んな別海町には明治、森永、雪印といった大手乳業会社が工場を持っていて、絞られた生乳はそれらの工場でチーズやバター、生クリーム等に加工されます(中標津町にも雪印の工場があります)。
毎日の私達の食生活に欠かすことのできない牛乳・乳製品。その日本の牛乳・乳製品を考える際に、北海道なくして語ることはできません。2013年度における生乳生産量は約745万トン。そのうち385万トンが北海道産であり、北海道の全国シェアは51.7%にものぼります。中標津町から別海町にかけての根釧台地の年間生乳生産量は約90万トン。全国シェアの約12%の生乳がこのあたり一帯で生産されています。
2010年度以降、北海道における生乳生産量の国内シェアは50%を超えています。都府県の生乳生産量が減少し続けてきた一方で、北海道は着実に生乳生産量を増やし続けてきました。1966年度における北海道の生乳生産量は約71万トンでしたが、2013年度は約385万トンとなり、この50年間に5倍以上に増加しています。日本における牛乳・乳製品の消費量は、1965年度には国民1人当たり、生乳換算で年間37.5kgでしたが、2010年度には2.3倍の86.4kgとなっています。一方で、日本全体としては生乳生産量が減少しており、さらに都府県の生乳生産量は1990年度のピーク時と比較するとおよそ30%減少していることから、現在、いかに北海道の酪農が果たす役割が大きいかがわかります。
農林水産省の「農業経営統計調査(畜産物生産費)」によれば、平成27年度の生乳100kg(乳脂肪分3.5%換算)当たりの生乳生産費用合計は北海道が6,408円、北海道以外の都府県が7,490円と、1,082円もの格差があります。これは、北海道の酪農家の皆さんがこの広大な土地を利用し、飼料を輸入だけに頼らず、自給飼料の増産に注力し、各地域で飼料を一元管理するような仕組みづくりを取り入れる等、コストを下げる工夫に積極的に取り組まれていることが大きく影響しています。このTMRセンターもその1つです。また、夏の暑さは乳牛には大敵で、すぐにバテてしまうため、乳量の低下の原因となりますが、夏も涼しい北海道では一定の乳量を担保でき、他の都府県と比べ北海道の気候風土による酪農へのメリットが大きいことも北海道が生乳生産量を伸ばしている大きな一因となっています。
農林水産省・畜産物生産費統計
北海道の生乳は、実は大消費地である首都圏から距離が離れているということもあり、生鮮食品である飲用牛乳よりも加工したバターやチーズ、生クリームなどの乳製品向けに作られているほうが多く、そのシェアは国内で生産される乳製品のうち約80%を占めています。また、北海道産の生乳のうち、飲用牛乳向けのシェアは僅かに約20%に過ぎません。歴史的にいえば、明治時代、政府が北海道の開拓に酪農を取り入れた際、西洋の最新農法を積極的に取り入れることで、北海道の農業・酪農を発展させてきました。その時期に、日本初の貿易港であった函館(1858年の日米修好通商条約で開港されました)には西洋料理店ができ、乳製品も積極的につくられてきた背景があり、早くから乳製品の生産も進められていたようです。こうした流れとともに、酪農が北海道に定着し生乳生産量が大幅に拡大したことから、多くの乳製品メーカーが北海道に拠点を置き、ますます乳製品への利用が進んだと考えられます。
次に経済規模の面から眺めてみると、農林水産省の「生産農業所得統計」によると平成27年度の47都道府県の農業産出額の合計はおよそ8兆7,979億円。そのうち、北海道が占める金額は1兆1,852億円と全都道府県の1位(約13%)となっています。さらに、北海道の中で部門別に見ると、乳用牛の生産額は4,317億円(約36%)で、北海道の全農業産出額中1位となっています。
農林水産省・生産農業所得統計
この4,317億円という金額はあくまでも「生産農業所得統計」による平成27年度の農業産出額、すなわち原材料(生乳)を作る生産者に入る収入の合計に過ぎません。すなわち第一次産業のぶんだけです。先ほど、北海道産の生乳のうち、飲用牛乳向けのシェアは僅かに約20%に過ぎず、生鮮食品である飲用牛乳よりも加工したバターやチーズ、生クリームなどの乳製品向けに作られているほうが多いということを書きましたが、生乳をバターやチーズ、生クリームなどの乳製品に加工する第二次、さらにはそこで作られた製品を流通・販売する第三次産業のぶんを加えると、北海道の酪農が生み出す経済規模はおそらく4,317億円の数倍。もしかすると1兆円を超えるのではないでしょうか。
現在、日本では生乳不足が問題となっています。これは酪農家の離農や気候変動(温暖化)による生乳生産量の減少が原因とされています。そのため、日本国内における生乳生産量の維持・拡大はますます重要となっており、日本の生乳生産量の50%をまかない、酪農産業を牽引している北海道の酪農に対する需要は今後さらに高まることが予想されます。前述のとおり、他の都府県と比較すると北海道は広大な土地や気候風土からも酪農に対するメリットが多く、今後もますますそのシェアは拡大するであろう大きなポテンシャルを秘めていると私は思います。
『気象ビッグデータの活用で農業を元気に!』と題した私の講演会は13時30分から開始でした。主催は「ねむろ農業法人ネットワーク」。昨年10月末に講演させていただいた「北海道TMRセンター連絡協議会」同様、オーレンス総合経営さんがその「ねむろ農業法人ネットワーク」の事務局を務めておられます。会場は中標津町の中心部にあるウエディングプラザ寿宴という結婚式場のホール。定員120名で募集されたそうなのですが、開場まもなく次々に聴講の方が集まって来られ、開始時刻になった頃には前のほうにほんの少し空席があるだけで、ほとんどの席が埋まってしまいました。後でお聞きすると、115名の方々に聴いていただきました。昨年の10月末に札幌市で開催された北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会で講演させていただいた時の聴衆の数は230名。その時聴いていただいたのは北海道全道から集まった酪農関係者の方々で、私を含め4名の方の講演でしたが、今回は主として中標津町と別海町の酪農関係者の方々ばかりで、しかも私の単独講演。それにもかかわらず、これだけの方々に聴きに来ていただいたわけです。酪農関係者の皆さんが気象に対して如何に関心を持っているかが、それだけで窺えます。
講演会はまず主催者である「ねむろ農業法人ネットワーク」の竹下耕介会長(有限会社竹下牧場 代表取締役)の挨拶で始まりました。竹下会長は冒頭の挨拶では「台風や天候不順に見舞われた昨年は、天気の大切さがよく分かる1年だった。生産現場での気象情報の活用はまだまだ。農業の発展に繋がれば…」と、期待を寄せていただきました。
講演の内容は北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会で講演させていただいた時の内容に、中標津ならではのネタを挟み質疑応答を含め1時間半。ちょうどいいくらいの長さです。
銀の匙 Silver Spoon(その1)
講演では、気象庁から随時提供される膨大な気象ビッグデータを活用した弊社ハレックスのサービスを紹介するとともに、「農業と気象情報提供会社は、互いに自然と真正面から向き合っている」という共通点を挙げて、「自然は恵みと脅威の二面性を持つ。気象情報は危機回避だけではなく、生産管理や耕地の環境コントロールなど“攻めの農業”へ生かせる可能性がある」ということを強調させていただきました。また、気象情報会社(弊社ハレックス)と地元IT企業、農業関係者がタッグを組んで、マーケットインの発想から農業のIT化を進めている愛媛県での事例や、JA全農様、農林中金様のインターネットサービスへの適応事例、今後の拡充計画などについても説明させていただきました。
講演は私が想像していた以上に好評だったようです。壇上から見る限り、聴いていただいている皆さんの目は真剣そのもので、大きく頷いたり、熱心にメモを取っておられる方の姿が目立ちました。100名を超える大人数を前にしての講演でしたが、北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会の時と同様、いやそれ以上に確かな手応えを感じました。今回の講演では途中で息抜きのような小ネタを幾つか挟んだのですが、後から考えると余計なことをしちゃったかな…と思っています。それほど熱心に聴いていただきました。気候条件の厳しい北海道、特にこの根釧地方は、他の地域以上に気象情報に対するニーズは高いようです。
この講演の様子は、地元紙の『釧路新聞』でも「農業に気象情報活用を 中標津 ハレックス社長講演」と題して、翌日の朝刊の記事に取り上げていただきました。
酪農と言う産業において、気象の情報がいかに大切なものであるか、今回、TMRセンターや実際に酪農家の方々のところを訪問して肌身で感じてきたのですが、そういうことがもう少し前の準備の段階で分かっていたら、もっともっと説得力のある講演になったのではないか…と、少し反省も込めて思っています。ちょっと事前の勉強が足りませんでした。正直、私の中では事前にいろいろと調べて、分かった気になっていたようなところがありました。しかし、実際、酪農の現場に行ってみると、見えてくるものがまるで変わってきますね。今回の出張、大いに勉強になりました。
後日、オーレンス総合経営の担当者さんから当日お聴きいただいた皆様からのアンケート結果のご報告を受けたのですが、「理解出来た」「非常に参考になった」「気象情報をもっと活用していきたい」という回答が圧倒的に多く、聴いていただいた100名を超える皆様にも有意義な講演になったようです。正直言うと、上述のように私の中ではもう少し上手にできたのではないか…と思っていたのですが、この結果は本当によかったと思っています。今後はこのご評価を弊社への期待と受け止め、地域の気象情報活用への理解度を深める活動をさらに展開し、農業者のニーズを取り入れた事業化へ向けてのプランを作っていきたいと思っています。
講演会の後、中標津町にある「地方独立行政法人 北海道立総合研究機構農業研究本部 根釧農業試験場」を訪問しました。地方独立行政法人北海道立総合研究機構は北海道内の農業に関する試験研究等を行うために設置された機関ですが、そのうちこの根釧農業試験場では酪農関連の試験研究に重点が置かれ、特に根室、釧路の2振興局管内における地域対応に関する研究も行われています。
これは最近の私の口癖のようになってきていますが、「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」、「ITの基本は“ディジタル化”と“モデル化”」、この根釧台地という日本でも、いや北海道の中でも極めて特殊な地形と気象条件の所のチモシー(牧草)やデントコーン(飼料用とうもろこし)といった作物の生育、さらには乳牛という家畜の体調管理に気象情報を活用していこうという際には、このあたりの地形と気象、さらには対象となる作物や家畜の特性をよく知った研究機関の研究員さんとの連携が必要となります。そうしたことを事前にお話ししていたので、オーレンス総合経営の高橋社長がこの根釧農業試験場の訪問をセッティングしてくださいました。
根釧農業試験場には研究部(草地担当)飼料環境グループというまさにその目的にズバリの部署があり、そこの主査の方とお会いすることができました。いろいろと意見交換をさせていただいたのですが、うまく連携ができれば、上述の農業者のニーズを取り入れた事業化へ向けてのプラン作りが早期にできそうだ…という確かな手応えを感じることができました。これは大きな収穫でした。
根釧農業試験場訪問の後は一度ホテルに戻り、1時間ほどの休憩。その後、中標津町内の居酒屋で開催された講演会を主催していただいた「ねむろ農業法人ネットワーク」の幹部の皆さんとの懇親会(意見交換会)に出席しました。「ねむろ農業法人ネットワーク」の幹部の皆さんは地元で酪農や馬鈴薯作りの農園を営んでおられる方々です。講演会の質疑応答では聞けないような現場のいろいろな話が聴けて大いに参考になりました。と同時に、大いに刺激を受けました。まさに荒川弘さんの漫画『銀の匙 Silver Spoon』の世界です。リアル版『銀の匙 Silver Spoon』って感じです。ああ、あそこに書いてあったな…って思い出されることが、皆さんのクチからリアルな言葉としてお聴きすることができました。『銀の匙 Silver Spoon』のコミック本13冊は、会社の本棚に飾っています。また読み返してみたいと思っています。現場で実際に酪農に携わっておられる方々のお話をお聴きした上でこの漫画を読み返してみると、さらに味わい深いものになり、そこから得られるものも大きいと思いますから。
懇親会(意見交換会)の場でお聴きした「ねむろ農業法人ネットワーク」の竹下耕介会長(有限会社竹下牧場 代表取締役)の次の言葉が印象的でした。
同じ経済動物が相手でも
酪農と養鶏、養蜂は“作り出す産業”
畜産と養豚、ブロイラーは“いただく産業”
酪農家にとってそれが誇り
……(その6)に続きます。
搾乳ロボットは、入室してきた乳牛の搾乳を機械で行うBOX型のロボットのことです。ミルキングロボットと呼ばれることもあります。通常は1日2回(朝・夕方)行う搾乳作業を人の代わりに行い、搾乳作業を完全自動化するものです。牛に搾乳ロボットのところに来させるために、搾乳ロボット内で餌を給餌し、牛が餌を食べている間に搾乳を行います。
搾乳自動化の仕組みは次のとおりです。各乳牛にはICチップが内蔵された専用のタグが首から装着され、搾乳ロボットはそのタグから情報を読み取って個体を識別します。餌を目的にロボットのところへ来た牛の個体データを搾乳ロボットが読み取り、前回の搾乳から設定以上の時間が空いていれば飼料の給餌と搾乳を同時に行います。設定時間よりも短い(すなわち、前回の搾乳から十分な時間が経過していない)場合には、搾乳ロボットに入室させず、牛舎へ戻す仕組みになっています。
ちょうど牛が搾乳エリアに入ってきたので、搾乳ロボットで搾乳する様を見させていただきました。まず、入室した牛の立ち位置をロボット内に設置されたカメラや床面の重量移動などで認識し、乳房の位置を測定します。乳房位置を検知した後、アームと呼ばれる搾乳機器が収納された可動部が乳房まで移動して、まず搾乳前の乳頭洗浄を行います。乳頭の洗浄後、レーザーで乳頭位置を検知して、乳頭に1本ずつ乳頭カップの付いたミルカーと呼ばれる搾乳機を装着して搾乳を行います。搾乳中はロボット内でミルクの成分(電気伝導率・乳色など)を計測し、異常があればミルクを集乳せずにミルカーを分離したり、警告を表示したりします。搾乳された生乳が凄い勢いでミルクレシーバージャーと呼ばれる乳受け容器にいったん貯められていきます。ミルクレシーバージャーからはパイプでバルククーラー(生乳を冷やす冷蔵タンク)に送られ、そこで冷却・一時貯蔵されます。
搾乳終了後は、ゲートを開放して牛を退出させ、アームの搾乳機器を自動洗浄した後、次の牛の搾乳に備えます。さらには、搾乳後の各種情報(個体の乳質データや搾乳時間・泌乳量など)をパソコンの管理ソフトで確認して、農場の飼養管理に役立てることで、生産効率を高めています。
搾乳ロボットは牛舎内に設置し、牛が歩いて自由に訪問することが必須のため、フリーストール牛舎またはフリーバーン牛舎と呼ばれる構造の牛舎で、放し飼いの状態で飼育されています。牛は、自由に歩いて、採食・飲水・休息などの行動ができるため、繋ぎ飼い牛舎と比較してストレスなく過ごすことができます。この放し飼いのメリットとしては、牛が好きな量の餌を採食できるため乳量が増加したり、発情行動が分かりやすくなることで繁殖成績が向上したりする場合があり、牛舎の管理を行いやすい、動物福祉が実現する等が挙げられます。反面、繋ぎ飼い牛舎よりも個体の管理が難しく、牛の中での序列が低い牛(未経産牛)は争いに負けて行動が制限されることがあります。また、牛の脚が悪くなると採食や飲水に支障をきたすため、定期的な蹄浴やこまめに牛の観察を行う必要があるというデメリットもあります。このデメリットを補うために、前述のように、各乳牛の首にはICチップが内蔵された専用のタグが装着されています。
さらに、牛舎内にはバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)や自動給餌機が導入され、酪農作業の機械化がさらに進んでいます。右下の写真はバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)です。とにかく繊維質の多い牧草をタップリ食べるため、牛はとんでもない量のウンチを排泄します。私が見ている前でも1頭の牛がブリブリと脱糞したのですが、その量の多いこと多いこと。その掃除だけでも大変だと思うのですが、最近はこのバーンスクレッパー(自動糞尿搬送装置)で、一気に掻き集めて外に搬出されます。
搾乳もロボットなら、牛が食べ散らかした餌寄せもロボットが行います。我が家でも大活躍してくれている自動お掃除ロボットの「ルンバ」を巨大で強力にしたような感じです。これがまた綺麗に餌寄せをしてくれます。凄い!その後ろ姿は我が家の“ルンちゃん”同様に健気で可愛かったですね。
このように定期的に(自動的に)牛舎の清掃を行うことで、衛生管理が格段に良好になったうえ、酪農家の労役もかなり軽減しています。株式会社オークリーファームの佐藤崇徳代表取締役からは、
「今、北海道の酪農で一番の課題は『労働力の確保』です。需要が大きいので規模を拡大すれば売上げが伸びるのは分かっているのだが、労働力確保の目処がつかないので、なかなかそれもままならない。これまでもTMRセンターを設立するなどして地域で分業による作業の集約化を図ってきたのですが、さらなる取組みをしないとこの先やっていけないと思い、1年前に搾乳ロボットの導入に踏み切りました。牛は24時間365日休んでくれないし、毎朝夕乳を絞ってやらないとすぐに乳頭炎にかかってしまいます。なので、搾乳ロボット導入前は私と家内と両親の家族4人で搾乳の作業にあたっていました。それが搾乳ロボットを導入してからは基本的に私1人で済むようになりました。家内も子育てがあるので、大変に助かっています。私の仕事も牛の管理や経営が主体へと大きく変わってきています。
それと搾乳ロボット導入以来、搾れる乳の量がおよそ3割増しになっています。これまでは毎日朝夕の2回搾乳を行なっていたのですが、この1日2回というのはあくまでも人間の側の事情によるものなのですね。搾乳ロボット導入以降は牛が乳房が張って我慢ができなくなってきたな…と思ったら、自分で勝手に搾乳エリアにやってきて、乳を搾るようになりました。なので、このやり方は牛にとってもストレスのかからないやり方なのですね。現在はたいていの牛で1日3回、多い牛だと1日5回搾るようになりました。これが収量の増加に繋がっているように思えます。」
というお話を聴くことができました。なるほどねぇ~。ほぼオートメーション化されたということは、反面で牛舎建設・機械投資コストが他の牛舎より高額になるということであり、維持管理も必要になるということから、ホントかなりの経営センスが求められると思います。酪農家の皆さんと話していると、どの方も“経営”のセンスを感じます。P/L(損益計算書)よりもB/S(貸借対照表)で事業全体を見ていて、ちゃんと将来を見越した投資を怠らない。それでいて定量的な日常管理もしっかりやっていて、数字で語れる。経営の基本を着実にやっておられる方がほとんどです。農業というよりも限りなく製造業に近いです。牛という“生きた機械”を使った製造業ということのようです。私も企業経営を担わせていただいておりますが、見習わないといけないことが多々あるな…と、大いに刺激を受けました。
オークリーファームさんの牧場を出る際に「JA道東あさひ」の文字の入った集乳車(タンクローリーの一種) が入ってきました。牧場内のバルククーラー(生乳を冷やす冷蔵タンク)に送られ冷却・一時貯蔵された絞りたての生乳はこの集乳車によって集荷され、牛乳工場へ運ばれます。酪農が盛んな別海町には明治、森永、雪印といった大手乳業会社が工場を持っていて、絞られた生乳はそれらの工場でチーズやバター、生クリーム等に加工されます(中標津町にも雪印の工場があります)。
毎日の私達の食生活に欠かすことのできない牛乳・乳製品。その日本の牛乳・乳製品を考える際に、北海道なくして語ることはできません。2013年度における生乳生産量は約745万トン。そのうち385万トンが北海道産であり、北海道の全国シェアは51.7%にものぼります。中標津町から別海町にかけての根釧台地の年間生乳生産量は約90万トン。全国シェアの約12%の生乳がこのあたり一帯で生産されています。
2010年度以降、北海道における生乳生産量の国内シェアは50%を超えています。都府県の生乳生産量が減少し続けてきた一方で、北海道は着実に生乳生産量を増やし続けてきました。1966年度における北海道の生乳生産量は約71万トンでしたが、2013年度は約385万トンとなり、この50年間に5倍以上に増加しています。日本における牛乳・乳製品の消費量は、1965年度には国民1人当たり、生乳換算で年間37.5kgでしたが、2010年度には2.3倍の86.4kgとなっています。一方で、日本全体としては生乳生産量が減少しており、さらに都府県の生乳生産量は1990年度のピーク時と比較するとおよそ30%減少していることから、現在、いかに北海道の酪農が果たす役割が大きいかがわかります。
農林水産省の「農業経営統計調査(畜産物生産費)」によれば、平成27年度の生乳100kg(乳脂肪分3.5%換算)当たりの生乳生産費用合計は北海道が6,408円、北海道以外の都府県が7,490円と、1,082円もの格差があります。これは、北海道の酪農家の皆さんがこの広大な土地を利用し、飼料を輸入だけに頼らず、自給飼料の増産に注力し、各地域で飼料を一元管理するような仕組みづくりを取り入れる等、コストを下げる工夫に積極的に取り組まれていることが大きく影響しています。このTMRセンターもその1つです。また、夏の暑さは乳牛には大敵で、すぐにバテてしまうため、乳量の低下の原因となりますが、夏も涼しい北海道では一定の乳量を担保でき、他の都府県と比べ北海道の気候風土による酪農へのメリットが大きいことも北海道が生乳生産量を伸ばしている大きな一因となっています。
農林水産省・畜産物生産費統計
北海道の生乳は、実は大消費地である首都圏から距離が離れているということもあり、生鮮食品である飲用牛乳よりも加工したバターやチーズ、生クリームなどの乳製品向けに作られているほうが多く、そのシェアは国内で生産される乳製品のうち約80%を占めています。また、北海道産の生乳のうち、飲用牛乳向けのシェアは僅かに約20%に過ぎません。歴史的にいえば、明治時代、政府が北海道の開拓に酪農を取り入れた際、西洋の最新農法を積極的に取り入れることで、北海道の農業・酪農を発展させてきました。その時期に、日本初の貿易港であった函館(1858年の日米修好通商条約で開港されました)には西洋料理店ができ、乳製品も積極的につくられてきた背景があり、早くから乳製品の生産も進められていたようです。こうした流れとともに、酪農が北海道に定着し生乳生産量が大幅に拡大したことから、多くの乳製品メーカーが北海道に拠点を置き、ますます乳製品への利用が進んだと考えられます。
次に経済規模の面から眺めてみると、農林水産省の「生産農業所得統計」によると平成27年度の47都道府県の農業産出額の合計はおよそ8兆7,979億円。そのうち、北海道が占める金額は1兆1,852億円と全都道府県の1位(約13%)となっています。さらに、北海道の中で部門別に見ると、乳用牛の生産額は4,317億円(約36%)で、北海道の全農業産出額中1位となっています。
農林水産省・生産農業所得統計
この4,317億円という金額はあくまでも「生産農業所得統計」による平成27年度の農業産出額、すなわち原材料(生乳)を作る生産者に入る収入の合計に過ぎません。すなわち第一次産業のぶんだけです。先ほど、北海道産の生乳のうち、飲用牛乳向けのシェアは僅かに約20%に過ぎず、生鮮食品である飲用牛乳よりも加工したバターやチーズ、生クリームなどの乳製品向けに作られているほうが多いということを書きましたが、生乳をバターやチーズ、生クリームなどの乳製品に加工する第二次、さらにはそこで作られた製品を流通・販売する第三次産業のぶんを加えると、北海道の酪農が生み出す経済規模はおそらく4,317億円の数倍。もしかすると1兆円を超えるのではないでしょうか。
現在、日本では生乳不足が問題となっています。これは酪農家の離農や気候変動(温暖化)による生乳生産量の減少が原因とされています。そのため、日本国内における生乳生産量の維持・拡大はますます重要となっており、日本の生乳生産量の50%をまかない、酪農産業を牽引している北海道の酪農に対する需要は今後さらに高まることが予想されます。前述のとおり、他の都府県と比較すると北海道は広大な土地や気候風土からも酪農に対するメリットが多く、今後もますますそのシェアは拡大するであろう大きなポテンシャルを秘めていると私は思います。
『気象ビッグデータの活用で農業を元気に!』と題した私の講演会は13時30分から開始でした。主催は「ねむろ農業法人ネットワーク」。昨年10月末に講演させていただいた「北海道TMRセンター連絡協議会」同様、オーレンス総合経営さんがその「ねむろ農業法人ネットワーク」の事務局を務めておられます。会場は中標津町の中心部にあるウエディングプラザ寿宴という結婚式場のホール。定員120名で募集されたそうなのですが、開場まもなく次々に聴講の方が集まって来られ、開始時刻になった頃には前のほうにほんの少し空席があるだけで、ほとんどの席が埋まってしまいました。後でお聞きすると、115名の方々に聴いていただきました。昨年の10月末に札幌市で開催された北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会で講演させていただいた時の聴衆の数は230名。その時聴いていただいたのは北海道全道から集まった酪農関係者の方々で、私を含め4名の方の講演でしたが、今回は主として中標津町と別海町の酪農関係者の方々ばかりで、しかも私の単独講演。それにもかかわらず、これだけの方々に聴きに来ていただいたわけです。酪農関係者の皆さんが気象に対して如何に関心を持っているかが、それだけで窺えます。
講演会はまず主催者である「ねむろ農業法人ネットワーク」の竹下耕介会長(有限会社竹下牧場 代表取締役)の挨拶で始まりました。竹下会長は冒頭の挨拶では「台風や天候不順に見舞われた昨年は、天気の大切さがよく分かる1年だった。生産現場での気象情報の活用はまだまだ。農業の発展に繋がれば…」と、期待を寄せていただきました。
講演の内容は北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会で講演させていただいた時の内容に、中標津ならではのネタを挟み質疑応答を含め1時間半。ちょうどいいくらいの長さです。
銀の匙 Silver Spoon(その1)
講演では、気象庁から随時提供される膨大な気象ビッグデータを活用した弊社ハレックスのサービスを紹介するとともに、「農業と気象情報提供会社は、互いに自然と真正面から向き合っている」という共通点を挙げて、「自然は恵みと脅威の二面性を持つ。気象情報は危機回避だけではなく、生産管理や耕地の環境コントロールなど“攻めの農業”へ生かせる可能性がある」ということを強調させていただきました。また、気象情報会社(弊社ハレックス)と地元IT企業、農業関係者がタッグを組んで、マーケットインの発想から農業のIT化を進めている愛媛県での事例や、JA全農様、農林中金様のインターネットサービスへの適応事例、今後の拡充計画などについても説明させていただきました。
講演は私が想像していた以上に好評だったようです。壇上から見る限り、聴いていただいている皆さんの目は真剣そのもので、大きく頷いたり、熱心にメモを取っておられる方の姿が目立ちました。100名を超える大人数を前にしての講演でしたが、北海道TMRセンター連絡協議会の2016年度秋季研修会の時と同様、いやそれ以上に確かな手応えを感じました。今回の講演では途中で息抜きのような小ネタを幾つか挟んだのですが、後から考えると余計なことをしちゃったかな…と思っています。それほど熱心に聴いていただきました。気候条件の厳しい北海道、特にこの根釧地方は、他の地域以上に気象情報に対するニーズは高いようです。
この講演の様子は、地元紙の『釧路新聞』でも「農業に気象情報活用を 中標津 ハレックス社長講演」と題して、翌日の朝刊の記事に取り上げていただきました。
酪農と言う産業において、気象の情報がいかに大切なものであるか、今回、TMRセンターや実際に酪農家の方々のところを訪問して肌身で感じてきたのですが、そういうことがもう少し前の準備の段階で分かっていたら、もっともっと説得力のある講演になったのではないか…と、少し反省も込めて思っています。ちょっと事前の勉強が足りませんでした。正直、私の中では事前にいろいろと調べて、分かった気になっていたようなところがありました。しかし、実際、酪農の現場に行ってみると、見えてくるものがまるで変わってきますね。今回の出張、大いに勉強になりました。
後日、オーレンス総合経営の担当者さんから当日お聴きいただいた皆様からのアンケート結果のご報告を受けたのですが、「理解出来た」「非常に参考になった」「気象情報をもっと活用していきたい」という回答が圧倒的に多く、聴いていただいた100名を超える皆様にも有意義な講演になったようです。正直言うと、上述のように私の中ではもう少し上手にできたのではないか…と思っていたのですが、この結果は本当によかったと思っています。今後はこのご評価を弊社への期待と受け止め、地域の気象情報活用への理解度を深める活動をさらに展開し、農業者のニーズを取り入れた事業化へ向けてのプランを作っていきたいと思っています。
講演会の後、中標津町にある「地方独立行政法人 北海道立総合研究機構農業研究本部 根釧農業試験場」を訪問しました。地方独立行政法人北海道立総合研究機構は北海道内の農業に関する試験研究等を行うために設置された機関ですが、そのうちこの根釧農業試験場では酪農関連の試験研究に重点が置かれ、特に根室、釧路の2振興局管内における地域対応に関する研究も行われています。
これは最近の私の口癖のようになってきていますが、「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」、「ITの基本は“ディジタル化”と“モデル化”」、この根釧台地という日本でも、いや北海道の中でも極めて特殊な地形と気象条件の所のチモシー(牧草)やデントコーン(飼料用とうもろこし)といった作物の生育、さらには乳牛という家畜の体調管理に気象情報を活用していこうという際には、このあたりの地形と気象、さらには対象となる作物や家畜の特性をよく知った研究機関の研究員さんとの連携が必要となります。そうしたことを事前にお話ししていたので、オーレンス総合経営の高橋社長がこの根釧農業試験場の訪問をセッティングしてくださいました。
根釧農業試験場には研究部(草地担当)飼料環境グループというまさにその目的にズバリの部署があり、そこの主査の方とお会いすることができました。いろいろと意見交換をさせていただいたのですが、うまく連携ができれば、上述の農業者のニーズを取り入れた事業化へ向けてのプラン作りが早期にできそうだ…という確かな手応えを感じることができました。これは大きな収穫でした。
根釧農業試験場訪問の後は一度ホテルに戻り、1時間ほどの休憩。その後、中標津町内の居酒屋で開催された講演会を主催していただいた「ねむろ農業法人ネットワーク」の幹部の皆さんとの懇親会(意見交換会)に出席しました。「ねむろ農業法人ネットワーク」の幹部の皆さんは地元で酪農や馬鈴薯作りの農園を営んでおられる方々です。講演会の質疑応答では聞けないような現場のいろいろな話が聴けて大いに参考になりました。と同時に、大いに刺激を受けました。まさに荒川弘さんの漫画『銀の匙 Silver Spoon』の世界です。リアル版『銀の匙 Silver Spoon』って感じです。ああ、あそこに書いてあったな…って思い出されることが、皆さんのクチからリアルな言葉としてお聴きすることができました。『銀の匙 Silver Spoon』のコミック本13冊は、会社の本棚に飾っています。また読み返してみたいと思っています。現場で実際に酪農に携わっておられる方々のお話をお聴きした上でこの漫画を読み返してみると、さらに味わい深いものになり、そこから得られるものも大きいと思いますから。
懇親会(意見交換会)の場でお聴きした「ねむろ農業法人ネットワーク」の竹下耕介会長(有限会社竹下牧場 代表取締役)の次の言葉が印象的でした。
同じ経済動物が相手でも
酪農と養鶏、養蜂は“作り出す産業”
畜産と養豚、ブロイラーは“いただく産業”
酪農家にとってそれが誇り
……(その6)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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